チャット始めたら、危ない女が現れた。
38 彼女の提案
今、俺の目の前には中学時代にチャットをしていた張本人である人物がいる。
その相手の名前は七海。本名は田神真弓という。
彼女は俺のクラスの学級委員だ。おまけにとっても可愛い。
だけど、そんな彼女には彼氏がいるという噂がある。
しかし彼女はその彼氏の事を表立って話していなかったので怪しいとは思っていた。
そんなある日俺は気付いてしまったんだ。
彼女の異常さに。不可解な出来事に。
今回はそんな時の話。
俺が今まで隠していた話。
じゃ、始めようと言いたいところだが、彼女が俺にシャーペンを見せびらかしてきた。
何をする気だろう。俺は戸惑う。
「ねぇ、薫君と夕君どっちがいいかしら? 呼び方は」
彼女が俺を見つめる。
「どっちでもいい。勝手にしろ」
俺は呟く。
「あら? なんか、怒ってる? そんな夕君にはお仕置きが必要だね」
どうやら俺の呼び方は夕君になったらしい、どうでもいいけど。
って、彼女は何をやってるんだ?
シャーペンの芯をカチカチならして、意味が分からない。
「ふふふふふふふふふふふふふふふうふふふうふふふふふふふ、お仕置きの時間だよ」
彼女がにっこりと微笑む。勿論彼女の手に持っているシャーペンは芯が5センチ程飛び出している。
俺はその芯を見ながらあることを思い出した。
このシャーペンって確か俺が入学式に捨てたものだよな、とはっきりと分かった。
彼女の姿が見る見る内に近づいていく。俺の身体は彼女に足を刺されて動くことができないが、必死に身体を動かした。でも彼女はさらに俺の方へ近寄ってくる。
そして、彼女の手が動いた。まるで、スローモーションだ。
その手が少しずつ、少しずつ、近づいてくる。避けようと思うが俺の身体は全く反応していない。
あ、やばい……俺に当たる。
そう思った瞬間俺の左手にはシャーペンの芯が突き刺さっていた。
でも、感覚が無い左手には特に痛さは感じることができない。
彼女は俺にシャーペンの芯を刺せたのが嬉しかったのか不気味に笑い始めた。
顔は笑っているのに目は笑っていない。
本当に不気味だ。そして、残酷だ。
俺は彼女の笑みを前にも見たことがある。
そんな感じで改めて話をさせてもらおう。
俺が彼女の異常さに気付いたのは実際を言えば入学式の日に指し当たる。
俺が教室に入ると俺は見慣れた姿を見てしまったからだ。
その彼女こそが、田神真弓。俺は彼女を知っていた。
知っていたというよりも見たことがあった、とでも言った方がいいだろう。
俺は彼女を最近ずっと家の前で見たことがあったからだ。
だから俺はてっきり俺の家の近くに住んでいると思っていた。
というか、誰でもそう思うだろう。
だから、俺は彼女に—―痛い!?
俺の溝に蹴りが炸裂したようだ。かなり、痛い。
俺はアスファルトに蹲る。
体育館倉庫のアスファルトは屋上のものとは違い、冷たさがあった。
「ねぇ、一人で何してるの?」
彼女が俺に鬼の様な形相で尋ねる。
俺はあまりの痛さで返すことができない。
「ふぅーん。残念だけど、今嫌な顔をしたからこれは没収」
真弓がそう言って、俺のスマホを取り上げた。
俺はその光景を腹を抑えながら見る。
「あぁ、良い事考えちゃった♪」
彼女がうきうきしている。
どういうことだろう。
「夕君、私とゲームしない?」
「……げ、ゲーム?」
彼女の突然の発言に驚いた。
「そう、ゲーム。もし貴方が勝ったら貴方を解放してあげる」
「もし、負けたら?」
「私と赤ちゃんを作ってほしい。私は貴方の子供を産みたいの!」
彼女が顔を少し赤くしながら言った。
「それは無理だ。俺は好きな人に最初を捧げると決めているし、お前と子供など作りたくも無い」
「へぇーそうなんだ。そっか、そっか。そういうことなんだー。私と一緒だね。私も好きな人に初めてを上げたいと思ってたんだ」
「…………………………」
こいつ俺の言った事を見事に邪魔な部分を削ってやがる。
「でもさ、夕君。何か、夕君は勘違いしてるよね?」
「か、勘違い?」
「うん、勘違い。一応、今この場を制しているのは私なんだよ」
「それがどうした?」
