引きこもり姫の恋愛事情~恋愛?そんなことより読書させてください!~

雪桃

引きこもり虫とバレンタイン

 二月十四日。女の子が色めき立つ日。私も例外では無かった――今年の私は。

「音ってこう見えて器用だよね。普通こんなに綺麗なハート出来ないよ?」
「本は少しでも傷つけると読みにくくなるから慎重に取り扱わなきゃいけないし、その癖かも。ねえこう見えてって何よ」

 スルースキルを私は持ち合わせていないのだよ兄者。てかあんた何でいんだよ。

「え? そりゃあ僕も本当は女の子だから♡」
「華ちゃんそこの紙袋取って」
「音。やっぱり一番スルースキルあるの君だよ」

 違うよツッコむのに疲れたんだよ。だって年に数え切れないくらい女装しては吉宗兄さん引き連れてデートしてんでしょうがあんた。

「今日も行くの?」
「吉宗と? 勿論。非リアには非リアの楽しみ方があるんですよ」
「非リア……まこちゃんに彼女出来ないのはその性格のせいなんじゃないの?」

 ついでに言うと吉宗兄さんもあんたが邪魔してるから彼女作れないんだと私は推測しているが?

「でもそうすると今年も華ちゃんを一人にしちゃうね。誰かと遊びに行く約束とかしてないの?」
「してるよ。健くんと一緒に遊園地行くの」

 華ちゃんはチケットを見せてニコニコしている。
 健……あ、佐藤くんの弟。久しぶり過ぎて忘れかけてた。

「バレンタイン限定で男女で行くと無料で乗り物乗り放題なの! ねえ行ってきていいでしょまこちゃん?」
「健くんは無事な人だよね。良いよ。遅くならない内に帰っておいで。今日は皆遅くまで帰ってこないから鍵は持ってくんだよ」
「皆いないの?」
「愛子姉さんと正宗兄さんは仕事だし風柳は月海を引きずってチョコの食べ放題に行ってるし麗子姉さんと桃李兄さんは大学のサークルに行ってるから」

 こんな休みまで仕事だなんて可哀想に。二人とも仕事人間だから楽しそうっちゃ楽しそうだけども。
 あ、だから月海あんなにバレンタイン嫌がってたんだ。てっきりリア充爆発しろとかそういう……それもあるみたいだね。

「じゃあ僕はそろそろ準備するよ。メイクしなきゃだし」
「男で外出しろよ」
「ホモだと思われたら嫌だし」

 そこ? 思われたらって親族から見りゃ立派なゲイでゲフンゲフン!!

「音ちゃん私も行ってきていい? 待ち合わせしてるの」
「良いよ。気をつけてね」

 寒い冬空を一人の妖精……じゃなかった華ちゃんが駆ける。こんなの見たら写真撮りたくなるな。今持ってないから無理だけど。

 さて一人になってしまった。透さんは仕事があるって言うから出掛けるにはまだ時間あるし。読書するか。なんかこの頃この言葉めっきり使わなくなった気がする。












 ウトウト……はっ! 寝てしまっていた。疲れてんのかな? 試験勉強もあるし。

「時間か」

 コートを着てマフラー手袋耳あてバッチリ――はい私冷え性でございます。エッチした後も布団被らなきゃ翌日風邪引いちゃう。よし出発……寒っ!!



