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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

最終話『』

 俺は走る、自分の為に。戻らない時間を取り戻す為に。
 俺は駆ける、校内を。自分の気持ちを伝える為に。
 
 本が大好きな彼女なら、そこに。

俺にとって最高の友達であり、仲間と呼べる彼女は――。

 中に入る前に深呼吸を何度か繰り返し、息を整える。
 手の震えは止まらなかった。しかし今ここで逃げていては何も始まらない。それは分かりきっている。
 過去の自分との決別。新しい自分になる為に。

 勢い良くドアを開け、図書室へと足を踏み入れた。

 その一歩は距離にしては短かいものであったが、辿る着くまでにかなりの時間をかけてしまっていた長さ。
 自分が何度も避けていた道である。下げていた頭を真正面に向け、伝えなければならない相手に目を向ける。

 そこに――彼女は居た。

 彼女の定位置と言ってもいい、図書委員専用の椅子に座り、分厚い本を読んで。勢い良く開けてしまったせいか驚いた表情が今も治まっていない。でも俺の方を見るとうっすりと顔を緩めてくれた。

 放課後だというのに本当に変な奴だ。授業が終わったら真っ直ぐ家に帰ればいいものを学校に残っているなんて。
 
 辺りを見回してみるが、彼女しかいない。

 俺はゆっくりと彼女の元へ歩み寄る。

 そして口を開いた。

「言わなきゃならないことがある」
 その言葉は暗かった、重かった、苦かった。こんな言葉を今から言わなければならないのかと思うと胸が歯千切れそうになる。
 それでも俺は言わなければならない。

 彼女はこくりと頷き、沈黙が続く。俺が喋るのを待っているのだ。それなのに俺は言えなかった。
 彼女が顔を少し紅くして、俺の目をじっと見つめてきた。早くしてよ、と目が物語っている。
 
 青春とは甘酸っぱいとか創作物の中では言われているけどそんなことは決してない。

 現実は酸っぱいだけだ。一気に暗い気持ちになる。
 だが、どうしても言わなければならないのだ。

 で、でも……。

 俺は怖気づいてしまっていた。

 さっきまでのやる気はどこへやらという感じだ。
 職員室を飛び出してきたというのに。その威勢はどこに行ったのだろうか。
 第三者なら確実に笑って馬鹿にしてるね。
 だけど本人にはそんな余裕は無かった。

 俺は言うのが怖くなっていたのだ。

 関係が壊れるのが怖かったから。
 俺がその言葉を言ってしまえば、今までの関係を壊すことになるかもしれなかったから。
 
 だから俺は今まで、ずっとずっと現状維持を保ってきた。それは言わば、『逃げ』だった。

 だけどそんな逃げの中で俺は色んなことを学んだ。
 それは主に人間関係のことだったけど、俺にとってはどうしようもないほど大きい出来事だったけど、人間の黒い部分が沢山見えてしまったことだったけど。

 それでも俺はそれが良かったと思ってる。

 それを俺は受け止めている。

 俺は俺を受け止めている。

 自分がやったことを認めている。

 反省している。

 そして今、俺はここに居る。

 だから。ここに来たのだ。

 もうやるしかない。
 

「朱里――俺は恵梨香のことが好きだ! 大好きなんだ! だから……だから……」

 言葉が言い出せない。その先が言えない。

「ふふっ、何言ってるんですか? 渚君。私は一度も渚君のことを好きになったことなんかありませんよぉ〜。もう、本当に困りますよ。あの時のアレも全部冗談で、ただの遊び半分だったんですからぁ〜。それに渚君なら、こちらからお断りさせて頂きますよ。ヘタレな男は嫌いですから」

 彼女の目は何かを覚悟したかのように真っ直ぐで輝いていた。彼女が居なかったら、今の俺は居なかった。

 そう言い切っていいだろう。

 そして関連してきた今までの出来事も起こらなかっただろう。

 それでも俺は彼女に会えてよかったと思ってる。

 彼女に会えて、俺は諦めないことを知った。

 夜空の綺麗さを知った。
 彼女と共に見たあの夜空を瞼を閉じれば、思い出せる程に素晴らしいものだった。
 中学時代、クソッタレな俺の世界に色を付けてくれた。
 感謝しても感謝しきれない。

