悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア
二人の兄は、可愛い妹にメロメロになりました。
三人と一頭は、ゆっくりと帰る。
階層が違う為、時間をかけて龍花が興味を持つと説明しつつ帰っていく。
最初は一緒に歩くと言い張っていたものの、途中で眠くなりうとうととし始めたのを抱き上げてその温もりを妻と分かち合うのが幸せだと感じられる。
と、
「父上‼又、放浪ですか‼」
「浮気はしないが、家出はいい加減にやめてくれよ。親父」
屋敷の門の前で立っている息子達に、子龍は、
「静かに‼疲れて眠っているんだ」
「誰……ウワッ!母上ちんまり……」
「本当に可愛い」
7歳位か……小さい女の子が、子龍の腕の中で眠っている。
顔立ちは母の桃桃に瓜二つ。
まつげは長く、顔立ちはあどけない。
まじまじと見つめていると、まぶたが開かれ瓜二つの兄弟を見る。
「……お、お兄様?お父様、お兄様?わぁぁ‼」
目をキラキラさせる。
「お兄様、かっこいい‼えっと、えっと、お兄様。龍花です。あのあの……」
「うわぁ……可愛い。龍花?お兄ちゃんは上のお兄ちゃんで、統と言われているけれど、子麟と言います。仲良くしてね?」
「子麟お兄様?麒麟の麟ですね。平穏と賢君の象徴です」
「賢いね‼お兄ちゃんの名前覚えて貰えて嬉しいよ」
子麟と字を名乗った統は笑顔になる。
「あー‼兄貴ばっかりずるい‼龍花。俺……兄ちゃんは、広。字を子鵬だよ‼よろしくな?兄ちゃんも、妹欲しかったから嬉しい‼」
「鵬……鳳凰の別名ですよね。わぁ……空を羽ばたく大きな鳥の中の王……。お兄様に似合っていらっしゃいます」
「……うわぁ。兄ちゃん、勉強もっとしよう。龍花に負けられないもんな」
広は拳を固める。
統は、手を差し出すと子龍は龍花を抱かせる。
「龍花。可愛いね。それに嬉しいなぁ……だっこ」
「重くないですか?」
「あはは……軽い軽い。重いのは、父上は兎も角、こっちだよ」
「兄貴ばっかり‼俺も‼」
「……大丈夫かな……あれは」
自分の親バカを棚にあげ、息子たちが目の色を変えて妹をだっこして甘やかせる様子に、子龍は呟く。
「まぁ、貴方も同じでしたわ?」
「桃桃に似て可愛くて、嬉しくてね。ほら、皆、屋敷に入ろう。休まないと」
促す。
龍花は、広にだっこされている。
「今日は一応、あちらに伺うと孔明どのには伝えていたが、何かあったかな?」
「あ、父上。関聖帝君様より使いが」
「髭から?捨ててこい」
子龍は吐き捨てる。
正直に言えば、子龍は元々好きではなかった。
喧嘩すらする気はなく、放置である。
食って掛かられるのを最近はウリウリと遊んでいるのは、鬱陶しいから。
あの、崇め奉られている姿が馬鹿馬鹿しいからである。
何が関聖帝君だ。
名前だけ敬われても、あの時の事は子龍の胸に重くのし掛かる。
あの戦いによって失ったものは大きい。
領地ではない。
信頼関係も、主君の思いも変わった。
もっと国の為、人々の為……大義名分でいい。
仕えるに値する人であって欲しかった。
……もう、過去である。
「貴方?」
「あ、あぁ、いや。髭には会いたくない。避客牌を用意しておこうか」
ちなみに、かなり怒っているのは、彼の行った尻拭いの度に酷い目に遭わされ、その為に今で言う残業……しかもサービス残業に酷使させられていた為である。
現在では、裁判で訴えられる。
自分は一応老衰に近かったが、諸葛亮はどこをどう見ても過労死である。
彼に言われたら、裏で抹殺しておいたのだが……今でも言いに行こうか……。
と逆恨み満載の事を考えていた子龍の目の前に、
「何故、何の断りもなく私の屋敷に入り込んでいる⁉貴様‼」
……子龍がキレた。
妻を長男に預け、つかみかかる。
「あれ?親父、知り合い?」
広は問いかけるが、腕の中の龍花が顔を歪める。
