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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

29 準備

俺達の他にも買い出しメンバーはいたはずだ。確か……健一とか佐藤君とか真弓とか。そこらへんのメンバーがいたはずなのだ。

「ねぇ、他の買い出しメンバーは?」

「えぇっと、真弓達も真弓達で材料を買いに行ってるわ」

「なんですと!?」

「何? その驚き方、かなり気持ち悪いわよ。止めた方がいいと思うわ。人間としても」

「おい! 今、最後結構酷い事を言ったよな」

「確かに言ったわ。人間止めた方がいいわよってね。だけど逆にありがたいと思ってほしいわ。忠告してあげてるんだから」

「忠告だと!? それただの嫌味だろ!」

「あら、ごめんなさい。嫌味だったわね。今度からは貴方にもわかる程度の日本語を使ってあげるから許してね」

「うぜぇ……」

「あらあら、心の声が出てるわよ。渚君」

「悪かったな。馬鹿で」

「馬鹿と思って自分を蔑むのは良くないわ。ちなみに渚君は前回のテストの順位は何位だったの?」

前回のテストとは、第二回定期考査の事を指す。順位の方は下から数えた方が早いくらいだ。まぁ、進学校だから最下位も覚悟していたけど。ちなみに健一は10位以内に勉強はしてないのに入っている。かなりうぜぇー。

「うぅ……際どい所を聞くな。男の子にはテストの順位と身長は聞いちゃいけないんだぜ」

岬は意味が全く分からないと言っているかのように首を傾げた。

こいつ……絶対にわざとやっている。

「まぁ、意味が分からないんだけど。ほら、早く教えなさい」

「いや、だからさっき聞いちゃいけないって」

「教えなさい! 命令よ!」

なぜか、俺って女性に弱い。

強く言われてしまうと断る事ができないのだ。

「下から数えた方が早かったです」

「そ、そう……それなら、しょうがないわね。私が文化祭が終わったらつきっきりで勉強を教えてあげるわ」

「えっ? 本当に?」

岬はクラスで2位だったはずだ。ちなみに1位は真弓である。まぁ、それなら仕方がない。なぜなら、田神真弓という人間が完璧過ぎる程に完璧過ぎるからだ。真弓は、試験科目である9教科の内8教科全てが学年トップだった。彼女が唯一トップを取れなかった教科。それは現代文だ。学年トップである人間からトップを奪った奴の事を俺は隠す事無く、堂々と胸を張って言うことができる。

だって、真弓から『現代文』という教科においてトップを奪ったのは俺自身なのだから。

「本当よ。だって私は嘘はつかないから」
岬はニコッと笑いながらそう言った。

「なら、お願いする。俺に勉強を教えてください」
俺は岬に頭を下げた。

あの今更気づいたんだけど……俺って岬から告白されたんだよね。まぁ、告白か? って聞かれたらどうなのだろうと迷うけど、とりあえず「好き」って言われたには変わりは無いはずだ。多分……。だけど岬の反応は以前よりも冷たくなってきたような……ずっとツンツンしてるし。好きな男の子の前では女の子はもっと媚びを売る感じだと思っていたのは俺だけなのだろうか? それとも最近の女子高校生はこんな感じなのだろうか?

まぁ、そういうのはどうでもいいや。

でも……ちゃんと岬には返事を返さないとな。


俺と岬は地方で1番デカイと思われるショッピングモールに来た。ここのお店ではこのお店特製のカードがあって、購入した時にこのカードで購入すると、「にゃお〜ん」と猫の鳴き声が聞こえる。確か、そのショッピングモールの名前は、NEON〈ニャオン〉だ。

「ほら、買いに行こうぜ!」

「うん……ちょっと待ってよ!」

彼女を連れ回している彼氏みたいな優越感に浸りながら、俺は岬を連れ回した。まぁ、連れ回したって言っても焼きそばパンに使う材料の買い出しなんだけどね。

麺と野菜を見つけ籠の中に押し込んでいく。こんなに買って売れなかったらどうすんだよ……って言いたくなるほど俺達は購入した。まぁ、これが後々吉になるか凶になるかは分からないけど。

