世の中凡人を探す方が難しい

青キング

森林家の使い

  夕方の五時だと言うのにまだ辺りは明るさが大いに残っており、夏が近づいてきていることを実感させる。
  俺の自宅はごく普通なマンションの一室だ。
  鍵を制服の胸ポケットから取りだし、鍵穴に差し込みひねる。
  するとガチャという音が解錠を教えてくれる。
  ドアノブを掴み回してドアを引くと、あってはならない音が俺の耳に入ってくる。
 「遅いですよ篠藁様」
 俺は絶句する、いやせざるおえない状態。
 入った瞬間目の前に腹這いの状態で顔だけこっちに向けている人がいたら、誰だって怖いよ。
 こういうホラーをするにはまだ時期でないようなき気もするが今はそんなことどうでもいい。
 顔を向けている人は見てみるに女性みたいだ。
 確定はできないけど。
 照明で光沢を帯びたミディアムの黒髪に少々目尻がつり上がっていて、さらに黒のスーツを着用している。
 そんな大人感が半端無い人が手を床につきながら立ち上がる。
 「失礼いたしております、森林家女性執事のゆしきと申します」
 俺はまず鞄からスマホを取りだそうとするとゆしきさんがその手をガシッと掴んで止める。
 警察に通報するなと?
 「そんなに私が怪しいですか?」
 「当たり前だ!」
 「なら身体検査します? 全身まんべんなく」
 そう言うと俺の手を掴んでいない方の手でスーツのボタンを外し始める。
 どういうことだ? 自分の目や手で確かめろってことなの?
 「そういうことはやめた方がいいかと」
 よし素直に言えた。
 見たくないというわけでは無いが。
 俺の言葉を聞いてか、ボタンから手が離れる。
 どうやら外すのをやめたみたいだ。
 「つまらないな篠藁様。遊ばせてくださいよ」
 「何を淡々と口走ってんすか、本題に入っていいっすか」
 俺、まやみたいな口調になってるよ。
 「風呂入っていいですか、溜めて十分くらいつから」
 わけの分からないことを言って、またスーツのボタンを外し始めた。
 「ダメです!」
 断固拒否だ。
 「一緒に入りたいと?」
 「俺がただの変態になっちゃうじゃねーか!」
 おかしいな、と首をかしげて見つめてくる。
 しびれを切らして俺はゆしきさんの腕をつかみ布団のある部屋に連れ込んだ。
 「何ですか誘拐ですか?」
 いちいちめんどくせーなこの人。
 連れ込んですぐその場に座らせる。
 澄んだ瞳で見つめてくるけど似合ってない。
 「布団がありますね・・・・・・未成年でそれは早いかと」
 「殴っていいかな?」
 「殴らずになぶってください」
 お前はエムなのか?
 不易なことをしていても話が進展しないのでお茶を用意することにした。
 そのためにキッチンに向かった。
 「はい、お茶です」
 「ありがとう」
 トレーごと差し出すとすぐに湯飲みを手に取りすする。
 「で、ゆしきさんはなんで俺の家に居るんですか、鍵かかってたはずですけど?」
 「そのことは秘密です」
 可愛く口に人差し指をつけて言う。
 あなたにその仕草は似合っていません。
 「じゃあ、聞きません。次に用でもあったんですか?」
 拳をつくり親指をピンと立たせて俺に向けてくる。ル〇イ修〇師かお前は。
 「その用って?」
 突然、両手の指などを当てたり組んだり小刻みに動かし出す。
 「何をやってるんですか?」
 「手話」
 無表情で手を動かし続けながら教えてくれる。すいません手話わかりません。
 「なぜ来たかと言うと、爽様についてお知らせしたいことがごさいまして・・・・・・」
 「爽のことを知ってるんですか!」
 そういうえば自己紹介のとき、森林家とか言ってたような?
 俺が言葉を遮ってしまったので次の言葉に戸惑っているようだ。
 「それで・・・・・・この事は他言無用ですから、よろしくお願いします」
 俺は頷く。
 「爽様は、中学二年生の頃記憶喪失になりました」
 えっと漏れてしまうほど驚く。
 ゆしきさんは話を続ける。
 「喪失したのがその時までの記憶と自分が女ということです」
 言葉もでないままの俺に意を介さず続ける。
 「今は少しずつ記憶を取り戻しているのですが自分が女ということは認められないようです」
 聴いたこともないそんなこと。
 「ですから男の服を着ているのです。私たちが爽様は女ということを本人に伝えても唸って自分の部屋にとじ込もってしまい堂々巡りなのです」
 爽が女だから三嶋さんは関係が崩れるって言ったんだ。
 だから張山との記憶がないのか。
 「どうやら大体が繋がったようですね。もう私の出る幕はありませんね、じゃあ」
 どうすれば記憶が戻せるのか?
 その場でウンウン考える。
 「ゆしきさんありがとう・・・・・・いない」
 いつの間に帰ってしまったのでだろうか?
 お礼を言いたかったのにな。

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