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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

10 崩壊

「う、嘘だろ……嘘なんだよな? なぁ、岬……」

俺が岬に同意を求め、岬の小さな身体が揺らす。

しかし、彼女の首は横に動くだけだった。

5時間目が始まった後、突然岬は立ち上がり保健室に行くと先生に言った後、10分ぐらいしてから教室に戻ってきた。すると、机の中に入っている教材やノートを取り出し、鞄やリュックに入れると教室を出ていった。早退したんだろう。健一は授業中、ずっと髪をボサボサに毟ったり、「あぁぁぁ」とか言って溜息をついていた。彼も昼休みに岬を助ける事ができなかったことを悔やんでいたのだろう。俺も岬について、授業中ずっと悩んでいた。

岬は確かに、こくりと頷いた。しかし、恵梨香が犯人だと言っている。ここで矛盾が発生する。だが、一つだけ分かる事、それは岬が犯人では無いという事だ。

それはーー岬は俺の事を『渚君』と呼ぶから。あの、ツイートには確かに『夕君』と書かれていた。だから、違うという事が分かる。もしも、恵梨香も岬も犯人では無いという仮定をすると、俺は恵梨香と付き合っているという事を隠していたので必然的に動機が無くなるので俺の分からない男子という事は無くなる。

それなら、誰か? 俺と関わりを持っている奴となると、健一がいるが、俺を『夕』と呼ぶ。健一が俺を『夕』と呼ぶ事を俺が分かっている事を逆手に取り、わざとあの時、『夕君』と書き込んだとしたら……健一は確かに犯人になり得る。健一は確かに頭が良い奴だが、わざわざあんなくどい方法で俺を陥れようとは思わないはずだ。他人に迷惑をかけるような。健一はそんな事をしないと思うので白だ。

そうなると動機があるのは、葵と名乗る男か恵梨香という事になる。どちらかが犯人。

しかし、恵梨香が犯人と言っているので恵梨香が犯人という事だろう。

動機も確かにある。

だけど……だけど……俺は信じられない。っていうか、信じたくない。

***
 あれから何日が経っただろうか。俺は時々そう思う。
しかしそんなことを思っても何も解決しないことぐらいは分かっている。
だけど、もう全てが遅いのだ。

だってもう……恵梨香は俺の側にいないのだから。

俺の目の前にいるのは楽しそうに食堂で昼食を取る二人の姿。
男の方はサッカー部らしい。おまけに長身。周りからの評判は上々。
名前は確か……葵とかだっけ?

女の方は俺の彼女だった。現元彼女である恵梨香。俺の幼馴染だ。

本当に楽しそうに昼食を取っている。
イライラする。腹立たしい。
別に嫉妬では無い。
なんで、恵梨香の側にいるのは俺じゃないのかよ!
そんな自分に対する不満だ。
俺の横に誰かがやってきた。

「横、いいか?」
俺は声をかけた男の顔を見る。
少し幼い顔をした男だ。いい感じに小麦色に焼けた身体は俺の白い身体とは比べ物にならない。
こいつは俺の後ろの席の奴。

「いやだ、と言ったら?」

「それでも座る」

「あ、そう……」
俺はぶっきらぼうにそう答える。
すると、彼が椅子を引いて俺の横に座った。
少し暑苦しいので止めてほしいがすぐに俺は教室に戻るのでどうでもいいだろう。

「岬ちゃん今日も来なかったな」
「そうだな」
「心配じゃないのかよ?」
「別に……自分の事で精一杯だ」
「そ、そうかよ……。お前、本当にあれでよかったのかよ?」
嫌に決まってんだろ! この野郎!
俺があの日からどんな気持ちで日々を送ってきたと思ってんだ。
しかしそんな言葉が出てこない。発したいのに。

「まぁ、いいさ。お前がそんな生き方をしたいならずっとそうしとけ。俺は何時でもお前の味方だからな」
なんて良い奴なんだ。こんな奴が友達で良かった。

だけど……今更どうすればいいんだよ?
自分は学園の美女二人に二股かけたとして評判かなり悪いし。

「なぁ、もしもだ。もしもの話だ。俺が前みたいに戻ろうとするなら、どうすればいいと思う?」

「とりあえず、恵梨香ちゃんと岬ちゃんに謝罪することだな」

俺が謝罪? だれかが仕組んだ罠に引っかかれと?
冗談じゃない。俺が聞きたいのはそんな答えじゃない。

「だけど……お前はそれをしないんだろ? それならお前がしなければならないことは一つだけだ」

健一が間を空ける。
俺はその間に唾を飲み込む。

「犯人を見つけろ。もう、それしか無いだろ?」
そう、俺はこの答えを待っていた。

「そ、そうだよな」

「やっと動くのかよ。偽善者ヒーロー。おせぇーぞ」
健一が俺をからかう。

「いや、俺は動かない。もうすでに全て終わったんだよ」

「はぁ……そうかよ。俺、お前に期待してたのに。お前も気付いてると思うけど恵梨香ちゃん無理矢理、笑顔作ってるだろ?」
そうだよ。あいつは作ってんだよ。あんなぎこちない笑顔なら誰でも気付くっつの。
それなのに人一倍笑ってやがる。何がしたいんだよ。

「さぁーな」
俺はそう答え、食器を片付け教室に戻った。

 灰色の世界。色彩が全くなく、黒と白だけの世界。
そんな世界に俺はいる。少し前まではちゃんと色彩もあったのに。
俺の人生はこれからもずっと灰色のままなのだろう。
何の変わり映えもしない日常を惰性に暮らしていくのだろう。

「こんな……人生生きてて何か意味があんのかな?」
ぽつりと胸に秘めていた声が漏れる。
しかしその声も周りの雑音によって掻き消される。
勿論、答えも出ないまま俺は眠りにつくことにした。

「明日は良い日になるか、な?」
なぜか、涙が出てくる。
悲しいことは何もないのに。
あぁ、俺って辛いんだ。我慢してるんだ。
そう、気付く。だけど、今更戻れる訳ないじゃないか。
俺はこの現実から逃げるように夢に向かった。

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