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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

28 青春って何ですか?

「えっ……」
突然の告白に俺は言葉が出なかった。
「あの……ダメならダメでもいいんです! だけど……私は渚君の事が」
朱里が恥ずかしそうに目線を俺から逸らした。
俺は彼女が目を逸らした瞬間を見逃さない。

「それ以上はダメだ!」
俺は朱里の言葉をきっぱりと遮った。
こんなことで解決することは無いと知っているのに。
自分が取った行動はただの後回しにしかならないと思っていたのに。
だけど、まだ頭の整理がつくまで時間が欲しかった。
もしかしたら彼女が……と、思うことがあるからだ。
しかし、今自分の目の前にいる人物が自分が思っている人物だったらと考えてしまう。
本当に情けない男だ。弱い男だ。弱者だ。弱虫だ。本当に哀れな男だ。

「どうして、ですか……?」
勿論、俺の言葉を振り払い言葉を朱里が発する。
だが、俺は朱里から目を背けない。

「俺は好きな人がいる……」
と、一言伝える事ができる勇気が俺にあれば……よかった。
だが、今の俺はそんな事を言える勇気は無かった。

「そ、それは……」

言葉が霞む。ちゃんと話したいと俺は思っているのに言うことができない。言ってしまえば、楽になることはわかっているのに。

「あぁ……もういいです。私の片想いだから。渚君にはもっともっといい人がいると思いますし……では、さようなら」

両目を真っ赤にして、涙を拭いながら彼女は走っていった。
俺、何やってんだよ。女の子を泣かして何か楽しいのかよ。
追いかけようとするも足が動かなかった。

今……俺が彼女の元に行けば、さらに彼女を不幸にさせるだけとわかっていたから。
望まない恋だと彼女自身が分かっていたのかもしれない。


 それから文化祭前日まで特に個人的には何も無かった。他の奴等には色々とあったらしいけど、文化祭実行委員である俺にとってはそんな事はどうでも良かった。でも1つ良かった事があるとするならば、生徒会長である古宮沙夢と仲良くなれたことだ。仲良くなれたと思っているのは自分だけかもしれないけど、俺は嬉しかった。仲良くなれたきっかけとしては、俺が偶然にも昼休みに沙夢さんに会ったときに重そうなダンボールを持っていたことだ。そんな重そうなダンボールを可弱い女の子が持っているのを見てしまうと助けてしまうのが紳士としては当たり前の事。その行動があまりにも沙夢さんは嬉しかったみたいで、しょっちゅう放送で呼び出されている。そのせいで、皆から生徒会長と付き合っているという噂がたっているらしい。(健一談)
そんなわけで今も俺は生徒会室にいる。
文化祭が前日ということもあり、段ボールが隙間なく詰められている。その為、ゆっくりできるスペースがない。
ちなみに俺の今の仕事はプリント整理。大体は処分するのを燃えるごみの袋に入れるだけの単純作業なのだが、沙夢さんが俺に話かけてくれるので中々楽しい。
ある程度、作業も終わり段ボールの山が無くなった。視線を横に動かし、ごみ袋を確認する。
そこにはたくさんのプリントが入ったごみ袋が何個もあった。それを見て、運ぶの大変そうだなと思いながらもしょうがないと自分の気持ちを引き締めた。

「このごみをゴミ捨て場に持っていったら、私が自販機で何か奢ってあげよう」
沙夢さんが俺にそう言った。
「ほ、ほんとですか!?」
正直かなり嬉しい。
「あぁ、勿論だ。というか、それ以上の働きを君はしたと思うけどな」
沙夢さんに褒められた。素直にかなり嬉しい。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
俺がそう言うと沙夢さんは嬉しそうな顔で「当然だ」と言った。

そのまま大量のプリントというごみが入ったごみ袋を二人合わせて10袋持った。そこは男であるプライドをかけて6袋持った。
だけど、その影響なのか。それともただの運動不測の俺は沙夢さんに心配されながら、どうにか運ぶことに成功した。
ゴミ捨て場の近くにある自販機で俺は微糖のコーヒーを買ってもらい、沙夢さんはカフェオレを選んだ。

「どこか、ゆっくりと飲める場所がいいなぁー」
沙夢さんがそう言ったので俺が冗談混じりに「屋上はどうですか?」と尋ねる。
すると、沙夢さんは「それはいい考えだ」と俺の意見に賛同した。
俺は冗談で行ったつもりなのにどうするつもりだろう。
沙夢さんが先に行っててくれと言ったので俺は一人屋上へと足を進める。
屋上に行くついでに自分の教室に戻るか迷ったが、岬に任しているので大丈夫だろうと思い、足を運ぶことはなかった。
屋上が開かないと理解していても、もしかしたらという自分の好奇心でドアに手を掛けるがやはりびくともしない。
どうでもいいけど、『屋上』という単語に何か胸のときめきを感じる。なぜだろう。
普通は入れないから。ということではなく、入った先にあるものだろう。
俺がときめきを感じるのは。
そんな事を思っていると、
「おまたせー」と満面の笑みで沙夢さんがやってきた。

