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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

31 文化祭

 7月の上旬の土曜日。夏に近づいてきたというか、もはや夏という感じの暑さが襲う。

 そんな中、沙夢さんの文化祭開催宣言により帝星文化祭が始まった。生徒の顔はやる気に満ち溢れ、準備中にはグチグチと文句を言った人達も活気に満ち溢れている。この高校の文化祭には昔に一度だけ、行った事があるのだが元気があってとても楽しかった記憶がある。今は自分が楽しませる側の人間になったと考えたら不思議な気がする。まぁ、そういう訳で自分の後輩になる人達に向けて自分も一生懸命働かないといけない。一生懸命と言ってもできるだけ体力を使わずにのんびりとしておきたかったが、それはできないらしい。なぜなら、今年は無理矢理文化祭実行委員にさせられたからだ。それも帰宅部だからという少しの差別を受けながら。屁理屈を一つ言わせてもらうとするならば、帰宅部だって立派な部活動だ!


 そんなことよりも非常に困ったことになった。困ったってのは、精神的にも肉体的にもである。今、俺の右側には幼馴染の絵里香が、左側には学園のアイドルである岬がいる。なぜこんな状態になってしまったかと簡単に説明するならば、文化祭実行委員のグループになったからだ。元々、文化祭実行委員は三人一組で組まないといけないらしく、余ったメンバーで組んだらこんな具合になったという訳だ。そして、俺達は文化祭を盛り上げる事と困った人を助けるという名目をこなす為にパトロールをしていた。

「あぁ……夕君と二人だと思ってたのに……」

ポロッと本音を吐き出す恵梨香。その言葉は岬を奮い立たせた。

「ふぅーん、私も一人邪魔が居るのよね。本当に困るわ」

くそっ……なぜそんな事を岬まで言うんだよ。止めることができないぞ。割とまじで。

「確かにそこにいるわよね。自分が邪魔者だと気づいていない人がね」と言いながら岬を指差す。
恵梨香さんが戦闘モードに入りました。これは波乱の予感。

「くっ……まぁ、いいわ。ほら、行くわよ! 渚君」

俺の腕を掴みグイグイと引っ張る。

「あぁーもぅぉ……夕君! 私も!」

恵梨香までもが俺の腕を掴み始めた。

「おいおい……周りから変な目で見られるから、止めろよ!」

俺が抗議をしたが、そんな事はどうでもいい事らしく軽くスルーされた。

ったく……困るぜ。

「お前等、仲良くしろよ」と俺が言おうとした時だった。


「きゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」体育館裏から叫び声が聞こえた。声からして女性だと思われる。しかし、この声は何なのか?

辺りにいた生徒達もさっきの声に驚き、ざわつき始める。もちろん、岬や恵梨香も腰を抜かして驚いている。あんな断末魔に似た声は聞いたことがなかったのだろう。

「夕君……何かあったのかな?」

俺の腕を握る手の力が強まった。少し痛い。

「渚君……行きましょう。もしかしたら……」

深刻そうな顔をして、岬が俺の腕を引いた。
岬には特に七海の事は伝えてないので、知らないはずだが表情を察するに何かを知っているという様な顔だ。下手したら、健一が口を滑らせて言ったのかもしれない。まぁ、別に困ることは無いけど。

「そうだな。何があったか気になるし」
俺達は声がした場所に向かう。
体育館裏はヤンキーグループの溜まり場というイメージか中学の頃はあったが、この高校ではそんな事は無い。っていうか、この学校は一応進学校という事もあり、ヤンキーみたいな人は特に居ない。

一部例外もいるが……

もしかしたら……七海が暴れ始めた?

そんな疑問が浮かび上がる。
いつも、俺は疑問が浮かび上がるとすぐに脳が物語を勝手に創りだし、最悪な事態を考えてしまう。まぁ、そんな時に限っていつも何も起きないんだけど。
でも、だからこそ、今回は怖かった。

だって今回は妄想モードに入ることが無く、ただ叫び声が聞こえたという事が、何か恐ろしい事が起きたと自分が理解し納得してしまっているから。いつもなら納得をせずに妄想するのだが今回は確実に、明確にあったと思ってしまった。もしかしたらさっきの声はお化け屋敷から聞こえてきた叫び声だったかもしれないという解答を出してみたが、それは間違いという事が分かる。だってあの声は驚いたというよりも何かに怯えている声だったから。お化け屋敷ならお化けが出るという事がわかっているからそんな事は断じてない。

それなのにあの声を聞いた瞬間に感じたのだ。

これは危ない感じの叫び声だと。

 体育館裏に着くとそこには一人の女子生徒が地面に倒れこみ、その周りに会長である沙夢さんを初めとした野次馬達がいた。

「あ、あれ……」

岬が体育館裏に植えられている大きな木を指差し、手で口を押さえ込みながら言った。

言われるがままにそちらを見てみると大きな木に何か人の形をしたものが釘を打たれ、木に突き刺さっていた。

沙夢さんが俺等に気づき、近づいてきた。

「恵梨香ちゃん……だったかな? あの……いいかな?」

何かきまずそうな顔をして問いかける。それよりも絵里香に何か用でもあるのだろうか? だってこの二人って全くと言っていい程関わりは無いはずだ。もしも関わりが深かったら、この世界は意外と狭いんだなという結論を出すんだけど。

「あ、はい……そうですけど、何かあったんですか?」

恵梨香がそう言うと、渋り困った顔をしたが、何かを決心したかのように言った。

「実は……藁人形があの木に突き刺さっていてな」と沙夢さんが言うと、恵梨香の顔から一気に笑みが消えた。

藁人形?

聞いたことがあるが、実際に見たことなど無い。でも藁人形って誰かを呪ったりする時に使うんだよね。子供の頃にホラー映画とかでよく見た気がする。それも邦画の。

「それはちょっと……気になるわね」
岬が声を出した。まぁ、別に岬が声を出してはいけないという決まりも無いからいいんだけどね。

「そうなんだぁ……引っかかることが……って、君じゃない!」

「ああ、ごめんなさい。でも気になってて」
下を俯きつつ、沙夢さんに謝った。

「まぁ、いいよ。それで恵梨香ちゃん何か思い当たる節とかある?」

「特に何も無いです……」

話を勝手に進められても、意味が分からないのでここで終止符でも打っておくか。どちらかと言ったら、ブレーキをかけとくと言った方がいいかもしれないけど。

「あの……全く意味が分からないんですけど」

その言葉で空気が凍った。なぜ、凍ったのか俺は全く分からないけど。周りの反応がかなり酷い。

「えっ? あぁ……察してくれなかったか」
「本当に困るわね。貴方……」
沙夢さんが頭を抱え、岬は呆れた顔でこちらを見ている。

恵梨香に至っては何かを俺に訴えようとしているが、俺には全く分からない。

「藁人形って事でわかってくれたと思ったんだがなぁ……」

藁人形……藁でできている人形。
これを使用する時は何かに対する恨みを晴らす為だ。
『晴らす為には何をするか?』『いや、何をかけるか?』というとそれは『呪い』だ。
呪いの掛け方は諸説がたくさんあるけども、相手の写真を藁人形と共に打ち付けると言うものがある。

そして沙夢さんが恵梨香に話があると言った。

そのことから導き出させる答え。

それは唯一つ、呪いの対象者は『恵梨香』だという事だ。

つまり、地面に伏している女の子こそがこの事件の犯人でもあり、一連の出来事の元凶でもあるということを指す。

そして……俺のチャット相手の七海であるという事も。 

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