「そっか、すっとぼけるんだ。なら……仕方ないね」
そう言って彼女が制服を脱ぎ始めた。彼女は何故か今も長袖のブラウスを着用しており、ボタンをゆっくりゆっくりと外していく。
ボタンが外れるにつれ、彼女の胸元や白い肌が見え興奮した。
俺って馬鹿だな。こんな時にでも身体は正直なんだから。
「な、何をやってんだよ?」
「……ん? 服脱いでるだけだよ。今から赤ちゃんを作る為に」
こいつ、さっきの話本当だったのかよ。
俺は今まで冗談半分で聞いていたが彼女が本気だと気付き焦った。
「ちょっと待て! ゲームをする! だから、服を着ろ!」
「それだけじゃ、ダメ」
彼女が甘えた顔で俺の太ももを擦ってくる。
かなりぞくぞくする。身体に電気が走ったみたいだ。
「なら、俺が負けたら高校生の間は恵梨香と付き合わない。これでどうだ?」
俺は言った後に後悔した。高校生になってからまだ一学期も経過していないのに。
でも、俺が勝てばいいだけのはずだ。
俺はこいつに勝つ、必ず。そして、彼女と仲直りする。
これが俺の願いだ。傲慢だと、わがままだと、身勝手だと分かっている。
だけど、俺は強欲だから全てが欲しいんだ。
いつか大人になった時に後悔しないために。
もう、中学の時みたいに失いたくないから。
夢も希望も友達も部活も。そして、青春を。
「あら、そうなの? なら、仕方ないわねとでも言うと思った? 私と付き合うを付け加えなさい」
苦渋の選択だ。俺が負けたら彼女と付き合う。
失敗したら、恵梨香との仲は修復不可能になるだろう。
それは一貫の終わりだ。
「遠慮しとく。ってか、俺はお前が大嫌いだ。だから、無理だ。お断りだ!」
なぜ、俺は別れを、謝りをしに来たのにこんなことになっているのだろう。
「そう……それは残念だわ。だけど、私は確実に貴方の愛を取り戻してみせるわ」
まだ、諦めないってわけかよ。
「それはご苦労なことだ。無理だと思うけどな」
だって、俺が好きなのは恵梨香だけだから。
本当に愛しているのは彼女だけだから。
だから、俺は立ちむかう。彼女との生活を取り戻す為に。
「無理? 私は不可能を可能にする人間よ。私を馬鹿にしないでくれるかしら?」
「不可能を可能ねぇー。なら、質問だ。もし、お前が俺の立場になった場合お前はどうする?」
「うーん。困った質問ね。相手が夕君の場合なら話は簡単よ」
「話してみろよ」
「私は貴方になされるがままってわけよ」
つまり、赤ちゃんを作れってことかよ。
「そうか、なら普通の人なら?」
「それなら……正当防衛と称して殺すわね。確実に、明白に、完璧に」
完全犯罪を考えてやがる。末恐ろしい女だ。やっぱり、危ない。
「そうか。なら、今の状況の俺の立場ならどうするのが正しい?」
「それは……やはり私の愛を素直に受け止める。これが一番安心安全よ。だけど貴方はそれを拒む。それなら答えは一つしかないわね」
「答え?」
「そう、答え。それはゲームをすることよ」
「やっぱりそうだよな……真弓」
「だから!? その名前で言わないでって言ったでしょ!」
彼女の顏が一気に憤った。
なんでこんなにも怒っているのだろう。
俺は不思議でならなかった。
「ごめん」
とりあえず、謝っておく。
「別に謝らくなくてもいいわよ。悪いのは私の未熟さだから。それで、ゲームはやるの? やらないの?」
彼女が俺に歩みよる。
「待て待て! 何のゲームをするかも分からないのにどうやって判断すんだよ」
「それもそうね。ゲームは至って、シンプル。電話で貴方が助けを呼ぶこと、それがゲーム。でも、助けを呼べるのは一回だけ。もしも貴方が呼んだ人が無事に貴方を救出したら、貴方の勝ち。もし、貴方が助けに呼んだ相手が来なかったりするとゲームオーバー。時間制限は今が10時50分だから、11時からスタートね。そして一時間後の12時に鳴る学校のチャイムがタイムリミット。どう、面白そうじゃない? それで、するの? しないの?」
俺は思考の片隅で考えた。彼女の言いぐさからしたらこれは罠ではないだろう。
俺と何か楽しんでそうだ。俺は全く楽しくないけど。それに今は足を刺されて動ける気がしない。
