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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

17 不況

「あ、渚君! 何やってるんですか?」

軋む音の正体、いや犯人と言ってもいいだろう、その人物は古宮朱里だった。

「びびらせるなよ……俺は文化祭の催し物の準備だよ」

朱里は不思議そうな顔をして、周りを見渡し、俺を二度見してきた。

そして、彼女が口を開く。

「あの、一人で?」

俺を小馬鹿にするように彼女は言った。

今の発言はこの世界に住む、いやこの宇宙全体にいる『ぼっち』という種族全員を敵に回したぞ。俺は、ぼっち(仮)みたいな存在だからまだ大丈夫だったけども、今の言葉を佐藤君に聞かしたら、更に厨二病が悪化するからやめようね。

「あぁ、そうだが。何か問題でも?」

胸を張り、一人である事を誇らしげに俺は答えた。

「あぁ……そうですか」

朱里は俺を憐れな目でじっと見つめてきた。

その目は、ダンボールの中に入れられた捨て猫を見ているような目だ。

もしかして、朱里の中では、俺と捨て猫は同等として認識しているのかもしれん。

「ところで、渚君。私が貸した本読みましたか?」

目つきを輝かせながら、犬の様に俺に近づいてくる。

「あぁ、読んだよ。全部」

「えっ? 全部読んじゃったんですか? あれって結構長いのに……」

俺を尊敬するような眼差しで見つめてくる。

さっきは捨て猫だったが、今は彼女にどんな認識をされているのか気になる。

「あぁ、徹夜して読んだよ。話としては、今回も傑作だったぜ」

うんうんと頷きながら、彼女は俺に突然こう言った。

「あの、私の家に来ませんか?」

「えっ?」

素の声が出てしまった。

だって、いきなり『家に来ませんか?』って言われたらしょうがないじゃないか。

「ああぁぁ、そんなつもりじゃないです!」

朱里が何かを悟ったように手を慌てて、パタパタして弁解。

「ちょっと、期待したけど。胸が小さいからな」

あ、しまった。やらかした。

心の声というやつが出てしまったようだ。

俺が恐る恐る彼女の顔を見てみると、彼女は顔を真っ赤に染めていた。

「あ、ごめん。つい、心の声が……あ、ちょっと待って! たんま! 胸が小さいは無し。朱里の胸は大きくて本当にボリューミーでぷにぷにしてていい感じだよ」

この時の俺は自分でも何を言っていたか、なんて事はわからない。ましてや、朱里の方は何て言っているのか分かるわけがないだろう。

「あの……一つだけいいですか?」

顔を今も真っ赤に染めた彼女がこう続ける。

「胸が大きい女性と胸が小さい女性、どちらが好きですか?」

彼女は真面目な面持ちでこちらを見つめている。

これはガチの質問だ。これはつまり、朱里が胸にコンプレックスを持っているという事だ。

ここで選択肢を間違えると下手したら、彼女を一生苦しめる事になるかもしれん。

こういう場合、どうするべきなのだろうか?

俺は、割と真剣に考えた。

普通に考えて、胸という二つの果実は男性には無くて女性特有のもの。だからこそ、我等男性諸君は胸というものに興奮を抱く。

結論、大きいに越した事は無い。

しかし、これで本当にいいのか?

俺に疑問が残る。彼女がこれでショックで寝込んだら、岬の様になったら、そんな思いが俺を過ぎった。

でも、もしかしたら朱里は本心を聞きたいかもしれん。

それなら、きちんと答えるべきだ。

そうだ、俺は嘘は好きじゃないんだ。

ちゃんときちんと言おう。

こうして、俺は決心がついた。

「俺は大きい方が好きだ!」

俺の言葉に彼女は俯いて、涙を流し始めた。

えっ? これって俺のせい?

「朱里……」

俺に縋るように泣きついてくる朱里を慰める。

「『舌切り雀』って知ってるか?」

泣くのを止め、俺を下から覗き込む。

「それがどうしたんですか……」

より一層、泣きついてくる彼女をいいこいいこと頭を撫でる。

「この話は、最終的に大小二つのつづらを貰える事になるだろ? 大きい人は不幸を見て、小さい人は幸せになれる。だから小さくてもいいんじゃないのか?」

「うぅぅ〜〜 納得できません……」

眉をハの字にして、こちらを覗き込む。

「今は、納得できなくてもいいさ。いつか、ちゃんと分かってくれる人がいるはずだ」

自分も朱里と同じ年齢なのに少し偉そうに俺は答えた。

そんな大人振っている俺を嫌そうに見つめる訳でもなく、彼女は俺を尊敬するようなに眼差しでこう言った。

「なら、渚君は小さい胸の人を愛せますか?」

蝉の鳴き声がどことなく聞こえてきた。

こんな時間帯に何のようだろうか?

朱里の質問を遮るように蝉の鳴き声が聞こえてきたせいで、朱里の声が聞こえなかった。

本当に困る蝉だ。

「あの、悪いんだがもう一度言ってくれるか?」

俺がそう聞き返したが、彼女の口が動く事は無かった。

 少しぷんぷんしている朱里と俺は一緒に帰る事にした。道も暗いし、男がいたほうが朱里も嬉しいはずだ。俺はそう言い聞かせながら、俺って意外とリア充だな、と淡い幻想を抱きながら道を歩く。

「あぁ、それで家に来てってどういうことだったんだ?」

さすがに無言帰宅というのは、話的にも青春的にも今の状況的にも不味いので俺は口を開く。

「あ、そうでした! 本の続きを読みたくないですか?」

今まで本当に忘れていたようだ。(本人の心の中が分からないので、俺の主観でしかない)

「読みたいね。それで家に来いと?」

「はい!」

女の子を家まで送るという以下にもな言い訳というか条件ができた。これで恵梨香にはお咎め無しだ。

ってあれ? 俺と恵梨香は別れているはずなのに、俺は恵梨香の事を思っているのだろう。

その後、俺と朱里はお互いに自分の好きな作家の話や本の話、漫画の話やアニメの話をした。

朱里とそんな話をしていると俺は懐かしい記憶が蘇ってきていた。

七海と一緒に会話した日々を。

七海と一緒に会話した約4ヶ月の日々は本当に今の俺を創っていると言っても過言ではない。

そうおもえば、彼女は俺と一緒の高校を目指すとか何とか言っていた気がする。

七海……今、どうしてんだろう。

「な、渚君! 聞いてますか?」

朱里が俺を心配そうに見つめている。

「あぁ、ごめん。ぼっーとしてた」

「もうぉ、心配するじゃないですか? いきなり、喋らなくなったら」

「あぁ、すまん。ところで、家まであとどのくらいかかるんだ?」

朱里はすぐ近くに見える洋館の様な家を指差しながら、「あれですよ」と答えた。

朱里らしい家と言えば、朱里らしいが……何というか、日本にこんな家が本当にあるんだなと俺は感嘆の声を上げていた。

そんな時だった。

手に刃物を持ったあの不審者が現れた。

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