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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

37 プライドを捨てて

「そう言って、彼女は楽しそうに話していたわ。私も貴方の事が好きで堪らないっていうのにね。本当に傲慢よね」

彼女は物語に皮肉な感想を述べ、この物語にピリオドを打った。

「確かに傲慢な話だ。だけど……これで記憶の欠片ピースが全て埋まった気がする。ありがとな、七海」
今までの岬の行動の意味が分かった。
俺の為に。いや、俺と恵梨香という二人の幼馴染の為に精一杯頑張ってくれていたのかよ。

「ふんっ……そう言っても私は貴方のことを許す気は全く無いから」

「それは良かった。俺もこれぐらいで許して貰おうと思っているわけじゃねぇーからな」

「あらあら、それは奇遇ね。じゃあ、私の言うことを一つだけ何でも聞いてくれると言ったわよね?」

「も、もちろん言った。男に二言はない!」

唾を飲み込む。

こいつが何を言い出すか分からないから。

こんな危ない人間が願う事。

それは……

「私とまた、付き合ってほしいの」

やっぱりそう来たか。

来るとは思っていたが、予想通りとはさすが七海だ。

「と、でも言うと思ったの?」

俺が間抜けに驚いた顔があまりにも面白かったのか、彼女は笑った。

それも深く深く、無慈悲に。

「じゃあ……何だよ」

「それはね、私がやってきたことを全て帳消しにしてほしいの」

「帳消しにしてほしい……? それはどういうことだ」

「その言葉通りの意味よ。別に深い意味は無いわ。私は今の生活に結構納得してるのよ。学級委員としての私にね」

「そ、それで……帳消しにすればいいんだな?」

彼女は頭を小さく頭を動かし、頷いた。

「まぁ、私がやってきたことははっきり言って犯罪行為に等しい。貴方がそれを言ってしまったら、私捕まっちゃうじゃない。だからこそのお願いよ」

確かにそうだ。

こいつは不審者という立場でもある。

だけど……いいのか。

許してもいいのか。

約束はした。願いを叶えると言った。

さらに男に二言は無いとまで言った。

それなら俺はこう言うしかないじゃないか。

「あぁ、わかったよ」と。

すると彼女は今まで堪えていた笑いを止める事ができなかったらしく、甲高い声で笑い始めた。その笑い声は今までの自分への罪悪感を全て洗い流した事ができたらしく、とてもとても嬉しそうだ。

そして、彼女は「ごめんなさい」と俺に一言言った後、言葉をさらに続けた。

「貴方、面白い賭けをしてるらしいじゃない」

「面白い賭け?」

面白い賭けというものがミスコンの優勝者と付き合うという事なのは分かっていたが、俺はしらばっくれることにした。
しかし、彼女はそれを全てお見通しと言わんばかりに言葉を紡ぐ。

「私、知ってるのよ。私の情報量を馬鹿にしないで欲しいわ」

彼女はぷいっとそっぽを向いた。

「ごめんごめん……俺が悪かった」

そっぽを向いた身体を俺の方へ戻し、彼女がもう一度言った。

「ミスコンで優勝した人と付き合ってくれるんでしょ?」

彼女の眼差しは真剣だ。こんな真剣な眼差しを見たことはない。

「まぁ、そういうことになっている」
ぶっきらぼうにそう答えた。

「そう、それなら話は早いわ。私もそんな強情な女じゃないの。ミスコンで負けたら、貴方の女の子達には手を出すのはやめるわ」

どうやら、雌豚から女の子達と見方が変わったらしい。これなら仲良くやれそうだ。

「本当だな?」

「もちろんよ。薫君に誓うわ」

俺に誓うとは俺は神認定されてるのだろうか。

「まぁ、わかったよ」

彼女はうれしそうぴょんぴょんと跳ねた。

こうやって見ると可愛い女子高生にしか見えないのに内面は本当に病んでいる女の子なんだよな。世の中って不思議だな。

「そ、それより貴方から私に言いたい事があったんでじゃないの?」

その言葉を俺は待っていた。

タイミングを待っていた。

やっと……この言葉が言える。

俺の今までの罪悪感を全て一瞬にして無くす事ができる必殺技。そんな卑怯な技。
だけど……男としてプライドを失ってしまう技だ。

俺は膝を左から床につけ、上半身を前にする。
そして、手を床につけ、自分の気持ちを伝える。自分が今まで気づけなかった罪を償う為に。

「すいませんでした」と。

土下座をして謝った。その土下座は今までに無いほど綺麗で美しかった。

そして彼女が俺の目の前に立ち、こう告げる。

「絶対に許さないって言ったよね?」と。
次の瞬間、俺の手に激痛が走った。

その激痛が彼女から脚で踏まれていると気づくのは俺が顔を上げてからだった。

「いっ……いたい……」

指が痛い。彼女に踏まれ、指からは血が出てきて、動かす事ができない。骨が折れているかもしれない。しかし最愛なことに踏まれているのは右手ではなく、左手だった。

これが彼女なりの優しさだったのかは分からない。

「いたい? 私の辛さはもっと痛かったよ。渚夕君!」

そして、彼女はもう一度脚を上げ、左手を踏んづけた。

 俺はその後、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も左手を、左指を踏み潰された。痛みという感覚は徐々に失い、七海という存在が恐怖という対象に変わるのはそんなに遅くは無かった。さらに彼女は俺が逃げられないように脚を小型のナイフで刺した。脚はそのせいで全く動かない。だから……今の俺は逃げることも立ち上がる事ができないのだ。籠の中の小鳥という言葉がこんなにも残酷であるという事が身に沁みて分かる。

