世の中凡人を探す方が難しい

青キング

一人の来訪者

 部室には沈黙しかなかった。
 窓から入ってくる涼しい風が頬をさする。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 長机を挟んだ真向かいで秋菜が退屈そうに頬杖をついている。
 しかも俺の顔顔をぼっーと見つめながら。
 何を考えているのだろう?
 突然、部室のドアが開いた。
 「すいません、ここですか人助けをしている部室って」
 貧弱そうな色白の肌に、気弱そうな垂れ目、そして男にしては長めのベリーショートの黒髪。
 頭のてっぺんからちょこんと癖が一本飛び出ている。
 「誰かと思ったら爽か、ノックしてくれないと驚くだろ」
 「確かに。で誰ですかこの人?」
 爽は直立不動状態のまま、無言になってしまった。
 「あ、あの」
 おずおずと口を開けて話し出した爽を、秋菜は頬杖をやめて聞こうとする。
 「ぼ、僕の名前は森林しんりん そう。君達と同じクラスです」
 「特技は?」
 「えっ?」
 面接官みたいなこと聞くなよ、困ってるじゃないか。
 「ええと、影が・・・・・・薄いことです」
 それは特技とは言うのだろうか?
 秋菜は椅子にもたれ掛かり天井を見上げる。
 そして爽の方に顔を向けた。
 「で、ここは人助けをする部活ではありませんので」
 「ええっ! 思ってたんとちゃう」
 動揺すると一般語じゃなくなるのか。
 秋菜が迫力増大させて爽をにらんでる。 
 「うううう・・・・・・すすす、すいません」
 怖がってる怖がってる。
 「ごごご、ごめんなさ~い!」
 それでもまだ秋菜は迫力をキープさせてにらみ続ける。
 そ爽は何も悪くないから謝らなくていいぞ。悪いのは全部こいつだから、大罪人だから」
 「誰が大罪人よ!」
 意識がこちらに向いてきた。これでいい。
 「せっかくはじめての依頼人だってのに怖がらせちゃダメだろ!」
 「私は横目に見てただけ! 私は可憐な少女なんです!」
 「はわはわ、やめてください」
 突然口論を始めた俺達に困惑しながらも止めようとしてくれる爽を横目に、秋菜が身を乗り出して俺に罵倒浴びせてくる。
 「少女が怖いわけないでしょうが! バカ」
 俺も身を乗り出して反抗する。
 「実際怖がってんだから! お前が可愛いのは否定できないが可憐ではない!」
 一瞬で、顔を全体を紅潮させて、口を開けたまま少しのけぞる。
 「かかかかかか、可愛いとか・・・・・・言ったって・・・・・・もういい!」
 腕をくんで顔を紅くしたまま席にガタンと音を立てながら座った。
 「・・・・・・てんだからバーカ」
 良く聞こえなかったが何か不満を呟いているようだった。
 「篠藁くん、僕はどうすればいいの?」
 「ああ、すまん。そうだなそこに座って」
 まやの隣にあった椅子を指差す。
 爽は何も言わずその椅子に座った。

 「友達が欲しいんスヨネ?」
 あの後、まやとあおいもすぐに部室に来たため加わり四人で相談を受けることになった。
 だが依然秋菜は俺から目を背けて壁を見つめ仏頂面のままだ。
 「そうなんです、僕影があまりにも薄すぎて誰からもかまってもらえないから」
 話すと面目なさそうに縮こまる爽をまやとあおいは温かく見つめている。
 「どうするスカ?」
 「考えるしかないわよね」
 あおいの言うことはごもっともだ。
 俺は考えを巡らす、そして一番簡単な答えが思い付いてしまった。
 それは・・・・・・
 「俺が友達になってやる、というかもう俺達友達みたいなもんだろ」
 「篠藁くん、ありがと」
 爽の表情はよりいっそう暗くなる。
 間違ってたのか?
 「そうっス。日曜日みんなで野球するっスヨ」
 しかし、俯いたままうん、としか発しない。
 「野球よりもみんなで遊びましょう!」
 あおいの一言に爽がびくんと反応する。
 「そうするっス、あおいは天才っスヨ」
 「私も行っていいの?」
 か細い声。
 声の方を見ると秋菜が椅子の上で正座しながら俺達を上目遣いで寂しそうに見てきていた。
 「もちろんですよ。じゃあ学園の最寄り駅に朝九時集合で」
 日曜日か、予定入ってるのにな。

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