宇宙大殺人事件

チョーカー

出発

 
 処女航海。

 僕は新しい船を見上げる。
 何度となく繰り返されたシュミレーション。
 実物の操縦席に腰を落とした事もあるが――――
 コイツで―――新たな相棒で無限に広がる宇宙へ旅立つ。
 その瞬間は、いい歳しても心が弾む。

 「キャプテン、早く乗り込みましょうよ。もうお客さんが先に入って、搬入を開始しちゃってますよ」

 僕を呼ぶのは副船長のトーマスだった。
 そう副船長だ。副キャプテンではない(重要)
 この船においてキャプテンと言われても良いのは僕だけだ。
 トーマスは色男だ。僕の世代で言うならばイケメンという部類にはいる。
 短く刈り込んだ短髪は太陽の光を反射し、金色に輝いている。
 こういうブルーカラー的な職場にいる事が不思議でならない。
 モデルでもやればいいのに……
 何か表舞台に立てない事情でもあるに違いない。
 僕はそう疑っている。

 「トーマス。船員クルーを全員、乗り込ませてくれ」
 「OK キャプテン」

 トーマスは勢いよく返事を返し、船へ乗り込んでいく。
 誰にも話しかけていない所を見ると、どうやら他の船員クルーは、既に搭乗済みのようだ。
 キャプテンたる僕が最後か。そう苦笑しながら、船へ――――宇宙船へと歩みを向けた。

 まず、僕は操縦室ブリッジに入った。
 そこには、全ての船員が揃っていた。
 全てと言っても僕を含めて4人だけだ。
 今どきの宇宙船はコンピュータ制御されていて、人間の出番はない。
 宇宙船に船員不要論なんてある。まぁ、現場を知らない素人の意見だ。
 何が起こるか予想すらできない宇宙で、時としてコンピュータ制御は邪魔になる時もある。
 コンピュータは安全性を重視しすぎてしまう。例えば、船が通れない場所では停止してまう。
 我々なら、船を破壊しながらでも進む状況でもだ。 

 「やぁ、お待たせ。今回は、久々のロングランって奴だ。家族に最後の連絡は済ませたか?」

 笑いが起きる。

 「この中で家族持ちはキャプテンだけですよ。お子さんは?」

 僕はため息交じりに答える。

 「先の航海に出る前は5歳だった。今は60歳だ。仕事をリタイヤして、孫と一緒に遊ぶ毎日らしい」

 これは事実だ。ジョークではない。
 僕の年齢は250歳を超えている。見た目的には20歳未満にすら見られるが……
 もっとも、250歳は実年齢に過ぎない。
 ロングランの航海では、人体冷凍保存コールドスリープが使われる。
 今回は目的地まで40年。往復80年だ。
 しかし、僕の感覚では1日だけの旅。往復2日の旅行だ。
 まぁ、それは行き帰りの時間のみの話。目的地に留まる時間は、数か月になる。

 「よく、お子さんは許してくれましたね」
 「あぁ、反対されたが、帰ってきたら孫の孫の面倒を見る約束をしたら、あっさりだ。 元々、アイツは俺の事を死んでたと思っていたからな……どうやら、嫁が『お父さんはあそこにいるのよ』って夜空の星々を指差してたらしい」

 一斉に馬鹿笑いが起きる。ただし、一人を除いてだ。

 さて、船員の紹介は始めよう。
 まずは僕だ。 
 名前はサワムラ・ミフネ。
 国籍はジャパンらしいが、一度も本国に足を踏み入れた事はない。
 よく、お客の日本人には、名前が奇妙だと言われる。
 サワムラもミフネもラストネームらしい(知るかクソッタレ)
 年齢は、実年齢250歳。 精神年齢は21歳だ。
 つまり―――年齢の割には――――見た目の割には――――
 ロングランのベテランだ。とは言え、今回みたいな80年規模は初めてだ。
 キャプテンサワムラでも、キャプテンミフネでも好きに呼べばいい。
 だが、キャプテンを忘れるな。

 次にトーマス。彼は副船長だ。
 フルネームは確か……忘れた。
 そうだ。トーマス・デューク・ サンデルだった……と思う。
 最も、ミドルネームにデューク(公爵位)をつけるなんて嘘くさい。
 きっと偽名なのだろう。
 それを無視しても重宝するのは、彼が優秀な人材だからだ。


