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チャット始めたら、危ない女が現れた。

片山樹

8 人生のスパイス

佐藤君が席に戻ると同時にチャイムが鳴り2時間目が始まるという事を俺達に教えてくれた。
まだもやもやした気持ちがあるのに時間と言うものはせっかちだ。
先生がドアを開け、席を立ち挨拶をする。授業が始まり、机の上に置いていた英語の教科書とノートを開く。当たり前の日常だ。平凡過ぎるほどに普通だ。
その時の俺はそんな当たり前の日常が嫌だった。別に異世界に行きたいとかそんな事ではなく、当たり前の日常に刺激が欲しかった。料理で表すならスパイスを加えたかった。料理に調味料を入れて、味を変える程度のそんな事でよかったのだ。
だが……そんな俺の考えとは裏腹に胡椒スパイスが大量に降り掛かってしまう。

 10分間休みがもうそろそろで終わろうとしており、机に伏せていると
「なぁー、夕。お前の彼女さんが泣いてるぞ」と気だるそうに健一が言った。
俺はなんだよと思いながら後ろを振り向く。健一が廊下側の方を指差しているので、俺もそちらを向くと恵梨香が泣いていた。

それに気づき、俺は恵梨香の元に駆け寄る。

「恵梨香! 何があったんだ?」

恵梨香が涙を手で拭いながら、

「夕君……浮気してるでしょ?」と言った。

「はぁ? 俺はしてねぇーよ。ところでだが、そこの横にいる君はなんなのかな?」

恵梨香から目線をずらし、俺は恵梨香の横にいる男に目を向ける。

確か、こいつは昨日の文化祭実行委員の集まりにも恵梨香の横にいた奴だ。

こ、こいつ……もしかして恵梨香の事が好きなんじゃ?

「あ、ちょっと待ってくれ。先に言っておくが、俺と恵梨香は付き合っている。そこんとこ、よろしく!」

俺が男に握手を求めたが、彼は俺の手を握る事をせずに口を開いた。

「えっ? 君は岬さんと付き合ってるんじゃないのかい?」驚きを隠せない彼の様子が不自然に見えたが、俺はそんな事を気にせずに

「あぁー、あのツイートか。あれは偽物だ」と答えた。

「なるほど。要するにわかりました。君は、恵梨香さんと付き合いながらも、岬さんという女性を手にかけてしまった、ということなのですね」彼が一切の迷いも無く、不気味に笑いながら言う姿はまさに悪魔のようだ。

俺が反論をしようとしたのだが……クラスがどよめき始める。

「えっ? 二股? やばくない」
「あ、そう思えば昨日そんなツイートが回ってたよね」
「あれ、本当だったんだ……」
「二股男最低だわぁー」
「近寄らないで欲しいよねぇー」

そんな俺を罵倒するような声が聞こえる。

「俺は……俺は……岬とは何もない!」
彼の胸倉を掴む。こいつ何言ってくれてんだよ。
俺の青春を壊すつもりかよ。

「いたい、いたい。人の心をもて遊んだ後は、暴力ですか? 殴りたいなら殴ってもいいですよ?」俺の身体から力が抜け、手を離した。

こいつ……俺を挑発している。

ここで俺がこいつを殴るとなると、俺が二股を掛けているということを肯定することになってしまう。だが、それだけは避けたい。

それなら、今俺がすること……誤解を解くこと。それをしないといけない。

だが、誤解を解く? 

どうすれば……いいんだ。

しかし、ここで口を開かないのは分が悪い。

だから、口を開こう。

「俺は岬と何も無い。俺と岬はただの文化祭実行委員っていうだけだ」

「わたし……知ってるんだよ。夕君が昨日、岬ちゃんからキスされたの! 見たんだよ!」
涙を拭いていた手に力が入り、目を充血させ本気で怒っている。

俺がキスをされた?? 

意味が分からない。俺は岬とキスなんてやってないぞ。

恵梨香の後ろから女の子達が歩み寄ってきて、

「おい! 聞こえてんだろ? 岬っていう女! こっちに来いよ!」と金髪に染めた女の子が言った。その言葉に挑発されたのかは分からないが岬が席から立ち上がりこちらにやって来た。

「来たんだけど、何かな?」
平然と答える岬に恵梨香が顔を真っ赤にさせ、ビンタをした。

バチン!! そんな音が響き、岬がドミノのように後ろに倒れる。

「おっと、危ない危ない」無意識に俺の身体が動き、かろうじて岬が床に当たる前に抱え込む事ができた。

「いきなりの暴力はいけないんじゃないのか? 恵梨香」

「その、泥棒猫が悪いんだよ! 私から夕君を奪って!」

「私はやってないです」岬は平然と答える。

「なら、証拠みせろよ!」と黒髪ポニーテールの女の子が言った。

「それは……無理です」岬の顔を曇らせる。

「やっぱり、無理じゃん! 夕君、こいつが私と夕君の仲を引き裂こうと思ってしたんだよ!」
恵梨香の声がとても憤り、俺の言葉を全く聞いていない。

「ち、違います! 私はそんな事思っていません!」

「何が違うか、説明してもらえるかな?」
追い打ちをかけるように男が言った。

「やれやれ……お前等。人を疑い深いんじゃないの? 岬は違うって言ってんだ。それ以上追求するのは意味が無いんじゃねぇーのかよ」
俺はこいつの味方だ。岬の仲間だ。

「夕君は、夕君は私の味方じゃ、無いんだ。彼氏なのに……私、信じていたのに……そうだよね。私よりも岬ちゃんは可愛いからね。そうだよね……そうだよね……」
恵梨香がこちらを睨む。
周りの人は恵梨香の味方の様で、変な視線を感じる。