どうにか無事に購入はできた。これで材料の確保ができたわけだ。しかし、困った事がある。

「なぁ、この材料どうやって運ぶ?」

そういう事だ。
俺達の学校からこのニャオンまでは最低でも30分以上はかかる。だが、それはあくまでも何も持っていない状態での話だ。こんな重い荷物を持って30分以上、それも夏に近づいてきた灼熱の太陽の下でとなると不可能な話だ。物理的には可能かもしれないけど。

「渚君が全部持つ」

「えっ? この荷物を全部? さすがに俺をボディビルダーとかと勘違いしてない?」

「いや、してないわよ。逆に渚君、貴方の方がボディビルダーと自分を比べるとしたらボディビルダーさんが可哀想だからやめてあげて。自意識過剰には程があるわ」

「あぁ、はいはい。わかったよ。返事返そうと思ったけど、止めた」

「ちょ、ちょっっっと! それはせこいんじゃない? ちゃんと返しなさいよ!」

顔を真っ赤に染め、むきになった。
これはツンツンモードと言った所か。

「はいはい、そうだな。いつかは返してやるよ」

「いつかじゃなくて、今日がいい。今がいい」

悲しそうな表情をして、下を俯く。

やっぱり、ミスコンに選ばれる程の可愛さだな。

「ごめん……今は無理だ。文化祭が終わったらでいいか? 今は文化祭に集中したいんだ」

文化祭に集中するというよりも、葵ともう一人の共犯者と決着をつける為に。

今はそっちの方しか頭に無い。

沙夢さんには悪いけど、生徒会に入り浸って色々と生徒について調べさせてもらったし。

だから、今は無理なんだ。

ごめん……岬

「わかった……そうして。だけど、1つだけいい?」

「どうした?」

「ううん……やっぱり何でもない」

「あ、そうだな」
岬は俺の言葉に何も言わず、荷物を持って学校へと歩き始めた。
俺も立ち止まってばかりではいられない。
俺は急いで彼女の元に駆け寄り、重そうにしていた荷物を少し持った。
自分が持たなければならない荷物もあり、かなり重いが大丈夫だろう。
こうして俺と岬は学校へと歩み始めた。


「ふぅ……疲れたな。重かったけど」
重かった荷物を家庭科室の冷蔵庫に詰める。
どうにか、荷物を学校にまで運びこむことができた。

「そうね。それにしても暑すぎ。溶けるかと思った」岬はそう言いながら、ブラウスをパタパタとし始めた。

「そうだな……確かに溶ける……かっ!?」

声を荒げてしまった。

「えっ? どうかしたの?」

不思議そうに岬がこちらを見つめ、首を傾げた。

「いや……何でもない」

口が裂けても、汗でブラジャーが透けて見えるなんて言えない。死んでも言えない。

「あら、そう? 鼻血出てるけど大丈夫?」

えっ? 鼻を触る。

すると、そこには血がついていた。

別に岬のブラジャーが見えたからって鼻血を流したわけじゃないんだからね!? ただ、気づいたら鼻血が出ただけなんだから!? と自分に言い聞かせた。

そう、俺が好きなのは恵梨香だけ。

他は、ただの友達だ。って事にしとこう。

「えっ……」

岬がティッシュで俺の鼻を拭いてくれた。
優しく、そっと。
少し、恥ずかしくなり、彼女の手を引き離そうとするが、彼女の手は止まらない。

「ほら、ちゃんとしないとダメよ。最近、疲れ過ぎなんじゃない?」

「うっ……大丈夫、大丈夫」

自分に自己暗示をかけるように「大丈夫」と呟く。

「ダメよ。保健室で休んできなさいよ」

「そうだな」

やっと、岬が手を離してくれた。

そして自分でティッシュを持ち、鼻を拭く。

「じゃあ、後は頼んだぞ。岬……」

「うん、任しといて」

岬は元気そうにそう言った。

こいつに頼んで置けば、後はどうにかなるだろう。それに健一や真弓もいるみたいだし。
たまには、人に甘えてみるのも悪くない。


保健室という場所を、空間を、俺はあまり使ったことが無い。使ったことが無いというか、無理してでも俺は頑張るタイプの人間だったので滅多に使わない。だが、美少女に言われたらしょうが無い。それに最近は働き過ぎて疲れた。たまには、休みというのもいいかもしれない。
そう思いながら、保健室のドアを開ける。

