世の中凡人を探す方が難しい

青キング

天然芝の記憶

 「野球大会の開幕日が決まりました!」
 歓喜の声とともに部室に入ってきたのは言うまでもない秋菜だ。
 「ねぇ忍、早く九人集めて練習しましょう」
 そう簡単に九人集めることができるなら集めたい。できないから集めていないんだよ。
 「樋山先生は野球できます?」
 「えっ? ど、どうだろうな」
 どこからか持ち出してきたノートパソコンに意識を集中していた樋山先生は、突然話を振られて狼狽えながら言葉を濁す。
 「ところで先生。九人集められそうですか?」
 「部員と私で五人だろ。あとは・・・・・・一人は着いてくるだろうから六人かな」
 「なーんだ揃ってないのか」
 少し唇を尖らせながら席についた。
 「ごめんね力になれなくて」
 樋山先生は申し訳なさそうに謝る。先生が謝る必要はありませんよ。
 五人全員席に座って、無言が続く。
 無言空間を破ったのはまやだった。
 「集まらないのなら練習だけでもした方がいいと思うっス」
 「でもさー道具用意してないじゃん」
 秋菜の言ってることは正しい。が億劫そうにしているのが癪だ。
  秋菜は頬杖をついて退屈そうだ。
「心配ご無用っス。今日はバット一本で充分スカラ」
 得意気に笑顔で床に置いていたバッグ付近からバットケースを俺達に見せ付けるように持ち上げた。
 なんでバットを持参してんだよお前は。素振り千回とでも言うのかい? まやコーチ。
 「どこでやるのよ?」
 秋菜がまやに喰らいつくように問う。
 「行けばわかるッス」
 不気味な笑みを浮かべて答えを先送りする。
 もったいぶらないで教えてくれよ。
  
  仕事のある樋山先生以外の俺達四人はまやの後を着いていく。
「着いたっスヨ」
 そう言ってまやが立ち止まった場所は学園から歩いて約十五分走って約七分のところにある一軒家が建ち並ぶ閑静な住宅街の一画。
 俺達のすぐ隣には門柱には『白星』とかかれている。誰の家だここ?
 「ねぇまや?」
 「何スカ?」
あおいはひと一つため息を溢して、言い放つ。
 「まやの自宅で練習するの?」
 「そうっスヨおかしいっスカ?」
 当たり前と言わんばかりに平然とした顔をしている。
 見た感じ土地はそこそこあるけども。
 家周辺の庭は天然芝で玄関前には何もなくスペースが有り余っている状態に見受けられる。
 まやが鉄格子の門を開け、入るっス、と促され天然芝を踏むことになる。
 ザッという嫌な記憶を相起しそうになる音が自分の足元でする。
 相起してしまった。罵声の数々、鬼のような目付き、呆れたような顔どれもこれも忌々しい。
 「どうしたんスカ?」
 まやの声ではっと我に帰る。
 「早く入るっスヨ」
 「ごめん・・・・・・ちょっとね」
 視線を外すように落とす。
 「忍早くしなさい!」
 まやが俺の腕に自分の腕を絡めて引っ張る。
 「考え事は後っス、今は練習がんばるっすよ」
 そうだ昔のことはどうでもいい。
 秋菜とあおいの元までまやに笑顔で引っ張られながら俺も軽く笑った。
 本心 とは真逆で。

「世の中凡人を探す方が難しい」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「コメディー」の人気作品

コメント

コメントを書く