ヒーローライクヒール
その4・ただ者ではない誰か、或いは何か
街に向かって平原を歩く。
障害物がほとんど無いので、魔獣が近くにいないことが分かりやすい。
玄野「さっきのが魔法なんですか?」
ハゼット「あぁ。あれ以外にもいろいろできる。いろいろあり過ぎて2千年生きてる不老不死の奴が全て極めることができないくらいにな。」
玄野「不老不死?」
ハゼット「あぁ、俺のことだ。」
玄野「は?」
つい立ち止まってしまう。
ハゼット「おいおい、日が暮れるまで驚くつもりか?」
玄野「ちょっ、待って。整理させて。ここは魔法の世界で…」
ハゼット「そっちでは魔法が無い代わりに様々な文明が発達したようだが、こちらは魔法で大体のことができるから発達しようとはしなかったんだろう。」
玄野「んで、あなたは不老不死で…」
ハゼット「二千年は生きてる。まぁ、この辺はまたいつか詳しく教えよう。混乱してしまうからな。」
玄野「いや、すでに混乱してんですよ。」
ハゼット「今以上に、だ。」
目がキラッと光ったように感じた。
玄野「はぁ…んで、さっきギルドとか言ってましたけど…」
ハゼット「あぁ。ギルドというのは、言ってみれば何でも屋だ。街の周りの警備、商人の護衛、危険な魔獣の排除。依頼が来たら何でもこなす。そういう仕事だ。何人かのメンバーとやってる。少々人手不足だがな。」
玄野「ほんとにファンタジーみたいな世界だな…」
ハゼット「そちらにとってはな。こちらにとっては日常だ。」
肩をすくめる。
玄野「もうやだ…何なのこれ…」
ハゼット「慣れるさ。」
再び歩き始める。
(この際だから何でも聞いちゃおう。)
玄野「さっき俺になんかしましたよね?首とか耳とかにバチっときたんですけど。」
ハゼット「あぁ。俺と出会った時、俺が何て言っていたか分かったか?俺が首をバチっとやる前に。」
ロシア語と勘違いした謎言語のことである。
玄野「いえ全然。」
ハゼット「俺もお前が何を言ってるか分からなかった。だが聞いたことある言語だったからな。だからちょっとお前に魔法を埋め込んだ。」
玄野「埋め込んだ⁉︎え⁉︎」
首と耳を探る。
ハゼット「探しても無駄だぞ。目に見えるものではないからな。安心しろ。害はない。」
クロノ「はぁ…まぁ、害害は無いなら…」
とはいえ、体に何か埋め込まれるのは恐怖でしかない。
ハゼット「簡単に言うと、自動で翻訳してくれる術をお前にセットしたんだ。」
玄野「自動で翻訳?」
ハゼット「あぁ。お前が発した言葉に含まれる意味を分析し、こちらの言語でその意味と同等のものを発音する。そうすることでこちらにもお前の言葉が分かる。逆もまた同じだ。」
玄野「言ってることは分かりましたけど、意味が分かりません。」
ハゼット「会話ができるようになったと覚えておけ。」
ここで玄野に疑問が生じる。
玄野「でも言葉が違うのに分かるってことは…俺の前にもここに来た人がいたんですよね?ちょくちょく言ってましたけど。」
ハゼット「あぁ。お前のように、俺にとっての異世界から来た奴はあと1人いた。」
玄野「その人は?」
ハゼット「今はいない。」
玄野「今はいないって、どういうことです?戻れたんですか?」
ハゼット「まだ戻っていない。少し行方が分からなくてな。」
今までの会話で、ハゼットの会話のテンションが全く変わらず、どういうことを思いながら言っているか分からない玄野だったが、この自分より前に来た何者かの話をしている時のハゼットの顔が、何かを押し込めているように歪んでいるのだけは分かった。
(なんだこの意味ありげな表情…)
問いただそうかと思ったが、聞いてはならない雰囲気に感じた。
玄野「それで、その人が俺のこの言語を教えたんですか?」
ハゼット「あぁ。大変だったよ、知らない言葉の意味を知るのは。言語を知るというのがここまで難しいものだったとは。」
腕を広げてお手上げとでも言うようなジェスチャーをする。
ハゼット「あぁ、そうだ。言っておかなければいけないことが。」
クロノ「はい?」
ハゼット「お前が異世界から来た人間だってこと、くれぐれも他人に言わないように。」
胸の辺りに指を差して言う。
ハゼット「まぁ言った所で信じるやつはいないだろうが、信じまった奴が何をするか分からん。そいつがお前の世界に行く方法を見つけて侵略しに行ったとしたら嫌だろう?」
クロノ「まぁ、そうですね。」
ハゼット「お前が変人扱いされることもなくなるしな。ギルドのメンバーには…俺から言おう。今日はとりあえず挨拶だ。」
●
話しているうちに街のすぐ前まで来ていた。
門と街を覆う壁は高層ビルのように高く、等間隔で槍や剣を持った騎士の格好をした者たちが番をしている。
玄野「中世か何かかよ…」
ハゼット「この壁と門を作るのに5年かかってる。」
(逆に重機も何もない、全て人間の手で半径数キロありそうな土地プラス高さ2桁メートル行ってそうな高さの壁を5年で建設したことの方が怖い。)
玄野「あのデッカい門が開くんすか?人2人通るだけで?」
ハゼット「いや、人が通るだけならその横の小さい扉が開く。」
大きな門の横に人1人通れるだけの扉がある。
(そりゃそうか。)
ハゼット「行ってくる。待っててくれ。」
ハゼットが門番の1人と会話しているのを離れたところから見る。
(本当に異世界なのか…?)
