Twins ・Corridor

川島晴斗

第三話:公園③

 3月21日(はれ) 起きた時間6時30分
 今日もおとうとと公園に行った。しゅくだいなんて知らない、オレら小学生はあそぶのがしごと! 今日はおにごっこでオニ役にバックドロップキメて逃げのびた。さすがオレ。

 4月17日(はれ) 起きた時間7時20分
 日記めんどくせぇ……くそぉー、お母さんが言わなきゃこんなのかかないのに。ナカヤはよくこんなのかいてられるよ、マメなやつめ。

 7月3日(くもり) 起きた時間6時50分
 気づけば日記もてい着してきた。ナカヤはオレの3倍ぐらいかいてて2冊目も後半らしいが、オレはオレのペースで頑張るぜ! そういえば、小子しょうこも日記を書き始めたらしい。アイツはオレの3ばいぐらいかきそうだが、なにをかくのかわからん。

「…………」

 日記に書いてあった内容を読み終わり、残りが白紙なのを確認すると静かに閉じた。小学生の日記……らしい。登場人物の書き手とナカヤ、小子という女子。ナカヤ……その漢字が書けず小子が書けるということは、書き手は小学校低学年だろう。その割には時間とか起きるとかは書けるのが凄い。

 だが、これだけか……? 公園を探し回ってこんなわけのわからない情報だけで終わり……?

「……なんだろうなぁ」

 何か変化があるはずだ。なければ永遠にここにいなくてはならない。こんな1ページも書けてない日記なんか……役に立たん!

「どうせなら幽霊撃退用の金属バットとかスタンガンが良かった……」

 そんなもんないよな、と自分で内心ツッコむ。現実は俺に冷たい。

「……それで、どうしよう」

 呟いた直後、風が吹いた。同時に俺の頭に何かが触れる。

「!!!?!?」

 驚きのあまり、日記を投げ出して後ずさった。
 公園の外にまで出ようとすると、公園反対側の出口に出る。ここはそういう空間らしいが、そんなことはどうでもいい。おそるおそる俺は髪に手を伸ばした。

「…………」

 頭からとれたそれは、緑の青い木の葉っぱだった。

「……〜〜はぁ」

 とんだ気苦労だった。しかし、この先にまたナニカが出るかもしれない。今の現状では、俺はどんな怪現象に巻き込まれてもおかしくはないのだ。
 怖い――冷や汗が止まらないほどに怖い。こんな暗い公園に1人、俺は何をしたら出られるんだ……。

「…………」

 考えても仕方がない。俺は立ち上がり、唯一の手がかりであるノートを拾いに向かった。

「……あれ?」

 しかし、元の場所に戻ってもノートは無かった。どこかの木に突っかかったか、草に隠れたか、穴に落ちたか……。

「めんどくせぇな……」

 消えたと言っても選択肢は限られている、俺はまた木の周りをうろついた。……だが、ノートは姿を見せず、代わりに別のものを見つけた。

 ドア用の、どこかの鍵だった。

「……見落としてたのか」

 チャリと鍵を拾い、表裏を見る。どこのものかわからないが、この公園で鍵が使えるものといえばトイレしかない。

「…………」

 なるべく近付きたくはない。あの猛烈なノックはトラウマになりそうだったから。
 しかし、今はこの鍵に頼るしかなさそうだ。

「……はぁ」

 溜息を零し、俺はトイレに近づいた。男子用、普通の個室……裏には掃除用具もある。個室は空いてるとして、男子用も鍵穴なんて……

「あるし……」

 鍵穴があった。とりあえず開けてみることにする。

 鍵を入れると、穴にすんなりと入っていった。

「…………」

 しかし、なんとか俺は踏み止まる。まさか、ここで男子用トイレにに誰か入っていたら、俺は殺されるかもしれない。ここはひとまずノックをしよう。
 俺は1つ頷くと、コンコンとソフトタッチなノックを二回、トイレにした。

 ――ドォオン!

「いいっ!?」

 帰ってきたのは強烈な殴打だった。ドアが陥没し、もうすぐ穴が開くというところ。鍵……もしここので合っていて、開けていたらどうなっていたか……。

「……掃除用具、見に行こう」

 自分がミンチになる姿を思い浮かべ、想像を払いのけるようにさっさと歩くのだった。
 トイレの裏側に着くと、再び俺はノックをする。中から返事は何もない。
 俺はこの扉に鍵をさした。誰もいない、ならばいいだろう。遠慮もなく回すと、カチャッと鍵が開いた――。

 視界の先には――闇が広がっていた――。
 底の見えない暗闇の空間。進めるのか落ちるのかもわからない、ただの黒が広がっている。音もせず、風もない。しかし、俺にはこの道を進むしかないのだった。

 一歩を踏み出す。踏んでる感触はあり、カツンという音が響く。俺はそのまま歩き出した。先の見えない闇の中をカツン、カツンと踏み鳴らして進んでいく。


 ――ウフフフフフフ


「…………」

 突如聞こえた少女の声に足を止める。幼い声だった、おそらく小学生くらいだろう。どうしてそんな推測をするのか――それはさっきの日記が原因で……。

 俺は振り返らずに先へと進んだ。だんだんと足の動きが速くなる、呼吸も荒くなってきた。


 ――ウフフフフフフ


 笑い声が追ってくる。気味が悪く、吐きそうだ。しかしなんとか口を抑えて走り抜ける――








 世界が変わった――


 急に視界が反転し、一面が白くなる。何が起きたのかはわからなかった。 

 吐き気や疲れがどこかへ消えていて、自分の両手を見つめるぐらいに驚いた。後ろからの少女の声も消えて――







 ――ア ソ ボ









「…………」

 完全に音が止んだ。あれから何分経ったのかはわからなかったが、吹き出た冷や汗はまだ止まっていない。

 驚きのあまり気を失っていたのか、意識がようやくハッキリとしてきた。目に映る世界はまた変わっている。

「……どこだ、ここは?」

 四角い箱のようなものが30個ほど並んでおり、前方には深い緑色の板が横長に張り付いている。右側の前後に扉があり、背後にはロッカーがいっぱいあった。

 見たことのある光景だった。憶えていなくても体が記憶している。そう、ここは――

「俺の通っていた……中学校?」

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