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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

うそうそうそうそうそうそうそうそうそ

「お、ありがとう……出してくれて」
 ギギギと倉庫のドアが開き、夜の静けさと寒さが舞い込んだ。朱里の手にはペンチがある。
どうやらこれで南京錠をえいこらえいこらとやっていたみたいだ。それよりも南京錠様々はこんなに柔でいいのだろうか。

「いいえ。大丈夫です。それよりも早く決着をつけましょう!」

「決着をつける? どういうことだ? それは」

「渚君、そろそろ本当の事を言ったらどうですか?」

「だから、何をだよ!」

「自分の記憶はあるってことですよ、ふふっ」
 朱里は全てを見通す様に。
静寂な闇に潜む化物を呼び覚ます様に。
しっかりと。ちゃっかりと。
その言葉を吐き捨てた。

「はい? 俺に記憶はねぇーよ」
 だけど、俺はそう答える。

「そうですか。しらばっくれるわけですか。考えましたね。色々と」

「どういうことだ?」
 意味がわからない。

「どういうことかですか。もう正直に話しますと実は私が救急車を呼んだんですよ」

 朱里が救急車を呼んだ?

「それで?」

「渚君が倒れていた場所はどこだったと思いますか?」
 問い掛けだった。
それは警察が犯人を追い詰めるみたいだ。
誘導尋問みたいだ。これは困る。

「さぁ〜どこだろう。記憶に無いな」
 だから俺は誤魔化した。
誤魔化しは嫌いだ。
だけど使う時はある。

「実は体育館倉庫じゃないんです」

「へぇ〜それで?」
 何を彼女は言っているのだろう。
さっぱりわからない。

「今、貴方は意味が分からないという顔をしましたね?」

「い、いや……別に」

「何故、貴方がそんな顔をしたのか。とてもとても気になります。何故、貴方はそんな顔をしたのか。いや、してしまったのか。とても気になりますね。渚くん」

「そうか? 俺はそんな変な顔をしてたかな?」

「はい、とってもとってもしてましたよ。自分があの日、刃物を持って暴れた人だった……みたいに」
 彼女の頬が少し緩む。
それは俺を嘲笑うかのようだった。
正に魔女の微笑みだった。

「そう思えば、そうだったね。あの日、この場所で刃物を持って暴れた人物が居たらしいけど、未だ捕まってないようだな。早く、見つかってほしいものだよね」

「へぇ〜そうだったんですか。私はあの日、実はこの場所に居たんですよ。ですけど、あの日に刃物を持って暴れた人物はいませんでした。矛盾ですね。これはこれはどういうことでしょうか?」

 どういうことだ。

「なら、俺と真弓以外に他の人物はいたのか?」

「この体育館にはいませんでしたよ。私と、渚くんと田神真弓しかね。そして私が救急車を呼んだ。でも、貴方の話によると『刃物を持って暴れた人物がいる』ということになっている。それはどういうことでしょうか?」
 『私』というのを強調したけどどういうことだろう。こいつがやったってことなのか。
まぁーそんなことはあるまい。

「……確かに、朱里が嘘をついているとは思えない。でも確証したわけではない。それより気になるのは俺が入院したきっかけは恵梨香が全部教えてくれた。だから恵梨香が嘘をついた。
そう考えるのが普通だよな。でも、なぜだ。なぜ、嘘をつかなければならなかったんだ。どういうことだ、朱里。教えてくれ」

 病院に居た時、俺に全ての訳を教えてくれたのは恵梨香だった。でも何故恵梨香だったんだ。朱里が救急車を呼んだとするならば、恵梨香は何故その場にいなかったのにそう答えたのだろう。
 元々その場に居たかのように。


「ふふっ、私を過大評価しすぎです。それと顔色が少し悪いですよ? 大丈夫ですか? 渚君」

「あぁ……大丈夫だ」
 どんなに威勢の良いことを言っても身体は震えていた。もしかしたら。もしかしたら。
という気持ちがあったからだ。
だけど無かったことにはできない。
だから俺は彼女に尋ねる。

「なぁ、朱里は知っているのか? 誰が刃物を持って暴れていたのか……」

「はい、勿論。私は見ていましたから。誰が何故、そんな行動をしたのか。理解していましたから。それに見ていましたから」

「聞かせてくれ……誰なんだ。誰がそんなことをしたんだよ……」

 ペコリと頭を下げ、彼女は「残念ながら」と前置きを残して言った。

「犯人は貴方ですよ。刃物を持って暴れたのは」
 ははっ、そうだったのかよ……。
ナンテコトはナカッタ。
全く、少しも、決して、無かった。

だって俺の記憶は元々あったのだから。

俺は記憶はずっとずっとあったのだから。
そして皆を騙してきたのだから。

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