未だに信じられないが、実際に見てきたものは元いた場所にはありえないものだった。
(じゃあ俺どうやって戻るんだ…?)
不安になってきたと同時にだんだん熱を感じる。
(そういえば俺インフルだったんだ…)
どうしようか悩んでいるとハゼットが戻ってくる。
ハゼット「行くぞ。」
ハゼットと共に扉の向こう側へと入る。
●
扉の向こう側はまたもや現代日本とはかけ離れた景色が広がっていた。
コンクリートではない、土の道路。
広い通りの両脇には果物や野菜を大量に詰めたカゴをいくつか置いて通りがかる人に手招きしている人たち。
建物もレンガなどではなく、土を塗った壁。
当然自動車や自転車は走っておらず、馬車のような車がゆっくりと行き交っている。
玄野「うわぁ…」
ハゼット「ここが俺の住む町、アリアンテだ。」
玄野「スゲエっていうかなんていうか…」
ハゼット「俺にとっては日常だからスゴくもないがな。こっちだ。はぐれるなよ。」
ハゼットに後ろから付いていく。
●
玄野「そういやさっきの、俺の前に来てた人ですけど…」
無言のまま歩くのも気まずいので気になることを聞く。
ハゼット「どうした?」
玄野「その人っていつ来たんです?」
ハゼット「そうだな…約2年前だ。」
玄野「2年前…」
(なんか…)
少し引っかかることがある。
(そういや行方不明事件が2年前だったか…何度もテレビでやってた…)
ハゼット「どうした?」
(名前は確か…)
玄野「その人、山根遥って名前ですか?」
ハゼット「なに…?知ってるのか⁉︎」
初めてハゼットの言葉に感情がこもったように感じた。
玄野「いや、知ってるってだけです。名前は聞いたことあるなって…突然いなくなって行方不明ってことになったんですよ。」
ハゼット「そうか…ならお前も行方不明になっちまってるのかもな…」
少しふざけたような言い方をしようとしているが、動揺しているのがバレバレだった。
(まさか…なんかヤバイことがあったとか…)
最悪のことを考えたが、これ以上を聞くのをやめることにした。
玄野「まさか自分が行方不明に、か…。心配してくれるような知り合いはいないけど、戻りたいな。」
ハゼット「戻すさ。全力でサポートする。」
●
やがて、1つの建物の前に来る。
ハゼット「ここが、俺のギルド『ラフ』だ。」
玄野「ラフ?」
外観は西部開拓時代の木造の酒場といった感じだ。
ただし、ドアは普通のドア。
四角形で、隙間は一切ない。
ハゼット「実はこのギルドも2年前にできたものでな。ハルカから『laugh』という言葉を教わったんだ。『笑顔』って意味だそうじゃないか。そこから取ったんだ。」
玄野「遥さんもなかなかセンス良いことしますね。」
ハゼット「このギルドをきっかけに、各国でギルドが結成し始めている。まぁ、まだ数ヶ国程度だがな。後はほとんど自警団だ。」
玄野「自警団?ギルドとどう違うんです?」
ハゼット「後で話す。今は、とりあえず中に入ろう。」
障害物がほとんど無いので、魔獣が近くにいないことが分かりやすい。
玄野「さっきのが魔法なんですか?」
ハゼット「あぁ。あれ以外にもいろいろできる。いろいろあり過ぎて2千年生きてる不老不死の奴が全て極めることができないくらいにな。」
玄野「不老不死?」
ハゼット「あぁ、俺のことだ。」
玄野「は?」
つい立ち止まってしまう。
ハゼット「おいおい、日が暮れるまで驚くつもりか?」
玄野「ちょっ、待って。整理させて。ここは魔法の世界で…」
ハゼット「そっちでは魔法が無い代わりに様々な文明が発達したようだが、こちらは魔法で大体のことができるから発達しようとはしなかったんだろう。」
玄野「んで、あなたは不老不死で…」
ハゼット「二千年は生きてる。まぁ、この辺はまたいつか詳しく教えよう。混乱してしまうからな。」
玄野「いや、すでに混乱してんですよ。」
ハゼット「今以上に、だ。」
目がキラッと光ったように感じた。
玄野「はぁ…んで、さっきギルドとか言ってましたけど…」