 彼女が居なければ、俺は元々恵梨香と仲直りなんてできなかったかもしれないから。

 もしかしたら俺はいつもどこかで朱里に助けられていたのかもしれない。
 だからこそ、もう決別するべきなのだ。

 「なぁ、朱里。今度、星を見に行こうって約束してたよな? それ、皆で行かないか?」
 
 彼女は満面の笑みで答える。

 「うん! もちろん!」

 「それにしても渚君。変わったんだね。もう、あの頃のようには戻れないね。それじゃぁー、渚君は覚悟ができたってことなのかな?」

 彼女がクスっと笑う。
俺はその笑いに親指を立てながら答える。

 「さぁーな」と。


 図書室を出て、三歩進むと彼女の泣き声が聞こえてきた。だけど俺は戻らなかった。

 ――ごめんな。

 ぽつりとその言葉を背中越しに吐き、俺は次の女の子ヒロインの元に向かう。

 次に向かうのはあの公園だ。

 あいつは最近そこに入り浸っている。

 過去の何かに囚われるているかのように、公園という牢獄に、居るのだ。
 別にブランコなどの遊具で遊ぶことはない。
ただ、じっとベンチに座っているのだ。
 でもその姿はとても可憐である。
だから皆の視線を集めている。


 やはりそこに彼女は居た。

 いつも通り、ベンチに腰を掛けていた。

 ぼっ――と、何も考えていなそうな目をして。

 「真弓、何やってんだ? ここで?」
 彼女に声をかける。
 目線をこちらに向け、一言。

 「あ、夕君だ」

 その声に何故か懐かしく感じた。

 それはただの気のせいなのかもしれない。

 しかし、記憶の片隅にベンチに座って人形に喋りかける小さな女の子が居たという、根拠のない記憶がある。

 「何やってんだ?」
 最初に話を持ちかけるのはあまり得策ではない。
 それでも今の彼女ならすぐに受け入れてくれるだろう。けれど、先には言わなかった。

 「何も。ただ懐かしいと思って」
 
 彼女の視線の先には小さな男の子と小さな女の子が居て、仲良く砂場で遊んでいた。

 「そっか……」

 「うん。それで夕君はどうしたのかな? 慌ただしくここに来て」

 「えっ? 慌ててはないよ」

 「嘘だ、夕君。だって夕君の顔、張り詰め過ぎだよ」

 自分の顔に手をやる。
 固まっていた。何故、固まっているのか分からない。
 多分、俺は怖いんだろうと思う。
 不安に思っているんだろう。

 本当に臆病な奴だ。

 「ごめん。嘘付いた。大事な話をしようとここに来た」

 「ん? どうしたの?」

 彼女が首を傾げた。
俺もそれに合わせ、彼女の横に座った。

 「実は俺……好きな人がいるんだ」

 彼女の顔が豹変して、隠し持っていたカッターを俺に向けて――なんてことはなかった。

 彼女は全てを悟ったかのように微笑んだ。

「そっか。そうだよね。ワガママもう……できないよね」

 ぽつりとその言葉を吐く。

 以前の彼女とは大違いだ。

 前ならすぐにカッターを向け、俺を脅迫して、どんな手を使ってでも、それを阻止。

 いや、"無かったこと"にしたに違いない。

 ただ、今回彼女は俺を受け入れてくれた。

 俺の気持ちを受け止めてくれていた。
 それは彼女に向けられなかった愛情なのに。
 それを彼女は許してくれた。
 確かに俺はチャットを始めて、七海危ない女が現れた。
 そして俺は色々なことを学んだ。
 知った。思い出した。

 感謝なんてしない。それに感謝なんてできない。
 彼女がやったことは非人道的で、自己中心的な愛情で、それは対象者にだけは優しく包み込んでくれるが、他の人にとっては尖りまくった危ない凶器であり、狂気に満ちていたのだから。
 言わば、彼女自身が刃物だったのかもしれない。

 今なら、俺はそう思う。

 「ごめん。だけど、もう間違えたくないんだ」

 俺は押し切った。こんな言葉を言える立場ではないのかもしれない。彼女を不幸にさせたのは俺だ。
 だから尻拭いをした。ただそれだけなのだ。
 自分の罪悪感を消すためにしただけだ。
 俺はどこかでこの感情を全て"無かったこと"にしたかった。そしてそうしていた。
 誰にも嫌われたくなかったから。
異常だと言うことは気づいている。
 他人の目を気にしすぎている。
 だけどそれは過去のトラウマの影響でどうしてもそうなってしまうのだ。情けないと思うし、コロコロと心変わりするのは本当に意思のなさだと思う。
 けれど、俺はそんな生き方しかできなかった。

 でも、俺は紗耶香先生に後押しして貰った。
先生はそんな八方美人で、気持ち悪い、自分の意思が無い、相手の顔を伺いながら生きるそんな男を、二股もして、色々な女の子に好かれていると知りながらも気づかないふりをしていた男を、守ってくれると言ってくれた。
 助けてくれると言ってくれた。

