話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

27 本物になりたい偽善者

「二股? ねぇ、どういうこと? 夕君」恵梨香の声は怒っているというよりも凄く慎重に冷静だ。こんな恵梨香の声を聞いたことがない。

「俺は恵梨香と付き合う前から、ある女の子と付き合っていた。だから俺はちゃんとその女の子と決着をつける。だから……」

「ああぁぁぁ、うるさい。私、分かんないよ! 最近意味が分かんないことばっかりだよ! 何が起きてるの? ねぇ、ねぇ……私、どうすればいいの? ねぇ、聞いてる? 夕君。聞いてる? 私の話、聞いてる? ねぇ……ほら、ちゃんと聞いてよ!」
恵梨香の反応があまりにも違う。
泣くことも起こることもせず、身体をがくがくと震わせていた。

「落ち着け……とりあえず、落ち着こう。恵梨香。俺が側にいるから、だから……大丈夫だ。何があったんだ? 聞かせてくれ」
俺は恵梨香に優しく問いかける。
恵梨香は顔を俺に向けてはくれない。
もしかしたら、俺の事を許してないのだろう。それはそうだ。俺が最低な行為をしていたのだから。
だけど、今の俺の気持ちは変わっていない。俺は恵梨香が好きだ。大好きなんだ。
だから、もう一度だけチャンスを下さい。
俺がこの女の子の役に立てるように。もう、恋人同士に戻れるなんて思ってない。
それでもいいから、俺にチャンスを下さい。
奇跡を下さい。

しかし、恵梨香は言葉を話さない。
なら俺から言うしかない。
男である俺から言うべきだ。
今、ちゃんと言おう。
『好き』と。『大好き』と。

「恵梨香、俺は……」
言葉が詰まる。
嫌われたらどうしよう。悩む。俺は考える。
短い時間でゆっくりと彼女に向ける言葉を。
大好きな人にいつも伝えたかった言葉を。
嘘を吐かないと言ったのに元々嘘を吐いていた自分の罪を。悪を失くす為に。消すために。
いや、かっこつけている。
ただ、嫌われたくないから。これが言葉だ。
俺がいつも一緒に居たい人だから。

「俺はお前が好きだ。大好きだ。だから、だから……」
自分の気持ちをぶつける。
今までは周りの環境に合わせていた。タイミングを見計らっていた。それが馬鹿だった。
なんで、こんな言葉を伝えられなかったんだろう。心臓が普段よりも冷静だ。
だが、胸の中にはやっと言えたという達成感が満ち溢れている。

「ゆ、夕君……なんでよ! なら、なんで? 二股なんてしたのよ!」
そりゃそうだ。こうなるのは分かっている。

「好きなものはしょうがないだろ! 気付けなかった! 俺はずっと恵梨香が好きだった! 高根の花だった! こんな陰気の俺の幼馴染であることがとても嬉しかった。だけど、そんなお前が俺の事を好きと聞いて俺がどんなに嬉しかったことか……俺はずっとあの日からお前のことが好きなんだよ! ずっとずっと好きなんだよ!」
同じ言葉を前には言った気がする。
だが、いい。何度でも言ってやるさ。
分かるまで。俺の気持ちを理解するまで。

恵梨香の目からはぽたぽたと涙が出てきた。
その涙が床に落ち、水滴が溜まっていく。
俺ってまた泣かせちまった。馬鹿だな。

「……今でも私の、恵梨香の事好き?」
彼女が俺に尋ねてくる。
もう、答えは出ている。

俺は—―

「好きじゃない、大好きだ。この世界を全てを敵に回していいほど俺はお前を愛している」

「ゆ、夕君。本当に夕君は私に酷いです……だって私をこんなにも泣かせてくれて、笑顔にさせてくれて」
恵梨香の目から流れる涙が一気に触れる。
それに合わせ、手で拭う数が増える。

「ごめんな」
こんなことしか言えない。

「謝る必要は無いんだよ。夕君は……これは嬉し泣きですから」

「え、恵梨香……話を聞かしてくれ。頼む」

「う、うん……最近変なメールや変な手紙がいっぱいいっぱい来るんだ。家の方にもたくさん来るんだよ」

「例えば、どんな感じのが?」

そして彼女は怯えながら、俺の身体に身を寄せながら語り始める。

 彼女の話を聞いてわかったこと。

・自分の携帯に変なメールが来ること。

メールの方は『死ね』とか『私の彼氏に手を出すな』とからしい。手紙の方はさらに酷いらしく、『殺す』などの具体的な犯罪行為に等しい様な事があったらしい。その中でも1番酷かったのが、その送ってきた人のものと思われる髪の毛がポストの中に入っていたらしい。恵梨香はそれをすぐに捨てたらしい。すると、その日の夜に『捨てたわね。貴方には呪いがかかるわ』と言ったメールと恵梨香の家を撮影した写真までが一緒に送られてきた。しかし、恵梨香はそれを親に相談をすることもなく、ずっと一人で抱え込んでいた訳だ。