「子鵬お兄様……あの人……」
「い、いやぁぁぁ‼貴方‼貴方‼」
「母上?」
「どうしたの‼」
真っ青な顔でガタガタと怯えている母を、統が抱き締める。
「母上‼落ち着いて?私も広も龍花もいるから」
「助けて‼もういやぁぁ……」
悲鳴をあげ、急にがっくりと全身の力が抜けた母親に、統は目を見開く。
体は抱き締めている為に大丈夫だったが、気絶している。
「お母様ぁぁ……うわぁぁん」
龍花が泣きじゃくる。
広も焦るが、
「兄貴‼奥に行こう‼母上に龍花を休ませないと‼」
「あ、あぁ‼」
統は母親を抱き上げて、二人は奥に入っていく。
それを見届け、子龍はつるし上げていた大男を見上げる。
「何をしに来た?貴様が髭の使者か?はっ‼閻魔大王に職を干されたか?それはそうだろうな」
「……む、娘を連れに来た」
「私の娘だ。連れ去るならそれ相応の処分を、こちらの階層から、京都の階層と北欧の階層にお願いして頂くが?」
「あれは、私の娘だ‼」
「黙れ‼」
鳩尾に力任せに拳を入れた。
戦いの為に、両方の腕が使えるように鍛えていたので、問題はない。
「ぐっ‼」
「私の娘を、自分の子だと言えるのなら、言ってみるが良い。笑われるわ‼」
「あれは、私の娘だ‼あの狐が、隠してしまった‼あの畜生が‼」
「黙れ‼」
次は狙いすましたように、肋骨を狙う。
こちらは日常から鍛えていた為に何ともないが、男の骨は確実に数本折れた。
今日は怒りが勝っている。
手加減など、生きるか死ぬかの世界に、必要はない。
いや、手加減などすれば、自分の大切なもの……妻と子供を失うのだ。
その上、再び妻と子供が哀しい運命に巻き込まれる。
ここで徹底的に叩き潰しても構うまい……それだけの事はしているのだから‼
拳を構えた時に、
「おい‼爺‼お前何をしている‼」
声が響いた。
「五月蠅い……髭‼こいつを徹底的に叩き潰してくれる‼」
「やめんか‼落ち着け‼」
「十分落ち着いているが?髭の方が慌てているだろう?」
「その目で落ち着いていると言えるのか‼お前は‼周倉‼私の使いと称してこの屋敷に侵入したその男をひっくくって、閻魔の元に‼」
「はっ‼」
周倉は怪力と俊足の持ち主である。
侵入者を捕まえ、連れ去った。
「何故、邪魔をした‼」
子龍は詰め寄った。
しばらく見下ろしていた髭……関聖帝君こと関羽は、
「お前はキレると瞳が変わる。兄者の先祖、劉邦は、竜と人の間の子供と言うが、お前のように瞳がそのように移るのか……」
ハッと子龍は片手で顔を隠す。
「……誰にも言うな……言えば殺す‼」
「孔明も知っているのだろう?変わるまい」
「言うな‼私が、そう易々、この世界に住まうことができたのは……尸仙したからではなく……」
「字どおり、竜の子供だった。しかも、人に変化して、最初は無表情に見えた。感情がないように……だが」
「黙れ‼二度と口にするな‼すれば‼」
俯く子龍の頭を見た関聖帝君は、首をすくめ、
「髪が乱れているぞ。お前らしくもない。このようにふぬけとは、口喧嘩もできぬな。ではな」
「ふぬけは貴様だ……次に来てみろ。殺してくれる‼」
後ろを向き髪を手ぐしで手早く整えた子龍は、振り返る。
瞳も普通の色に戻っている。
「人の使者を騙った男を捕らえに来たまで。ではな。爺」
「髭は来るな‼」
去っていく関聖帝君に言い返し、目を伏せた。
「竜の子供……身を隠して生きても、ここでは意味がない……と言うことか」
「父上‼龍花が、熱を‼」
走り込んできた統に、
「すぐに医師を。二人を休ませたか?」
「龍花が泣きじゃくって、広は二人を看てる」
「あぁ、安心するだろう。行ってくる。頼んでも良いか?」
「はい」
息子に笑いかけ、奥に入っていったのだった。
階層が違う為、時間をかけて龍花が興味を持つと説明しつつ帰っていく。
