2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

12話 「昔の私、今の私」

ディノスとの決闘から3日が経ち、今日は俺の10歳の誕生日だ。

ディノスは「誕生日プレゼント楽しみにしとけよ!」と笑いながら言っていた。

セレナと俺の誕生日は7日しか離れておらず、ならば2人同時に祝ってしまおう、という事になったらしい。

セレナの誕生日プレゼントも今日渡すようだ。

なので今俺の家にはセレナ一家とルージュ一家が居る。

「あ、ルージュ君、お誕生日おめでとう」

「え? あ、ありがとうございます」

今俺に話しかけてきたこの人は、セレナの母親のセルミナ・エゼルミアだ。

はっきり言おう………めちゃくちゃ美人だ。

セレナの母親だから美人だろうとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

セレナと同じ綺麗な金髪に黄色い眼、そしてエルフの証拠である長い耳。

昔セレナから聞いたが、セルミナはハーフエルフではなく、普通のエルフらしい。

「最近のセレフィーナはすごく楽しそうなの、前よりたくさん笑うようになったわ」

「そうなんですか?」

「えぇ、全部ルージュ君のおかげよ、本当にありがとうね」

セルミナはそう言って俺の頭を撫でてきた。

「セルミナさーん! ちょっとこっち手伝ってー!」

キッチンの方からからフローラの声が聞こえた、フローラとセルミナは仲がいいらしく、よく2人で話しているところを見かける。

「はーい! じゃあルージュ君、これからもセレフィーナをよろしくね?」

「任せてください」

「ふふ…」

セルミナは少し笑ってキッチンへと向かった。

「なかなか言うようになったじゃねぇかルージュよ!」

「ぐえっ!」

後ろからいきなり背中を叩かれた、なんだと思い振り返ると、そこにはディノスと……

「やぁ、ルージュ君。 誕生日おめでとう!」

この人はセレナの父であり、セルミナの夫、アレス・エゼルミアだ。

しかもかなりのイケメンだ。

赤い髪にセレナと同じ青い眼、どうやらセレナの眼の色はアレスの遺伝で、髪の色はセルミナの遺伝らしい。

イケメンと美人の娘……そりゃ美少女になるわけだな。

「セレフィーナからいつも聞いてるよ。 娘と仲良くしてくれてありがとうね」

「あ、はい」

夫婦から似たような事を言われてしまった、どうやらよっぽどセレナの事が心配だったらしい。

「よっし! 話ははすんだな? んじゃルージュ!」

「なに? 父さん」

「これからサプライズパーティーの準備をする、だからルージュはセレナちゃんと一緒に外で遊んで来い」

「セレフィーナは外で待たせているから」

「うん、それはいいんだけど……」

「どうした?」

「サプライズパーティーって、俺にバラしてもいいの?」

「「あっ………」」

その後アレスに

「この事はセレフィーナには内緒にしてくれ!」

と言われ、ディノスに

「この事が母さんにバレたら怒られる! だから知らないフリをしてくれ!」

と言われた。

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「おーいセレナ、おはよう」

「あ、ルージュ! おはよう!」

俺が庭に行くと、セレナが魔法の練習をしていた。

「魔法の練習か?」

「うん、ルージュみたいに魔術で身体強化! ってのをやりたいんだけど、なかなか出来なくて……」

「ははは…」

「それより、なんかお父さんに「絶対に家の中に来ちゃダメだよ」って言われたんだけど、家の中で何かあるの?」

怪しすぎだろ……、セレナが素直に言う事を聞いてくれていてよかったな。

「あぁ、なんか家の中で俺の両親とセレナの両親が大事な話をするらしくてな」

「大事な話?」

「あぁ、だからセレナと一緒に外で遊んで来いって、追い出されたよ」

「そうだったんだ」

「だから家の庭じゃなくて、外に遊びに行こうぜ」

「うん!」

俺はセレナを外に連れ出す事に成功した。

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「さて、どっか行きたい所とかあるか?」

「え? んー……」

外に出たはいいものの、どこで遊べばいいか分からないのだ。

「じ、じゃあ…」

「お、あるのか」

「うん、私とルージュが初めて会った場所に…行ってみたいなぁ…って」

「初めて会った場所? あの川がある場所か?」

「うん、ダメかな?」

いや、折角セレナが行きたいと言っているのだ、断る理由はないだろう。

「よし、じゃあそこに行くか!」

「うん!」

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俺たちはあの日以来来ていなかった川へと来た。

「相変わらず綺麗な川だなぁ」

「そうだね、あの時はよく見れなかったけど、すごく綺麗…」

この川で、セレナは最初イジメられていた。

3人の男が1人の女の子を、エルフだからという理由だけで蹴ったり殴ったりしていたのだ、今でも思い出すと腹が立ってくる。

「ルージュ、あまりイライラしないで? 私はもう大丈夫だから」

どうやらセレナに気づかれてしまっていたらしい。

「とりあえず、座るか」

「うん」

俺たちは草むらに腰を下ろした。

「………………」

「………………」

……………き、きまずい。

なんでセレナは何も喋らないんだ?
 ずっと川見てるし、川が好きなのか? 
