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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

32 約束

 こんなにも『怒り』というものを感じた事は無かった。元々、怒りという感情になったとしてもすぐに俺は怒りが収まるタイプの人間だが、今回は違う。今回の怒りというものは次第に殺意に変わって行く程に素直で、残酷だ。

「なぁ、恵梨香……俺、我慢できないわ」
そう言って、俺は地面に倒れ込んでいる女子生徒の元に駆け寄る。女子生徒は俺が来たという事に少し怯えている。それだけ今の俺の顔は怖い顔なのだろうか。それとも七海という存在の狂った愛情表現なのだろうか。

それは分からない。だが、この目の前にいる女子生徒を殺したいという気持ちは率直な意見だ。

「お前に一つだけ、聞きたいことがある」

すると、彼女は顔を上に向ける。彼女が顔を上に上げるという事は今まで待ち望んでいた彼女を見れるという事だったが、別に嬉しくなんて無い。もちろん、彼女の顔を見ても彼女の事なんて知らなかった。そりゃーそうだ。だって、チャットだけの関係だったのだから。知らないのが、当たり前なのだ。

「なぁ……なんですか?」
彼女は挙動不審になりながら、俺に返答を要求した。喋りかけたのは俺なんだけど。

「お前は……七海……なのか?」
重々しくその言葉を彼女に言う。

『七海』という存在は俺を変えてくれた人であり、俺を苦しめた人間だ。逆も然り。

「あのぉ〜渚君」

後ろから声を掛けられた。沙夢さんだった。

「なんですか? 今、大事な所なんです!」と言おうとした時、沙夢さんが言った。

「彼女は第一発見者だよ。藁人形のね」

一杯食わされた。ってか完璧に負けた。
完全的に負けた。あぁ、恥ずかしい。

何を俺はやっていたのだろうか?
自分に自問自答をするが返ってこない。その代わりに俺に変な視線が返ってくる。現実的に。

 恥ずかしさを押さえ込み、とりあえず倒れ込んでいた女子生徒に謝罪した。その女子生徒は優しい人だったみたいですぐに許してくれた。
本当に女神みたいな人だった。まぁ、女神なんて見たことが無いけど。

 勘違いってのは誰でもする。っていうかしない人間なんていない。そうだ、居ないのだ。
そう、自分に言い聞かせ俺は倒れ込んでいる女子生徒に質問をする。

「あのさ、これ見た時に怪しい人とか見てないか?」

この人が上級生なのかそれとも自分と同学年なのかは分からないが、ここは一応タメ口を使っておいた。

「いや、特に見ていません」

純情そうな彼女の表情はあまりにも俺が怖かったみたいで目を真っ赤にしている。

横の方をちらりと確認すると、岬は目を細め俺を睨んでいる。沙夢さんは苦笑いをしながら、「私は、もう行くよ」と言ってどこかに行ってしまった。生徒会長なので引っ張りだこなのだろう。

「そっか……さっきは本当にごめん。ちょっと苛立っててな」

笑って誤魔化したが、相手の表情はさっきとあまり変わらない。

「私からも1つ聞きたいことがあるんですけど……いいですか?」

彼女からの意外な展開に少し驚く。

俺に聞きたいことか。

何なのだろう。

「まぁ、いいけど。俺に答えれる範囲でお願いな」

「あ、はい! もちろんそれでいいですよ。ふふっ」

彼女が笑ってくれた。

あぁ、良かったと安堵。

「それで? 何?」

「えっと……朱里から聞いたんですけど、お二人って付き合うんですよね?」

あ、やばい。

空気ががらっと変わったぞ。

もちろん、危ない方向にね。

「えっとと……それは……」

朱里を知ってるって事はこの女の子は朱里のクラスメイトか友達と言った所か。それにしても苦しい質問をされたもんだ。

「あ、顔が赤くなってる! やっぱり、好きなんだぁ〜。朱里に言おうっと。へへっ」

俺を小馬鹿にするように薄く笑みを零す。

「あら、渚君。いつの間にか、浮気してたみたいで。フフッ……私との約束覚えてるんでしょうね?」
「夕君……私の事だけが好きじゃなかったの?」

岬と恵梨香も話に加わり、ややこしい事になる。どうにか、この修羅場を乗り越えないと危険だ。

「あぁ、その話はまた別の機会ってことで……ハハッは…」

「ダメ! ちゃんと答えなさい!」

「ちゃんと、答えてよ……夕君……」

岬……恵梨香……

二人の美少女に頼まれたらしょうがない。

ちゃんと伝えておくか。

「実は……朱里がミスコンで優勝したら朱里と付き合うという賭けを持ちかけられてな……まぁ、一応断ったんだが……」

俺がそう告げると恵梨香と岬は身体をぷるぷると震わせた。

そしてこう俺に告げる。

「その賭け、私も乗った! 私もする!」

「ええっ……ちょっと待てよ! 俺の意見を聞けよ!」

「えっ? なら、私じゃ不服?」

不服か不服じゃないかと言われたら、不服じゃない。だって、美少女でナイスボディで性格はちょっときついけど面白い奴だし……正直な事を言うと彼女にしたい。

めっちゃ、彼女にしたい!

「まぁ……いいけど……」

「やったぁぁぁ!! これで渚君は私のものね」

何か、嬉しがった後にボソボソと言っていたが聞こえなかった。だが、多分聞きたくないような事だと思うので聞かなくてよかった。

「えっ!? ちょっと待ってよ! 夕君……私もそれする! 絶対に参加する! ねぇ、お願い!」

恵梨香が駄々を捏ね、俺の身体に縋りよる。
別れた後から俺と恵梨香の関係は変な空気が漂っていたのでかなり新鮮な気がする。それにこのミスコンで恵梨香が優勝する事ができれば、恵梨香も俺も断る事はできない。それなら俺と恵梨香の複雑な関係も完璧に無くす事ができるはずだ。それでゼロからやり直す事ができるはずだ。

だって……ミスコンには帝星高校に代々伝わるある風習があるのだから。

『ミスコン優勝者の願いを一つだけ叶える』という風習が。

「あぁ、いいぞ。恵梨香……」

そして恵梨香の耳元で、さらに言葉を紡ぐ。

「だけど、絶対にお前が勝てよ」

俺は恵梨香に聞こえるぐらいの声でそっと言った。

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