ここはこいつの意見を聞き入れ、助けを呼ぶべきだ。
だけど、チャンスは与えた。しかし、彼女がこのまま俺を引き渡そうとはしないはずだ。
もしかしたら、倉庫のドアを閉め、助けに来てくれた誰かの頭を殴るなんてこともあり得る。
それなら……気軽に助けを呼べるわけがない。
危険すぎる。でも……このままなら自分の身が危ない。
「返事……してよ。返事返事返事返事……。してよ、ねぇーしてよ。私にしてよ」
彼女の声が少しずつ乱れていく。その気迫に圧倒された。
「あぁーやるよ」
「そう、それじゃ。ゲームを楽しみましょ」
彼女が俺に尋ねた。ワクワクしている顔だ。
その表情の意味は『来た奴を殺す』とでも言ってるのだろうか。
それとも純粋に俺とのゲームを楽しんでいるのだろうか。
謎が残る。だけど、どうにかこの状況の打破策を考えなくては。
どうすればいいんだ。考えろ、俺! どうにかしろ。
「少し、時間をくれ。俺に考えさせてくれ」
「勿論、いいわよ」
彼女が俺に不敵な笑みで微笑む。
俺が負けると思っているのだろう。
だけど、俺を舐めんなよ。俺の現文だけはお前に一応勝ってんだぞ。
だから、俺は俺らしいやり方で勝ってみせる。
お前にな、七海。
「あ、そうだわ。良いルール考えた。貴方には私のスマホから掛けてもらうわ」
「お前のスマホから?」
どんな意図があるんだ。全く理解できない。これが凡人と天才の違いかよ。
「そう、私のスマホから」
「へぇーそうか」
俺はぶっきらぼうに答える。
よし……11時になった瞬間。警察に電話かけてやる。
そして、こいつを捕まえてもらう。これが一番の最良なやり方だ。
ふ、この勝負勝ったな。
「貴方、今こう考えてなかった? 警察に電話かけようとか」
ギクッ!? と音がなりそうなぐらい驚いた。
こいつ、いつの間にか俺の心の声が聞こえるようになったのか?
「その驚き方はそうするつもりだったみたいね。でも、それは禁止。やめておいた方がいいわ」
「なんでだ? どうせ、お前が危ない状態になるからだろ?」
「いいえ、違うわ。もしも、警察が来たときは私は貴方から襲われたということにするから」
「それはつまり—―」
「つまり、貴方が捕まるってことよ」
「それは早めのご忠告ありがとうございます」
「そう、私の直感もたまには当たるみたいね」
直感だったのかよ。びっくりしたぜ。
一瞬、テレパシーとか思ったぐらいだからな。
っていうか、俺かなりテンションが高い。
もしかしてアドレナリンが沢山分泌しているからなのだろうか。
それとも、俺はこのゲームを楽しんでいるのだろうか。
「それで、俺が負けたらの説明を頼む」
「貴方が負けたら、雌豚共と付き合えなくなり、私と付き合う。そして、子供を作る。それが条件よ」
やっぱり、そうなったか。
「そうか、わかったよ。元彼女さん」
俺は皮肉に言ってやった。
ちょっとした、反抗。抗いだ。俺は足が動かなくても言えるんだってことの。
「ふふ、面白い事を言うわね。夕君は、でも元彼女から現彼女になるのは時間の問題だと思うけど……」
こいつは俺に勝てる気満々だ。
「残り五分でゲームが開始するけど、どんな気持ち? 夕君」
「俺か? 俺はな、お前に負ける気しかない。残念だけどな」
「そう、それは本当に残念。だけど、私はとっても嬉しいわ。貴方が手に入ると思うとね」
「なぁ、何で俺に拘るんだ? 別に俺じゃなくてもいいだろ?」
俺は本心を聞いた。自分の率直な気持ち。
彼女が俺に依存する理由が分からないのだ。
どう考えても、明らかにないのだ。
「確かに私は誰でもよかった、あの時までは……。
だけど、そんな事を言うなら貴方もじゃないの? 貴方も優しくしてくれる人なら誰でも良かったんじゃない? だから、貴方はあの雌豚と付き合った。そうでしょ? 夕君」
俺は言い返す言葉が無かった。
だって、俺は100パーセント『嘘』とは言えないから。
俺の愛は本物だと言えなかった。
だけど、俺は高校生になってからやっと気づけた。
あの日、分かったんだ。
俺は恵梨香が本当に好きなんだと。
俺が今ここにいるのも実際の事を言えば、お前に謝る為じゃない。
