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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

18 不審者

俺の目の前にあの危ない女がいる。

俺が昨日、出会った女がいる。

いや、出会ったというのはおかしい。

俺が見かけた。俺が尾けていった女がいる。

俺と朱里が気づいているという事は、もちろん相手にも俺と朱里がいるという事は分かる。

だから、危ないのだ。危険すぎるのだ。

手に刃物、今回は包丁ではない。

奴が手に持っているのは、刃渡り30センチのノコギリの様だ。

あんなモノを持たれていたら、血が飛び交う事は間違いないはずだ。そう、俺の血が。

だけど、できればそれも避けたい。

裂けるほどに避けたい。

だけど、朱里をちゃんと家に帰らせるまではどうにかしなくちゃいけない。


ならば、どうするべきか?

警察に電話をかける。

いや、ダメだ。警察に電話かけてしまうと、奴を逆に刺激しかねない。

ならば、奴と闘うしか……。

そっちのほうがさらに刺激する可能性が高い。

でも、朱里を無事に帰宅させる事ができるほどの時間だけは確保、いや稼ぐ事はできる。

しかし、そうなると俺の身体がノコギリによって切り刻まれる事は回避できないようだ。

時間はもう、無い。急げ。

答えを出さないと共倒れの可能性もある。

「朱里、作戦を考えた」

「何ですか? 渚君」

冷や汗を拭いながら、朱里が言った。

「俺が時間を稼ぐ、その間に警察に電話をかけろ」

「えっ? 危ないよ、無理だよ」

朱里が長袖から半袖に移行した俺のTシャツを強い力で引っ張った。それはまるで、だだを捏ねるような幼女のようだ。元々、身長が低い朱里は小学生は言い過ぎだとしても、中学生としても通用するような容姿をしている。

そんな彼女にかっこいい所を見せる為では無いが、かよわい女の子が変な奴に、それもこんな見るからに危ない奴に遭遇したとなると助けるという行為は当たり前だ。

だから、俺は、今立ち向かう。

この不審者に。

「早く、電話をかけろ。朱里!」

俺の言葉と同時に朱里がスマートフォンを取り出し、警察に電話をかけ始めた。

その時、奴が動き始めた。

手に刃物を持って、ノコギリを隠すこともなく、俺と朱里に自分の恐怖を、自分の恐ろしさを魅せつけているかのように。

「さぁ、来い。俺が受け止めてやる」

俺は叫んだ。

この行動は相手の攻撃を自分に向ける為だ。

これだけの自己主張をして、相手が俺を避けて朱里に刃を向けるとするならば、それは相手が余程の異常者だという事が証明される。

だから、俺はこの不審者がまだ人間という存在を忘れていないと賭けたくなり、俺はこのような行動を取った。

しかし、俺の願いは虚しくその女は、俺をさらりと避けて、朱里をその刃渡りで突き刺した。

「う、うそ………だろ?」

俺の言葉は暑い夜に掻き消され、朱里はしゃがみ込むような形で倒れた。

「なぁ……嘘だろ? なぁ……おい……」

俺のとてもとても悲壮感漂う声によって、奴が振り返った。

「なぜ……お前は自分の手を自分で切ったんだ?」

こいつは異常者だ。
以上な程の異常者で俺がこの状況を移譲したい程に身体から異状に汗が出てきた。

あれ? 刺されたのは朱里じゃないのか? と疑問に思う皆様方の為に分かりやすく、さっきの状況を説明するとしよう。

 俺を避けたその女は確かに朱里を刺そうとしていた。しかし、朱里事態は刺されると自覚していた、それが今回の朱里が倒れる要因の一つ。

人間の認識というモノは、とてもとても単純にできている。例えば、今この物語を読んでいる方々は全員、梅干し(特に酸っぱいものであれば何でもいい)を食べていると頭の中で認識しただけで口に唾液が溢れ出る方がいるかもしれない。そういう方はこの影響を受けやすい。そして、彼女の場合はこれが良く当てはまっていた。さらに彼女が倒れてしまった理由は、読書を頻繁によく行うという事も当てはまる。読書をするという行為で想像力が豊かになっていて、刃物を持っている人が近づいてきているということは自分は刺されると感じていた。というか、そのような本を読んだことがあった。と、考えるのがいいかもしれない。

そして朱里に強い衝撃、今回の場合は不審者によるただのグーパンチだけで自分が刺されたと勘違いし、朱里は気絶してしまった訳なのだ。

回想終わり。

理由さえ分かれば、簡単過ぎるトリックなのだ。


「ふふっ、敵に向かってそんな言葉をかけるなんて優しいね。でもね、その優しさは人を不幸にすることだって、あるんだよ」

奴はそう言った。

低いような高いような本当に不気味な声で。

「なぁ、聞きたいことがある。なぜ、俺達をいや、俺を刺さなかったのか?」

俺は疑問に思ったことを問いただした。

だって、こいつは、女性と思われるその人物は俺を刺そうと思えば刺せたのだ。

しかし、刺さなかった。

それならば、彼女は異常というよりもまだ、普通の、ただの一般的な思考回路を持っている人間ではないのか。

でも、そうなると刃物を持って夜道を歩いている時点でおかしい奴というのはしょうがない、逃げられない事実なのだが……

「それはね、私が貴方に特別な感情を持っているからさ」

彼女は、はっきりと俺と朱里に聞こえるようにその言葉を発した。

「俺を知っているのか?」

俺のあまりにも滑稽な表情をしているかは知らないが、不審者は声を荒げて笑いだした。

本当に失礼な奴だ。と言いたい所だが、そんな余裕は無い。もしかしたら、また刺されるかもしれないのだから。

「さぁ〜な。私は、あんたを知らない。だが、あんたと同じような存在、人間を知っているだけさ」

ならば、要するに俺は奴を知らないだけという事でその俺と同じ人物に似ているから俺に特別な感情を持っているという事でいいのか?

それとも、この特別な感情というものは『好き』では無く、『殺したい』という感情であるのかもしれない。

だけど、どちらにせよ。

動機が無いのが、事実だ。

どこかのサスペンスドラマの名探偵がこんな事を言っていた。

「動機が無ければ、事件は始まらない」と。

だけど、この異常な事態が現時点で現在進行形で進んでいるのだから、彼女は俺にとっても特別な存在なのかもしれない。

「俺達を狙う理由はなんだ?」

あまり刺激しないようにそう告げる。

「悪い。時間切れだ」

彼女はそう言って、暗闇の中に消えていった。

それが彼女と俺の初めてのファーストコンタクトとなった一日であった。

 俺は不審者がいなくなった後、すぐに朱里の元に駆け寄った。

「おい! 起きろ……朱里」

俺が朱里に声をかけるが、彼女は目を覚まさない。

「おい! 起きろって!」
それでも彼女は目を開けなかった。

ちょっと、顔でも引っ張ってみるか。

いや、ぷにぷにしてやろう。

この日、俺は変質度も一緒に上がったのであった。

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