ヒーローライクヒール
その2・超えられない壁でさえも
アリアージュの店長のシレイノと名乗る女性がお礼を言いに来た。
シレイノ「この度は誠にありがとうございます。」
こちらに目を向け、レオの方にも目を向ける。
(もしかして、さっき感じた視線…)
事件の前に視線を感じていたが、このシレイノという女性がその視線を放った者かもしれないと思った。
クロノ「いやー別にそんな…」
レオ「カッコいい…」
レオは話そっちのけになっている。
シレイノ「本来なら店のスタッフで解決すべきだったのですが…」
クロノ「いや、こっちこそ勝手に暴れて騒ぎを大きくしちゃったし…」
シレイノ「お客様のおかげで、最悪の事態は免れました。感謝の気持ちとして、お代は頂きませんので…」
クロノ「いやいやそれは申し訳ないし…」
いやいや、いやいやの応酬。
ふとレオの顔を見ると、店員達の服に釘付けになっていた。
シレイノ「…ご試着、なさいますか?」
レオ「え⁉︎」
図星だった様子。
こちらを見る。
(そうだ。)
クロノ「着てみたいなら着せてもらったらどうだ?さっきの暴漢のお礼はそれにしてもらうってことで。」
レオ「いいんですか⁉︎」
シレイノ「えぇ。その前に、ケーキが来ましたよ。」
先ほど頼んだケーキが届いた。
すごく美味しそうな見た目である。
●
(うん、美味しかった。やっぱ店で食うスイーツは美味いな。)
クロノ「どうだった?」
レオ「美味しかった!」
クロノ「そりゃ良かった。」
食べ終わったタイミングでシレイノがやってくる。
シレイノ「いかがでしたか?」
レオ「甘くてすっごい美味しかった!」
クロノ「ご馳走様でした。」
シレイノ「有難うございます。」
クロノ「それで…」
レオに店の衣装を試着させるという約束があった。
シレイノ「はい。店の奥に案内致します。」
レオ「はぁぁ…!」
レオの目が輝いている。
●
バックヤードへの扉をくぐり、もう1人の店員と店の奥へと向かう。
レオと店員が2人で並んで話し始めたので、シレイノとペアで進むことになる。
レオと店員が話し始めてすぐにシレイノが耳打ちするように聞いてきた。
シレイノ「息子さんですか?」
クロノ「いや、知り合いの子ど…え?」
驚くことを聞かれる。
シレイノ「いえ、年が離れているようでしたし、親子か兄弟かと思ったのですが…」
クロノ「いやそこじゃなくて…」
普通は「娘さんですか?」と聞いてくるはずだ。
クロノ「なぜ男だと?」
シレイノ「この店のオーナーとして、可愛いものを見る目には自信があるんです。レオくんの女装は完璧ですし、仕草も女の子そのものですが、隠し通せぬオーラというものがあるんです。私の目は誤魔化せないんですよ…」
ウヘヘと背景に書いてありそうなにやけ顏で言う。
クロノ「ヨダレ…出てますよ。」
シレイノ「お気になさらず…」
クロノ「気にするわ。」
(まぁ、男の娘を嫌うような人ではなくて良かったか…)
クロノ「珍しいですね。子どものこととはいえ、女装してる男の子が好きだなんて。」
シレイノ「可愛ければ何でも好きですよ、聞こえは悪いですが。可愛いものを愛しているんです。貴方だって、可愛いものは好きでしょう?」
クロノ「否定はしませんけどね…」
そうこうしている内に1つの部屋に着く。
シレイノ「レオくんが男の娘だと、知っていたんですよね。」
途端に真面目な顔になる。
それを見てクロノも気を引き締める。
クロノ「まぁ。知ったのは最近ですが。」
シレイノ「そのことを、あの子は知っているのですか?」
エリー曰く、レオはまだ勘違いしたままとのこと。
クロノ「知らないそうです。俺はレオを女の子だと思っていると思ってるそうです。」
シレイノ「それって…マズいのでは?」
クロノ「やっぱり…そう思いますよね。」
シレイノ「最後まで勘違いさせたままにするか、早いうちに打ち明けるかしませんと。あまり時間が経つと、少し恐ろしい事態になりかねません。」
クロノ「…例えば?」
シレイノ「言ってみれば、貴方を騙していることになるわけですからね。あの子が良い子ならば、きっと罪悪感を感じてしまうでしょう。」
クロノ「罪悪感…」
(まさか…闇人ってやつになったりしないよな…)
感情に魔力が宿ることで暴走し、闇になるという。
(もし罪悪感が、闇ができる原因になるんだとしたら…)
レオ「わーーー‼︎」
レオが部屋に入って歓声をあげる。
シレイノ「私にできることがありましたら、お手伝い致します。どうか悔いのない選択を。」
シレイノも部屋に入っていく。
クロノ「はぁ…なんて面倒な事態だ…」
頭を抱える。
悩み事で本当に頭を抱えたのは人生で初めてだった。
クロノ「どうすれば傷つけずに済む…?打ち明けるなら早めに、だよな…」
レオ「お兄ちゃん!早く来て!」
レオが無邪気に呼ぶ。
(くそぅ…打ち明けても気まずいぞ…)
クロノ「はいはーい。今行くよ。」
●
部屋は何かスポーツでも出来そうなくらいには広かった。
ざっと見た感じ、フットサルのコート1つ分はある。
肩の高さに棒が壁と壁を横断し、大量の服が店のように、ハンガーにかけられて並んでいる。
クロノ「メイド服にチャイナ服…表現できないようなアウトぎりぎりの服まで…」
様々な種類の服がある。
(なんかうちの世界のと似てるな。可愛いは全世界共通ってか?)