 次は、ジェファソン。
 女性だ。この船ではオペレータを担当している。
 紅一点。色気があり、せーくしだいなまいとって奴だ。
 トーマス同様に、なんでこんな職場を選んだのか?よくわからない。
 この仕事特有の刹那的な時間配分が、女性には考える所があるのかもしれない。
 トーマス同様に、フルネームは忘れた。

 最後に―――

 新しい船員クルーだ。
 彼は、この旅のスポンサーから送られてきた人物。
 彼は非常に若い。
 年齢は……5歳。実年齢だ。
 彼は人間ではない。そう言えば、いささか差別的な表現化もしれない。
 彼はロボットだ。しかし、彼の体は有機細胞で構成されている。
 それは脳みそも含めてだ。
 彼と人間の違いは何か? 天然か人工かの違いしかない。
 そう考えると、俺と彼に違いはあるのか?答えはでてこない。
 今だにクローン人間が非倫理的を理由に禁止されているのに、なぜ彼のような存在が許されているのだろう?
 おそらく……おそらくではあるが、法が科学の進化に追いついていないからではないか?
 クローンの禁止を撤回するのに、法的には何年もかかるだろう。
 彼の名前は確か……

 「A12です。キャプテンサワムラ。今回のミッションはよろしくお願いします」
 「こちらこそ、よろしく」

 そうやって、少年が差し出してくる手を握り、握手をした。
 スポンサーは、彼の活動時間を1日6時間を必須条件として提出してきた。
 残りの18時間が人体冷凍保存コールドスリープとなる。
 つまり、40年のロングランで、彼は10年分の成長する。
 往復で20年。この旅で再び地球へ帰還した時には25歳の青年になっているだろう。
 なぜ、スポンサーはこのような条件を提示したのか?
 それは安全対策という話だ。
 今回の旅の乗客は研究者たち。人数は7人。目的地は40年先の惑星。
 その立地条件は、人の手が入ってない未知の惑星となる。
 この船の旅の目的は、未知の惑星探索へ研究者を送り込み、そのお世話を行うという事だ。

 さて、では―――
 なぜ、少年を船員として加えるのが安全対策となるのかを説明しよう。

 実は2年前、事故が起きた。
 無論、僕の船の話ではない。他の船の話だ。
 コンピュータ制御された宇宙船で、原因不明の事故が起きた。
 何が起きたのかは、分かっていない。
 わかっている事は、船員と乗客がいなくなった事。
 無人の宇宙船が、宇宙で発見されて明らかになった。
 宇宙船の事故は約100年ぶりの事故だった。もちろん騒ぎになった。

 今回、その対策として彼―――A12は送られてきた。
 1日1回6時間の行動。
 虚無の世界でたった一人で活動し、精神的安定を維持し続ける存在としてロボットの彼に白羽の矢が立ったのだ。
 彼の役割は、船内を周り異常がないかの確認。毎日、6時間近くをそれだけのために起きて活動する。
 もし、異変を発見したら、即座に船員を人体冷凍保存から解凍して(電子レンジでチン)、正規の船員に判断を任せる手はずになっている。
 それだけだが、彼にしかできない役割でもある。

 
 既にエンジンに火は入っている。発射の定刻は徐々に近づいていく。
 そして、船員たちは指定の位置についている。

 「キャプテン、すでに乗客は席に着きました。いつでも出発可能です」

 オペレーターのジェファソンがモニターを確認しながら言う。

 「OK まずは乗客への挨拶が先決だ。トーマス、マイクをくれ」 

 僕はトーマスが投げて寄こしたマイクをキャッチし、スイッチを入れる。

 『御乗客の皆さま、初めまして。当機のキャプテンであるサワムラ・ミフネです。
 皆さまとは、80年と少々長めの付き合いとなりますが、よろしくお願いします。
 それでは、皆さま、宇宙の旅をお楽しみください』

 発射前のテンプレ挨拶をそらんじた。

 「さて、それじゃ、お前ら行くぞ」

 僕は操縦桿を握った。平行だった宇宙船は空へと角度が傾いていく。
 やがて、地面に対して直角になる。

 (やっぱり、発射と着地くらいは人間の手でやらねぇとな)

 機体が震え、轟音をまき散らす。これから、宇宙の旅が始まるぜ。 

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