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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

30 今の自分がやらなければならないこと

物語にはいつか終わりが来るというのは誰にとっても分かるけど、俺は物語が終わるという事が嫌だ。物語が終わるっていう事は、その物語に出てきた登場人物に二度と出会えなくなってしまうからだ。あのかっこよかった主人公が、可愛かったヒロイン達が、いなくなってしまう。と、思うと悲しい気持ちになる。まぁ、そんな所で俺の理論は終わりにして、本題に入るとしよう。入ると言っても、もう自分の中では始まっているんだけどね。

今、俺は膝を床に落とした状態で走馬灯みたいなものを見ていた。近くにはipod touchが転がっている。高校に入ってから今日までの記憶を第三者が見ている様な形でずっと見ていた。一つだけ、言わせて貰うとするならば、自分が少し美化し過ぎている様に感じられたのがそれはしょうがない。俺の創った幻想に過ぎないのだから。はっきり言えば、今までの物語は俺が創り出した幻想。はたまた、妄想。リアルに現実逃避してしまった俺の逃避録とでも言っておくべきか。まぁ、そんな具合なものだ。

だが……一つだけ言っておかなければならないのは『今までの出来事は俺が見ていた幻想であり、現実である』という事だ。

まぁ、俺がそんな幻想を見てしまったのは訳がある。今はそれを話す事から始めよう。

 文化祭の準備がどうにかこうにか終わり、疲れて家に帰ってきた俺はまずあることをすることにした。そのあることというのが、俺の時間が止まってしまっていた事に繋がるんだが。
そのあることってのは、七海に連絡を取ることだ。以前から、七海には連絡を取ろうと思っていたのだが取れていなかった。忙しかったというような嘘は吐かない。ただ、めんどうだった。それと今更謝られても困ると思ったからだ。だから、俺は連絡を取っていなかった。もし、過去に戻ってやり直せるのなら俺は七海の誘いを断っていただろう。だが、過去をやり直すなんて事はこの現実世界には無理なので諦めるしかないんだけど。だが、過去に行かなくてもやり直す事はできる。

それは……きちんと謝る事ができれば。

相手が了承してくれさえすれば。

それで解決する。

はずだった……だが、現実ってのは甘く無い。

甘く無いというよりも辛い。激辛だ。その激辛はいずれ、恐怖になっていくんだけど。っていうか、甘いってのも逆に恐怖だね。

まぁ、今はこうやって面白可笑しく説明できてるけど、この先は上手く伝えれるか分からない。というか、面白可笑しく説明しとか無いと、恐怖で膝が上がらないし。口が動かない。

ちゃんと七海に説明しようと思った事と、決着をつけようと思った俺はipod touchを起動し、『友達作りチャット』というアプリを久しぶりに起動させた。

すると……『ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪ピロ♪』とipod touchの通知音が消えないのだ。鳴り止まないのだ。その通知音はいつもは嬉しかったはずなのに、今はただの恐怖でしか無かった。

「な、なんだよぉ……これは……」
あまりの恐怖に膝をガクガクと震わせながら、通知とバイブが鳴り止まないipod touchに触れ、画面を確認する。

『七海+999』と画面には表示されていた。
薄暗くなった画面には自分が恐怖に怯えている顔が映り込む。

今の俺……本当に滑稽な姿してんな。そう思いながらも恐る恐る画面に触れ、七海とのトークを見てみることにした。

そこには大量のリスカの写真と彼女からの狂った愛情が込められたメッセージが送られていた。

『おはよぉーー夕君!?』
これが通知の中で1番古いものだ。
『11月14日(木)』と日時まではっきりと書かれている。そこから後は日時なんて見ていない。っていうか……メッセージの方に目線が行くからだ。

『大丈夫?』

『元気にしてる?』

『からかってるの?』

『ねぇ、返事頂戴よ!』

『もう……ほんとに怒るよ!』

『ねぇ……何が楽しいの?』

『私の事……嫌いなの?』

『嫌いなら、嫌いってはっきり言ってよ!』

『私は貴方しか……いないのよ……』

『貴方の側に居たい』

『私じゃ、不満なの? 薫君……』

『会いたいよ!? 薫君!』

『私は……貴方しかいないのに貴方はいない』

『ひとりぼっちにしないでよ!』

『へへっ……いい事考えちゃった』

その後に来たメッセージには写真があった。
彼女の腕に切り傷みたいなものがあり、血がダラダラと出ている写真だ。

『あれ? 薫君……血が止まんないよ』

『痛い。痛いよ!? でも……私の心の中はもっともっと痛いよ』

ここから彼女の愛情は狂っていく。俺を愛しすぎたあまりになった悲劇とも言うべきか。

『私は貴方が好き』

『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』

画面一杯に広がる『好き』という文字。

『さっきのごめんね。驚いたよね?』というメッセージが届いた五分後にまたメッセージが来る。

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

次は『ごめんなさい』という文字だ。

俺をからかっているのか?