 悴んだ手でチャイムを鳴らす。

「……さむい」
「凛音。お待たせ」

 急いで透さんがドアを開けてくれて中に入る。暖かぁ。

「外は大分寒いらしいね。今夜は雪かもだって」
「そりゃあ寒いわけですね。はい透さん。バレンタインです」

 松崎さん親子にも食べて欲しくてケーキワンホールです。甘いもの嫌いかなとも思ったんだけど透さんはありがとうと言って笑っていたから平気だろう。

「ねえ凛音」
「はい?」
「今日は“疲れてない”?」

 暗示する気かあんたは。まあバレンタインでカレカノで男の部屋に入ったらそれしかあるまい。

「良いですけど寒いのは苦手なので戸は閉め切ってくださいね」
「元より開けたことは無いけどね」

 透さんはそう言って私の唇に自分のそれを合わせた。






「チョコ以上に甘いもの貰ったから今日はもういらないかな?」
「え、折角作ったのに」

 あれ生チョコだから早く食べないと腐るんですよ? 冷蔵庫の中でも。
 私は散々に自分の体を弄られた男性とおるさんを睨みつけた。筋肉美ゲホゲホ。

「ごめんごめん冗談。ちゃんと食べるよ」
「むぅ」

 プイッとそっぽを向いて私はそのまま後ろから抱きしめてくれる透さんの体に身を預けながら少しの間眠りについた。














「チョコには中毒性がある。こんなものを食べたら毒だ……毒毒毒毒ど」
「月海。あーん」
「あー……風柳――!!」

 チョコのアイスを食べさせられた月海は僕に大激怒している。公衆の面前でそんなに大声だしたら迷惑だよ。

「大丈夫だよ。確かに毎日食べたら太るだろうけど一日大食いしたって精々二、三キロ………」
「女にとってはその僅かな数字が命取りなの。私の場合身長だって低いからただでさえデブに見えるのに」
「女ってめんどくさい」
「黙れ」


















「正宗ちゃんお疲れ様ぁ」

 誰もいない――いいえ正宗ちゃんしかいない所謂社長室に入ってココアを渡す。

「一応バレンタインだからチョコってことでぇココア淹れてみましたぁ。甘いの苦手だからぁ控えめのもの選んできましたよぉ」
「ありがとう愛子。君も休んで良いよ。まだ夕飯も食べてないんだろ?」
「正宗ちゃんも同じでしょぉ? 私はあなたの秘書ですからぁ。終わるまで待っていまぁす」
「……愛子」

 あら? 正宗ちゃん怒ってる? “あの時”から名前だけ呼ばれるのを怖がっている私の為に何か伝えてから名前を呼ぶのに。

「は、はぁい。何でしょうかぁ正宗ちゃぁん?」
「今日どっか食べに行こうか」
「は……え?」

 予想外過ぎました。

「もう遅いし家には誰もいないし良いだろう」
「はぁ」
「酒飲んでいいぞ」
「行きます」

 久しぶりのお酒。そうわくわくしていたら正宗ちゃんに吹き出されました。












「ああ〜楽しかったぁ〜〜」
「凛華ちゃん見かけに寄らず絶叫マシン好きなんだね」

 ふらふらしている健くんの手を引っ張る。

「嫌いなの?」
「内臓がふわぁってなる感じが駄目」
「それが楽しいのに」
「……」

 何で渋い顔してるの?

「まあいいや。凛華ちゃんが喜んでくれるならそれで」
「ありがと健くん。でもよく私が遊園地行きたいって分かったね」
「……そうだね」

 もう夕日は沈んで夜になっちゃったけど健くんが送ってくれてるから心配いらない。帰り道が一緒で良かった……あれ?

「健くんあれ」
「ん?」

 上から白くて冷たいものが降ってくる。

「雪だ!」

 続け様にどんどん降ってきて冷たぁい!

「り、凛華ちゃん。そんなに走ったら転んじゃうよ」
「大丈夫! ほら早く……わ! っとっと」

 そう言ってるそばからつまづいてコンクリートにべシャリ!

「あ、ほらだから」
「えへへ〜ごめんね健くん……健くん?」
「……妖精」

 え? と思った瞬間お口に何だか熱いものが。健くんの顔がすっごい近くにある。
 お口から離されたものは健くんの唇だった。

「……大好き凛華ちゃん。僕と付き合って」

 音ちゃん、まこちゃん。私の周りにお花が舞ってます。これは一体……何なんですか?


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