 それに――今は仲間がいる。

 俺の大切な仲間が。

 だから俺は前を向いて歩ける。

「うん。分かったよ。夕君、だけどさ……わたしの気持ちは変わらないから!」

 彼女の目からは涙が流れた。

 腕には傷があり、それを隠すように着ていた冬服は無くなり、夏服へと移行した肌が露出した服。
 彼女はずっと苦しんでいた。
 『チャット』という確かに、二次元に近い三次元に。
 本当に私は愛されているのだろうか。
 愛されていないかもしれない。
 そんな感情になって、眠れない日もあっただろう。
 迷惑をかけてしまった。
だけどそんな電波の狭間にあった空間で俺達二人は出会い、恋をした。それは素敵なことなんだと思う。
 ネットで恋をする。いいじゃないか。
 最初はネットで恋愛?
 馬鹿じゃね、有り得るわけねぇーだろとか思ってた。

 だけど、本当にあったんだ。
 厳密に言うと、俺達二人が出会ったのは幼い頃だったけれど、チャットを発端に俺達の愛は復活したんだ。
 こんな結末になってしまったけど。

「ありがとう。だけどその言葉は受け取れないな。
 だって俺は"変わる"と決めたから」

「だからもしそうなった時は、俺からその言葉を言うよ」

 俺が言える最低限の言葉をかけて、彼女と別れた。

 あの頃の彼女なら呼び止めるだろうが、呼び止めることはもう無かった。

 俺が変わったことにより、彼女も変わったのかもしれない。いや、成長したのだろう。二人共。
 それに俺が変わる前に彼女は変わっていた。

――さよなら、元彼女元カノさん。


 公園から十分程、歩き、駅に到着する。

そこから電車に乗り、いつもの駅に向かう。

 家に戻る前に俺はあるところに赴いた。

 「ご注文は何にしますか?」

 ここでアルバイトをしている彼女に会うために。

「ポテトMを一つ。ドリンクはMのメロンソーダ」

「あと、それと。岬の時間を貰おうか?」

 彼女がクスッと笑いながら言った。

 「いいよ」ってさ。

  俺は以前立ち寄った時に座った場所に座ろうと思ったけど、他の人が座っていたので窓側の席に座ることにした。

 スマホをいじり、俺は連絡を入れておく。

 『恵梨香︰今日の二十時頃、公園に来てくれ。大事な話がある』と。

 それともう一つ。
俺はTwitterで『マックなう』とツイートをしておいた。

 するとすぐにいいねが来た。

 それから十分ぐらい経った頃だろう。
彼女がやってきた。仕事の制服ではなく、学校の制服になっている。

「あのさ、なんでバイトしてるんだ?」

 彼女が椅子に座る。

「ちょっとお金が必要でね。まぁー色々とあるの」

「色々ってなんだよ?」

「そこは普通聞いちゃいけないよ。本当は」

「まぁーいいじゃん。幼馴染だし」

「さぁーて、どこの誰かさんは私が幼馴染であることさえ、忘れてたっていうのにね」

「それを言われたら……何も言えねぇー」

「でしょ? で、まぁーいいわ。どっちにしろ。
 遅かれ早かれ、分かることだし。それに早めに言わなければならないと思ってたから」

「えっ? なんだよ? そのフラグ立ては」

「フラグ立てって、ふふっ」

 彼女の口が緩んだ。

「私ね。実は外国に行こうと思ってるの」

「良いじゃん。お土産よろしく!」

「いや、そういう意味じゃなくて。転校しようと思ってるってこと」

「はぁ?」

「だからね。海外の学校に行こうと思ってるわけ」

「えっ? って、どこに?」

「スイスよ。スイス。学校の姉妹校にスイスあるの知ってるでしょ? それの交換留学生になるってわけ」

 交換留学生――そう思えば、そういうのあったな。

「でも突然だな」

「まぁーね。本当は誰にも言わずに旅立とうとしていたんだけど」

「そ、そっか。そりゃーあれだな。その……」

「あ、もしかして? 私が負けたから、海外に現実逃避してるって思ってる?」

「あの、負けたって?」

「もう本当にイライラするわね。鈍感系は。
 私が恵梨香に負けたから海外に旅立とうとしてるわけじゃないってことよ」

「あれ? もしかして? もうばれてる?」

「勿論、バレてるわよ。恵梨香から連絡さっき来たし。
 夕君から公園に来いって言われたって」

「いやそんな脅迫文みたいなことは書いてねぇーよ」

