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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

24 薫の物語

「そうか……なら、俺から一つだけ聞くぞ。七海ちゃんって誰なんだ?」

健一が俺を真剣な眼差しで見つめる。

七海ーーそれは俺が中学時代にチャットをしていた女の子だ。その女の子には俺は謝らなければならない。
 『突然いなくなってごめん』と。

もう、健一に全てを教えよう。

「健一……七海の事を教える前にお前に一つ、いや二つ俺は言わなければならない事がある」

「なんだよ? 夕……」顔を引きつりながら、健一が言った。

「俺は彼女が二人いる」俺の爆弾にも近いその発言は健一の頭の中を爆破した。

「はぁ? 意味がわかんねぇーよ。二股ってことなのか?」混乱しているのか、むきになっている。しかし、俺はいつもよりも冷静に。そして冷淡に答える。

「二股……言い方が悪いがそうだな。俺は選べなかったんだ。でも、今はちゃんと選ぶことができる」冷淡の言葉だが、この言葉には俺の熱意がこもっている。俺の真剣な眼差しを察したのか、それとも俺の異常な程の冷静さに悟ったのか分からないが健一は怒りを抑える。

「まぁ……二股している事は最低だと思うが。今、ちゃんと選べているのなら、いいだろう。それでお前が本気で好きなのは誰なんだ?」

もう、答えは出ている。いや、あいつと付き合い始めた時から俺の気持ちは変わっていない。

「もちろん、俺が好きなのは恵梨香だ」
この言葉に嘘偽りは無い。あるとしたら、それは俺が本当に恵梨香を好きという感情。それだけだ。だって、俺は恵梨香を選ぶ為に彼女を見捨てたのだから。

「ふっ……そうか。それで最低たらし夕君が二股をかけたのは誰なんだ?」目を細め、俺を蔑む様に健一が言った。

「その相手が七海だ」
そして、俺は語りだす。彼女との出会いを。そして彼女との関係を。忘れられない過去を。

✽✽✽
ここから先は、俺の物語。俺が体験した物語。俺が中学時代にチャットをしていた頃の話。
俺が本当にチャットを始めたのは出来心や好奇心というものだった。昔から好奇心旺盛で色々と馬鹿な事ばかりしていた。友達は少なかったけど、そこそこ充実していた毎日だった。だけどそんな毎日に何か刺激が欲しかったのだ。ほんの少しの刺激。そんなものを求めて始めたのがチャットだった。初めてのチャットという事でドキドキとワクワクが止まらないし、誰とチャットをしようか迷っていた時、自分の知っているアニメキャラのアイコンの女の子を見つけた。そんな彼女に興味を持った俺は着々と彼女に魅了されていった。彼女の知識や彼女とのやり取り。彼女の使う言葉などに。

もう、彼女とチャットを始めて4ヶ月が経とうとしていた頃。自分と同学年のクラスメイトは既に高校受験に向けての勉強をせっせと頑張っていた頃。少しずつ冬に近づいて、そろそろ俺が下着のシャツをヒートテックに変えようと思っていた頃。

彼女から一つの質問をされた。

『ねぇ、好きな人とかいる?』そんな素朴な普通の質問だった。しかし、俺は顔も声も聞いた事が無い女の子なのにドキドキした。胸が張り裂ける程に心拍数が上がった。そして打ち込んでいく。ゆっくりゆっくりと。でも、最後の一文字を打ち込もうとした時、俺は思った。

もしも、七海に好きな人がいてそれの恋愛相談だったら……そんな悪い方向に考えた。人間ってのは本当に残念な生き物だ。悪い方向に一度考えしまうとずっと不安な事ばかりが頭を過るのだ。お茶を飲んだり、ネットで『片思い チャットの女の子』とか調べたりした。しかし出てくるのはあまりにも役に立たない情報ばかり。だけど、そんな風にずっと間を空けてしまうのは彼女に自分が好きな事がバレると思い、焦りながらも自分の気持ちを伝えた。

「いるよ」その三文字で世界が変わったまでは言わないが、何かが変わった気がした。

俺が返事を送ると数分で彼女から返信が来た。

『そっか……』いつも彼女は絵文字を使うのだが、今回だけは違った。ただの文字だった。
俺はそんな違和感を抱く。

「七海は? 好きな人とかいるの?」打っている最中は内心バクバクと胸がロックを聴いているようだった。

いつも返事は早いのだが、今回だけは明らかに早すぎた。

『私は薫が好き……』

彼女の本当の気持ち。俺に対する愛情。父親がいない俺にとっては母親以外から受ける愛情。それはなんだか心地が良かった。元々、母親が夜遅くまで仕事だった俺にとっては七海という存在は家族に等しい存在だった。

すぐに返事は返した。

「俺も七海が好きだ」と。

そして、翌日。

俺にとっては大事件が起きた。

俺は母親にipod touchを没収されたのだ。

✽✽✽

「これで俺の話は終わり。何か質問とかある?」どこかのネットで見た事があるようなスレタイみたいだ。

「あのさ、薫って誰?」顔をきょとんとして、健一が訊ねてきた。

「あぁ、薫ってのは俺の偽名」

「ぷぷっ……薫とか」健一が声に出しながら笑う。

「薫って名前かっこいいじゃん!」笑う健一に俺はむきになる。

「まぁ、それはいいとして。もう一つ言わなければならないことってのは何なんだ?」健一は笑うのを止め、顔が引き締まる。

「二つあるってのは嘘だ」

引き締まっていた顔が安堵の顔になる。

「なんだよ……全く」そう言いながら、健一がコップに入ったお茶を飲み干した。

「じゃあ、俺は帰るから」

健一が立ち上がる。

「おぉ、じゃあな」

玄関まで行こうか迷ったけど、健一がここで良いって言うので行かなかった。

帰っていく健一の背中を見ながら手を振る。

そして俺は小さな声で呟く。

「ありがとう……そしてごめん」

しかしその声が健一に届くはずも無く、健一は帰って行った。

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