悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア

ノベルバユーザー173744

晴明のペットになっています……。

「何か食べられますか?子龍しりゅうどの」
『……あの、お手、お代わりさせないで下さい……』
「言うか、お前がやっているんだろう、子龍」

 白竜はくりゅうは腕を組み、ため息をつく。
 晴明せいめいは、小さい龍のままの子龍を面白がっている。
 どうみても晴明は、動物が好きらしい。
 本人は嫌われていると思っているらしいが、この庭には今は隠れているが何故か、生きた鳥や猫、犬に……。

『うぎゃぁぁぁ‼』

 子龍がビュンっと晴明の衣の袖に隠れる。
 再び空を飛んで戻ってきたのは白虎びゃっこである。
 地面に穴が開く程盛大に叩きつけられた白虎だが、

「イテテテテ……騰蛇とうだ、俺を殺す気か……」

と言いつつも、起きあがりうーんと伸びをして、毛並みを整え始める。

「今やるな‼暑苦しい‼」
「いや、この美しい俺の毛並みが……」
「もう一度、川に行って泳いでこんかぁぁ‼」

 掴み、投げようと手を伸ばすと、

「ちょっと待った‼『客人の先触れにいってこんかぁぁ』って、騰蛇に投げられたんだ‼客人が来るんだ‼」
「客人?ならば、私たちは帰るか?子龍」
「いや、何か、先日の子龍どのをちっさくした少年と、子龍どの位の長身の兄さんが来てる。名前は聞かなかった」

ひょいっと手を避けて逃げ出した白虎は、姿を人間に戻す。

「もうすぐ来るんじゃねぇ?」

 その声と同時に、

「失礼致します」

ハッキリとした声に、子龍は顔をだし、

『あ、子麟しりん‼上の子です。子麟‼』

飛んでいこうとするが失速し、べしょっと落ちる寸前に晴明がすくいあげる。

「危ないですよ。飛ぶ練習もしないで、ちょこまかしても駄目でしょう。はいだっこ」
「おい。子龍はペットじゃねぇぞ?」
「膝がいいですか?」
「おい、聞けや」

 渋い顔をすると、青龍せいりゅう朱雀すざくに案内された二人が現れる。

「ようこそ、お越し下さいました」

 立ち上がった晴明が頭を下げる。

「私は安倍晴明あべのせいめいと申します。中国の神仙、諸葛孔明しょかつこうめいさまですね?」

 顔をあげ微笑むと、孔明こうめいは固くなった。

「ど、どうされましたか?」
「孔明さま?」

 孔明の傍にいた子麟は、首をかしげる。

「……は、伯松はくしょう……?」

 言葉がこぼれる。

「伯松‼生きて……いや、ここに……」
「伯松と言うのは……」

 困惑したように周囲をみる。
 ペットのように抱かれたままの子龍は、晴明を見上げ、

『伯松と言うのは、孔明殿の長男です』
「……諸葛孔明殿の息子はせんあざな思遠しえんどのでは……」

首をかしげ、

『孔明殿は女の子がおります。その子が姫です。伯松は孫呉そんごの宰相、諸葛子瑜しょかつしゆ殿の次男で、養子に迎えたのです。殿……劉玄徳りゅうげんとくさまの姫……後主こうしゅ劉公嗣りゅうこうしさまの姉が奥方です。思遠は、遅くに生まれた妾との間の子供で……本当に可哀想ですが、出来た兄が数えで3才で逝ってしまい、忙しい孔明どのが余り見守る暇もなく逝った為に、何かいいことが起こると、民衆の間から、『諸葛の若さまのお陰だ』と、言う感じで……』
「思遠どのは大変でしたでしょうね……」
「いえ、ワガママなガキでした」

晴明からみたら、少年……子供にしか見えない子麟は頭を下げる。

「初めまして、趙子龍の長男子麟と申します。母と妹が……本当にありがとうございます。で、瞻ですが……可哀想と言うべきではありません。諸葛家の嫡男の器ではなかったと言うことです。孔明さまが短い間に成したこと……それは粗っぽいものだった、孔明さまが軍師の才能がないなどと後世では言われますが、長安への道を作っていき、天然の要塞に近い四川より、戦いに赴く為の要所を探していたのです。国ができてすぐ……勢いのある時に戦場で足場を固め、そして国力を高める……孔明さまが行ったのは、国の初期段階に行うものです。その後は生きていた私たちの責任……姜伯約きょうはくやくは、国の財政を考えず戦場に……私たちは止めることができず……中央に戻ってみれば、暗愚あんぐな君主が、宦官かんがんと遊び回り、見て成長しているにも拘らず、後主の娘を妻にしていた思遠は何の手も打っていませんでした……父と孔明さまが作ろうとした国はこんなものかと、私も弟も悔やみました」

 唇を噛む。

「それに、先主せんしゅ……劉玄徳さまの為に戦い抜いたはずの父は、かなり位も低く、その差に恨んでいたこともあります」
『いや、私は、位よりも……』
「父上は‼いつもそればかりだ‼地道に戦い続けた父上に何を寄越したんですか‼死んでから、取って付けたように……『順平侯じゅんぺいこう』‼しかも、私は良く解らなかったですが、先主が漢中王かんちゅうおうになられた時に、前後左右の将軍位は、関聖帝君かんせいていくん黄漢升こうかんしょうどの、馬孟起ばもうきどの、張益徳ちょうえきとくどので、父上は翊軍将軍よくぐんしょうぐん‼あの魏文長ぎぶんちょうよりも下ではありませんか‼」

 ぐわっ‼

食って掛かる。

「父上は悲しくなかったのですか?あれだけ必死に努力されて、その結果が、翊軍将軍‼恨みたくなかったのですか‼」
『えっと……まだまだ努力が足りないなぁ……とか?でも、可愛い妻子がいるから良いやと思った』

 父親ののんきな一言に絶句する。

「あの時は、まだ母上生きていて、ボロボロと泣かれたの知らないんですかぁぁ!」
『えっ?桃桃タオタオが‼あぁ、じゃぁ、長安に一騎がけして、潰してきたら……』
「その前に私とお前がつぶれるわ‼」

 白竜は突っ込む。

『だよね……それに、情けないなぁと思っても、仕方ないかと思ったよ。あの頃にはもうすでに殿は、私の意見を聞き入れてくれなかった……』

 子供の竜だが、諦めたように呟く。

『殿にとっては、私はもう必要がなかったと言うことだよ。役立たずってこと。で、拾って下さった孔明どのや参謀殿によって働けた。それが悲しいとかはないけど、順平侯はいらないよね』
「子龍どの……」

 孔明は絶句する。
 普段物静かな側近の一言に……。

『大丈夫ですよ。私は、分をわきまえているつもりです。欲も、権力も欲したら、魏文長のような男になります。ついでに関聖帝君。髭剃れ‼ウザイ‼鬱陶しい‼暑苦しい‼どっか行け!』

 その軽口に、孔明も晴明も子麟も噴き出した。

「所で、孔明どの。この安倍晴明が伯松……と言うのは?」

 白竜が示す。

「私にはどうみても、天狐てんこの血を引いた、力の塊にしか見えないのだが?」
「伯松なんだ‼どうみても……私が伯松を見間違えたりしない‼」

 孔明は言い切ったのだった。

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