確かに謝りたい気持ちもある。それが6割で、残りの4割は俺と恵梨香の関係を一からやり直す為だ。
その為に俺は来た。
だから、今の俺は違う。
もう、あの頃の様な馬鹿な俺はいない。
ちっぽけな愛に、騙される俺はいない。
だって、俺は偽物じゃなくて、本物を見つけてしまったから。
触れてしまったから。だから、その本物が欲しいから。
だから、今ここに俺は居る。
もう、逃げないと決めたから。
決着をつけようと決めたから。
だから、俺は立ち上がる。
ボロボロになった手を、足を動かし、痛みに耐えながら。
やっぱり……かなりいてぇー。だけどな、こんな痛みに比べればあの時、恵梨香が側に居なかった時の方が胸は痛かった。
彼女は驚いて、目を見開いている。
「確かに前まで俺はそう思っていた。だけどな、今はわかったんだ。
俺を必要としてくれる人が居ることに。それにあの時の俺は馬鹿だったよ。
『助けて』の声を上げない癖に、誰かに助けて貰えるなんてな。
だからな、七海。お前も言えよ。『助けて』って。
俺が必ず救ってやるから。お前が何を抱え込んでいるのか分からないけど、俺がその悩みを半分受け持ってやる! だから、言えよ!」
「ふざけないで! これで私が動揺するとでも思ったの? ふざけないで!
もう、ゲームが始まるわ。ゲームを楽しみましょう」
彼女が俺にそう言って、彼女のスマホを渡す。
それと同時に『キーンコーンカーンコーン』という鐘の音がした。
こうして、俺と七海のゲームが始まる。
その相手の名前は七海。本名は田神真弓という。
彼女は俺のクラスの学級委員だ。おまけにとっても可愛い。
だけど、そんな彼女には彼氏がいるという噂がある。
しかし彼女はその彼氏の事を表立って話していなかったので怪しいとは思っていた。
そんなある日俺は気付いてしまったんだ。
彼女の異常さに。不可解な出来事に。
今回はそんな時の話。
俺が今まで隠していた話。
じゃ、始めようと言いたいところだが、彼女が俺にシャーペンを見せびらかしてきた。
何をする気だろう。俺は戸惑う。
「ねぇ、薫君と夕君どっちがいいかしら? 呼び方は」
彼女が俺を見つめる。
「どっちでもいい。勝手にしろ」
俺は呟く。
「あら? なんか、怒ってる? そんな夕君にはお仕置きが必要だね」
どうやら俺の呼び方は夕君になったらしい、どうでもいいけど。
って、彼女は何をやってるんだ?
シャーペンの芯をカチカチならして、意味が分からない。
「ふふふふふふふふふふふふふふふうふふふうふふふふふふふ、お仕置きの時間だよ」
彼女がにっこりと微笑む。勿論彼女の手に持っているシャーペンは芯が5センチ程飛び出している。
俺はその芯を見ながらあることを思い出した。
このシャーペンって確か俺が入学式に捨てたものだよな、とはっきりと分かった。
彼女の姿が見る見る内に近づいていく。俺の身体は彼女に足を刺されて動くことができないが、必死に身体を動かした。でも彼女はさらに俺の方へ近寄ってくる。
そして、彼女の手が動いた。まるで、スローモーションだ。
その手が少しずつ、少しずつ、近づいてくる。避けようと思うが俺の身体は全く反応していない。
あ、やばい……俺に当たる。
そう思った瞬間俺の左手にはシャーペンの芯が突き刺さっていた。
でも、感覚が無い左手には特に痛さは感じることができない。
彼女は俺にシャーペンの芯を刺せたのが嬉しかったのか不気味に笑い始めた。
顔は笑っているのに目は笑っていない。
本当に不気味だ。そして、残酷だ。
俺は彼女の笑みを前にも見たことがある。
そんな感じで改めて話をさせてもらおう。
俺が彼女の異常さに気付いたのは実際を言えば入学式の日に指し当たる。
俺が教室に入ると俺は見慣れた姿を見てしまったからだ。
その彼女こそが、田神真弓。俺は彼女を知っていた。
知っていたというよりも見たことがあった、とでも言った方がいいだろう。
俺は彼女を最近ずっと家の前で見たことがあったからだ。
だから俺はてっきり俺の家の近くに住んでいると思っていた。
というか、誰でもそう思うだろう。
だから、俺は彼女に—―痛い!?
