Twins ・Corridor

川島晴斗

第八話:真相②

 俺の部屋の隣、そこも個室だった。ただ、ベッドもキチッと掛け布団がシワなく乗っており、部屋には散乱する本もなく、本棚には教科書や参考書などがしまってある。俺のとは全然違う部屋――その机の上には、俺に読めと言わんばかりに日記が置かれていた。

「……俺にこれを読めってのかよ」

 見覚えのある日記には悪態をつかずにいられなかった。なんせその日記帳は、中弥と小子の死後に読んだものだから。

 しかし、俺はここに留まっていても仕方ない。戸惑いながらも、俺は日記を手に取り、開いた――。


 20xs年.0608 雨
 兄ちゃんの奴、所構わずプロレス技を使うからおっかない。どこで習ったのか聞いても教えてくれないし、なんなの……。双子の弟である僕はこんなに貧弱なのにな。

 20xv年.04.09 快晴
 今日から中学生になる。もうすぐ駄菓子屋とも縁が切れそうだ。それと、兄ちゃんというのも中学生では恥ずかしいので、大樹の事は兄貴って呼ぶことにする。慣れないけどなぁ〜っ。
 あと、明日は公園に埋めたタイムカプセルを小子と取りに行くらしい。楽しみだなっ。

 20xw年.06.27 梅雨の雨
 あまり書きたくないが、自己分析のためにもしるす。
 小子は間違いなく僕を溺愛している。兄貴は全く気付いてないが、これは事実だろう。
 そして問題なのは、小子がクラスの女子の上履きに、画びょうを入れているところを目撃してしまったことだ。アイツは僕に気のありそうな女子にただならぬ敵意を持ち、何かしら苦痛を与えようとしている。僕が言って聞くか分からないし、とりあえず先生に報告したが……次あれば一度、僕から言ってみよう。
 ただ、僕も彼女が怖い、たまに彼女の瞳は狂気を含んでいる。僕の何を気に入ったんだ、彼女は……。

 20xy年.02.16 雪
 勉強の甲斐もあって、小子とは別の高校に行けることになった。兄貴も一緒だから心強い。
 ただ、これが決まった日から小子の視線が怖くなった。僕はいつまでビクビクして生活しなくてはならないのだろう。

 20xy年.05.14 雨
 ついに兄貴にメールの事を相談した。『愛してる』と200回も打ってあの女は送ってきたのだ。やめて欲しい、本当に。
 兄貴はあまりいい解決手段を言わなかったけど、なんだか心が軽くなった。ありがとう、兄貴。

 20xy年.11.10 晴
 メールアドレスを変えたのに、またアイツからメールが来た。誕生日には素敵なものをあげる、と。誕生日にお前なんかと会いたくない。何が幼馴染だ、もう勘弁してくれ……。

 20xy年.11.12 曇り
 またメールが来た。永遠に一緒。それだけが書かれていた。
 僕は殺されるのかもしれない。永遠に一緒って、そういうことだろう……。
 でも……絶対に生きたい。僕は理系、兄貴は文系で災禍を発揮して、最高の双子でありたい。だから……絶対に僕は、兄貴に今日買ったプレゼントを渡してやる。
 絶対に……。


 そこから先は白紙の項が続いた。最後のページにも何も記されておらず、この日記はここまでのようだ。

 俺が現世で見た中弥の日記では、11月20日まで彼の決意が書かれていて、21日の誕生日は白紙だった。

 ……そうだ。中弥は俺の双子の弟だった。二卵性双生児であり、外見はびっくりするほど似てない。俺はボサボサな髪でアイツはふわふわだし、俺の目つきは悪くてアイツは可愛い目つき、背丈はさほど変わらなくても、筋肉は俺の方があって……そんな、ちょっとなよなよした弟だった。大切な弟だった。子供の頃はいつも一緒に遊んで……中学生からは真面目になって……。

 中弥が死んで、俺は明るい性格を失っていった。しかも殺したのは小子で、その小子も自殺した。
 俺は1人になった。いや、正確には、話す奴は高校にいる。だけど、本音で語り合えるような、本気で楽しいと思うことをする仲間は、居なくなった……。

「……だからなのか」

 俺は、あの時に自分も死ぬべきだと思った。みんな死んで、俺1人で生きていけないと……。弟が居なくなって、俺は文系を目指す理由もなくなった。

 なんで生きてるんだろう――。

 そう思うことが、頻繁になった。

「なんであの時、死ねなかったんだろう……」
「じゃあ今殺してあげようか?」
「!!?」

 突然聞こえた声に俺は振り返る。
 部屋の扉の前、そこには鉈を持った小子が、ニタリと笑って佇んでいた。

「ねぇ、今死にたいの? 大樹も一緒かぁ、3人かぁ、嬉しいなぁ、嬉しいなぁ、とっても嬉しいなぁあ……」

 クツクツと笑いながら小子は鉈を振り上げた。……ここまでか。お得意のプロレス技なんて小学生以来使ってないし、逃げ場もない。
 しかし、これで良かったのかもしれない。ここには中弥も小子も居る。あの時死んだ事を無かった事にして、3人で一緒にいられれば、それで良かったのかもしれない。俺の後悔もこれで終われるなら、それで良い。

 鉈を持った小子が迫る。部屋は6畳だが、なんとか一振りぐらいはできるだろう。それで俺を殺せるだろう。

 もういい。死ぬならそれで――。

 俺は目を閉じた。次に目を開く時は、痛みで苦悶する時だろう。証拠に殺されるなら、それでいいんだ。中弥も同じ奴に殺されたのだから。それに、幼馴染のよしみで許してやれる。
 だから……。

 …………。

「…………?」

 しかし、いつまでも俺は刃に斬られなかった。
 何があったのか、確認するために目を開いた。

「ダメだろう、兄貴――」

 目の前には

「君は生きて帰るって――」

 小子の手を掴む

「僕に、言ったじゃないか――」

 中弥が凛然として立っていた。

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