2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

29話 「ルージュの作戦」

「……なんだよここは」

俺とセレナとフィリアは、現在剣魔学園西棟3階の第1試験会場を目指している。

だが、いくら廊下を歩いても階段が見えてこないのだ。

「さっきの見取り図通りなら、距離的にもう階段があってもいいと思うんだけどな」

「さすがにおかしいよね」

まさか……とは思っていたが、そんな訳がないと思い込んでいた。

だが今思うと、今は試験中、そしてここはゴール直前の場所だ。

何も仕掛けられてない訳がないじゃないか。

「多分、方法は分からないけど、このまま進んでも絶対に二階には上がれないだろうな」

「えっ⁉︎ じゃあどうするの?」

セレナが驚いた声を出す。

まぁそりゃそうか。

今の状況をゲームで例えるなら、クリア不可能のダンジョンをクリアしろと言われてるようなモノだ。

「大丈夫だ、絶対に突破する方法はあるはずだ」

こういう時は、ただただ道を進んでるだけじゃダメなんだ、何か予想外の事をしないと、先に進めない。

ゲームなら……どこかの壁を調べるとか、どこかでアイテムを使うとかな。

………まさか日本で親が仕事に行ってる間に内緒でやっていたゲームの知識が役に立つ時が来るとはな。

「んで、フィリア、なんか案はあるか?」

突然話を振られ、フィリアは急に顔を俺の方に向ける。

自分に話が振られるとは思わなかったんだろう。

俺も案がない訳じゃないが……俺の案は強行突破すぎるのだ。

「……私にも分からないわ」

「そうか…」

フィリアも分からないとなると……仕方がないな。



ーーーー強行突破だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ちょっと、ルージュ⁉︎ 急に来た道を戻り出して…どうしたの⁉︎」

そう、俺はダッシュで来た道を戻っていた。

それは、外に出るためだ。

だが、いくら走っても玄関に辿り着かない。

「なるほどな……」

「ぶぁっ⁉︎」

俺が走るのを止めた瞬間、俺の背中に衝撃と共に小さな声が聞こえた。

おそるおそる振り返ると……

「……ねぇルージュ。 一体どういう事かな? 急に走り出したと思ったら急に止まってさ。 私、理由を知りたいなぁ……」

……やってしまった。

そこには顔を押さえて地面に座っているセレナが居た。

今のセレナは笑顔。 それも怖い笑顔だ。

という事は、セレナは怒っているという事だ。

……まぁそりゃそうか、理由も言わずいきなり走り出して、急に走るのを止めれば誰だって苛立つ。

「えっとな…実は玄関に行こうと思ってたんだ」

「何をしに?」

「そっ、外に出るために」

「外に出て何をするの?」

「そ、それは……まぁ隠す必要もないしな。 フィリアも、ちょっとこっちに来てくれ」

「嫌よ、近寄りたくない」

「でも作戦が……」

「私がフィリアに伝えるからいいよ」

セレナがそう言ったため、俺はセレナにこれからやろうとしていた事を伝えた。

セレナに伝え終わった後、セレナはフィリアにも同じ事を話した。

「んで、この作戦、どう思う?」

俺は2人に聞いた。

一応一緒に行動しているため、独断はできない。

「私は……よく分からないけど、ルージュの考えた事なら賛成だよ!」

「この状況じゃ、何か予想外の事をしないと切り抜けられないだろうしね、私も賛成よ」

2人は了承してくれた。

よし……後は実行するだけだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「でもさ、ルージュ。 玄関に行けないなら外に出れないよね?」

「あぁ、だから、玄関には行かない」

「え?」

「なるほどね……」

セレナは分かってないようだが、フィリアは分かったらしい。

セレナには悪いが、時間が惜しい、早速始めよう。

俺は適当に校舎の壁を手で触り……

「やっぱ頑丈だな……これは相当魔力を使いそうだ」

「剣魔学園はドラグラード王国で1番大きいのよ、建物が頑丈なのは当たり前よ」

「そりゃそうか。 んじゃ、2人ともちょっと離れててくれ、危ないから」

さっき俺はぶっつけ本番で氷魔法を使う事に成功した。

なら……他の複合魔術も使えるはずだ。

「確か……火と土を合わせるんだよな……」

初めての魔術なので、力加減は出来ない。 
さっきの氷魔法を思い出すと、とんでもない事になる可能性がある。

だが、仕方のない事だ、後で教師達に何か言われたら、笑って誤魔化そう。

「よし…行くぞ! セレナ! フィリア! 危なかったら躊躇わずに防御しろよ!」

俺はセレナとフィリアに一声かけて、校舎の壁に右手をピッタリつける。

左手で右手をしっかりと固定し、俺は魔力を多めに貯める。

炎斬えんざん隕石雨メテオ・レインとは比べ物にならない程に、魔力を貯め続ける。

………そして……

「よし……擬似的ダイナマイト‼︎‼︎」

ドオオオオォォォン‼︎‼︎

という音と共に、俺の右手が爆発した。 
否、正確には、俺の右手の掌が爆発したのだ。

火と土の魔法を合わせれば爆発魔法が使える。 というのはフローラから聞いていた。
出来るかは分からなかったが、とりあえずは成功だろう。

爆発のせいでこの廊下全体に黒煙が広がってしまい、前が見えない。

突風ウインド!」

セレナの声が聞こえた。

そして、セレナが起こした突風により、黒煙は消え去った。

俺は前を見てみると……

「よしっ! 成功だ!」

そこにはくっきりと、大きな穴が開いていた。

だが、さすがは爆発魔法、貯めた魔力が全部なくなってしまった。

消費魔力はとんでもなく高いようだ。

「る、ルージュ……ルージュって爆発魔法使えたの…?」

「いや、今初めて使った。 成功してよかったよ」

「初めて⁉︎」

セレナが大声をあげて驚く。

まぁそりゃ驚くか、俺だってビックリだ。

「……やっぱり、ルージュは凄いな……」

そんなセレナの呟きは、俺には聞こえなかった。

俺は早速穴を通って外に出ようとした。

………だが、そこで異変に気付いた。

「あ、あれ……?」

「ん? どうしたの?」

「い、いや…あれ…?」

「何よ、言いたい事があるなら早く言いなさいよ」

え……嘘だろ? 確かに爆発魔法は右手への負担は大きかったが……

「あ、あのな…」

「うん」

「肩が……外れた」

「………………」

「………………」

その場に、しばらくの間、沈黙が流れた。

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