ハゼット「あぁ。ギルドというのは、言ってみれば何でも屋だ。街の周りの警備、商人の護衛、危険な魔獣の排除。依頼が来たら何でもこなす。そういう仕事だ。何人かのメンバーとやってる。少々人手不足だがな。」
玄野「ほんとにファンタジーみたいな世界だな…」
ハゼット「そちらにとってはな。こちらにとっては日常だ。」
肩をすくめる。
玄野「もうやだ…何なのこれ…」
ハゼット「慣れるさ。」
再び歩き始める。
(この際だから何でも聞いちゃおう。)
玄野「さっき俺になんかしましたよね?首とか耳とかにバチっときたんですけど。」
ハゼット「あぁ。俺と出会った時、俺が何て言っていたか分かったか?俺が首をバチっとやる前に。」
ロシア語と勘違いした謎言語のことである。
玄野「いえ全然。」
ハゼット「俺もお前が何を言ってるか分からなかった。だが聞いたことある言語だったからな。だからちょっとお前に魔法を埋め込んだ。」
玄野「埋め込んだ⁉︎え⁉︎」
首と耳を探る。
ハゼット「探しても無駄だぞ。目に見えるものではないからな。安心しろ。害はない。」
クロノ「はぁ…まぁ、害害は無いなら…」
とはいえ、体に何か埋め込まれるのは恐怖でしかない。
ハゼット「簡単に言うと、自動で翻訳してくれる術をお前にセットしたんだ。」
玄野「自動で翻訳?」
ハゼット「あぁ。お前が発した言葉に含まれる意味を分析し、こちらの言語でその意味と同等のものを発音する。そうすることでこちらにもお前の言葉が分かる。逆もまた同じだ。」
玄野「言ってることは分かりましたけど、意味が分かりません。」
ハゼット「会話ができるようになったと覚えておけ。」
ここで玄野に疑問が生じる。
玄野「でも言葉が違うのに分かるってことは…俺の前にもここに来た人がいたんですよね?ちょくちょく言ってましたけど。」
ハゼット「あぁ。お前のように、俺にとっての異世界から来た奴はあと1人いた。」
玄野「その人は?」
ハゼット「今はいない。」
玄野「今はいないって、どういうことです?戻れたんですか?」
ハゼット「まだ戻っていない。少し行方が分からなくてな。」
今までの会話で、ハゼットの会話のテンションが全く変わらず、どういうことを思いながら言っているか分からない玄野だったが、この自分より前に来た何者かの話をしている時のハゼットの顔が、何かを押し込めているように歪んでいるのだけは分かった。
(なんだこの意味ありげな表情…)
問いただそうかと思ったが、聞いてはならない雰囲気に感じた。
玄野「それで、その人が俺のこの言語を教えたんですか?」
ハゼット「あぁ。大変だったよ、知らない言葉の意味を知るのは。言語を知るというのがここまで難しいものだったとは。」
腕を広げてお手上げとでも言うようなジェスチャーをする。
ハゼット「あぁ、そうだ。言っておかなければいけないことが。」
クロノ「はい?」
ハゼット「お前が異世界から来た人間だってこと、くれぐれも他人に言わないように。」
胸の辺りに指を差して言う。
ハゼット「まぁ言った所で信じるやつはいないだろうが、信じまった奴が何をするか分からん。そいつがお前の世界に行く方法を見つけて侵略しに行ったとしたら嫌だろう?」
クロノ「まぁ、そうですね。」
ハゼット「お前が変人扱いされることもなくなるしな。ギルドのメンバーには…俺から言おう。今日はとりあえず挨拶だ。」
●
話しているうちに街のすぐ前まで来ていた。
門と街を覆う壁は高層ビルのように高く、等間隔で槍や剣を持った騎士の格好をした者たちが番をしている。
玄野「中世か何かかよ…」
ハゼット「この壁と門を作るのに5年かかってる。」
(逆に重機も何もない、全て人間の手で半径数キロありそうな土地プラス高さ2桁メートル行ってそうな高さの壁を5年で建設したことの方が怖い。)
玄野「あのデッカい門が開くんすか?人2人通るだけで?」
ハゼット「いや、人が通るだけならその横の小さい扉が開く。」
大きな門の横に人1人通れるだけの扉がある。
(そりゃそうか。)
ハゼット「行ってくる。待っててくれ。」
ハゼットが門番の1人と会話しているのを離れたところから見る。
(本当に異世界なのか…?)
