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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

11 最初の一歩

健一と学食で会話した日から三日後の放課後。
岬は勿論学校にあの日から来ていない。
他人の事なんてどうでもいいけど。
そろそろ、家に早く帰ろう。
もうあの光景は見たくないし。俺はあの日を思い出す。

—―俺が家に帰ろうと思い、下駄箱に着いた時だ。
楽しそうに会話している葵と恵梨香の姿があった。
俺は二人に気付かれないように走って教室に逃げた。
もう、俺と恵梨香が元の関係に戻れないと知ってしまった。
少し前まで俺は思っていた。
まだ、大丈夫と。まだ、分かり合えると。
だけど現実はいつも残酷だ。
これがフィクションとノンフィクションの違いだと心の底から感じられた。

「おい! 何ぼぅーとしてんだよ!」
後ろから、身体を突かれた。
めんどくさいと思い、後ろを振り向くこともせず、何の反応もしなかった。

「はぁぁぁ……」

深いため息が後ろから聞こえる。
しかしそれも全て無視。
こっちの方が溜息つきたいんもんだ。

「お前さ、そろそろ本気で正気に戻れよ! 見てるこっちがイライラすんだよ」

はぁ? イライラする?
なぜ、お前がイライラするんだよ。お前には関係ないだろ。
まじで意味がわかんねぇー。

「もしかして、哀れな自分かっこいいと思ってんの? まじでだせぇーよ、そういうの。ちゃんと言いたいことがあるんなら言ってみろよ」

クラスがざわつき始める。

「もうー止めて!」
女子生徒の声が聞こえるが、健一はさらに俺を罵る。

「本当にお前は可愛そうな奴だよ。そう言われたいんだろ? ほら、俺が何度でも言ってやるから正気に戻れよ。かまって君」
教室からどっと笑いが溢れる。

だけど、俺は口を開かない。

「あぁぁーだけど、本当に可愛そうだよな。恵梨香ちゃんも、こんな奴と付き合ってたなんて。本当に、可愛そうだ。もう、ほんとに。こんなクズな奴と付き合うなんて」

教室の中は笑いと共にもっとやれ的な声が上がり始めた。

「だけど、恵梨香ちゃんも恵梨香ちゃんで問題あるよな。夕と別れてすぐに葵と付き合うなんてな。
もしかして、ビッチなんじゃね? なぁ、夕お前もぉぉ—―」

俺の手は、腕は、身体は勝手に動いていた。
身体全体の全体重、今までの自分の怒りも込めて拳に力を入れ、俺は健一の顔面を思い切り殴った。
健一は俺の不意打ちに対応できなかったみたいで床に倒れた。
その瞬間、笑いが一気に消え俺を見る目が変わった。
何か敵を見るように。獣を見るみたいに。

教室を一瞥して、俺は口を開いた。

「この中に恵梨香の事を馬鹿にする奴は俺が許さない。先に言っておくが、恵梨香は俺以前に誰とも付き合ってなんかいない。だから、ビッチなんかじゃねぇーよ」
大声で俺は恵梨香の疑惑を解いた。
こんな風にあの時もちゃんと言えていればと後悔の念が残る。

健一が立ち上がった。
俺は後ろに下がることも、脚を竦むこともせず健一に向き合う。
健一が俺に手を差し出した。
俺はその手を握りしめる。少しごつごつしているが、生きてるっていう感じがした。