クロノ「時々制服を変える、ってことなんですか?」
シレイノ「はい。こちらの衣装は、全てオリジナルです。」
クロノ「オリジナル?ってことは、オーナーさんが…」
シレイノ「えぇ。私がデザインしました。」
(素晴らしいセンス。うちの世界でもそういう界隈で生きていけそうだな。)
レオ「はーーー!はーーー!」
レオが声にならないような歓喜の声をあげている。
シレイノ「どれでも好きなものを手に取ってください。」
レオ「どれでも⁉︎」
シレイノ「えぇ。いくらでも。」
片っ端から取って試着室に入る。
クロノ「破くなよ。」
レオ「うん!」
クロノを見ずに服を選んでいる。
(聞いてねぇな、ありゃ。)
見回しているとシレイノがメイド服を持って寄ってくる。
シレイノ「こちらなどはいかがでしょうか?」
クロノ「…いかが、とは?」
シレイノ「サイズは合っていると思いますし、お客様も案外お似合いなのでは…」
クロノ「着ねぇから!」
●
レオが出てくる。
レオ「シレイノさん、これどうやって着るの?」
シレイノ「あ、その服は1人で着るには難しくて…」
見ると、中世の貴族が着てそうなゴツいドレスだった。
(映画でしか見たことないけど、確かに1人で着るもんではないわな。)
シレイノ「これは着るのには手助けが必要なんです。試着室にお邪魔させてもらって」
レオ「い、いいです!」
食い気味に断る。
少し大きな声だったからか、静まり返ってしまった。
レオ「あ、えっと…」
(そうか…ばれそうになるから試着室に入れるわけにはいかないってことか。)
レオ「その、手間取らせるわけにもいかないし…」
シレイノ「大丈夫です。気にしませんよ。」
レオ「大丈夫じゃないです!だから…」
(もしかして…攻めるならここしかないか?)
レオのことを知っていると打ち明けるのは早めの方が良いと言われた。
今この状況は最適なのか。
レオが不安そうな顔でちらりとクロノの方を見る。
(もしかしたら、レオは俺に怪しまれてると思ってるのかも。とすると、そこを安心させる為にも今行く必要があるのか…?)
場合が場合なだけに、攻めるタイミングを間違えてはならない。
だが、
(いや、もうなるようになれ!嫌じゃないと伝えれば大丈夫なはずだ!)
クロノ「レオ!」
レオ「⁉︎」
レオとシレイノがこちらを向く。
レオ「お兄ちゃん?」
シレイノ「あ、まさか」
クロノ「レオ、大丈夫。俺もシレイノさんも知ってる。」
レオ「え?」
持っていたドレスを落とす。
レオ「知ってるって…」
クロノ「レオが、その…実は男だってこと。」
レオ「っ!」
(言っちまった…‼︎いやもう行くしかない‼︎)
クロノ「別に嫌だったわけじゃないよ!知った時は驚いたけど、俺は別に嫌とは思ってない。だからまぁ…安心?して?」
まずは自分が敵ではないアピール。
これで、少なくとも話だけは聞いてもらえるようにする。
レオ「なんで…いや、えっと…」
レオが言葉に迷っている。
(速攻で逃げられなかったってことは、話を聞いてくれるチャンスがあるってことだ!)