脚から流れる血が赤色から黒色に変わり、太陽の光がカーテンの隙間から入ってきた時、彼女が微笑みながら俺に近づいてきた。

「うぅ……うわぁぁぁ……やめろ。やめてくれ……もう、やめてくれ……十分だろ? 俺はお前にいっ………ぎゃゃゃゃゃゃゅゃやゃゃやめぇぇぇぇ」
彼女に左手を踏まれた。
しかし、彼女の脚は止まらず、もう一度上に上げる。

「やめろ! やめろ! やめてくれ……もう、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇげげげげげかげげげげげけげげげげげげ」

彼女が俺の左指を踏み潰した。しかし、俺には反抗する事はできない。いつの間にか、彼女の手には太陽から照らされた光によってきらりと鋭い包丁の様な物が見え隠れしている。
俺が彼女に反抗をすると彼女の怒りに触れ、グサリと一刺し。いや、何度も何度も刺されるのだろう。俺が言うことを聞くまで……何度でも。

「ねぇ、聞いてる? 薫君? そんなに嬉しそうな声を上げてどうしたの? もっと、踏み潰されたいの? それならそうと早く言ってくれたら、良かったのに……ね!」

また、俺の左手に衝撃が走る。
指が確実に変な方向に曲がっている。
これは本気でやばい。痛みと言うものが完璧に無くなった。多分、感覚が鈍ってきたのだろう。それか、神経が取れたのだろう。

「あれ? 嬉しくないの? 声が上がらなかったけど……もう一回してほしいのかな? あ、いい事考えた! これを使って刺しちゃおう!」

彼女はそう言って、見え隠れしていた包丁を取り出し俺に見せつけた。包丁は魚などを捌く時に使われる物で鋭くなっている。身を削ぎ落とす作業に使われているその包丁がどれほど鋭いかは俺でも分かる。しかし、それと同時に少し安心もしていた。女性の力では包丁を心臓に突き刺すのはかなりの力がいると聞いたことがあったからだ。こんな話を信じるのはどうかと思うが、もう信じるしか無い。

 彼女が少しずつ近づき、倒れている俺の目の前に立つと彼女は言った。

「もう……逃さないからね」

彼女のその言葉を理解できないまま、俺は恐怖のあまりに身体を揺らす。少しでも彼女から逃げたいという想いが俺を動かす。

「あ、忘れたわ。スマホ、出して!」

彼女が俺にスマホを要求する。俺が助けを呼ぶ最終手段だ。これを失ったら……本気で死ぬかもしれない。

「ほら!? 早く!?」

彼女の声が大きく荒げ、表情は憤っている。
ここは彼女の意見を聞いていた方がいいだろうと思った俺は、ポケットからスマホを取り出し彼女に渡した。

すると、彼女は勢い良くスマホを触り、意図も簡単に俺のロック画面を解除し、何かし始めた。画面を見つめ、ブツブツと何かを呟く彼女の姿は不気味だ。

そして、数分後彼女はニコニコと俺を見ながら言った。

「これで安心だね。邪魔な雌豚共は消えたよ!」

彼女は俺にスマホを返してくれた。
俺はスマホを受け取り、LINEの連絡先、twitterを確認する。すると、女性が全員居なくなっていた。

そして……新しい人が連絡先に追加されていた。

『田神真弓』と。

「気に入って貰えたかしら? だけど、貴方が悪いのよ。貴方が私の事を忘れるから……だから、私以外の女の連絡先を消したわけ。これでもう二度と忘れる事は無いでしょ?」

狂ってやがる。こいつ……完璧に狂っている。
こんな危険な人間が一緒のクラスで一緒の教室でずっとずっと当たり前の様に椅子に座り、机にノートを置いて、授業を受けていた。
そう考えると身体が震える。
あまりの恐怖で、あまりの怒りで。
そして、あまりの辛さで。

「あぁ、もちろんだ。もう、二度と忘れないと思うぜ。お前の事だけは……一生な」

俺は皮肉たっぷりにそう言ったが、そんな事をお構い無しに彼女は言う。

「それは嬉しいわ。私も薫君の事は二度とあの時から忘れた事は無いよ! これで両想いだね!」

俺はこの時、本気で彼女を心の底から気持ち悪いと思った。

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