俺の溝に蹴りが炸裂したようだ。かなり、痛い。
俺はアスファルトに蹲る。
体育館倉庫のアスファルトは屋上のものとは違い、冷たさがあった。
「ねぇ、一人で何してるの?」
彼女が俺に鬼の様な形相で尋ねる。
俺はあまりの痛さで返すことができない。
「ふぅーん。残念だけど、今嫌な顔をしたからこれは没収」
真弓がそう言って、俺のスマホを取り上げた。
俺はその光景を腹を抑えながら見る。
「あぁ、良い事考えちゃった♪」
彼女がうきうきしている。
どういうことだろう。
「夕君、私とゲームしない?」
「……げ、ゲーム?」
彼女の突然の発言に驚いた。
「そう、ゲーム。もし貴方が勝ったら貴方を解放してあげる」
「もし、負けたら?」
「私と赤ちゃんを作ってほしい。私は貴方の子供を産みたいの!」
彼女が顔を少し赤くしながら言った。
「それは無理だ。俺は好きな人に最初を捧げると決めているし、お前と子供など作りたくも無い」
「へぇーそうなんだ。そっか、そっか。そういうことなんだー。私と一緒だね。私も好きな人に初めてを上げたいと思ってたんだ」
「…………………………」
こいつ俺の言った事を見事に邪魔な部分を削ってやがる。
「でもさ、夕君。何か、夕君は勘違いしてるよね?」
「か、勘違い?」
「うん、勘違い。一応、今この場を制しているのは私なんだよ」
「それがどうした?」
「そっか、すっとぼけるんだ。なら……仕方ないね」
そう言って彼女が制服を脱ぎ始めた。彼女は何故か今も長袖のブラウスを着用しており、ボタンをゆっくりゆっくりと外していく。
ボタンが外れるにつれ、彼女の胸元や白い肌が見え興奮した。
俺って馬鹿だな。こんな時にでも身体は正直なんだから。
「な、何をやってんだよ?」
「……ん? 服脱いでるだけだよ。今から赤ちゃんを作る為に」
こいつ、さっきの話本当だったのかよ。
俺は今まで冗談半分で聞いていたが彼女が本気だと気付き焦った。
「ちょっと待て! ゲームをする! だから、服を着ろ!」
「それだけじゃ、ダメ」
彼女が甘えた顔で俺の太ももを擦ってくる。
かなりぞくぞくする。身体に電気が走ったみたいだ。
「なら、俺が負けたら高校生の間は恵梨香と付き合わない。これでどうだ?」
俺は言った後に後悔した。高校生になってからまだ一学期も経過していないのに。
でも、俺が勝てばいいだけのはずだ。
俺はこいつに勝つ、必ず。そして、彼女と仲直りする。
これが俺の願いだ。傲慢だと、わがままだと、身勝手だと分かっている。
だけど、俺は強欲だから全てが欲しいんだ。
いつか大人になった時に後悔しないために。
もう、中学の時みたいに失いたくないから。
夢も希望も友達も部活も。そして、青春を。
「あら、そうなの? なら、仕方ないわねとでも言うと思った? 私と付き合うを付け加えなさい」
苦渋の選択だ。俺が負けたら彼女と付き合う。
失敗したら、恵梨香との仲は修復不可能になるだろう。
それは一貫の終わりだ。
「遠慮しとく。ってか、俺はお前が大嫌いだ。だから、無理だ。お断りだ!」
なぜ、俺は別れを、謝りをしに来たのにこんなことになっているのだろう。
「そう……それは残念だわ。だけど、私は確実に貴方の愛を取り戻してみせるわ」
まだ、諦めないってわけかよ。
「それはご苦労なことだ。無理だと思うけどな」
だって、俺が好きなのは恵梨香だけだから。
本当に愛しているのは彼女だけだから。
だから、俺は立ちむかう。彼女との生活を取り戻す為に。
「無理? 私は不可能を可能にする人間よ。私を馬鹿にしないでくれるかしら?」
「不可能を可能ねぇー。なら、質問だ。もし、お前が俺の立場になった場合お前はどうする?」