「ふぅ〜ん。そう、強引なところ好きなんだけどなぁー」

「勘違いすんな。俺はそんなつもりねぇーよ」

「もしかしたら多目的トイレで……みたいな?」

「ないない。あるとしたら、俺の家だ。
 トイレで初めてなんかやれるかよ」

「まぁーそりゃそうね。そういうのは一部のマニアと同人誌だけにしてもらいたいわよね」

 岬……色々と知ってんだな。
少し関心したぜ。

「何? ニヤニヤして? もしかして身体狙い?
最低ね。色んな女の子に鼻を伸ばして最低」

「最低って二回も言うことないじゃん」

「強調してるのよ」

「なるほど。それほどまでに最低ってわけか。
まぁー仕方ないよな。俺は二股をしていたわけだし」

「でもそれは本当に二股と言えるのかしらね。
少しビミョーな気がするわ。グレーゾーンね、グレーゾーン。あ、少しメロンソーダ貰うわね」

 そう言って、俺のメロンソーダを奪い取った岬。
俺との間接キスをなんとも思ってないのだろうか。
 寧ろ、俺の方が意識しまくってる。

「あの……何も思わないのですか?」

「なぜ? 敬語!?」

「いや、なんとなく」

「あ、そう。別になんとも思わないわよ。
寧ろ、これぐらいで顔を真っ赤にしちゃうの?」

「う、うん。まぁーな。女の子にそんなことをされるのは……ちょっとな」

「そう? でも昔はこんなこと良くしてたじゃない」

「そうだっけ?」

「そうよ。私と恵梨香と夕の三人で仲良くジュースを飲み合いっこ」

「全く覚えてない」

「そ、そう。ならいいわよ。で、今から恵梨香に会うんでしょ? どうするの?」

 しょうがないか。
俺と岬は幼馴染だし。
 言っておくか。それに失敗した時に強い味方になりそうだ。

「もう一度告白しようと思う」

「ふふっ、いいわね。乗ってきたわ」

「何故、岬が乗るんだよ」

「なんか、クライマックスって感じするじゃない」

「そ、そうか? バットエンドになってしまったらどうすんだよ?」

「バットエンドって?」

「えぇー例えばな、振られたらとか」

「ナイナイ。そんなことないって」

「いや、そういうナイナイフラグを立てると死亡フラグも立つんだって」

「あ、確かにお約束だしね。まぁ、失敗した時は私が居るじゃない」

「岬かぁー。お前は高嶺の花過ぎてちょっとな」

「えぇー酷いなぁー。私がお願いって言ってるのよ?」

「あぁーはいはい。万が一な。でも俺は何回振られても恵梨香一筋だから。それだけは神に誓ってる」

「私に誓いなさいよ。私という幼馴染に」

「なんでだよ!」

「……そうしないと負けヒロイン選ばれなかった女の子が可哀想でしょ? だから誓いなさい。私や他の女の子達に」

 そうだ。

 もしも恵梨香に振られて撃沈したら……代わりがいる。そう思ってたら、駄目なんだ。
 皆は俺が幸せになるために自分の恋を諦めたのだ。
だからこそ、俺は絶対に何回振られても。
 どんなに振られたとしても。
 何度も何度も恵梨香選ばれた女の子の元に行かなければならないのだ。


 岬とその後色々と昔の話とかをした。
俺はもう全く覚えていない過去の話。
 それでも何かあったようななかったような不思議な気持ちになった。

――二十時。
 俺は公園のベンチに座っていた。
呼び出したのだから早めに行かなくてはと思い、三十分前には到着してずっと待っている。
 恵梨香が走ってやってきた。
俺も立ち上がって、恵梨香の元へ駆け寄る。

 あの時とは立場が逆転みたいだ。

「はぁはぁはぁ……」
 恵梨香の呼吸は乱れていた。
やれやれ、俺の幼馴染は困った人だ。

「大丈夫か? 恵梨香」
 声をかけてやると、うんうんと頭を動かすが全く大丈夫そうに見えない。

「ベンチに座ろっか」と声を掛けると彼女はいいと言って、頬を紅くした。彼女は俺が今から彼女に掛ける言葉を知っているだろうか。
 まぁ、そんな事はどうでもいいさ。
俺は自分の言葉を彼女に向けるべき言葉を掛けよう。
 これが俺達――岬、朱里、真弓、恵梨香、そして俺のチグハグして変な関係。本来ならば文化祭の時に終わるべきだった関係を全部失くす為に。
 そして前に進む為に。これは別に彼女達を救う為の物ではない。ただ自分の為の物である。他人の為では無く、誰かの為でも無く、自分の為の、己の為の物なのだ。