クロノ「言いたいことや聞きたいことがあるならいくらでも言って。全部答えるからゆっくり話し合おう。」
シレイノ「この度は誠にありがとうございます。」
こちらに目を向け、レオの方にも目を向ける。
(もしかして、さっき感じた視線…)
事件の前に視線を感じていたが、このシレイノという女性がその視線を放った者かもしれないと思った。
クロノ「いやー別にそんな…」
レオ「カッコいい…」
レオは話そっちのけになっている。
シレイノ「本来なら店のスタッフで解決すべきだったのですが…」
クロノ「いや、こっちこそ勝手に暴れて騒ぎを大きくしちゃったし…」
シレイノ「お客様のおかげで、最悪の事態は免れました。感謝の気持ちとして、お代は頂きませんので…」
クロノ「いやいやそれは申し訳ないし…」
いやいや、いやいやの応酬。
ふとレオの顔を見ると、店員達の服に釘付けになっていた。
シレイノ「…ご試着、なさいますか?」
レオ「え⁉︎」
図星だった様子。
こちらを見る。
(そうだ。)
クロノ「着てみたいなら着せてもらったらどうだ?さっきの暴漢のお礼はそれにしてもらうってことで。」
レオ「いいんですか⁉︎」
シレイノ「えぇ。その前に、ケーキが来ましたよ。」
先ほど頼んだケーキが届いた。
すごく美味しそうな見た目である。
●
(うん、美味しかった。やっぱ店で食うスイーツは美味いな。)
クロノ「どうだった?」
レオ「美味しかった!」
クロノ「そりゃ良かった。」
食べ終わったタイミングでシレイノがやってくる。
シレイノ「いかがでしたか?」
レオ「甘くてすっごい美味しかった!」
クロノ「ご馳走様でした。」
シレイノ「有難うございます。」
クロノ「それで…」
レオに店の衣装を試着させるという約束があった。
シレイノ「はい。店の奥に案内致します。」
レオ「はぁぁ…!」
レオの目が輝いている。
●
バックヤードへの扉をくぐり、もう1人の店員と店の奥へと向かう。
レオと店員が2人で並んで話し始めたので、シレイノとペアで進むことになる。
レオと店員が話し始めてすぐにシレイノが耳打ちするように聞いてきた。
シレイノ「息子さんですか?」
クロノ「いや、知り合いの子ど…え?」
驚くことを聞かれる。
シレイノ「いえ、年が離れているようでしたし、親子か兄弟かと思ったのですが…」
クロノ「いやそこじゃなくて…」
普通は「娘さんですか?」と聞いてくるはずだ。
クロノ「なぜ男だと?」
シレイノ「この店のオーナーとして、可愛いものを見る目には自信があるんです。レオくんの女装は完璧ですし、仕草も女の子そのものですが、隠し通せぬオーラというものがあるんです。私の目は誤魔化せないんですよ…」
ウヘヘと背景に書いてありそうなにやけ顏で言う。
クロノ「ヨダレ…出てますよ。」
シレイノ「お気になさらず…」
クロノ「気にするわ。」
(まぁ、男の娘を嫌うような人ではなくて良かったか…)
クロノ「珍しいですね。子どものこととはいえ、女装してる男の子が好きだなんて。」
シレイノ「可愛ければ何でも好きですよ、聞こえは悪いですが。可愛いものを愛しているんです。貴方だって、可愛いものは好きでしょう?」
クロノ「否定はしませんけどね…」
そうこうしている内に1つの部屋に着く。
シレイノ「レオくんが男の娘だと、知っていたんですよね。」
途端に真面目な顔になる。
それを見てクロノも気を引き締める。
クロノ「まぁ。知ったのは最近ですが。」
シレイノ「そのことを、あの子は知っているのですか?」
エリー曰く、レオはまだ勘違いしたままとのこと。
クロノ「知らないそうです。俺はレオを女の子だと思っていると思ってるそうです。」
シレイノ「それって…マズいのでは?」
クロノ「やっぱり…そう思いますよね。」
シレイノ「最後まで勘違いさせたままにするか、早いうちに打ち明けるかしませんと。あまり時間が経つと、少し恐ろしい事態になりかねません。」
クロノ「…例えば?」
シレイノ「言ってみれば、貴方を騙していることになるわけですからね。あの子が良い子ならば、きっと罪悪感を感じてしまうでしょう。」
クロノ「罪悪感…」
(まさか…闇人ってやつになったりしないよな…)
感情に魔力が宿ることで暴走し、闇になるという。
(もし罪悪感が、闇ができる原因になるんだとしたら…)
レオ「わーーー‼︎」
レオが部屋に入って歓声をあげる。
シレイノ「私にできることがありましたら、お手伝い致します。どうか悔いのない選択を。」
シレイノも部屋に入っていく。
クロノ「はぁ…なんて面倒な事態だ…」
頭を抱える。
悩み事で本当に頭を抱えたのは人生で初めてだった。
クロノ「どうすれば傷つけずに済む…?打ち明けるなら早めに、だよな…」
レオ「お兄ちゃん!早く来て!」
レオが無邪気に呼ぶ。
(くそぅ…打ち明けても気まずいぞ…)
クロノ「はいはーい。今行くよ。」
●
部屋は何かスポーツでも出来そうなくらいには広かった。
ざっと見た感じ、フットサルのコート1つ分はある。
肩の高さに棒が壁と壁を横断し、大量の服が店のように、ハンガーにかけられて並んでいる。
クロノ「メイド服にチャイナ服…表現できないようなアウトぎりぎりの服まで…」
様々な種類の服がある。
(なんかうちの世界のと似てるな。可愛いは全世界共通ってか?)
