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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

13 決意

恵梨香とは勿論、会話なんてものはできなかった。
チャンスはあった。何度でも。しかし、そんなチャンスを葵が全て食い止めるのだ。
何の為にかはわかなかったけど。

俺と真弓は教室へと戻った。岬と違い、真弓は俺の隣でずっと歩いてくれていた。本当にいい人だ。別に岬が悪い人って事を言いたい訳じゃない。
俺は、自分の席に戻り、今日の宿題を確認しながら、鞄に教材を入れる。
外からは部活動をしている生徒達の元気な声が聞こえる。

俺はその時、不思議に思った。
真弓って、部活動なんかやってんのかな?
俺は気になったので聞いてみることにした。

すると、彼女は「私はやってませんよ。学級委員で精一杯ですから」と応えた。

「あのさ私からも一つ質問いいかな?」

「なんだ? 委員長」

「委員長は、やめてって言ったよね。名前で呼んでほしいって」

「あぁ、そうだったな。でも、俺は真弓よりも委員長という方が言いやすしいな。ちなみに、なんで名前で呼んでほしいんだ?」

「だって、みんなと仲良くなりたいじゃない? それなのに委員長って言われるのは、何か嫌なんだよね」
真弓も岬程では無いが、皆から避けられている。でも皆は真弓や岬と仲良くしたいと思っている奴で沢山いる。だってこんなに可愛いし……

「そっか。確かにそれわかるかも。俺も昔、本が好きでずっと読書ばっかりやってたから、読書家なんて言われてた頃はイライラしたからな」

遠い日を思い出す。
恵梨香と一緒に笑った頃。恵梨香と一緒に泣いた頃。恵梨香と一緒に。恵梨香と一緒に。という俺の過去を思い出す。

そして、自分が恵梨香とずっと一緒だったんだと思っていると目から涙が溢れてきた。

女の子がいる前なのに恥ずかしいという気持ちがありながらも涙だけは止まる事ができない。
俺は、彼女に顔を見せないように後ろを向きながら帰る準備を続ける。

「へぇ〜 読書家かぁ。でも今ではそんなに本とか読まないでしょ?」

真弓は俺の涙には気がついていないみたいだ。
助かった……

「まぁ〜な。学校の勉強で精一杯だし、それに彼女の恵梨香が……」

俺は涙が止まらなくなった。だって、俺は恵梨香が好きだから。恵梨香が本当に好きだから。だって、恵梨香が側にいてくれた日常が俺にとって当たり前だったのに……居なくなった。

それがどんなに苦しいことなのか。

もう、恵梨香の側に俺はいない。

恵梨香の側に居るのは、あの葵と名乗る男だ。

なんで? あいつなんだよ……なんで?

俺じゃなくて……あいつなんだよ……。

悔しいという気持ちよりも、妬ましい気持ちが胸を押し殺す。

くっ、苦しい……本当に好きな人がいるってこんなに苦しいんだな。

「それに?」真弓が心配そうにこちらを見つめ、返答を待っている。

「ごめん……この先はまた今度でいいか? 今は整理がついてないから」

彼女が俺に近づいてくる。
泣いている俺に近づいてくる。俺を心配そうに見つめながら。

「あ、私の方がごめん。言いたい事は察したし。でも、一つだけいい?」俺に優しく問いかける。

「あぁ、いいよ」

「何であの時違うって言わなかったの?」

俺はこの瞬間頭にハンマーで殴られた様な感覚に陥った。
こいつは気付いていた?
俺がやっていないということに。

「ん? 何言ってんだ?」

「だからね。なぜ、渚君はあの日嘘をついたのかな? ってさ」

「お前もしかして……気付いていたのか?」

真弓がゆっくりと頭を動かした。

「だって渚君分かりやすいんだもん!」

俺の事を信じてくれる、分かってくれる人がこんな身近にいたなんて……

「それは良かった。かなり嬉しいよ。真弓」
俺は真弓の手をいつの間にかに強く握ってしまっていた。
かなり嬉しかったんだろう。
真弓も顔をかなり赤くして俺の手を握り返してくる。
そんな手の温もりをずっと味わっていたかった。

