異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました
32話 気遣い(中)
早朝。
いつも通りの朝の空気を鼻腔で感じつつも、まだ1週間とそこらしか経ってないこの世界の空気を浴びながら目を覚ますナナシ。
ベッドに敷いていた木板を片付けながら、顔のない顔であくびをする。
本来なら眠気などあまり感じないのだが、昨日の疲れなのか今日はすぐにあくびが出る。
殺しの仕事をこなしていた毎日とは違って、衝撃的で精神的に疲れた証拠だろう。
自分が起こしたヘマとはいえ、流石に間抜けすぎた。
そのためにナナシは今日にも行くオータニア国で全て清算しよう、そう考えていた。
計画としてはエルフの掟とやらを無しにする。
ただそれだけだ。
コローネには悪いとは思うが、これも自身の為。
またコローネ自身の為だ。
思考をそこまで走らせ、自室の窓ガラスを開けてまだ日が出ておらず、雲が漂う暗い空を見つめた。
自分がいた世界と異世界。
前の世界とは違った人間関係。
ドタバタや事件がすぐに起き、街にも少し溶け出している。
潜入とは違う。
仕事とも違う。
自分でいられている感覚。
あぁ…めんどくさい。
ナナシが呟くそれは、言葉とは裏腹に少しだけ楽しそうなものが含まれていた。
--------------------------------
「戸締り大丈夫ですかね?」
『そもそもここらで空き巣があるという情報は無かったですし、大丈夫でしょうね』
「…本当にそれ連れて行くんですか」
シャデアが玄関の施錠をしてから旅行用のカバンを持ちながらナナシが持つ麻袋の方に視線を向ける。
この麻袋、当然ながら中身は生首、『切り裂きジャック』だ。
ナナシは面倒なことになるので外に出したくは無かったが、そもそも家に生首があるのもおかしい話であり、誰もいない家から独り言が聞こえていたら誰だって不審に思う。
世間体も気にした殺人鬼は、敢えて一緒に同行させることにした。
「いやー旅行なんてイギリスのフグっ!?」
「ほれ麻縄と布だ、これで口塞いでおけ」
ナナシは家から出ても喋り続ける生首を袋から取り出すと、口に布を詰め麻縄で固定し、またすぐに麻袋に戻した。
「よし、行くぞ」
「はい!」
ナナシは旅行カバンを改めて持ち、シャデアはそれについて行く。
場所はデザールハザール王国の壁の外に出る大きな門があるフェルド街へだ。
「それにしても、その顔に付けてる銀仮面はなんだ」
「何って、変装に決まってるじゃないですか」
ナナシが歩きながら隣を歩くシャデアに問い尋ねる。
シャデアは顔の上半分をマスクで隠し、長いツバの帽子を被っている。
服装は茶色と白の配色のローブを纏っているので今は見えないが、確か普段着の下に鎖帷子を装備していたはずだ。
腰には騎士の剣を携え、いわば剣士といった風貌だろうか。
もちろん変人という意味で。
「それやめてくれ…」
「いえ、これがしっくりくるんでこれで」
「帽子だけで十分だろ…そもそも俺がいるのに変装なんて意味ないだろ」
「旅は形からです。何事の形から入らないとしっくりこないと言いますか、とにかく私はこの格好がいいんです!」
シャデアの熱が篭った抗議にはさすがに口を出し辛い。
死んでいるんだから分からないようにしろと今朝支度途中に言ったのだがどうやら逆効果だったようで、本人が変装というが、これではかえって注目を浴びてしまう。
はぁ、と一息吐くとナナシは本来ならまだ使う気がないはずの能力をシャデアに対して使う。
これで他人から見て普段着を着た、シャデアとは少しも似ていない人物に変わっただろう。
「さて、行くか」
「はい!」
ナナシが能力を使ったことに気づかないシャデアは元気に返事すると再び歩き出す。
その後ろ姿を見て能天気だなと思いつつ歩くナナシ。
フェルド街、門前に着いたのはすぐだった。