「うーん。困った質問ね。相手が夕君の場合なら話は簡単よ」
「話してみろよ」
「私は貴方になされるがままってわけよ」
つまり、赤ちゃんを作れってことかよ。
「そうか、なら普通の人なら?」
「それなら……正当防衛と称して殺すわね。確実に、明白に、完璧に」
完全犯罪を考えてやがる。末恐ろしい女だ。やっぱり、危ない。
「そうか。なら、今の状況の俺の立場ならどうするのが正しい?」
「それは……やはり私の愛を素直に受け止める。これが一番安心安全よ。だけど貴方はそれを拒む。それなら答えは一つしかないわね」
「答え?」
「そう、答え。それはゲームをすることよ」
「やっぱりそうだよな……真弓」
「だから!? その名前で言わないでって言ったでしょ!」
彼女の顏が一気に憤った。
なんでこんなにも怒っているのだろう。
俺は不思議でならなかった。
「ごめん」
とりあえず、謝っておく。
「別に謝らくなくてもいいわよ。悪いのは私の未熟さだから。それで、ゲームはやるの? やらないの?」
彼女が俺に歩みよる。
「待て待て! 何のゲームをするかも分からないのにどうやって判断すんだよ」
「それもそうね。ゲームは至って、シンプル。電話で貴方が助けを呼ぶこと、それがゲーム。でも、助けを呼べるのは一回だけ。もしも貴方が呼んだ人が無事に貴方を救出したら、貴方の勝ち。もし、貴方が助けに呼んだ相手が来なかったりするとゲームオーバー。時間制限は今が10時50分だから、11時からスタートね。そして一時間後の12時に鳴る学校のチャイムがタイムリミット。どう、面白そうじゃない? それで、するの? しないの?」
俺は思考の片隅で考えた。彼女の言いぐさからしたらこれは罠ではないだろう。
俺と何か楽しんでそうだ。俺は全く楽しくないけど。それに今は足を刺されて動ける気がしない。
ここはこいつの意見を聞き入れ、助けを呼ぶべきだ。
だけど、チャンスは与えた。しかし、彼女がこのまま俺を引き渡そうとはしないはずだ。
もしかしたら、倉庫のドアを閉め、助けに来てくれた誰かの頭を殴るなんてこともあり得る。
それなら……気軽に助けを呼べるわけがない。
危険すぎる。でも……このままなら自分の身が危ない。
「返事……してよ。返事返事返事返事……。してよ、ねぇーしてよ。私にしてよ」
彼女の声が少しずつ乱れていく。その気迫に圧倒された。
「あぁーやるよ」
「そう、それじゃ。ゲームを楽しみましょ」
彼女が俺に尋ねた。ワクワクしている顔だ。
その表情の意味は『来た奴を殺す』とでも言ってるのだろうか。
それとも純粋に俺とのゲームを楽しんでいるのだろうか。
謎が残る。だけど、どうにかこの状況の打破策を考えなくては。
どうすればいいんだ。考えろ、俺! どうにかしろ。
「少し、時間をくれ。俺に考えさせてくれ」
「勿論、いいわよ」
彼女が俺に不敵な笑みで微笑む。
俺が負けると思っているのだろう。
だけど、俺を舐めんなよ。俺の現文だけはお前に一応勝ってんだぞ。
だから、俺は俺らしいやり方で勝ってみせる。
お前にな、七海。
「あ、そうだわ。良いルール考えた。貴方には私のスマホから掛けてもらうわ」
「お前のスマホから?」
どんな意図があるんだ。全く理解できない。これが凡人と天才の違いかよ。
「そう、私のスマホから」
「へぇーそうか」
俺はぶっきらぼうに答える。
よし……11時になった瞬間。警察に電話かけてやる。
そして、こいつを捕まえてもらう。これが一番の最良なやり方だ。
ふ、この勝負勝ったな。
「貴方、今こう考えてなかった? 警察に電話かけようとか」
ギクッ!? と音がなりそうなぐらい驚いた。
こいつ、いつの間にか俺の心の声が聞こえるようになったのか?
