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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

22 俺の青春は終わらない

「恵梨香、お待たせ」

俺が家庭科室のドアを開けると恵梨香が弁当を広げて待っていてくれた。

「夕君……遅すぎ。今日、ジュース奢りね」とにっこり笑いながら恵梨香。

「あぁ、わかったよ。放課後な」


俺は恵梨香にこのTwitter事件の真相について言おうか迷ったが言わなかった。だって、岬が言うのを拒絶したからだ。彼女が望んだのは現状維持。それなら恵梨香に伝える事は止めた方がいいってことだ。

俺は恵梨香が作ってくれたたまご焼きを口に頬張りながら、あの不信人物の事を思い出す。
「なぁ、恵梨香。最近、変な不信人物を見なかったか?」
俺がそう訊ねると恵梨香は何か困ったような顔をして、「不信人物? ここにいるけど」と俺を指差して言う。

「ったく……俺は不信人物じゃねぇーだろ」

「いやいや、結構夕君は怪しい行動取ってるよ」

「そうか?」たまご焼きを胃袋に収め、次の食材をどれにしようか迷っていると家庭科室のドアが開いた。

「貴方達、ここの教室は使用禁止なのよ!」

突如、現れた生徒と思しき人に俺達は怒られた。隣を見ると、恵梨香はご飯を喉に詰まらせている。本当にドジな奴だ。そんな恵梨香にお茶が入った水筒を渡すとそれを素早く受け取り、がぶがぶとお茶を飲み始めた。

「それで貴方達の名前を教えてくれるかしら?」と長い茶髪の生徒が俺達に要求した。要求したというよりも脅迫に近い。

そして俺は少し怯えながらも「渚夕だ。そして横にいるのが江川恵梨香」

喉を詰まらせている恵梨香の代わりに俺が言っておいた。その間もずっと恵梨香はお茶を飲んでいる。

「なぎさ……ゆう……あなたがね」と何かを呟くようにその生徒は言った。

「ところで、貴方は何者なんですか?」

自分達の名前を教えたのに、相手の名前を教えてもらえないのは不公平なので俺は言った。

すると、彼女は驚いた顔をして「そうか……」と悲しい顔をした。

「私の名前は古宮フルミヤ沙夢サユ。この学校の現生徒会長よ。もう、忘れないようにしてね」

あっ……言われてみれば見たことがある顔だ。文化祭実行委員の集まりで見たことがある。

この人が……生徒会長。

唾を飲み込み、まじまじと彼女を見つめる。

「…………………」

「な、何よ! 私に何かついてるの?」

「すいません。生徒会長。こういう変な人なんです」と喉を詰まらせた恵梨香が復活して言った。

「だから、変な人はやめろ! 誤解されるだろうが!」

「そうか、そうか。それで……朱里とは無事に今でも上手く行ってるのかな? 渚君」

「えっ……? どゆこと?」

生徒会長の沙夢が顔をしかめて、不思議そうな顔をした。

「ねぇ、夕君。朱里って誰?」恵梨香が後ろから俺の背中を抓っている。爪が背中の肉に突き刺さり、かなり痛い。

「あぁ……朱里ってのは俺の友達だよ」更に、恵梨香の抓りが酷く、鋭くなった。

「へぇ〜後から、きっちり説明してもらおうか」今、後ろを振り向くのは命の危険と察した俺は振り向かずに適当に「わかった」とだけ言って、沙夢さんの話に戻る。

「あの……それでどういうことでしたっけ?」

「朱里と最近上手くいってるか? 聞いているのだが……どうなんだ?」

「あ、はい。今も楽しくやっていますよ! あの……もしかして、朱里の姉なんですか?」

「ふっ、やっと気づいたか。渚君、あの時は妹がお世話になったな」

あの時……それはつまり俺と謎の女が会った日。あの刃物を持った女。自分の手を自分で切った女。そんな危ない女に出会った日の事だ。

「いえ……俺はあの時何もできませんでした」

あの日の事を思い出し、嫌な気持ちになる。変な気持ちだ。あの異常な女への嫌悪感か、それともあの時何もできなかった自分への罪悪感なのかは分からない。

「そんな事を言うなよ。そんな事を言うならば、私もあの時何もできなかった」

沙夢さんの言葉はあの時の自分に対する罪悪感を緩和してくれた。

「それじゃ、私は行かなければならない所があるから! あ、それと今回は渚君だから許すけど今度は許さないからね。じゃあ!」

捨て台詞のように沙夢さんが言って家庭科室を出ていった。

そして出ていったのを見て、恵梨香から俺は質問攻めをされた。

「ねぇ、朱里ちゃんって誰?」
「ねぇ、私の事好き?」
「ねぇ、文化祭一緒に回らない?」

ねぇ、ねぇ……と質問攻めをされまくった俺はそれを適当に流しつつも無難な選択肢を選び、恵梨香の質問を受け流した。

「じゃあ、最後の質問。夕君って好きな人いる?」

好きな人……それはいるに決まっている。今、目の前にいるじゃないか。恵梨香、君だよ。と言いたい所だが……それを言うのはまだ早い。それに俺と恵梨香は幼馴染なのだから。自分で言ったのだから、あの関係に戻る事はできない。だから……今は答えを出すことはできない。