 さぁ、俺は言おう――あの言葉を。

 今まで言えなかった言葉を。


























 さぁ

























      言おうでは無いか。
































       漸く、ここ……


























               まで

































                     来たのだ。
























 「なぁ、恵梨香。俺はお前が好きだ! めちゃくちゃ好きなんだよ! だから……付き合ってほしい!」

 彼女の目が丸くなり、少しずつ目頭が熱くなっていくのが見て取れて分かった。何故か俺も熱くなる。
 どうしてだろう。どうして……俺も涙流してんだよ。馬鹿じゃねぇーか。何やってんだ。俺……。
 バカップルみたいじゃねぇーか。いや、まだ付き合っているわけじゃねぇーけど。

 「うん……ありがとう。夕君。で、でもっ!? 本当に私で良いの? 私、かなり性格悪いよ……岬ちゃんみたいに可愛いわけでも、朱里ちゃんみたいに面白い発言出来ないし、真弓ちゃんみたいに頭良くないし……夕君が私を連れて行ってくれないとどこにも行けない弱い人間だよ。メインヒロインって言われるけど……全くメインヒロインじゃない。本当に地味な女の子……クラスでも孤立してるような……そんな女の子だよ。それなのに私でも――」

 「ふざけんじゃねぇーよ! 恵梨香! 俺はお前が良いんだよ! というかお前しか眼中に入れてねぇーよ! 俺はお前が好きなんだっ! 俺はお前が大好きなんだよ! だから、頼む。俺と付き合ってくれ! メインヒロイン? そんなのどうでもいい。俺は俺が大好きな女を好きなだけだ。誰が決めたかなんてそんなの知ったこっちゃねぇーよ! 俺は江川恵梨香、お前が好きだ!」

 何言ってんだ。俺、興奮しまくって色々口走ってる。だが、良いじゃねぇーか。本心なのだから。
 やっと言えたぜ。やっと……言えた。

 「ゆ、夕君……うぅ……」
 恵梨香が俺に抱きついてきた。彼女の温もりを肌に感じる。その感触が、その温もりが彼女の側にもっと居たいという気持ちに変わっていく。
 俺は本当に恵梨香が好きなんだと思う。

 これからどうなって行くかなんてそんなの知らねぇー。未来なんて、将来なんて何が起こるかなんてそんなの本当にどこかの神様ぐらいなんじゃねぇーの。
 もしかしたら神様でも知らないかもしれない。というか、もしも俺と恵梨香が結ばれないという運命を神様が決めたのならそんなの全部ぶっ壊して絶対に彼女の元へ駆けつけてやる。俺はそんぐらい好きなんだ。


 「恵梨香……。チャット始めたら、恋が出来たよ……」



 ✢✢✢
 長い長い俺の物語を今まで読んでくれた奴はどうもありがとう。マジで感謝しか無い。ここまで色々あったけどこれからも話は続いていくがここで語れる話は終わりだ。
 あっ? 色々と解決してない話があるって?
 そんなの知らねぇー。というかな、事実は小説より奇なりなんだよ。だから分からないことだらけなんだよ!
 語り手の俺が何でも知っていると思ってる奴は大間違いだ!
 あ、それと……まぁ、言いたい事は色々あるけど誰かが俺を呼んでるみたいだ。じゃあな。
                     【完】





































✢✢✢
 誰かさんの家の一室にて。

「皆やっぱりお馬鹿さんだね。皆、まんまと私に騙されるって気付かずに……。まぁいっか。夕も手に入れる事出来たし……」
 彼女の手にはスマホが握られている。その画面に表示されているのは友達作りチャット。

「やっぱり……私、悪い女だ……」


 ✢✢✢

  俺の真正面にいる彼女はニコニコと笑い掛けてきた。そんな笑顔を向けられると俺も釣られて笑ってしまう。
 今までで一番幸せな時はいつですか?と聞かれたら、今だよと言える自信がある。
 彼女の微笑みが更に増した。

 「どうかしたのか?」

 「べつにィー。何もないよっ」

 「そうか? 何かおかしいぞ。いつもと」

 「そう? 多分それは君がいるからだよ」

 ドキッとした。胸がドキッとした。ドキドキプリキュアしてた。

 「て、照れるだろ。そんなこと面と向かって言われたら」

 「あぁー照れてるんだぁー。可愛いなぁー、このこの!」
 ほっぺたをツンツンとされた。
 最高な気持ちだった……。

         To be continued.

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