話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

35 動機

 俺が辿り着いた場所──そこにはずっと、俺が謝らなければならなかった人、償わなければならなかった人が居た。
薄暗い体育館倉庫の中に体操座りをして座っていた。そして、俺が入ってくると同時に身体を起き上がらせ、彼女は俺に微笑む。
その微笑みはとても不気味だ。
怒りが身体中を染み渡る。こんなにも怒りが出てくる事があっただろうか。

「真弓……なぜ、お前はあんな事をしたんだよ……」

「真弓と言わないでぇ! その名前で呼ばないで! 私は七海……私は七海だから……」

彼女が声を荒げ、頭を抱える。
そんなにも真弓と呼ばれるのは嫌なのだろうか。あの時は真弓と呼んでほしいと言っていたのに。

「わ、わかったよ……ごめん。七海」

彼女は頭を上げ、俺に問いかける。

「それでどうやって私が七海であるという事を気づいたのかな?」

彼女は悔しそうというよりも嬉しそうだ。
何か、裏があるのだろうか……。
ここで朱里からお前が犯人であることを聞かれたら朱里の身が危ないと判断し、最適な答えを考える。

「まず、お前が七海であるという事を示すのはその中間服である長袖のブラウスというところかな。それで傷を隠してたんだろ?」

俺がそう言うと、彼女はブラウスの裾を曲げ、傷が見える様にした。
近くでは無いので、はっきりとは見えないが至る箇所に赤い傷が痛々しく残っている。
これが動画の時にできたリスカなのだろう。

「そう。気づいていたのね。私があの時説明したけど、全く信じて無かったということね」 

「まぁ、そうだな。そして何よりも疑問に思ったことは彼氏の話を聞いた時のお前の反応だ。何か挙動不審だった。何かを隠すように……」

「フッフッフっ……まぁ、大体正解。元々、私には彼氏は貴方しかいないもの。
じゃあ、twitterの方はわかったのかしら?」俺を挑発するかのように彼女は投げかける。

「あぁわかってるよ。お前は岬が邪魔な存在だったんだろ?」

「そうよ。あの雌豚が邪魔だった。ならば、岬はどうなるのかしら?」

「あぁ、岬のことか。それはお前が元々、俺と恵梨香が付き合っているという事を知らなかったんだろ? だから、お前は俺と一緒に行動をしていた岬の事が妬ましかった。その時、お前が出会ったのが葵と言ったところかな?」

彼女はさらに不気味に笑い声を上げる。何かおかしい所があるのか。それとも図星で笑う事しかできないのだろうか。

「まぁ、大体正解。だけど貴方は一つ大きな間違いをしている。私は貴方があの雌豚と付き合っている事を知っていた」

「なぁ、なんで……知ってたんだ?」

俺と恵梨香が付き合っている事を公表したのはtwitter事件が終わってからなんだけど。疑問がさらに増える。それならなぜ恵梨香の偽アカを作らなかったという点だ。

「私、貴方のストーキングしてるもの」

えっ……ちょっとあまりの宣言に困る。

「もしかしてあの日、俺と会ったのは?」

「あれは別件よ。雌豚の駆除をしようと思ってたら、家に居なかったらできなかったという訳。本当に残念だったわ」
こ、こいつ……危ない。
彼女が悔しそうに拳を握りしめる。

こいつと馴れ合いをできると思った俺は馬鹿だった。絶対に無理だ。
もう、和解できる様な状態じゃない。

「そうか……知ってたのなら、なぜお前は恵梨香の偽アカを作らなかったんだ? 恵梨香の方がお前自身としてはイライラすると思うんだが……」

「確かに私はそうしたかった。だけど、させてくれなかったのよ。あいつが……それと貴方が知らないだけでそっちの方が面白い事になるからね」

彼女は不敵に笑みを零す。

何かあるのか。
岬が俺に好意を持っているからなのか。

それとも何か他に意図があるのか。

「教えてくれと言っても教えてくれないんだろ。だから敢えて聞かないけど……」

「教えてあげるわよ。っていうか私の心は貴方にぞっこんだからね」
彼女が言葉を続ける。
「でも、私貴方のことを許したってわけじゃないから」
冷酷に残酷に低い声で彼女ははっきりと言った。

「見捨てたってのは人聞きが悪いけど……そうなるよな。まぁ、教えてくれよ。なぜ、岬だったんだよ」

「いいわよ。それはね、あの雌豚が貴方の幼馴染だからよ」

「幼馴染? 俺には恵梨香しかいねぇーよ。お前何か勘違いしてるんじゃないか?」

「本当に残念ね。貴方だけが忘れているようだもの。本当に惨めで残酷で、そして面白いわ」

俺だけが忘れている。岬を。

俺と出会ったのは高校生になってからだ。

その前に会っていた?
でも、朱里も同じようなことを言っていたよな。
岬が可愛そうとかなんとか。

「そんな事ある訳ないだろ!」
これが全てこいつの罠という可能性もある。だから信じたらダメなはずだと分かっている。

「それならあの二人が二人共twitter事件の犯人と名乗ったのはなぜだと思う? それは二人がお互いを幼馴染だと分かっていたから。友情関係があったからじゃない?」

繋がる。話が。本当にそうなのか。
嘘だと思いながらも信じる事ができる。
だってそうしないと仲が悪い二人が犯人と名乗る意味が無いのだから。
それに朱里が言っていた。
あの二人は仲良くしてたとか。

「声も何も出せないのね。まぁ、そうよね。やっと、話が繋がったと言ったかしら?」

「あぁ、その通りだ。だけど、なぜそんな結論を導いたんだ?」

「聞いたのよ。岬に」

頬を赤くして、彼女は恥ずかしそうに言った。

「教えてくれ……」

「もちろん、いいわよ。だけど、一つだけ約束! これを話したら、私の言うことを一つだけ聞きなさい」

「あぁ、もちろんだ。俺もお前に言わなければならない事がある」

彼女の頬がぽっと真っ赤になったが、これはそんな話ではない。この世界があまりにも残酷であるという事を証明するだけだ。

そうして、彼女は語り始める。

「チャット始めたら、危ない女が現れた。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く