「いる……今日はここまでだ。俺、教室に戻るわ」

恵梨香は釈然としない顔だったが、俺はそれをお構いなしに家庭科室を後にした。

家庭科室を出て、自分の教室に戻ると健一が俺が返ってくるのを待ち構えていたかのように俺に喋りかけてきた。

「なぁ、夕。俺のさっきの話は何かおかしい事に気づかないか?」

彼は真面目な顔でそう言った。

おかしいこと。それは確かにある。

「俺が恵梨香と付き合っている事は誰にも教えていなかった……」

俺がそう答えると健一は頷いた。自分の身体から冷や汗が流れる。

「そう。それなんだ。俺は元々……恵梨香ちゃんとお前が付き合っていることなんてしらなかった。他のみんなも同じだ」

ということは……あの日朝から感じた変な空気は俺と学園のアイドルである岬が付き合っているというのが許せない男達の威圧感だったわけか。

「じゃあ……どうやってそれが葵が分かったんだろう」

「俺もそれが気になっていた。そしてある答えが出たんだ」

「そ、それは?」

蝉の煩い鳴き声が聞こえ、汗がさらに溢れて出てくる。そう思えば……もうそろそろで7月か。

「共犯者がいる」

「へぇ?」健一の意外な、いや馬鹿さ加減があまりにも酷かったので変な声が出てしまった。
しかし、当の本人は俺を真面目な顔でじっと見つめている。

「それでどういう根拠があるんだよ?」

「お前にはまだ話していなかった事があるんだ……」

「俺に話していない事? それはどんなことなんだ?」

「それは……」

健一が何かを言おうとした時、真弓が俺達に「何、話してんの?」と話しかけてきた。

「あぁ……いや、なんでもねぇーよ」

俺が真弓を誤魔化すが、真弓は何を話しているのか気になっている。

「もう、教えてよ。 私にも」

「男同士の熱い話だから、無理だ」と健一が言うが、真弓は引き下がらない。

「ねぇ〜岬ちゃん。何かこいつら怪しい事してるよ!」と真弓が岬に助け舟を出した。

「ほっときなさいよ。真弓ちゃん。こいつらはろくなことをしないんだから」そう言いながら、岬は真弓に見つからないように俺にウインクしてきた。ウインクというよりも、それは芽を瞑っているようにしか見えなかったけど……

「もうぉ……いいや」と言って、真弓は岬の元に駆け寄った。

「健一、今日の放課後話を頼む。俺からもお前に話していないことだらけだからな」

健一に全てを話そう。今まであったことを。そして少しでも気を楽にしよう。俺はそう思った。

放課後。

本当ならば、皆で残って最後の打ち合わせなどをしなければならなかった放課後。そんな放課後に俺は教室にはいなかった。もちろん、健一もだ。俺は「腹がいたい」という理由で放課後の打ち合わせをさぼり、健一はホームルームが終わった後に走って逃げた。もちろん、俺は文化祭実行委員という事で真弓に帰らせないと言われたけど、岬がそこは引き止めてくれた。だけど、俺はそんな岬に少しの罪悪感を持っている。岬は俺の事が好きだからということを利用して、俺は岬に迷惑をかけている。できるだけ、早めに返事を返すべきだ。

「俺は恵梨香が好きだ」と。


こうして、俺と健一は俺の家に集まった。集まったと言っても、二人しかいないけど。適当に健一を座らせ、冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぐ。

「あのさ、俺の家は烏龍ウーロン茶だけど大丈夫か?」

もう、コップに注いだ後だったので無理矢理でも飲ませるつもりだったけど。

「あぁ、大丈夫だ。寧ろ、お茶の中で烏龍茶が好きだ」

「あっ、そう」

そして俺はお茶の入ったコップを健一に渡す。

ありがとうと健一は言いながら、もう一杯飲みやがった。そしておかわりと俺にコップを差し出した。俺はやれやれと思いながらもコップを受け取り、冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルを持ってきて勝手に飲んでくれと要望した。
すると、健一はコップにお茶を注いだ。

そして、俺に喋りかける。

「よし、本題に入ろう。わざわざ、文化祭の準備を抜け出してきたからな」と少しだけクラスの皆に対する罪悪感を表したが、すぐにいつものヘラヘラした彼に戻った。

「あぁ、頼むよ。健一。俺にお前の話を聞かしてくれ」

俺がそう言うと、彼は彼の物語を語り始めた。

彼の今までの話と彼の今後の話を。

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