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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

25 真実を告げる時

健一が帰った後、特に何もすることも無くリビングでため撮りしていたアニメを見たり、スマホゲームをしたり、勉強を少しだけしたりした。外は暗くなっていて、時刻は夜の8時を過ぎた頃だ。

『ピーンポーン』とインターホンが鳴った。

母さんが帰ってきたようだと思い、俺はドアを開ける。しかしそこに居たのは、スーパーの買い物袋を提げた恵梨香だった。

「えっ? なんでここに?」

「えぇっと、ちょっとおばさんに頼まれてね」
なるほど、母さんが何か言ったみたいだな。

「それで何のようなんだ?」

「夜ご飯を作りに来たの!」そう言って、俺の事をお構いなしに恵梨香は家に入った。

これは立派な不法侵入ですよ。

恵梨香の後を追うように俺もリビングに入る。どちらかと言えば、立場逆だよね。恵梨香はテーブルに買い物袋を置く。

「あぁ……重かった。ちらり」そう言って、俺の方をちらりと見る。

「効果音を入れるな!」

「違う、違う! 私が求めるのは……」恵梨香は小さな白い手で買い物袋を指差す。

「なるほど。その重い荷物を持ってきた私を褒めてください夕様と言っているわけだな」

「まぁ、夕様と言うのは可哀想だから何も触れないことにするけど。要するにそういうこと……」

「はいはい……わかったよ」そして、俺は恵梨香の頭を撫でる。恵梨香の髪の毛はさらさらでシャンプーのいい匂いが漂う。女子の頭を、それも幼馴染の頭を撫でるというのはどうかと思うが本人が喜んでいる様なのでいいだろう。しかし、本当にこいつが成績優秀な奴だと思うと驚きの言葉しか出ない。人は見かけによらずということなのか。

「くくっくっ……」恵梨香の喘ぎに似た笑い声が漏れる。

「どうしたんだ?」少し意地が悪い俺は恵梨香に訊ねる。

「くすぐったい」いつもよりも輝く瞳を大きくして、秘技『上目遣い』を使われてしまうと男である俺が魅了されないはずがない。

「ご、ごめん……」

なぜか、謝ってしまうのだ。

「あ、それよりご飯作らなきゃ」俺の手を押しのけ、材料を見始める。

「ねぇ、夕君。何が食べたい?」

「俺が食べたいと思う物を作ってくれるのか?」

「まぁ……できる限りは」そう言いながら、困った顔をする。見た感じの材料としては、豚肉の薄切り肉、ピーマン、玉ねぎ、卵だけだ。

「元々、何を作る予定で来たんだよ?」

「特には何も考えてなかったよ」恵梨香はあっさりとそう答えた。

「それならねぎ塩丼でも作ってくれるか?」

ねぎ塩豚丼ーーそれは豚肉とピーマンと玉ねぎをフライパンで豚肉の赤みが取れるまで焼き、市販で売っている専用のねぎ塩丼のタレをぶっかけるだけでいいというお手軽料理だ。その丼の上に刻んだねぎや紅生姜を入れると尚良い。中学時代に親が帰るのが遅くなって俺が恵梨香に食べさせた記憶がある。あのときは恵梨香は「美味しい美味しい」と言ってパクパク食べていた。

「うん、いいよ!」こうして、恵梨香のクッキングが始まる。


心配だ。心配を通り過ぎて、怖い。小学校の頃、恵梨香が調理実習の時間に俺に包丁を突きつけた時があった。まぁ、さすがに刺すという行為は無かったので今の俺がいる訳だけど。っていうか、あの時恵梨香が本当に俺を刺そうとは思っていなかったと思う。ただ、恵梨香は俺にかまってほしかったのだ。だから、包丁を突きつけた。相手にして欲しかったのだ。それが彼女なりの異性へのアピールだったのかもしれない。

「おい……大丈夫か? 恵梨香」真剣な表情で玉ねぎを切っている恵梨香に俺が喋りかけるが、それを無視して一生懸命に玉ねぎを切っていく。

「中々、上手いじゃないか」

「あぁ、もう!! 耳元で言わないで!」

恵梨香が怒った。顔をプクッとして幼さが残る顔で唇を尖らせながら。

「ああ、ごめんごめん。ちょっと心配でな」

「もう、私は昔の私じゃないんだから大丈夫だよ」彼女が俺に微笑む。

「まぁ、楽しみにしとくわ」皮肉と本心を込めて俺は恵梨香にプレッシャーをかけるが、あっさりと恵梨香は作った。

「ほら、夕君。食べていいよ!」自信満々のその顔は普段から料理をしているからだろうか。

差し出された山盛りに注がれたねぎ塩豚丼を舐める様に見回す。俺のそんな危行じみた見定めを恵梨香は不思議そうな目で見ていた。これはさっさと食えといっているのだろう。

「ではっ……いただきます」

手を合わせ、一言。

まず、上に乗っている刻みねぎと紅生姜を崩さない様に市販タレが大量にかかった肉を箸を掴み口に放り入れる。

んんっ……何という旨さだ。市販の肉のはずなのに、普通の肉じゃない! この旨さは革命的だ。まず、一口サイズに切られている肉という事で掴みやすく食べやすい。なので、白い米が進むのだ。さらにこの何とも言えない味を出している市販タレが俺の箸を進めている。一度、食べてしまうともう箸が止まらない。それも腹を空かせているせいか、ガンガン胃袋に納められていくのだ。

どんぶりに山盛りに注がれていたものはあっという間に跡形も無く、平らげてしまった。

「ねぇ、どうだった?」不安というよりは、自信に満ち溢れている恵梨香は鼻を高くして俺の返事を待っている。

「旨かったよ。こんな旨い飯が毎日食べれるんだったらいいよな。恵梨香を俺のお嫁さんにしたいくらいだ」

「お、お嫁さんだなんて……」顔を赤くして、恥ずかしがる。

「あぁ……ごめん。恵梨香……」

「い、いやっ……私は……夕君のお嫁さんになってもいいよ」

そんな恵梨香の声を聞いて、恵梨香の表情を見て、俺は思った。

『恵梨香には七海の事を謝るべきだ』と。

俺は二股をしたのだから。七海にだけ謝るという行為をするのはただの偽善者だ。連絡がちゃんと取れるかも定かでは無い。それにもしも今更、連絡を取っても既読をつけて終わるだけの関係になるかもしれないし、もしかしたら七海にも他の彼氏ができているかもしれないのだ。だから俺がやっている行為は自分を守る為の、自分が害を受けないだけの自己満足なのだ。それにこんなにも自分を好きな女の子がいたというのに、七海という女の子としっかり決着をつけていないのは苦々しいのだ。

それに何より、あの言葉は彼女の遠回しだが、一世一代の『告白』なのだから。

答えは決まっている。

まだ、早い。早すぎる。と俺は重い程に思っていたがそれは間違いだった。

俺は恵梨香の事を考えて。恵梨香の事を考えて。と思っていたが、それは恵梨香に渚夕という存在の愛情が自分に向けられているのか。と悩み悩み続ける日々を送らせるだけだった。それに彼女にこんな形で、『告白』させてしまったのだから、俺は答えを出さなくてはならない。

「恵梨香。俺も恵梨香の事が好きだ。だが、俺は言わなければならない事がある」

言葉が詰まる。こんな事を言えば、俺は恵梨香に、幼馴染に嫌われるかもしれない。

だが、これが俺の出した答えなのだ。

「俺は二股をしていた……」

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