いつも通りの朝の空気を鼻腔で感じつつも、まだ1週間とそこらしか経ってないこの世界の空気を浴びながら目を覚ますナナシ。
ベッドに敷いていた木板を片付けながら、顔のない顔であくびをする。
本来なら眠気などあまり感じないのだが、昨日の疲れなのか今日はすぐにあくびが出る。
殺しの仕事をこなしていた毎日とは違って、衝撃的で精神的に疲れた証拠だろう。
自分が起こしたヘマとはいえ、流石に間抜けすぎた。
そのためにナナシは今日にも行くオータニア国で全て清算しよう、そう考えていた。
計画としてはエルフの掟とやらを無しにする。
ただそれだけだ。
コローネには悪いとは思うが、これも自身の為。
またコローネ自身の為だ。
思考をそこまで走らせ、自室の窓ガラスを開けてまだ日が出ておらず、雲が漂う暗い空を見つめた。
自分がいた世界と異世界。
前の世界とは違った人間関係。
ドタバタや事件がすぐに起き、街にも少し溶け出している。
潜入とは違う。
仕事とも違う。
自分でいられている感覚。
あぁ…めんどくさい。
ナナシが呟くそれは、言葉とは裏腹に少しだけ楽しそうなものが含まれていた。
--------------------------------
「戸締り大丈夫ですかね?」
『そもそもここらで空き巣があるという情報は無かったですし、大丈夫でしょうね』
「…本当にそれ連れて行くんですか」
シャデアが玄関の施錠をしてから旅行用のカバンを持ちながらナナシが持つ麻袋の方に視線を向ける。
この麻袋、当然ながら中身は生首、『切り裂きジャック』だ。
ナナシは面倒なことになるので外に出したくは無かったが、そもそも家に生首があるのもおかしい話であり、誰もいない家から独り言が聞こえていたら誰だって不審に思う。
世間体も気にした殺人鬼は、敢えて一緒に同行させることにした。
「いやー旅行なんてイギリスのフグっ!?」
「ほれ麻縄と布だ、これで口塞いでおけ」
ナナシは家から出ても喋り続ける生首を袋から取り出すと、口に布を詰め麻縄で固定し、またすぐに麻袋に戻した。
「よし、行くぞ」
「はい!」
ナナシは旅行カバンを改めて持ち、シャデアはそれについて行く。
場所はデザールハザール王国の壁の外に出る大きな門があるフェルド街へだ。
「それにしても、その顔に付けてる銀仮面はなんだ」
「何って、変装に決まってるじゃないですか」
ナナシが歩きながら隣を歩くシャデアに問い尋ねる。
シャデアは顔の上半分をマスクで隠し、長いツバの帽子を被っている。
服装は茶色と白の配色のローブを纏っているので今は見えないが、確か普段着の下に鎖帷子を装備していたはずだ。
腰には騎士の剣を携え、いわば剣士といった風貌だろうか。
もちろん変人という意味で。
「それやめてくれ…」
「いえ、これがしっくりくるんでこれで」
「帽子だけで十分だろ…そもそも俺がいるのに変装なんて意味ないだろ」
「旅は形からです。何事の形から入らないとしっくりこないと言いますか、とにかく私はこの格好がいいんです!」
シャデアの熱が篭った抗議にはさすがに口を出し辛い。
死んでいるんだから分からないようにしろと今朝支度途中に言ったのだがどうやら逆効果だったようで、本人が変装というが、これではかえって注目を浴びてしまう。
はぁ、と一息吐くとナナシは本来ならまだ使う気がないはずの能力をシャデアに対して使う。
これで他人から見て普段着を着た、シャデアとは少しも似ていない人物に変わっただろう。
「さて、行くか」
「はい!」
ナナシが能力を使ったことに気づかないシャデアは元気に返事すると再び歩き出す。
その後ろ姿を見て能天気だなと思いつつ歩くナナシ。
フェルド街、門前に着いたのはすぐだった。
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