「悪かったな、さっきは……。酷いことを言って」
健一が殴られた箇所を擦りながら言った。
真っ赤になってかなり痛そうだ。

「そうか……。分かってくれればいいんだ」
俺はそう言い残し、鞄を持って走って帰った。
何か、健一が言っていたけど聞こえなかった。

ってあれ? なぜ、涙が?
俺は涙を拭った。

時間という概念はなくなった。なんて、格好の良い事を言ってみたいものだ。
だけど、俺にそんなことを言うことはできない。
俺は主人公じゃないから。アニメや漫画に出てくるような、容姿もあまり良くないし。
そして何より、俺には学園ラブコメなんて概念が無い訳ですし。
まぁ、ってわけで俺は主人公にはなれない。以上、終了。
そんな風に終わらせていいのだろうか、と自分の心に疑問を問うが答えは返ってこないので諦めよう。
もう、俺は諦めるしかないみたいだ。
もうこの世界を。この現実を受け止めて生きていかなければならないようだ。
恵梨香がいない青春を一人楽しむしかないのだ。
でも、いいさ。それで恵梨香が笑顔になれるのなら。
自分にそう言い聞かせ、今まで溜めていた気持ちを一気に口から吐き出す。
良い気持ちになれた訳では無いが、何か吹っ切れた気がした。
何も解決していないのに。誰も救われていないのに。
だが、それが青春なのだ。自分が探し求めたもの。
青春ってのは楽しいだけじゃない、苦しいこともあるのだ。
楽な青春なんてものはない。それが現実だ。
人生舐めんなって話だ。

「あぁぁ……うぜぇー」
自分の素直な気持ちがふと、出てくる。

別にうざいとは思っていない。ただのかまちょだ。
誰かが俺にかまってくれると願っているだけだ。
自分の膝の上に置いた鞄の重さが俺をかまってくれる。自分が情けなく思うが、そんな思考は排除。
考えるという行為は疲れるし。何より、考えても答えは出ない。
人生ってのは哲学なんだよ。格言的な迷言を残し、揺れる電車から夕陽をのぞき込む。
夕日はとても輝いていて、幻想的だ。

「おい……恵梨香! 見てみろよ、外が綺麗だぞ……」
外から目を離し、向かい側にいつも居た相手に声を掛ける。
しかし、返事は返ってくるはずがない。だって彼女はもう……俺の彼女ではないのだから。
言った後に後悔をしては悔やむ。
それがこの世界だ。あの時、言わなければ。あの時、あぁしていれば。
そんな後悔の集合体が奇跡を生んでも俺は良いと思っている。
だって、失敗は成功の元とかいうじゃん。
それに俺は勝者とか敗者とかが嫌いだ。
だから中学時代に生徒会の手伝いから逃げるように天文学部を勝手に造った。
自分だけの空間を造ろうと、自分だけの逃げ場を造るために。
でもしょうがないじゃん、敗者の俺はこんな行動しかなかったのだから。
もう、本当に馬鹿らしい。俺の人生って後悔しかない。
どうやら、駅に到着したようだ。俺は電車を降りる。
そのまま家に帰ればいいものを俺はハンバーガ屋にいくことにした。
ただの何となく。自分の生活に変化が欲しかったから。
ハンバーガ屋までは駅から近い場所にあるのですぐに着いた。
ちなみにそのハンバーガ屋はファミリー層に人気で赤と黄色が基調とされたシンボルマークだ。
時間帯も時間帯ということで人は少なかった。
「ご注文は何にしますか? って、ゲッ!?」
聞きなれた声だと思った。おまけに変な対応をされた。
俺は俯いている頭を上げ、店員を確認する。
「み、岬……か、何やってんだよ……」
俺の目の前には美少女が現れた。いつも制服しか見たことが無かった岬を見れたことが嬉しかった。
といっても、岬の姿は今もハンバーガ屋の制服だけど。
「何やってんだよは、無いんじゃないの? とりあえず、私バイトもう終わるから待ってて」
「いや、俺忙しいし……」
待っててと言われても待つわけないだろ。
歩き食いしようと思って来たのに、これじゃ店内で食えってことじゃんかよ。
リア充(笑)連中どもと一緒にいるのが辛いので適当に断った。
勿論、忙しい訳などないけど。
「残念ながら、それは無理。却下! 貴方に拒否権は無いの? 分かる? それに貴方のせいで私はこうやって働いてるのよ。だから、待ってて! それでご注文は何?」
確かに俺のせいだ。俺が全部悪いn。
本気で申し訳ない。全部、俺が悪いんだ。
憂鬱な気持ちを抱きながら彼女の質問に答える。
「ポテトМ一つ」
「それだけ?」
岬が可愛らしく、小首を傾げる。
あのですな、俺は小遣いとか貰ってないの。
だから、金がないの。分かる?