「彼氏なら、ちゃんと彼女守れよ!」
「そうだ! 守れよ!」
「男としてそのような行動はあまりいい行動ではありませんね」

「ふっ、そうかよ。だが、一人の女の子に4人で罵倒するのはおかしいんじゃないか?」

四人は仁王立ちで何も言えなくなった。

「恵梨香、ごめんな……今回ばかりは俺はお前を助ける事はできねぇーよ。岬が嘘をついてる様には見えねぇーし、何より今は岬の状況を考えると側にいたいと思っている。ごめんな」

俺の言葉を聞き、恵梨香が満面の笑みを浮かべる。

「夕君……私達、終わりだね」

恵梨香はそう言って、自分の教室へと戻っていった。

自分の教室へと戻る恵梨香を引き止めようとしたが、岬を一人にしてはいけないという俺の正義感がそうはさせなかった。

俺は本当にこれでよかったのだろうか。

「ごめん……ごめん……」と顔をくしゃくしゃにして泣く岬の姿は今まで見てきた彼女とはかけ離れていた。
そんな彼女に俺ができた事は側にいる事。ただ、それだけだった。周りの皆はざわざわしていたが、チャイムが鳴り騒がしさが収まった。
俺と岬も自分達の席に着く。

そして、先生がドアを開け、授業が始まった。

「なぁ、夕。本当にあれでよかったのか?」
健一が俺を後ろからつついてきた。今日でこれは何回めだろうと思いながら、椅子を後ろに下げる。

「ダメだ。絶対にダメに決まってるだろ」
恵梨香は今、俺と岬が付き合っていると勘違いしている。それだけは誤解を解かなくてはならない。そうしないと、岬は『彼女から男を奪い取った女』という様な噂が流されてしまうかもしれない。それは彼女にとって、残りの高校生活を肩身の狭い生活をしなければならないかもしれないからだ。それに岬にあたっては、とばっちりだ。誰かがTwitterで呟いた一言によって、こんな事になった。

「あぁ、そうだよな。俺も手伝ってやるから、どうにかしろよ」

健一が俺を手伝ってくれる。頼り甲斐があるような、無いような……でも、仲間がいてくれるとなると嬉しいものだ。

「あぁ、頼む。だが、お前は何をするんだ?」

「岬ちゃんの偽アカを作った奴をぶっ潰す!」

お前、本当に優しい奴だよな。そんなお前が時々、憎い程かっこよく思えるよ。自分が言いたい事をきちんと言えて、いつも真っ直ぐな所が本当に俺は好きだ。

だが、今回はお前の言っている事は違うと思うんだ。そう、今回だけは……俺はお前の意見を聞くことができない。

「健一、偽アカの件はもう諦めよう。犯人探しなんて何の意味も無い」

「な、なんでだよ! お前が一番岬ちゃんの苦しみが分かったはずだろ? それなのになんで?」

前を見ながら話している俺だが、今の健一が怒っている事が声を聞いてすぐに分かった。

「犯人なんてものは、見つける事は不可能だ。 『はい、僕がやりました』『私がやりました』と言うやつがいると思うか? いないだろ? だから、無理なんだよ。Twitterのアカウントなんてものは、すぐにログアウトできる。だから無理なんだよ。犯人なんてものは特定できねぇーんだよ」

俺はつい、机を叩いてしまい、『ドンッ!』という音が教室中に響く。

「おい! うるさいぞ! 静かにしろ!」

先生に注意を受け、俺は「ごめん……今は無理だ」と一言残し、授業を真面目に聞くことにした。

その後の10分間休みと4時間目は俺と健一は一切喋る事は無かった。
健一は机にうつ伏せになったままだったので休み時間は喋る事ができなかったし、4時間目の授業が怖い先生だった為に喋る事ができなかったのだ。
昼休みが始まり、俺も学食に行こうと席を立ちあがろうとした時だった。
「岬ちゃん、俺頑張るから!」
健一が岬の机に立ち、手を掴みながら言った。

「えっ? ちょっと……」
戸惑いの表情を隠せない岬は慌てていた。

しかし、そんな岬の事を気にすることなく健一は教室を出ていった。

ったく……あいつ何してんだが……と呆れつつも俺は感心していた。考えたら、すぐに行動する。そんな実行力が俺には無いので、妬ましい。

でも、俺も負けられないな。

「俺も恵梨香おさなじみの所に行くか」

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