「失礼します……ってあれ? 恵梨香どうしたんだ?」
恵梨香が保健室の椅子にぽつんと座っていた。
俺が保健室に入ってきたことに驚いて椅子が揺れ、不愉快な音が鳴る。

「あっ!? 夕君こそ、なんでここに?」

「いや、俺は鼻血が止まんないからさ」

「そっか。大丈夫?」
俺を心配そうに見つめてくる。
しかし、俺と目と合うと途端に目線を逸らす。

「うん、大丈夫だ。別に心配は無い。それで恵梨香はなんでここにいるんだよ?」

「あっ……えぇっと。それは……」

恵梨香が顔を赤くして、あやふやしている。
そんな彼女のことは全く気にせず、ドアが開き、来訪者が現れた。

「ほら、江川さん、行くよ! ヒロインがいてくれないと劇の醍醐味が成り立たないじゃない……」
学校指定のジャージを着ている。胸の辺りにある学年と組の確認すると恵梨香と同じクラスだ。
ということは、何かあったのか。

「行きたくない……」
恵梨香が暗い声で言う。

「おいおい、行かないとだめだろ。恵梨香……皆が選んで決められたヒロインなんだろ? ちゃんと行ってやれよ。そうしないとスローガンでもある皆が楽しい文化祭が成り立たないだろ?」
名前は分からないが、クラスメイトが困っているようなので恵梨香を説得。

「私が楽しくないから、それはもう成り立たない」
こんなにも、恵梨香が拗ねているのは久しぶりだ。そんなにも嫌なのだろうか?

「あの……どんな劇するんですか?」
俺はドアから入ってきた眼鏡を掛けた女の子に訊ねる。名前も何も知らないから喋りかけづらかったけど、文化祭準備効果というものが作用したらしく恥ずかしがることもなかった。

「ふふふっ……ロミオとジュリエットです!」
眼鏡をクイッと上に押し上げた。

ロミオとジュリエットってのは、俺も聞いたことがある。だけど深い内容までは知らない。確か、非恋だったはずだ。多分だけど……知識が無いので何とも言えない。

「そっか。俺達のクラスは焼きそばパンをするんだ。よかったら来てくれよ」

ちゃっかり、人呼びもしておいた。これでこの女の子の友達何人かは確実に来るだろう。

「そうですか! いいですね! 行きますね」
よしっ! これで予約は取れたな。
この女の子の元気さに少し、俺も元気が湧いてきた。鼻血が湧いてきたら、困るけど。

「それで今はどんなシーンなんですか?」

「ええっとですね。キスシーンです!」

「えっ?」

あの、今なんて言いました?

キスシーンですと?

「キスシーンですよ!」

あ、ダメだ。恵梨香は絶対に連れて行かせない。

「なぁ、恵梨香。今は具合悪いよな? よし、寝とこう! よし、決まり! 君は悪いけど、恵梨香は今、具合が悪いからヒロインは降板させてもらう! ってことでよろしく!」

彼女の肩をぽんぽんと叩き、保健室から追いやった。

「あの……ありがとう……夕君」

「いや、いいってことよ。それより、ロミオ役って誰?」

「葵君だけど……」

前言撤回。確実に、迅速に撤回!

ヒロインは降板させます!

キスシーンとか、大体高校生の劇には要らないはずだ。うん、そうだそうだ。

ってことにしとく。

でも、役が居なくなったらどうするんだろう。

少し悩む所だけど、しょうがないか。

俺の幼馴染を取られるのは嫌だしな。

「夕君にキスしてほしい……」
彼女が唐突に率直にはっきりとそう言った。

『キス』そんなモノをしたことは無い。
したことが無いんじゃなくて、できなかったとでも言うべきか。俺はこの方、生まれて一度もキスなんてものはやってきたことが無いのだ。

「ねぇ、早く……」
恵梨香の目がトロンとしていて、頬は赤い。
そんな彼女を見ていると自分の頬まで赤くなっていくのを感じた。そして、本当にこの人が好きなんだなと再確認もできる。胸のドキドキは止まることは無く、寧ろ鼓動が早くなっていく。そしてゆっくりと手を恵梨香の肩へそっと置いた。