それは違う。彼女はこれを正しい事だと思って行動している。そして彼女の感情はさらに壊れていく。俺が返事を返さなかったばかりに……

俺は怖くなって、ipod touchを下にスワイプする。スワイプしていく間に俺はある事に気づいた。動画再生ボタンの様なものがある事に。

俺はそれがあった所にまで戻し、動画の再生ボタンを押す。

『へへっ……初めての動画だよ♪ 顔は見せないけどね』

見たところお風呂場の様だ。

『今から、自分にお仕置きをします♪ ふふっ……これも薫君の為だよ』

彼女の笑い声と共にカメラが動き出す。
カメラには剃刀みたいなものが映り込む。
そして、その剃刀が彼女の腕を真っ赤に染める。

「ええっ……何やってんだよ……おい!? 何やってんだよ!!」

彼女に聞こえない事は分かっている。それにこの動画も過去のものだという事も分かっている。だけど、俺はそれを笑って誤魔化せる程の心を持っていなかった。持ちたくなかった。

だって、彼女がずっと……

『薫君……為だよ。薫君の為……うぅ……痛い。痛いよぉ〜……だけど……これも全て薫君の為。薫君の為。へへっ……うぅ……痛い。痛い』

その後は彼女の呻き声と『大好きだよ……薫君』という言葉がずっと聞こえた。動画にしては、10分ぐらいのものだったが、俺はその動画が1時間ぐらいあるものだという感覚に陥っていた。そして、ある感情が湧いてくる。

「俺のせいだ……俺が……返事を返さなかったから……全部、全部、俺のせいだ……俺のせいなんだ。うわぁわぅぁぅぁ……………」

髪をボサボサと掻き乱す。だけど、こんな事をしても何の意味も無い。

「ちゃんと……謝らなきゃ……謝らなきゃ……」

その時、スマホがバイブを鳴らした。

「はぁ……はぁ……」

あまりの怖さと自分の罪悪感を悶え苦しみながら、スマホに手をかける。

『あ、もしもし……七海だけど……メッセージやっと見てくれたんだね。ふふふっ……嬉しいよ。やっと、薫君の、いや夕君の声が耳一杯に聴こえるんだから。あぁ……幸せだなぁ〜 
明日の文化祭、楽しいモノにしようね♪ 私が邪魔な雌豚共は排除するから、楽しみにしててね、ふふふっ……あ、それともう一つ言わなければならない事があるの』

自分も言わなければならない事があるが、七海が言葉を止めないので喋ることができない。

『私……絶対にゆう君の事許さないから』

彼女のトーンが少し下がり、ドスの効いた声になる。

『じゃあ……切るね』

そう言って、彼女が電話を切った。

「俺も……俺も……言わなければならなかった事がたくさんあるのに……」

頭を抱え込み、悩む。

何もできなかったという自分自身の罪悪感が俺を襲う。チャンスはあったというのに……恐怖で、罪悪感で、何もできなかった自分に。

***
 渚夕は昔、チャットをしていた。
特にこの言葉に比喩表現も使われていなければ、面白い様な洒落も使われていない。

ただ、チャットをしていた。というように捉えてくれれば嬉しい。昔って言ってるけど、そんなに昔でも無い。半年前ぐらいだ。彼はチャットで知り合ったある女の子と6ヶ月間に渡って、やり取りをしていた。話す内容はアニメや小説、好きなゲームなどだ。彼女と話すのは楽しかった。本当に楽しかった。周りにオタク友達とは言わないが、友達が数少なかった事も彼がその女の子に依存する理由になった。と、前にも言っていた気がするけど、そんなのはどうでもいい。っていうか、少し長かった長話もそろそろ終焉にさせて貰うとしよう。

そして、新たな物語を始めよう。

動いてほしくなかった時を動かす為に。
長かったプロローグを終わらせる為に。
あの女の子に気持ちを伝える為に。
止まってしまった時間を取り戻す為に。

色んな人の想いが交差した時、時間は突然動き出す。誰かの想いが叶ったみたいに。

そして誰かの想いを踏み躙るように。

生徒会長である古宮沙夢の開催宣言により、文化祭が始まった。

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