「その驚き方はそうするつもりだったみたいね。でも、それは禁止。やめておいた方がいいわ」
「なんでだ? どうせ、お前が危ない状態になるからだろ?」
「いいえ、違うわ。もしも、警察が来たときは私は貴方から襲われたということにするから」
「それはつまり—―」
「つまり、貴方が捕まるってことよ」
「それは早めのご忠告ありがとうございます」
「そう、私の直感もたまには当たるみたいね」
直感だったのかよ。びっくりしたぜ。
一瞬、テレパシーとか思ったぐらいだからな。
っていうか、俺かなりテンションが高い。
もしかしてアドレナリンが沢山分泌しているからなのだろうか。
それとも、俺はこのゲームを楽しんでいるのだろうか。
「それで、俺が負けたらの説明を頼む」
「貴方が負けたら、雌豚共と付き合えなくなり、私と付き合う。そして、子供を作る。それが条件よ」
やっぱり、そうなったか。
「そうか、わかったよ。元彼女さん」
俺は皮肉に言ってやった。
ちょっとした、反抗。抗いだ。俺は足が動かなくても言えるんだってことの。
「ふふ、面白い事を言うわね。夕君は、でも元彼女から現彼女になるのは時間の問題だと思うけど……」
こいつは俺に勝てる気満々だ。
「残り五分でゲームが開始するけど、どんな気持ち? 夕君」
「俺か? 俺はな、お前に負ける気しかない。残念だけどな」
「そう、それは本当に残念。だけど、私はとっても嬉しいわ。貴方が手に入ると思うとね」
「なぁ、何で俺に拘るんだ? 別に俺じゃなくてもいいだろ?」
俺は本心を聞いた。自分の率直な気持ち。
彼女が俺に依存する理由が分からないのだ。
どう考えても、明らかにないのだ。
「確かに私は誰でもよかった、あの時までは……。
だけど、そんな事を言うなら貴方もじゃないの? 貴方も優しくしてくれる人なら誰でも良かったんじゃない? だから、貴方はあの雌豚と付き合った。そうでしょ? 夕君」
俺は言い返す言葉が無かった。
だって、俺は100パーセント『嘘』とは言えないから。
俺の愛は本物だと言えなかった。
だけど、俺は高校生になってからやっと気づけた。
あの日、分かったんだ。
俺は恵梨香が本当に好きなんだと。
俺が今ここにいるのも実際の事を言えば、お前に謝る為じゃない。
確かに謝りたい気持ちもある。それが6割で、残りの4割は俺と恵梨香の関係を一からやり直す為だ。
その為に俺は来た。
だから、今の俺は違う。
もう、あの頃の様な馬鹿な俺はいない。
ちっぽけな愛に、騙される俺はいない。
だって、俺は偽物じゃなくて、本物を見つけてしまったから。
触れてしまったから。だから、その本物が欲しいから。
だから、今ここに俺は居る。
もう、逃げないと決めたから。
決着をつけようと決めたから。
だから、俺は立ち上がる。
ボロボロになった手を、足を動かし、痛みに耐えながら。
やっぱり……かなりいてぇー。だけどな、こんな痛みに比べればあの時、恵梨香が側に居なかった時の方が胸は痛かった。
彼女は驚いて、目を見開いている。
「確かに前まで俺はそう思っていた。だけどな、今はわかったんだ。
俺を必要としてくれる人が居ることに。それにあの時の俺は馬鹿だったよ。
『助けて』の声を上げない癖に、誰かに助けて貰えるなんてな。
だからな、七海。お前も言えよ。『助けて』って。
俺が必ず救ってやるから。お前が何を抱え込んでいるのか分からないけど、俺がその悩みを半分受け持ってやる! だから、言えよ!」
「ふざけないで! これで私が動揺するとでも思ったの? ふざけないで!
もう、ゲームが始まるわ。ゲームを楽しみましょう」
彼女が俺にそう言って、彼女のスマホを渡す。
それと同時に『キーンコーンカーンコーン』という鐘の音がした。
こうして、俺と七海のゲームが始まる。
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