俺は何も気づけなかった。

あの時、約束したのに。
自分が情けない。
これじゃあ、俺は救世主ヒーローになりたいただの偽善者じゃないか。

「なぁ、恵梨香。聞きたいことがある。その相手の名前とかわかるか?」

「分からない……名前は教えてくれないから。っていうか、返事を返した事がないから」

「そうか……頼むがある。そいつにメールをしてくれ。そして、そいつの名前を聞き出してくれ」

「どうして?」

「お前を助けるためだ」

「うん、わかった」

彼女はすぐにメールを打った。

『貴方は誰ですか?』と。

しかし、いくら待っても返事は帰ってこなかった。

それに時間も遅いので俺は恵梨香を家に送る事にした。

夜だったのであの例の不審者に会わないか、ドキドキしていたが特に会うことは無く、恵梨香の家に着く。バイバイをして、恵梨香を無事に家に送っていく事ができた。

後は、俺自身が危ない女に出会わなければいいんだが……

そんな時だった真弓に俺は出会った。

「よぉ、真弓。何やってんだ? こんな遅い時間に」

真弓は黒のランニングウェアを着て、汗をかいている。

「ハァハァ……女性が夜遅くに走るなんて、一つしかないでしょ」

「一つしか無いってなんだよ?」

「ありゃりゃ……渚君。モテナイでしょ? いや、モテるか。ごめんごめん」

「一人で納得されても困るんだが……まぁ、それは置いといて、一つしか無いってなんだよ?」

「あぁ、ごめんごめん。渚君は完璧に駄目な男の子らしいね。女性が夜遅くに走るのは『ダイエット』の為に決まってるじゃないか」

「ダイエット? 真弓、結構痩せてんじゃん」

「それは嬉しいね。だけどこれでも最近太ったのだよ。数キロばかり……夏というのに海に行けないのは悲しいからね」

海……そう思えば、文化祭が終われば夏が来る。完全的に忘れていた。

「もしかして、海には彼氏さんと行くのかな?」

真弓の口が止まった。

今までの饒舌な口が止まった。

ロボットが動かなくなったみたいに。

あっさりと、突然に。

「もちろん……その通りよ……」

真弓は顔を引きつらせながらそう言った。引きつるというよりも崩しながらと言った方がいいだろう。

なぜなら、真弓は泣き崩れたのだから。

「だ、大丈夫か? 真弓……」

「大丈夫よ……渚君。じゃあね……」

俺に手を振って、走っていった。

俺もそんな真弓の後ろ姿を見ていた。彼女の後ろ姿が暗闇に消えるまで。ずっとずっと。

「『不審者に会うから、気をつけろ』って言うの忘れてた。まぁ……いっか……」

俺は独り言を呟きながら、自宅へと戻る。


岬を家に送り届け、真弓に出会った日の翌日、学校に着くと、なぜかざわざわしていた。

「おい、健一? 何があったんだ?」
後ろの席に座っている健一に訊ねてみると、健一は溜息をつきながら言った。

「なんだか……わかんねぇーけど。昨日、俺達がいない間にミスコンに出場する女子が決まったらしいぜ」

「なぁ……何!? ミスコンの?」

「そうそう、あのミスコンの出場する女子がな……」

「なるほどな、それで誰が俺等のクラスは出るんだ?」

腕を組んで、困った顔をしながら健一が言う。

「それがな……岬ちゃんと委員長のどちらを出場させるかで揉めてるわけよ……」

あ、確かにあの二人はどっちもどっちで美少女という言葉が似合うような女の子だからな。それは揉める訳だ。それにミスコンに出場して優勝した女の子は何でも願いを叶えて貰えるらしい。まぁ、それができる範囲のものに限るけど。去年は優勝した女の子がステージの上で好きな男の子に告白したと聞いている。今年もそんな事が起きるかもしれないが、俺には全く関係の無いことなので大丈夫だ。