未だに信じられないが、実際に見てきたものは元いた場所にはありえないものだった。
(じゃあ俺どうやって戻るんだ…?)
不安になってきたと同時にだんだん熱を感じる。
(そういえば俺インフルだったんだ…)
どうしようか悩んでいるとハゼットが戻ってくる。
ハゼット「行くぞ。」
ハゼットと共に扉の向こう側へと入る。
●
扉の向こう側はまたもや現代日本とはかけ離れた景色が広がっていた。
コンクリートではない、土の道路。
広い通りの両脇には果物や野菜を大量に詰めたカゴをいくつか置いて通りがかる人に手招きしている人たち。
建物もレンガなどではなく、土を塗った壁。
当然自動車や自転車は走っておらず、馬車のような車がゆっくりと行き交っている。
玄野「うわぁ…」
ハゼット「ここが俺の住む町、アリアンテだ。」
玄野「スゲエっていうかなんていうか…」
ハゼット「俺にとっては日常だからスゴくもないがな。こっちだ。はぐれるなよ。」
ハゼットに後ろから付いていく。
●
玄野「そういやさっきの、俺の前に来てた人ですけど…」
無言のまま歩くのも気まずいので気になることを聞く。
ハゼット「どうした?」
玄野「その人っていつ来たんです?」
ハゼット「そうだな…約2年前だ。」
玄野「2年前…」
(なんか…)
少し引っかかることがある。
(そういや行方不明事件が2年前だったか…何度もテレビでやってた…)
ハゼット「どうした?」
(名前は確か…)
玄野「その人、山根遥って名前ですか?」
ハゼット「なに…?知ってるのか⁉︎」
初めてハゼットの言葉に感情がこもったように感じた。
玄野「いや、知ってるってだけです。名前は聞いたことあるなって…突然いなくなって行方不明ってことになったんですよ。」
ハゼット「そうか…ならお前も行方不明になっちまってるのかもな…」
少しふざけたような言い方をしようとしているが、動揺しているのがバレバレだった。
(まさか…なんかヤバイことがあったとか…)
最悪のことを考えたが、これ以上を聞くのをやめることにした。
玄野「まさか自分が行方不明に、か…。心配してくれるような知り合いはいないけど、戻りたいな。」
ハゼット「戻すさ。全力でサポートする。」
●
やがて、1つの建物の前に来る。
ハゼット「ここが、俺のギルド『ラフ』だ。」
玄野「ラフ?」
外観は西部開拓時代の木造の酒場といった感じだ。
ただし、ドアは普通のドア。
四角形で、隙間は一切ない。
ハゼット「実はこのギルドも2年前にできたものでな。ハルカから『laugh』という言葉を教わったんだ。『笑顔』って意味だそうじゃないか。そこから取ったんだ。」
玄野「遥さんもなかなかセンス良いことしますね。」
ハゼット「このギルドをきっかけに、各国でギルドが結成し始めている。まぁ、まだ数ヶ国程度だがな。後はほとんど自警団だ。」
玄野「自警団?ギルドとどう違うんです?」
ハゼット「後で話す。今は、とりあえず中に入ろう。」
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