「おう……」とだけ、伝え岬から番号が書いた紙を貰う。
列から少し離れ、スマホを触る。
そして俺は一人にやつきながら、Twitterで『ハンバーガ屋なう』とツイート。
すると、すぐに一件のいいねが付いた。
俺のツイートにいいねを押してくれる人の名前は『なえこ』という人だ。
顏も名前も知らない。勿論、相手も知らないだろう。
しかし俺のツイートにすぐにいいねを付けてくれるのでbotと思うほどだ。
自分の番号を差し出し、岬以外の店員からポテトが乗ったトレイを受け取り、一人階段を上る。
何、一人で青春してんだよ……と哀れな気持ちになった。
適当に人が少ない場所に座り、ポテトを一つ口に入れる。
絶妙な塩加減が汗をかかない俺の身体を蝕む。だけど、食事って美味しいものほど身体に害があるって変だよな。

ポテトが出来たてに比べると一層弱弱しくなる頃に岬がやってきた。
さっきまでの姿ではなく、私服。
それも何かと可愛らしい衣装。白のワンピースに腰に茶色のベルトをして細い身体が強調される。
そんな岬の姿に見とれていると、「何? 大丈夫? 顔色、悪いけど?」
岬が俺を心配しながら、俺の向かい側の席に座った。
ってか、かなりいい匂いがする。シャンプーの匂い? ま、まさかな……

「いや、大丈夫だ。顔色が悪いのは昔からだ」
軽いジョークで言ったつもりが不発。全く面白くなかったみたいだ。
現実きびしー。

「まぁ、貴方のそんな話はどうでもいいの。私が聞きたいのは……」

また、その時だった。
俺が見たことがある奴がやってきた。
そいつは俺と岬の存在には全く気付いていないみたいでテーブル席に一人座った。
そしてスマホをいじり始める。
俺と岬は声が葵に聞かれないようにこそこそと会話する。

「ど、どういうことだ? なぜ、あいつが……」
岬の表情が強張る。
「もしかして、貴方。尾行されてたのかもね」
「尾行? だけど、何の為だよ?」
「そ、それは……分からないわ。だけど……何かありそうよね」
岬が顎に指を添える。
それから俺と岬が終始無言になっていると、金髪色に髪を染めた他校の生徒が階段を上ってきた。
その姿は今時のギャルそのもので俺の心を全く揺さぶるものはないものの、顔は整っている。

「何、見てるの? 本気で止めたほうがいいわよ」
俺の視線の先に気付いた岬が注意をするも視線は彼女から離れることは無かった。
だって、彼女が葵の横に座って葵に抱き着いているのだから。

「おい……岬、あ、あれ……見てみろ」
俺がそう言うと、岬が右斜め後ろを振り向く。
俺達と葵の座る席は俺たちの方からははっきり見える位置にある。
だけど、相手側からは他の客が邪魔をしていて俺達は見えない。

「こ、これは……浮気?」
神妙な面持ちで岬が俺に尋ねる。
俺が答えられるわけじゃないのに。
だけど、いいものが見れた。
良い情報が手に入った。
俺の手はスマホに伸び、カメラ機能になった。
俺のスマホの持ち方が変わったことに違和感に思った岬が俺に言う。
「貴方、何をする気? まさか……それをTwitterに載せるつもり?」
俺はゆっくりと頷く。
岬の表情が一気に鬼の様な形相に変貌した。
「貴方、自分がされていやだったことを他人にするつもり? 葵君は別にいいかもしれないけど、あそこにいる女の子はどうするの?」