 真弓が今日は用があると言って帰ってしまい、一人教室に残ってしまった。
ただ一人の教室というのは居心地が良かった。最近は頻繁に後ろで指を立てられていたからかもしれない。
後ろで指を立てられるという行為が悪いか悪くないかと言えば悪いことであるが、後ろで指を立てられるということは何かしらの原因がある。
その原因こそが、twitterだ、俺はあの日の事を思い出した。
不可解な点ばかりが残る。まず、岬が犯人と疑われた理由。勿論彼女のアカウントらしきものだった。だが、彼女はあんなツイートをしても何のメリットにもならない。
それと岬と恵梨香が自分が犯人だと言った事。岬は自分を犠牲にしてこの話を早く終わらせたかったと考えるのが妥当だろう。だから彼女はtwitterはやってもいないのに自分がやったと言ったのだ。
なら、次に恵梨香だ。恵梨香の場合は本当に謎である。確かに恵梨香が仮に犯人だったとして岬に対し動機が無い。
岬が俺に耳元で囁いた瞬間を見てキスをしたと勘違いし、岬の偽アカを作りあんなツイートをして、翌朝、恵梨香が学校に行く。
岬と俺が付き合っているという噂が勝手に学校で広まり、それを聞きつけた恵梨香が俺のクラスにやってきて自分が本当の彼女だという。
そうなれば周りの目は俺が二股をしたとなる。こうして恨みが晴らせたということなのだろうか。
だけど、そんな計算高い奴ではないだろう。
でも他に思い当たる節が無い。

「恵梨香……」
つい、ぽいっと頭の中で思っていた単語が口に出た。
静かな教室で俺の言葉は掻き消されることもなく、じわぁーと空間に広がる。何とも言えない変な気持ちになりながら、一人自分の机でぐたぁーとしていると下校の時間になった。
ぐだぁーとしている最中もずっと涙が止まらなかった。
教室を出て、階段を下り、靴箱に入っている靴に履き替える。
すると、突然胸にくるものがあった。
「何で俺って素直になれないんだろう……」と紅に染まる夕日を見ながら呟く。
なんだか無性に走りたくなった。動機は無い。ただ走りたかった。
だから、思いっきり走った。そして泣いた。
今までこんなに走った事は、無いだろうと思うぐらい走ったし、こんなにも泣いた事は無いだろうと思うぐらい泣いた。泣きながら走りまくる。
そんな俺を見て、皆は俺の事を『変人』と思ったかもしれないが……関係ない。
電車の中でもずっと俺は泣き続けた。
本当に本当に恵梨香がこんなにも自分の支え、自分の生きる意味、存在価値、になっているとは思わなかった。失って気づくものがあるとか、どっかのアニメやドラマとかで見たことがあったけど、どうせそんなものは無いと思っていた。だって、失って大切なものなんてものは実際それは失わないと大切では無いという事になるからだ。だから、俺はそんな考えが嫌だった。

だけど……この気持ちは本物だ。

俺は本当に恵梨香が好きなんだ。

恵梨香が……恵梨香が……本気で好きだ。

家に泣きながら帰宅した。母親は俺を見て心配しているが、そんなのを無視して俺は自分の部屋に入り、ベットに寝転んだ。

も、もう……何なんだよ。本当に……本当に……

こんな気持ちになったのは、初めてだった。

だけどさ、どうすりゃいいんだよ。


ピコン!? LINEの通知音が鳴る。
俺はその音に反応して、目を開けた。
どうやらいつの間にかに寝てしまったらしい。

「ったく……誰だよ」と愚痴りながら重い身体を無理矢理起こし、机に置かれているスマホを取る。

LINEを起動して、通知を見る。

「話があります。いつもの公園で待ちます」

恵梨香からのLINEだった。

俺は急いで家を飛び出した。

俺の……俺の……幼馴染に会うために。

もう、彼女ではない幼馴染に会うために。

俺は、公園まで走る。
はぁはぁと凄いぐらいの息切れさせながら。

指定された公園に着くと、彼女がベンチに座っていた。
足をぶらぶらとさせている。
俺と恵梨香の初めて出会ったこの思い出の場所で。

汗だくの身体を動かし、俺は、恵梨香に近づく。

「ハァハァ……。え、恵梨香……待たせたな」

息切れをしてかっこ悪い自分がいるが、しょうがない。
だって俺は早く君に、恵梨香に会いたかったんだ。

だって、しょうがないだろ?

本当に好きなんだから……しょうがないだろ?

「遅かったね。夕君」

恵梨香は元気がなさそうだ。

「ひ、久しぶりだな。恵梨香。あのさ、ちょっと時間くれ」

恵梨香が小さく頷き、俺は息を整える。

「それで、話ってなんだ?」

俺は率直に聞いた。

「あ、うっうん。あのね、私。葵君と付き合ってるの。だから、はっきり言っておこうと思って、私と別れてほしいの」恵梨香は俺をしっかりと見つめ、はっきりとそう言った。

「おい……恵梨香。嘘だよな?」

俺はそれが嘘であってほしいと、現実逃避をするように恵梨香に訊き返す。
だけど、現実ってのは甘くない。
「いや、本当だよ。私、葵君が本当は好きだったの。ずっと前から好きだったの!」
彼女が涙を堪えるように言った。その言葉は俺の胸にグサリと刺さる物があった。

「嘘だ……そんなの嘘だ」
否定したい。恵梨香の言葉を排除したい。

「いや、嘘じゃないもん! 私……本当に葵君が好きなの……」
彼女が辛そうに表情を隠しながら言う。
そんな恵梨香の表情を見て俺は過去を振り返る。
俺の幼馴染のことを。
こいつは昔から何も変わっていないのだ。
笑い方、怒り方、悲しみ方、喜び方、そんな恵梨香を知っている。
勿論、彼女の嘘の付き方までも。

「おい……恵梨香。嘘つくなよ」

もう、嘘はつくのはやめろよ。

幼馴染だから、嫌でも分かるんだよ。

今さっき、はっきりと振られたけど分かるんだよ。

こっちが何年恵梨香の幼馴染やってると思うんだよ!

