ヒーローライクヒール

手頃羊

その1・『闇』は誰の心にも

マキノ「できたぞ‼︎」
次の日の朝になって、朝飯を食べたいと思いつつも何をしようか迷っていると、マキノが大声を上げながら部屋に入ってきた。

(着替え中だったらどうする気だこの人…でもこの人はそういう煩悩無さそうだな。)

クロノ「できたって?」

マキノ「改良だ。今までの機能はそのままに、色々と増やしたのさ。」

クロノ「へぇ。例えば?」

マキノ「まずは基本性能だが、重量を少し上げた。使いづらいかもしれないが、剣としての威力は上がっている。」
剣を渡される。

クロノ「確かに重いっすね。」

マキノ「まぁ実を言うと、色々機能を付けたら重くなってしまったというだけなんだがな。軽量化することも出来たんだが、あえて重くすることにした。更に銃形態では、弾を発射するだけでなく、火炎放射のように弾を拡散して撃つこともできるようになった‼︎」

クロノ「マジすか。」

(本当に楽しそうだなぁ)

マキノ「そして今回1番私がやりたかった、というかもうこれ以上は案が思いつかなかったんだが、面白い機能を付けた!これをしたいが為に、この武器を作ったようなものさ!」
声がだんだん高くなる。
余程テンションが上がっているのだろう。

クロノ「どんな機能です?」

マキノ「武器と武器の合体さ!」

クロノ「なんですって⁉︎」
さすがにクロノもテンションが上がってきた。

マキノ「剣と剣を合体させ、1つの大きな剣にすることで、手数の多さという有利は消えるものの、1撃の威力を上げることができる。」

クロノ「そいつはすごい…」
変形ロボットものが好きなクロノにとって高揚する要素しかない。

マキノ「銃同士でも合体できる。だが、これは特にメリットがない。銃が大きくなるだけで、威力が変化するわけではない。逆に取り回しが悪くて難しいかもしれない。」

クロノ「銃が大きくなったら威力も上がるんじゃないんですか?」

マキノ「というと?」

クロノ「というとっていうか、そのままなんですけど…スナイパーライフルだって、砲身?とかが長いから威力が上がるし…」
正確には、砲身が長いと狙いが精確になり、弾丸の初速が速くなる。
弾丸の初速、口径、重量などで、威力が変化するいうことになる。

マキノ「ふむ…その理屈は私には分からないな…。そちらの世界では常識かもしれんが、こちらでは砲身は関係ない。弾丸の威力も精確さも、全て魔力次第なんだ。砲身が長かろうが短かろうが、強い魔力を込めるとそれに比例して威力が上がり、逆にスピードは遅くなってしまう。でも魔力でそれを上げることができるから、これはあまり関係ないんだがな。精確さも、魔力を撃ちたい方向に狙えば必ずそこに行く。銃の性能ではなく、銃を撃つ本人が、精確に狙える視力や、弾道の計算がうまいことできる頭脳を持っているかなんだ。銃はあくまで、魔法を放つという攻撃ができない人間が魔法を放てるようになる為の補助器具に過ぎないんだ。」

クロノ「こっちと全然違うんですね。こっちはむしろ、銃こそが最強みたいな感じです。」

マキノ「魔法が無い世界ではそうなるのかもしれんな。威力に関しては、またいずれ改良していくさ。それと、砲身と威力の関係も少し学んでみるとしよう。」



無事退院したクロノはマキノと共にアリアンテに戻る。

街に入ろうとしたところで、これから街を出ようとしていたハゼットと鉢会う。

クロノ「あら?」

マキノ「ハゼット!」

ハゼット「お前たち。」

マキノ「これからギルドへ向かう所だったんだ。」

ハゼット「そうだったのか。いや、こちらから迎えに行こうとしていたところだ。」

クロノ「入れ違いにならなくて良かったすね。」

マキノ「全くだな。ならハゼット、ここからはお前に任せていいか?」
体が既に街の外へ向いている。

(研究したいんだろうなぁ…まだ色々やろうとしてるんだろうなぁ…)

ハゼット「あぁ。ありがとう。」

マキノ「それではな!」
足早に去っていった。

ハゼット「大丈夫だったか?」

クロノ「はい!どうも、ちょっと不思議なことだったみたいで。」

ハゼット「不思議なこと?」

クロノ「まぁ説明しますと…」
ラフへ向かって歩きながら、昨日マキノと話したことを話す。



クロノ「というわけで、俺にとって魔力は生命線みたいなものです。」
一通り説明し、すぐに理解してくれた。

ハゼット「魔力が無くなれば貧血。あまりにも使い過ぎると、恐らく死ぬだろうな。」

クロノ「だから、考えて戦わなきゃいけないんです。幸い、他の人より魔力がすぐに回復するから、戦いながら休んでってやれば、長時間戦えるかもしれません。」

ハゼット「だが俺たちと違って、魔力の大量消費が死に繋がる。やはり…」

クロノ「やめませんよ?」
食い気味に断る。

クロノ「言ったでしょ?覚悟はできてますって。ハンデだろうがデメリットだろうが、やめる理由になんかしません。自分で戦いたいんです。」

ハゼット「はぁ…分かったよ。」
ラフに着く。



扉を開けると、知らない男性が丸テーブルの席に座っていた。
鎧を着ていることから、国軍の兵士だと思われる。

(兵士さんが、ギルドに?)