「それでどうするんだ?」

「まぁ……今からクラスの男子で話し合いをする予定。ちなみに皆は岬ちゃんをミスコンに出場させるつもりらしい。委員長は彼氏持ちだからな」

「そ、そうか……」

突然、俺達の教室、1年A組のドアが開いた。

「このクラスはミスコン出場者は決まったかな?」

ドアを開けたのは、古宮沙夢だった。
彼女は俺達と同じ学年にいる古宮朱里の姉であり、生徒会長を務めている。それと文化祭実行委員にも参加していた気がする。

真弓が沙夢の質問にテキパキと答える。

「なるほどぉ……そうか。それならしょうがない。二人とも出場させるという形にしよう。それで異論はもちろんないよな?」

真弓は納得がいかない様だが、渋々了承した。

「じゃあ、私は忙しいから」そう言いながら、教室を出たと思ったら、振り返って、「あ、渚君。私も出るからよろしくな」とウインクされた。そして、彼女は風の様にあっという間に消えて行った。

残ったのは、沙夢さんが最後に言い残した言葉の意味だけだ。

「おい……今のどういう意味だよ! 夕」
後ろから、健一に言われ、周りからは変な視線を感じる。特に真弓と岬からだ。

沙夢さんのせいで周囲から変な目で見られていたが、どうにか誤解を解くことができた。でも、岬と真弓は納得できてないようだ。それ以外には特にこれと言って何も無かった。あるとすれば、恵梨香と朱里もミスコンに出場が決まったらしい。恵梨香は当然だが、朱里が出るとは思っても見なかった。別に朱里が可愛くないとかそういってるのではなく、彼女自身がミスコンというものに出場するという事が意外だったのだ。

昨日、皆が文化祭に向けての仕事を頑張ったお陰なのか、それとも岬の指導が良かったのかは分からないが、特に文化祭準備をすることをしなくてよかった。文化祭準備をしなくてもいいってことなので、恵梨香と帰ろうと思い1年B組に行ったものの恵梨香は準備をしなければならなかった。俺は恵梨香に「頑張れよ」と伝え、一人で帰ろうと思った時、後ろから喋りかけられた。

「あの……渚君、少し時間よろしいですか?」
この声は古宮朱里だ。彼女は銀色の丸淵眼鏡を掛けており、いかにも真面目そうなイメージだった……はずだった。しかし、俺が後ろを振り返ってみると、眼鏡をかけていない、髪を二つ結びにした天使がいた。ぶっちゃっけ言うと、俺の理想とした女の子そのものかそこにいた。それに懐かしい気がする。
俺は彼女に会っている? まさかな。

「天使だ……」

「えっ?? 天使? どこにいるんですか?」キョロキョロと辺りを見渡す。

「あ、ごめん。つい、心の声が……それで朱里どうしたんだ?」

最初は彼女だと思ってはいなかったが、声はやはり朱里だ。

「あ、はい! ちょっとですね……聞きたいことが……」

そんな訳で、俺と朱里は一緒に帰ることになった。

朱里の家は学校からそんなに遠い訳でも無く、近い訳でも無い。なので彼女は歩いて学校に登校している。そんな彼女と共に一緒に帰るという事は俺は回り道をして家に帰る事になるのだが、可愛い女の子と共に下校できるというのは嬉しいので仕方ない。

「あのさ、あの後大丈夫だった?」

女の子と一緒に下校しているというのに会話をしないのは紳士ではないと思った俺は恐る恐る訊ねる。

あの日、あの危ない女に出会った日。

俺と朱里は警察署に連行された。連行されるとなると、俺が捕まったという事になるが確かにあの時はその表現が正しいかもしれない。なぜなら、俺はあの時『被害者』では無く、『加害者』として警察署に連れていかれたのだから。

「うん……大丈夫だったよ。それと……パパとママが渚君にお礼を言いたいって」

「お礼?」

「うん! 渚君がいなかったら、私の命は無かったかもしれないから……感謝の気持ちを込めて家に呼びたいって」

「なるほど……確かに気持ちは嬉しいけど、俺は何もやってないからさ」

「いやいや、いいんだよ! 来てくれたら、お姉ちゃんも喜ぶし!」

「お姉ちゃん……あぁ、沙夢さんか。確かに沙夢さんには真弓と岬が二人共ミスコンに出場させてもらった借りがあるからな」

まぁ、俺が作った借りじゃないけど。

「チッ……あの人達も出るのか……」

何か、朱里が小さな声でポツリと呟いた。

「えっ? どうかした?」

「いや、何もないよ。へへっ……それよりお姉ちゃんの事なんで知ってるの?」
不思議そうに頭を傾げ、目を輝かせている。

「生徒会長だし、何かと有名だしな……」

「そ、そっか……それよりさ、私と賭けしない?」

なぜか分からないけどこの時一気に空気が変わった気がした。温度が急激に下がったような、空気が凍りついたというか。そんな感じだった。

「えっ……何?」

彼女は俺をしっかりと見つめ、顔を真っ赤にしながら言葉を紡ぐ。

「もし、私がミスコンで優勝したら私と付き合ってください!」

「チャット始めたら、危ない女が現れた。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く