クロノ「時々制服を変える、ってことなんですか?」
シレイノ「はい。こちらの衣装は、全てオリジナルです。」
クロノ「オリジナル?ってことは、オーナーさんが…」
シレイノ「えぇ。私がデザインしました。」
(素晴らしいセンス。うちの世界でもそういう界隈で生きていけそうだな。)
レオ「はーーー!はーーー!」
レオが声にならないような歓喜の声をあげている。
シレイノ「どれでも好きなものを手に取ってください。」
レオ「どれでも⁉︎」
シレイノ「えぇ。いくらでも。」
片っ端から取って試着室に入る。
クロノ「破くなよ。」
レオ「うん!」
クロノを見ずに服を選んでいる。
(聞いてねぇな、ありゃ。)
見回しているとシレイノがメイド服を持って寄ってくる。
シレイノ「こちらなどはいかがでしょうか?」
クロノ「…いかが、とは?」
シレイノ「サイズは合っていると思いますし、お客様も案外お似合いなのでは…」
クロノ「着ねぇから!」
●
レオが出てくる。
レオ「シレイノさん、これどうやって着るの?」
シレイノ「あ、その服は1人で着るには難しくて…」
見ると、中世の貴族が着てそうなゴツいドレスだった。
(映画でしか見たことないけど、確かに1人で着るもんではないわな。)
シレイノ「これは着るのには手助けが必要なんです。試着室にお邪魔させてもらって」
レオ「い、いいです!」
食い気味に断る。
少し大きな声だったからか、静まり返ってしまった。
レオ「あ、えっと…」
(そうか…ばれそうになるから試着室に入れるわけにはいかないってことか。)
レオ「その、手間取らせるわけにもいかないし…」
シレイノ「大丈夫です。気にしませんよ。」
レオ「大丈夫じゃないです!だから…」
(もしかして…攻めるならここしかないか?)
レオのことを知っていると打ち明けるのは早めの方が良いと言われた。
今この状況は最適なのか。
レオが不安そうな顔でちらりとクロノの方を見る。
(もしかしたら、レオは俺に怪しまれてると思ってるのかも。とすると、そこを安心させる為にも今行く必要があるのか…?)
場合が場合なだけに、攻めるタイミングを間違えてはならない。
だが、
(いや、もうなるようになれ!嫌じゃないと伝えれば大丈夫なはずだ!)
クロノ「レオ!」
レオ「⁉︎」
レオとシレイノがこちらを向く。
レオ「お兄ちゃん?」
シレイノ「あ、まさか」
クロノ「レオ、大丈夫。俺もシレイノさんも知ってる。」
レオ「え?」
持っていたドレスを落とす。
レオ「知ってるって…」
クロノ「レオが、その…実は男だってこと。」
レオ「っ!」
(言っちまった…‼︎いやもう行くしかない‼︎)
クロノ「別に嫌だったわけじゃないよ!知った時は驚いたけど、俺は別に嫌とは思ってない。だからまぁ…安心?して?」
まずは自分が敵ではないアピール。
これで、少なくとも話だけは聞いてもらえるようにする。
レオ「なんで…いや、えっと…」
レオが言葉に迷っている。
(速攻で逃げられなかったってことは、話を聞いてくれるチャンスがあるってことだ!)
クロノ「言いたいことや聞きたいことがあるならいくらでも言って。全部答えるからゆっくり話し合おう。」
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