ハゼット「ガイア!」

ガイア「よう。」

クロノ「ハゼットさん、知り合いなんすか?」

ハゼット「あぁ。ガイア・フォレスト。奴がまだ子供の頃からの付き合いだ。」

ガイア「新人か?」
頭から足までを品定めでもされるかのように見られる。

ハゼット「あぁ。まだ入ったばかりだ。」

クロノ「カミヅキ・クロノです!よろしくお願いします!」
部活の顧問に挨拶するみたいに堅苦しい挨拶になる。

ガイア「アリアンテ王国軍第1遊撃隊隊長ガイア・フォレスト大佐だ。よろしく頼む。」
いかにも軍人らしく、筋肉質な見た目通りの低い声。
顔つきも力強く、仕事に忠実である真面目な兵士という雰囲気だ。

ガイア「入れ違いで待ってたよ。」

ハゼット「どうした急に?俺に用事か?」

ガイア「正確には『ラフ』に用事なのだが、まぁどうせお前が行くことになる。」

ハゼット「ほう?どういう話だ?」

ガイア「国王から直々に、お前に頼みたいことがあるらしい。」

(国王から直々⁉︎それかなりすごいことなんじゃないの?)

ハゼット「あんまりそういう依頼は受け付けたくないのは知ってるだろ?」
うんざりだと言うようなテンションでやんわりと断る。

(なんでだ?まさか、あんまり仲が良くないとか?)

ガイア「『闇』だ。」

ハゼット「なに…?」
ハゼットの目つきが変わる。

ガイア「直接の依頼は隣町の『エリエテ』の町長からだが、この国とは繋がりの深い町だからな。国王伝いに、お前の所へ依頼が来ている。」

ハゼット「『闇』か…『闇』なら行くしかないな。」

ガイア「詳しい話は王が直々に話すそうだ。城へ行ってくるといい。」

ハゼット「分かった。それじゃあ。」
さっさと行ってしまった。

クロノ「あの〜…」

ガイア「ん?」

エリー「あら、ガイアさん?」
エリーとレオが外から帰ってきた。

ガイア「おぉ、エリーか。それにレオ。」

レオ「こんにちは、ガイアさん!」

エリー「久しぶりですね。1週間くらいでしょうか?」

ガイア「そんなところだな。」
どうやらこの人達とも知り合いらしい。

ガイア「ハゼットに用事があるついでに、休憩に来たのさ。」

エリー「ハゼットさんにですか?」

ガイア「エリエテで『闇』が現れた。」

エリー「あぁ、なるほど。」

ガイア「そうだ。あー、クロノだったな。」

クロノ「あっはい!」

ガイア「さっき何を言おうとしてたんだ?」
丁度いいタイミングで話を振られた。

クロノ「その、『闇』についてなんですが…『闇』ってなんです?」

ガイア「ん?」
何を言っているんだお前は、という顔をされる。

エリー「あぁ〜。クロノさんは多分知らないでしょうね〜。」

ガイア「どういうことだ?『闇』を知らないとは…」

エリー「クロノさん、異世界から来た方なんですよ。ハルカさんみたいに。」

(あ、バラしちゃうんすね。)
逆に言えば、この男は信用できる男ということでもある。

ガイア「なんだと?それはまた…面倒なことに巻き込まれてしまったな。」

クロノ「ハハハ…で、この世界では常識なんですか?」

ガイア「あぁ。常識中の常識と言っても良いほどだ。『闇』というのは、心の中にある不満、迷い、後悔、葛藤、その他喜怒哀楽好き嫌いなど、あらゆる感情に魔力が干渉し、暴走してしまったもののことだ。『闇』によって暴走してしまった人のことを『闇人』と呼ぶ。」

クロノ「はぁ…」

エリー「あ、お茶入れてきますね。」
カウンターの奥へと消えてゆく。

ガイア「例えば、とある女の子にはどうしても好きな人がいる。告白をしたいのだが、伝える勇気がなくて、でも付き合いたい。そんな迷いのある女の子だ。それが深刻なものでなければ、ただの恋する乙女という奴だ。だが、それが命に関わるのと同じくらいの悩み、もしくは、好きな人のこと以外目に入らないようなほどの執心だったら。そんな大きな感情に魔力が干渉してしまい、感情は『闇』へと姿を変える。」

クロノ「具体的にはどうなるんです?」

ガイア「自分の感情に素直になる。」

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