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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

渚夕の過去

 この話が渚夕という私の彼氏の語りによって紡がれると思った奴は全員死ねばいい。私はそんな皮肉と本音を心の胸に秘めて真実を紡いでいこうと思う。
夕の思いが分かるのは私だけでいいのだ。
私はそんなことをいつも思いながら暮らしている。これからも。そして今も。そして過去も。
私は彼をずっと見ていた。
ずっと見つめていた。
ずっとずっと。昔から。
昔といっても6年前ぐらいから。
チャットなんてものはただの十分条件。
自分が渚夕をもっと好きになる要因であり、私が渚夕の大切なものになる為のきっかけに過ぎない。そして何より自分と渚夕の接点を大きくする為に過ぎなかっただけだ。元々というか普通にチャットをしたたけでゾッコンになるパターンもあるにはあるが、私はそんなタイプの人間では無い。
キチンと相手にあって。
キチンと正式に付き合って。
その順序で結婚をしたい派の人間なのだ。
だから今回は嘘ばかりを吐いている人間達と今までの自分のやってきた事の償いを含めて、真実だけを告げる救世主わたしの物語。面白いか、面白くないか、それは勝手に決めていい。ただこれは私が体験した実話であることだけは間違いない。今から何年前だったかは定かではない。
ただ覚えているのは私が猫のぬいぐるみを持って近くの公園に居たということだけだ。
そして私はそのぬいぐるみに向かって声をかけていた。
今回はそんな夕が私にとっての必要条件となる話。

✢✢✢

 その日は快晴と呼べない曇りだった。
空を見上げるが太陽は見えず、雲しか無かった。雲の色も鼠色という微妙な色で今にも雨が振りそうな空だった。
だが私はそんなことを別に気にしてはいなかった。手に持っていた私のお気に入りだった猫のぬいぐるみさえ居てくれれば良かったのだ。

「ねぇねぇー」
 私は公園に置かれていたベンチに座り込み、ぬいぐるみを隣に置いて喋りかけた。

「…………」
 勿論、猫は喋らない。
だってぬいぐるみなのだから。
ただの綿と布の塊なのだから。

「ねぇねぇー!」
 私は更に声を掛ける。
ぬいぐるみが喋らない。
生き物ではない。
それは知っていた。
ただ、あの時の私は壊れていた。

「…………」
 縋るモノに頼って生きる。
それが私の生き方だった。
何かに依存する。それに縋って生きる。
これが私の生き様だった。
それは今も続いている。

「ねぇーったら! ねぇー!」
 私はまた声を掛けていた。
更に大きな声で。更に怒鳴って公園にいる人達に聞こえるように。

「…………」
この辺りから公園にいる同年代の子供達が私の事を言い始めた。ブツブツと何かを呟いているのが聞こえた。だけで何ていってたのかは覚えてないし、分からなかった。耳に入っても右から左へと受け流していた。

「もうぉーぉーー! 知らないんだから!」

「…………」

「フンッ、後からどうなっても知らないからね!」
 私は猫のぬいぐるみに向かって怒鳴っていた。
自分でも何がしたかったのかと聞かれたら分からない。ただ、分かるのは当時の私はコワレモノだったということだ。

「君、何やってるの?」
 喋りかけられた?
いや、こんな私に声を掛けてくる人間はいない。
だから私は無視をした。

「ねぇー、ねぇー」
 私を呼ぶ声が更に聞こえた。
だけど私はまた無視をした。

「その猫、可愛いね?」

「……っっ」
 猫を可愛いと言ってくれた。
壊れものを可愛いと言ってくれた。
それが嬉しかった。無性に嬉しかったのだ。
私が普段から持ち歩いているこの猫のぬいぐるみは実際を言えば、ボロボロで泥や砂で黄土色に汚れている。
だが、彼は……そんな綿と布の塊を可愛いと言ってくれた。

「本当に可愛い?」

「うん、とっても可愛いよ! あ、それに君も可愛い!」
 私を可愛いと言ってくれた。
初めてあったのに可愛いと言ってくれた。
どこが可愛いのだ。
無造作な髪型、薄汚れた洋服、おまけに傷だらけの身体。どこが可愛いのだ。
そんな気持ちを持っていたが、所詮は小学生だ。
私は素直に嬉しかった。
だから気を緩めてしまったのだ。

「そ、そうかな……?」
 無造作な髪型をクルクルと人差し指で巻く。

「うん、そうだよ!」
 彼はニッコと笑ってくれた。
その笑顔は私の目に今でも焼き付いている。
離れる事は無いだろう。
私を初めて可愛いと言ってくれた人。
今の今まで親に"要らない子"と言われたにとっての希望。そんな希望を全て彼に注いでしまった。

「ねぇー、私が辛かったらいつでも私の味方になってくれる?」

「いいよ! 僕が守るよ!」
 自分と同年代の少年。
その少年に気が惹かれた。
今は引かれているけれど。

「ありがとう! ねぇ〜名前はなんていうの?」

「僕の名前……? 僕の名前はなぎさゆうだよ!」

 これが私達の出会いだった。
そして私にとってのターニングポイントだ。

✢✢✢
 こんな物語は所詮偽物なのだろうと嘘だろうと私が勝手に創り出した妄想だろうとどうでもいい。だって、助けてもらえたことに変わりはないのだから。そして夕の代わりは誰もいないのだから。それだけでいいのだ。

「お父様……お母様……私は幸せです。貴方達が居なくなって、ハハハハハハハハハハハハハ」

 罪悪感を揉み消す様に笑い声に近い奇声を押し入れに向かって吐く。



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