「待ってました」
俺がそう声をかけるも沢山ある鍵一つ一つを確認し、
「これも違う……これか? 違うな」などと一人でぶつぶつと呟いていた。

「それどうしたんですか?」
沙夢さんは俺の方を見て、にやけてこう言った。

「これはね、合鍵だよ。この学校に伝わる生徒会長だけが使える鍵さ。マスターキーってやつだね。知らなかっただろ?」
沙夢さんが小首を傾げ、自慢げに鍵を見せびらかす。

「知りませんでした……そんなものがあるなんて」

「まぁ、そりゃそうだよ。この鍵の存在を知るのは生徒会長にならないといけないからね」

「えぇ!? そうなんですかって! 俺なんかにその鍵の事を教えちゃダメじゃないですか!」

「いいんだよ。君が次期生徒会長になればいいだけだろ?」
沙夢さんは笑いながらそう言った。
俺は彼女の冗談に付き合い、「はい、そうですね」と伝えた。
「あ、あいたぞ。渚君」
やっと、屋上の鍵が見つかったらしい。
「じゃ、開けるよ。渚君」
沙夢さんが真剣な面持ちで言いながら、ドアを開けた。

そこに映ったのは—―屋上からしか見えない地平線に続く海とその水面を反射させながらゆっくりと下っていく夕日だった。
「き、綺麗だ……」
俺の口からはそんな言葉が無意識に出た。
いつも登校と下校に見るものとは比べ物にならないようなものだ。
沙夢さんはアスファルトの上に大の字で寝そべる。
「ほら、渚君も来なよ」
沙夢さんに促されるまま俺も大の字に寝そべった。
とてもすがすがしかった。新鮮な空気、屋上、美人と二人きり、缶コーヒー、文化祭前日などの青春真っ盛りの経験など味わったことが無かった。
これが青春か。悪くないな。

「ねぇ……渚君。君に1つだけ質問がある」

「なんでしょうか?」

少し、改まってしまった。

「あぁ、それはね……」

結構勿体振るなぁ。

「渚君……君は自分が不幸だと思ったことはあるか?」

沙夢さんは確かにそう言った。いつもはポジティブな人間な彼女がそうはっきりと言ったのだ。

「自分を不幸だと思う事は誰にでもあると思いますよ。逆に不幸だと思った事が無い人間が居るなら会ってみたいくらいです。沙夢さん……幸せって何なんですか?」

「そうか……なら、良かった。私が思うに幸せの定義は自分自身が幸せだと思えばいいんじゃないかな」

「確かにそうかもしれません。では、先輩は自分を不幸だと思ったことはありますか?」

「私? 私かぁ……私はいつも自分が不幸な存在だと思っているよ。だけど……私は」

そこで沙夢さんの言葉は止まった。長い横断歩道が青から赤になる前に渡れるか渡れないかと思いながら歩いていたら途中でチカチカ鳴り出して渡らずに引き返してしまった。そんな感じだ。

「私はどうしたんですか?」

俺が沙夢さんに訊き返すが彼女からの返答は「ごめん……何もないよ」だけだった。

そんな時、俺に一本のLINEが入る。

『買い出しに行くから、教室に帰ってきて!』
岬からだった。

「沙夢さん、クラスの方行ってきてもいいですか?」

「いいんじゃない。私だけ、渚君を独り占めするのは良くないしね」
沙夢さんから一応大丈夫と返事を貰ったので
「わかった! すぐ行く!」と連絡を入れ、教室へと戻った。

沙夢さんは突然立ち上がって屋上の片隅でに一人ぽつんと黄昏たそがれていた。
その姿がとても絵になる。顔が整っているのが羨ましい。

なので、俺も心置きなく教室へ戻れる。

俺が教室へと戻ってみると、教室はもぬけの殻だった。人の姿は特に無い。だけどさっきまで何かをしていたのだろうというように散らかっていた。泥棒が盗んだ後はこんな風になるのだろうと自分で納得した。

「ったく……誰もいねぇ~じゃん」

心の声が漏れる。いつもは独り言をあまりしないようにしているが、ついつい漏れる。雨漏りしているかのように。

「あ!? 探したんだよ! 渚君」

突如、俺の視界に美少女が現れた。まぁ、そこにいるのは岬なのだが……

「あ、ごめんな……少しばかり忙しくてな」

「忙しいって、どうせ会長の所でしょ?」

むくっと顔をして、岬が睨む。

「まぁ、そうだけど……」

さらに岬の目が怖くなった。

「うぅ……クラスの事は放ったらかしにして、自分だけリア充モード……楽しいですか?」

怒りと皮肉をたっぷりに含んだ言葉が俺の心を刺さる。本当は反論したい所だが、言い返せない。岬が言っている事は正しいからだ。俺は逃げた。全面的には逃げてはいなかったが、放ったらかしにしたのは事実だ。岬に迷惑をかけてしまったことには変わりはない。

なら、俺がすることはただ一つ……

「ごめんなさい……そして、ありがとう」

深く深く頭を下げた。

普段ならあまり頭を下げないような男だが、今回ばかりはした。本当に申し訳ないという気持ちが強かったからだ。

岬は俺がそんな行動を取るとはまんざら考えていなかったようで手をパタパタして慌てている。

「あの……もういいから。もう頭を上げていいから」

しかし、俺は頭を上げない。

「本当にいいから……」

まだだ。まだ、ダメだ。

「ねぇ、ほら早く買い出し行くわよ」

そう言って、手首を強引に捕まれた俺は岬と買い出しに行くことになった。

って、あれ? 
買い出しメンバー俺達だけですか?

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