宇宙大殺人事件

チョーカー

虚無の殺人事件

 「どうなった?」そう言いながら僕は操縦席に入った。
 操縦席には、すでにトーマスとジェファソンが配置に――――持ち場についている。
 A12が僕を呼んだのは船員クルーの中で最後だったようだ。
 良い判断だ。
 僕の立場は責任者であり、責任を取るのが仕事だ。
 能力が高いから人の上に立っているのではない。むしろ逆だ。
 情報を処理する能力は、他の2名よりも著しく劣っている。
 「こちらをご覧ください」とジェファソン。彼女が示したモニターを僕は見る。
 映像は個室。倒れている人間が見える。
 個室に用意された人体冷凍保存装置にもたれ掛かるように倒れている。
 胸には鮮血によって赤く染められている。
 そのシルエットから、その人物が女性だという事はわかる。

 「生体反応の確認は?」
 「……すでに死亡は確認されています」

 「キャプテン、どう対処しましょう?」とトーマスが訪ねてきた。

 「あらゆる情報を収集。その後、即座にこの部屋の保存と凍結を頼む」

 「「了解しました」」

 作業は数分で終了した。
 超小型ドローンが部屋中を飛び回り、状況を記録しているのだ。
 それが終わると、部屋は気体に満たされていく。
 文字通りの保存と凍結だ。

 僕は、深いため息をつく。
 それが終わると、トーマスに質問した。 

 「……それで被害者は誰だ?」
 「ウキョウ……さんです」
 「なるほど」

 僕は彼女の姿を思い出した。
 40代とは思えない凛とした立ち姿。艶やかですらあった。
 一度しか会話を交えたはないけれども、その存在感は大きかった。
 全てを包み込むような……こう……こういう場合に相応しい表現は何だったかな?
 ……そう母性的だ。母性的な女性だった。

 「ジェファソンは、映像の解析を……そのくらい必要だ?」
 「事件開始直後の映像なら数分で、40年分の映像解析なら1時間で」
 「よし、優秀だ。頼む」

 ジェファソンは作業へ入る。
 僕は、副船長であるトーマスと今後の話を進めておかねばならない。 

 「他の乗客に、この事は伝えているか?」
 「いいえ、まだ起こしていません」
 「……だろうな。緊急事態だ、僅かな混乱でも防ぎたい」 

 僕はA12の方を見る。
 おそらく、最初に疑われるのは彼だ。
 40年間、皆が眠りについている時間、彼だけが活動していたのだ。
 そう、理論的に言えば、彼しか殺人を犯せない状態なのだ。
 状況的には彼しか犯人になりえない。だが、それでも疑問が残る。

 ロボット三原則。

 高名なSF作家が作ったそれは――――
 人工物が人類に対して脅威にならぬように組み込まれた安全装置と言える。

 その内容は至極真っ当な物であり、なんら疑問の余地もない当たり前の事が書かれている。
 簡単に言うならば――――

 人間に危害を加えてはならない。
 人間の命令に服従せねばならない。
 それらに反しない限り、自分を守らなければならない。

 つまりは、『安全性』『精度』『丈夫さ』を大切にしましょうね。
 そういうお約束事なのだ。
 有機細胞で作られたA12にも本能レベルで刷り込まれているはず。
 擬似的にも人間を作るとならば――――危険があるならば、あるほどセフティ装置はより強く、A12の思考を雁字搦めに縛り上げるのだ。
 人を殺せないように作られているはずのA12が人を殺せるか?
 ひょっとしら、抜け道が仕掛けられているかもしれない。 
 人間ですら、人間を殺す事にもセフティ装置は、いくつも仕掛けられている。
 だが、人間は人間を殺す。

 なぜか?

 「どうしますか?」
 トーマスの声で思考を止める。
 「そうだな……まずは、ウキョウの部屋に入る。凍結を一時的に解除してくれ」
 「どうしてですか?」

 トーマスの疑問は正しい。
 操縦室にいても状況は把握できる。収集された精密な情報もリアルタイムでデータ化されていく。
 しかし、事件が起きた以上は犯人がいる。犯人がいるという事は、高確率で犯人は人間だ。
 A12が人間か、否かは除いての話として――――
 逆説的に言うと、低確率では人間以外の生物が入り込んでいる可能性も除こう。
 犯人が人間ならば、人間ならでは癖が現場に残っている……かもしれない。
 目で見て、触って、歩いて――――それで『あっ、だから犯人はこうしたのか!』と印象を手に入れるのが目的。 
 そう言えば、聞こえは良いかもしれないが、現時点で僕はやる事が、そのくらいしかないのだ。
 まだ、ジェファソンの情報分析は終了していない。
 

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