宇宙大殺人事件

チョーカー

自己紹介&食事内容

 
 ―――ドタバタ―――

 僕はタブレット端末に向かって指を滑らせる。
 一度、宇宙空間まで船を飛ぶ出させてしまうと、キャプテンの仕事は特にない。
 この船の責任者をしての仕事は無論、重要だが……
 後は、目的への着地が主な仕事だ。つまりは40年後まで暇になっている。
 言っておくが、僕がタブレット端末を弄っているのは暇つぶしのゲームに興じているわけではない。
 一応、航海日誌をつけている。 体感では1日で目的地に到着するわけで、到着してから惑星探索がメインになる。大半は、未知の惑星での冒険譚だ。 いつか、書籍化して出版してみたいものだ!
 間違いなく面白い内容であり、――――自画自賛ではあるが―――― これまでの僕たちの旅は、読者の代行として好奇心と探究心を十分に果たし、満足感を提供する事ができるだろう。
 最も、職業的な守秘義務が問題となるが……

 ――――ドタバタ――――

 「トーマス、タブレットのキーボードが死んだ。代わりはないか?」
 「はい、ありませんね」

 酷くおざなりな返事だった。敬意とは何か?
 僕の横の席。トーマスは空中の一点を見つめている。
 彼の名誉のために言っておくが、決してドラックがガン極まりしているわけではない。
 彼だけにしか見えない立体映像ホログラムの画面に向けて、作業をおこなっているのだ。
 僕が10代の頃、視線で操作が可能なメガネ型のタブレット端末が発売されていたが、僕と同世代の方は、それを連想してくれれば、僕が作業中の彼に抱いている違和感を共有する事ができるだろう。
 もっとも、トーマスが実際に仕事に専念しているのか、それともゲームに夢中なのか、それを確認する方法はない。

 「じゃ、ペンを寄こせよ」
 「あーハイハイ、ペンをどうぞ」

 トーマスは返事と同時にペンを投げつけてきた。
 尖った先端をキチンと僕に向けて、勢いよくだ。

 「……」

 僕は、自分に向かって来るペンと言う名前の凶器を空中で掴んだ。
 彼が物を投げて寄こすのは日常茶飯事であり、結果として僕の反射神経を人間離れする鍛錬代わりになってしまった。

 ペン。

 この数百年。
 いくつか劇的なバージョンアップを行っているものの、その存在は今も、広くに渡り使われ続けている。
 サインという自己証明方法がなくならない限りは、使われ続けるのだろう。

 「そう言えば……」と僕。
 「何ですか?」とトーマス。

 「僕が若い頃には、傘と自転車は進化しない日常品と言われていたが……」
 「キャプテンが若い頃の話なんて知りませんよ」
 「競技用自転車なんて、毎年モデルチェンジされていて、空力性能やカーボン素材なんて……」
 「いや、だから、昔話に興味はありません」
 「……」


 ――――ドタバタ――――


 「さて……と、まずは……」

 僕はペンを回しながら、机に紙を並べた。
 紙は七枚。 乗客からいただいた名刺だ。
 僕は名刺を裏返し、彼らの特徴をメモ代わりに名刺に書き始めた。

 『カエサル スペクター機関 宇宙部主任』

 男性。大男。髭。ニコニコ。見た目40代?

 『デリタ 専門 宇宙物理学』

 男性。長髪黒髪。痩せ方。見た目40代。

 『エイサイ 専門 植物学』

 男性。若い。20代?

 『ウキョウ 専門 宇宙生物学兼遺伝学』

 女性。背が高い。30代から40代?

 『スミレ 専門  宇宙医学』

 女性。特に若い。可愛い。10代?

 『ウミヒコ 専門 地球惑星科学』

 男性。ヤマヒコとは兄弟?遺伝子的には同一人物か?30代?

 『ヤマヒコ 専門 惑星地質学』

 ウミヒコと同じ。


 乗客の特徴を箇条書きにしてみた。
 たぶん、これから書き込みを増やしていく予定ではある。
 バラバラにおいた名刺を一つに重ねて、ポケットにしまい込んだ。
 名刺の扱いとしては無作法になる行為なのだろうが、まぁそんな作法も滅んだ世の中だ。
 少しは多めに見てもらいたい。

 ――――ドタバタ――――

 さて、僕とトーマスの背後で鳴り響いているドタバタ音について、そろそろ明らかにしておこう。
 最近になって欠員ができたとは言え、決して広いとは言えない操縦席。そんな場所を所狭しと駆けまわっている人物が1人。
 そう――――ジェファソンだ。
 そして彼女に追随するかのように新入りのA12が走っている。
 彼女が何をしているのかと言うと、晩餐会の準備だ。
 心苦しい事に、当機体の食事――――飲食に関わる事は全て彼女が行っている。
 かつては、僕とトーマスも手伝っていたが……
 「男衆は調理中に席から動くな。微動だにするな!」と彼女から厳命されてしまった。
 どうやら、僕とトーマスには、調理性に対する適合者ではなかったようだ。
 暫くすると、良い香りが伝わってきた。
 久しぶりにナチュラルな食事ができそうだ。
 今の時代、食事はバーチャルになってきた。
 無味無臭の食糧を、外部から鼻孔と味覚を刺激する食事スタイルが一般化している。
 例えるなら、テレビ番組のラーメン特集を見ながら、カップ麺を啜るようなものだ。
 文字通り、味気ない食事だ。
 もっとも、少し前の食事スタイル――――カプセルの錠剤1つで1日分の食事が可能というやつよりは、マシだろう。合理的と言えば合理的だが、どうやら人間は合理性の化け物にはなれないみたいだ。
 しかし、この晩餐会に並ぶ食事は、全てが人の手ジェファソンを加えたナチュアルな食事となる。

 (バンサイ!)

 最も、ジェファソンが調理という形で手を加えた所で、肝心の食品の方が合成化合物――――つまりは植物性の油が原料―――なのはどうにかしてもらいものだ。
 ……なんだろう? 実年齢は兎も角、メンタル的には、若いはずなのに、どうして僕は年寄臭い感性を、今の時代に振りまいているのだろうか?
 ひょっとしたら、実年齢が精神年齢に引っ張られるように、実年齢が精神年齢を引っ張って、感性に年を取らせているのかもしれない。
 そんな妄想も、ジェファソンの声で現実に引っ張り出された。

 「せーの……できた!」

 普段、険のある彼女からは想像できない、可愛らしい声だ。

  

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