何時間でも川を見ていられる系女子なのか⁉︎

「なんか、懐かしいね」

「えっ⁉︎ な、何が?」

「ルージュが私を助けてくれた時だよ、もう5年も前なんだよね」

「あ、あぁ…そうだな」

なんだ、その事を思い出してたのか。

「あの時のルージュはカッコよかったなぁ…私の目の前に来て「ごめんな…怖い思いさせて……もう、大丈夫だ」って! 」

セレナはそう言って顔を赤くして、キャー!とか言っている。

そういえばそんな事も言ったな、今思うとなんて恥ずかしい事を言ってしまったんだろうと思う。

「あの時ね、私ルージュにも殴られるんだな…って思ってたの」

「そりゃあ…そう思われるようにしたからな、めっちゃ心が痛んだけど」

「ははは…、ルージュ優しいもんね」

「そういえば、最初はセレナってたまに俺に敬語を使ってたよな、声も小さかったし」

セレナと出会って最初の頃は、いつもはタメ口だったがたまに敬語になったり、声が小さくなったりしていたのだ。

もちろん、今ではそんな事はない。

「あー…、あれはね、恥ずかしいんだけど…」

セレナは下を向いている、そんな仕草をされると余計気になってしまう。

「なんだ?」

「えっとね…、最初の頃は、ルージュに嫌われないようにしないと! って思ってて、あまり素が出せなかったんだ」

「素を出せば俺に嫌われると思ってたのか?」

「うん、今ではそんな事は思ってないけどね」

それから俺たちは昔の話をして盛り上がった。

途中からは完全にセレナが俺の良いところを紹介する時間になっていたが……

「あとね! 他にもルージュは…」

「あっ! お前ら!」

セレナの話を遮り、聞いたことのある声が聞こえた。

声の方を見ると、そこにはセレナをイジメていた3人組がいた。

「おいお前ら! この川は俺たちのナワバリって言っただろうが!」

とボスが言う。

「ナワバリって…相変わらず馬鹿なことやってるんだな、恥ずかしくないのか? 弱いくせに威張ってばかりで」

「な、なんだと⁉︎ 化け物と仲良くしてる変わり者のくせに!」

ボスがそう言い、俺は無視しようと思ったが……

「ルージュを悪く言わないで‼︎」

なんとセレナが言い返したのだ。 

セレナが言い返した事で、最初は目を丸くしていたボスだったが、すぐにセレナを睨んで

「なんだよお前! 強い奴に守ってもらえるからって調子にのりやがって! お前なんか1人じゃ弱いだけだろ!」

「おい、お前いいかげんに…」

「ルージュ、待って」

流石に腹が立ってきたので、痛い目を見てもらおうと思ったら、セレナに止められた。

セレナの方を見ると、真剣な顔をしていた。

「でも、いいのか?」

「何が?」

「いや…このまま言われっぱなしで、やり返さなくていいのか?」

こういう奴らは痛い目をみないとまた同じ事を繰り返す、ここはセレナの意見は聞かずに俺があいつらをボコボコにしたほうがいいはずだ。

「何言ってるの?」

「え?」

「やり返すに決まってるじゃない。 そのためにここに来たんだから」

「へ…せ、セレナさん?」

セレナが笑いながら怒っていた。

この5年間、たまにセレナを怒らせてしまう事があったが、その時と同じ笑顔だ。

はっきり言うと、この時のセレナは容赦がない。

容赦なく氷魔法を使ってきたり、かなり暴力的になるのだ。

「ルージュは何もしなくていいから」

「で、でも…」

「いいから、何もしないで。 これは私の問題だから、ルージュに頼ってばかりじゃ、いつまでも私は弱いままだから」

「……分かった」

そう言うとセレナは3人組の方へ行き、3人と向かいあった。

「なんだよ、まさか俺たちと喧嘩するのか⁉︎」

「うん、するよ。 昔みたいに私をイジメてみなよ、出来ないだろうけどね」

「なんだと⁉︎」

セレナがそう言うと、3人組は一斉にセレナに襲いかかった。

「あ、当たんねぇ⁉︎」

「くそっ! 避けるなよ!」

「な、なんで⁉︎」

セレナは3人のパンチや蹴りを冷静に、全て回避している。

3人はすぐに体力がなくなり、息が切れている。

「なんだ…君達って、こんなに弱かったんだ」

「な…お前……化け物のくせに…」

「うん、もう君達になんて言われようが私は傷つかないよ」

セレナはゆっくりと右手を3人の方に向ける。

「もう、今の私には友達がいるから。
………突風ウィンド!」

セレナの風魔法により、3人が後ろに飛ばされる。

「うわあああっ⁉︎」

セレナは飛ばされた3人の方にゆっくりと近づき

「本当は”弱いものイジメ”はしちゃいけないんだけど……今日ぐらいはいいよね?」

そして3人に水魔法の水球ウォーターボールをぶつけた。

「ひ…ひぃっ!」

「殺される…!」

「化け物ーっ‼︎」

3人はそう言って無様に走って逃げていった。

セレナは3人が逃げたのを見ると、俺の方にゆっくりと歩いてきた。

「せ、セレナ? 大丈夫か?」

「……うん、大丈夫」

セレナはそう言って、俺に抱きついてきた。

「ははっ…気にしない気にしないって思ってても、やっぱり”化け物”って言われるとね…」

セレナは涙声だった、俺はセレナの頭を撫でた。

「頑張ったな」

気の利いた言葉が思い浮かばず、とりあえずそう言うと、セレナが俺を抱く力が強くなった。

「うん…! 私…強くなれたかなぁ…」

「あぁ、セレナは強いよ。 俺が思ってたより、ずっとずっと強いよ」

セレナは俺に抱きついたまま、しばらくの間泣き続けた。

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