「そんなもの! どうでもいいんだよ!」

「どうでもいい? ふざけないで! そんな小癪な方法で何が解決するの?」

小癪な手段? だけど、こんな方法しかないだろ。
他に何があんだよ。学園底辺カーストの俺に何ができるっていうんだよ。
まじ、ふざけんなよ。

「俺はだな、主人公じゃねぇーんだよ。だから期待されても困るんだよ」

「別に期待してはないわよ。だけど、私は貴方を信頼はしてる」

「意味がわかんねぇーし」

「私の方が分かんないよ! どうして自分が好きな人の彼氏が他の女の子とイチャイチャしているのをのこのことみていられるわけ? それでも本気で好きなの? もしかして、嘘なの? 本当なら、何か行動を起こせ! 起こせよ! 何で、そんなに呑気に冷めたポテト食ってんだよ!」
岬の目からは涙が溢れ始めた。
岬と俺の声が少し大きいせいか、周りの客から変な目で見られる。

……本気で好きだったんだよ。だから、こうやって距離が開いちまったんだよ。
悔やんでんだよ。どうでもいいと思うなら何とも思わないだろうが、だけど恵梨香の事が頭から全く離れないんだよ。こっちはこっちで問題抱えてんだよ。考えてんだよ。
これからのことと。今、俺がしなければならないことを。

「どうでもいいが質問だ。この世界に主人公っているか?」
俺が自分でも意味が分からない廚二じみた台詞を投げかける。
しかし、岬はそんな質問を真面目に考え、口を開いた。

「いると思う。っていうか、必ずいる!」

「やっぱり、そうだよな」
少しガッカリした。自分が投げかけたのに。

さらに岬が言葉を紡ぐ。

「私にとって、渚君は主人公みたいだから……」
顏が少し赤くなるのを感じる。
勿論、言った張本人は顔を真っ赤に染めあげている。

だけど、何か吹っ切れた気がする。
何か完璧に。
だから、終止符を打つ為に。
そして俺の新しい物語を始める為に。
まずは小さな一歩から。
周りの人にとっては簡単な一歩かもしれないけど、不器用な俺にとっては大切な一歩を踏み出す為、俺は今、しなければならないことをする。

「岬、見ていてくれ。俺が主人公になる瞬間を」

俺はそう言うと椅子から重い身体を動かした。
そして少しずつ葵が座っているテーブルに近づける。

「あれれぇぇぇぇぇぇぇぇー? これはこれは、葵君じゃないか!? えぇぇぇぇぇぇ!!
まじ、びっくりー。って、あれ?? いつも連れている俺の恵梨香おさなじみはどこに行ったのかなぁー? もしかして、浮気とか?」ニヤニヤして言ってやった。
今までの気持ちを最大限に生かして。いつもよりキモさとうざさが10倍増しの俺の発言に一番びっくりしていたのは俺の予想を裏切り金髪ギャルの方だった。

「んっ!? どういうこと? 葵、他に女いんの?」
金髪ギャルに葵が言い寄られる。それもかなりの形相だ。
さっきの岬よりも怖い。

「あれれ? 確か、今日は一緒に帰っていたよなぁー。あれはどういうことなのかなぁー?」

その瞬間、金髪ギャルが葵に紙コップに入ったオレンジジュースをぶっかけた。
葵は「あぁ……クリーニング代がかかちゃうよ」とか言ってへらへらしている。
一方、金髪ギャルの方は葵を呆れた顔で見た後、そのまま出て行った。

「俺、お前の事が大嫌いっだわ。だから、俺はお前から恵梨香を奪い返す。そこんとこ、よろしく」
俺が葵に手を差し伸べる。
すると、葵が言った。
「僕も、貴方が大嫌いです。だから、貴方だけには恵梨香さんだけは奪われたくない」
そう言って葵が俺の手を握り返す。
この握手は別に深い意味も無い。

「じゃあ、僕は行かなければならないことがあるので」
そう言って、葵が俺の手をさっと手放した。

クリーニングだろ?
と、言いたい気持ちを抑えた。
俺はそのまま岬に元に戻る。
すると、彼女が言った。

「よくできました!」と。
その声は昔に聞いたことがあるような……懐かしいような。
そんな気がした。


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