「じゃあ、するよ……」
恵梨香に顔を近づけていく。
あともう少しでファーストキスが。
ファーストキスが。

「目、瞑っとくね」

彼女が俺の耳元で囁いた。

あともう少し。あと数センチ。あと……

そう思うと次第に緊張して、鼓動が速くなる。

俺はキスをされた。
したのではなく、された。
男としてのファーストキスを奪われたわけだ。

俺の唇に柔らかい感触が当たった。
その感触がもう一度当たる。
そして、二人で目を合わせる。
恵梨香の目はとても喜んでいる。
幼馴染の目では無く、女の目だった。

「へへっ、貰っちゃった」
恵梨香の顔は真っ赤になり、少し恥ずかしがっている。しかし、嬉しそうだった。

「……奪われちゃった、な」
俺はぽつりと呟く。

「私じゃ不服だったの?」
恵梨香が上目遣いで俺に尋ねた。
かなり、色っぽい。

「いや、不服じゃない! 寧ろ、幸せだ!」

「そっかぁ。それはよかった」
こんなにも嬉しそうな恵梨香を見ていたら、俺も返事を返すべきだ。

ちゃんと……恵梨香には。

『ピロリン♪』と恵梨香のメールが鳴った。
恵梨香のメールの音はこの単純な音だが、着信音は『エリーゼのために』である。

「もうぉーこんな時に……」
恵梨香は顔をぷくっとさせ、スマートフォンとにらめっこ。
そして、彼女の顔が少しずつだが深刻な顔になっていく。

「メールが来た……メールが来たよ! 返信が……」恵梨香が俺に叫んだ。

「ん? メールって? あ、あれか! それで返事は?」

俺も恵梨香と一緒にスマートフォンとにらめっこした。

すると、そこにはこう書かれていたのだ。

『私の名前は七海。私は薫君の彼女。だから、絶対に許さない。私は許さない。貴方を許さない。薫君……否、渚夕君と言っておいた方がよかったかもね。私はお前を許さない。殺してやる。そして、私が夕君を幸せにするよ……』

怖い。奴が怖い。七海が怖い。

七海? もしかしてあの時の?
どういうことだよ。それに殺すとか書かれてるし、殺害予告か?

自分の血がぞっとするのを感じる。身体が震える。
でも、安心していた。これで全てが繋がったと。

ピースが全て埋まった。

後は、それをどうやって回避するかを考えるだけのはずだ。

だけど……どうやって?

第一、七海の顔も声も分からない状態でどうやって七海を探し出す。無理だ。

だけど……やるしかない。

「何これ? それより薫って誰?」

「いつか、時間がある時にきちんと説明する。だから、今は……」

『ピロリン♪』また、メールが来た。

『さっき、キスしたの見たよ。私の胸は張り裂けそうだよ。どうしよう。どうしよう。どうすればいいのかな? あ、こうすればいいのか?』
そんな文と共に一つの写真が送られてきた。

自分の腕を切っている画像。
リストカットというものだ。
さっき、俺が鼻血を出した時以上の血がドクドクと出ている。

倒れてるんじゃないの? っていうくらいの血の量だった。

『ピロリン♪』さらにメールが届いてきた。

血で「好き」とダイイングメッセージのように書かれている写真だけだった。

「ピロリン♪ピロリン♪ピロ……ピロ……ピロリン♪……」

突然、恵梨香のスマホのメールが異常な程になり始める。

『メール23件です』とホームに通知がされていた。それも全て、七海からのメールだ。
俺は恵梨香のスマホを奪い、いじり始めた。

「よしっ……これでいいぞ」
そうして、俺は恵梨香にスマホを返す。

「何かしたの?」そう言って、スマホを開く。

「あぁ、七海を着信拒否にした。これで大丈夫のはずだ」

「あ、ありがとう」

恵梨香は笑顔でそう言った。

そして、恵梨香は言葉を紡ぐ。

「私……ジュリエット役やる! もう、決めたから! 何か、さっきのでけじめがついた」

そう言って、俺の幼馴染は。

俺の愛すべき人は。

舞台へと、自分がいなければいけない場所へと、戻っていった。

そんな彼女を止める理由なんて無いし、止めれる権限なんて無い。

寧ろ、俺は応援すべきだ。

彼女が一生懸命頑張るのなら、それをきちんと最高の場所で、最高の特等席で彼女の活躍を見るべきだ。

だから……俺は止める事はしない。

彼女が葵と向き合うのだから。

俺も逃げてはいけないのだ。

七海という俺の元彼女に。

「さぁ……決着をつけようぜ。元彼女ななみさん」

そして、今までごめんな。
俺は心の中でそう呟いた。

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