お前が嘘を吐くときは俺の目をしっかりといつも見てんだよ。

「どうして? 嘘とか言うの?」
鼻を啜る声と共に放つ彼女の言葉はとても弱弱しかった。

「今まで何もできなかった。気付いていたのに……臆病だったから」
言葉が詰まる。言いたいことは山ほどあるのに喋れない。上手く舌が回らない。
って、あれ? 何で水滴が?
俺は自分の顔を触る。そこには水滴が流れていた。
こんなに暑かったし、汗が出たのだろう。そう思い、彼女の方をもう一度見つめる。
すると、視界が歪んで見えた。
俺は目をごしごしと擦る。すると、目が濡れていた。
これは涙なのか。俺はやっと理解した。
自分が涙を流していたということに。
なぜ、気づかなかったのだろう。
俺って、本当馬鹿だよ。

「いいの、夕君。気にしないで! 私は大丈夫だから! それより……夕君、やっぱりあの日から」
恵梨香が俺を心配した表情で見つめる。俺の事なんてどうでもいいんだよ。
俺は恵梨香の心配なんだ。
分かるんだよ。だって、俺は幼馴染だから。

お前が本当に『助けて』って言ってる時は、我慢してるって分かるんだよ。

だから俺は、何も言わずに恵梨香を抱きしめた。

恵梨香が俺の身体をどけようとするが、俺は離さない。

もう、二度と離さない。

この女の子を俺は離さない。

「や、やめて!! もう……私と夕君の間には何も無いんだよ。私達、もう恋人じゃないんだよ」

恵梨香が、俺の元彼女が、涙を堪えるのを止め、今まで溜めてきた、蓄積していた涙という名の心の叫びが流れ始めた。
その涙は今まで見てきた涙よりも透明で美しく見えたが、俺はその涙がとてもとても残酷だと思った。

「俺の恵梨香に対する『好き』っていう感情は今まで以上に強くなる。だから、俺にも一つぐらいわがままさせてくれよ」

もう、自分に嘘はつきたくない。変な形だったがやっと言えた。
まだはっきりとは言えてない。だけど、これが一歩だ。新たな段階ステップへの。

今まで『好き』という感情を素で出したことが無かった自分に対する後悔と恵梨香に対する償いを行う為に。


俺は、今、正直になる。

「わ、わがまま?」彼女が涙を必死にこらえて、俺に訊ねる。

あぁ、そうだ。わがまま。

俺は何かを決心したかのように口を開く。

「恵梨香がどんな男を好きになっても、俺は何も言わない。だけど、俺が恵梨香の事をずっと好きっていう感情は残してもいいかな?」

俺は恵梨香が好きなんだ。

この世界を壊してもいいぐらいに大好きだ。

実際、いつから好きになった? と訊ねられると困る事は無く、今、その言葉を言うことができる。

『俺、渚夕は今、この瞬間、君を好きになった』と。

「な、なんで……そんなこと言うのよ。私だって……私だって……」

「なんでかって、聞かれると困る。だけど、あえて言うなら、俺達が"幼馴染"だからだろうな」

「幼馴染?」

「あぁ、そうだ。俺と恵梨香は幼馴染だ。だからこそ、側にいるのが当たり前で俺は気づけなかった。だけど、やっと気づいたんだ。俺は……俺は……恵梨香が好きだってな」

「ゆ、夕君……」

彼女の腕に力が入る。なので、俺も腕に力を入れ返す。

もう、俺は彼女を離す気は無い。そんな離す事などしたくない。

だから、俺は取り戻さないといかない。

葵から。恵梨香という人間を。俺の幼馴染を。

俺の彼女を。

「ゆ、夕君……私はどうしたら、いいの?」

彼女が泣きながら、俺にそう言った。

どうしたらいいか、俺が恵梨香を導いてやるよ。

だって、本気で俺は君が好きなのだから。

「ずっと、俺の側にいろ。俺がずっと守ってやるから」
俺はそう言い切った。
俺はもう恵梨香と元の関係に戻ることは無理かもしれない。
ただ、幼馴染という関係だけは崩したくない。

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