最初は一緒に歩くと言い張っていたものの、途中で眠くなりうとうととし始めたのを抱き上げてその温もりを妻と分かち合うのが幸せだと感じられる。
と、
「父上‼又、放浪ですか‼」
「浮気はしないが、家出はいい加減にやめてくれよ。親父」
屋敷の門の前で立っている息子達に、子龍は、
「静かに‼疲れて眠っているんだ」
「誰……ウワッ!母上ちんまり……」
「本当に可愛い」
7歳位か……小さい女の子が、子龍の腕の中で眠っている。
顔立ちは母の桃桃に瓜二つ。
まつげは長く、顔立ちはあどけない。
まじまじと見つめていると、まぶたが開かれ瓜二つの兄弟を見る。
「……お、お兄様?お父様、お兄様?わぁぁ‼」
目をキラキラさせる。
「お兄様、かっこいい‼えっと、えっと、お兄様。龍花です。あのあの……」
「うわぁ……可愛い。龍花?お兄ちゃんは上のお兄ちゃんで、統と言われているけれど、子麟と言います。仲良くしてね?」
「子麟お兄様?麒麟の麟ですね。平穏と賢君の象徴です」
「賢いね‼お兄ちゃんの名前覚えて貰えて嬉しいよ」
子麟と字を名乗った統は笑顔になる。
「あー‼兄貴ばっかりずるい‼龍花。俺……兄ちゃんは、広。字を子鵬だよ‼よろしくな?兄ちゃんも、妹欲しかったから嬉しい‼」
「鵬……鳳凰の別名ですよね。わぁ……空を羽ばたく大きな鳥の中の王……。お兄様に似合っていらっしゃいます」
「……うわぁ。兄ちゃん、勉強もっとしよう。龍花に負けられないもんな」
広は拳を固める。
統は、手を差し出すと子龍は龍花を抱かせる。
「龍花。可愛いね。それに嬉しいなぁ……だっこ」
「重くないですか?」
「あはは……軽い軽い。重いのは、父上は兎も角、こっちだよ」
「兄貴ばっかり‼俺も‼」
「……大丈夫かな……あれは」
自分の親バカを棚にあげ、息子たちが目の色を変えて妹をだっこして甘やかせる様子に、子龍は呟く。
「まぁ、貴方も同じでしたわ?」
「桃桃に似て可愛くて、嬉しくてね。ほら、皆、屋敷に入ろう。休まないと」
促す。
龍花は、広にだっこされている。
「今日は一応、あちらに伺うと孔明どのには伝えていたが、何かあったかな?」
「あ、父上。関聖帝君様より使いが」
「髭から?捨ててこい」
子龍は吐き捨てる。
正直に言えば、子龍は元々好きではなかった。
喧嘩すらする気はなく、放置である。
食って掛かられるのを最近はウリウリと遊んでいるのは、鬱陶しいから。
あの、崇め奉られている姿が馬鹿馬鹿しいからである。
何が関聖帝君だ。
名前だけ敬われても、あの時の事は子龍の胸に重くのし掛かる。
あの戦いによって失ったものは大きい。
領地ではない。
信頼関係も、主君の思いも変わった。
もっと国の為、人々の為……大義名分でいい。
仕えるに値する人であって欲しかった。
……もう、過去である。
「貴方?」
「あ、あぁ、いや。髭には会いたくない。避客牌を用意しておこうか」
ちなみに、かなり怒っているのは、彼の行った尻拭いの度に酷い目に遭わされ、その為に今で言う残業……しかもサービス残業に酷使させられていた為である。
現在では、裁判で訴えられる。
自分は一応老衰に近かったが、諸葛亮はどこをどう見ても過労死である。
彼に言われたら、裏で抹殺しておいたのだが……今でも言いに行こうか……。
と逆恨み満載の事を考えていた子龍の目の前に、
「何故、何の断りもなく私の屋敷に入り込んでいる⁉貴様‼」
……子龍がキレた。
妻を長男に預け、つかみかかる。
「あれ?親父、知り合い?」
広は問いかけるが、腕の中の龍花が顔を歪める。
「子鵬お兄様……あの人……」
「い、いやぁぁぁ‼貴方‼貴方‼」
「母上?」
「どうしたの‼」
真っ青な顔でガタガタと怯えている母を、統が抱き締める。
「母上‼落ち着いて?私も広も龍花もいるから」
「助けて‼もういやぁぁ……」
悲鳴をあげ、急にがっくりと全身の力が抜けた母親に、統は目を見開く。
体は抱き締めている為に大丈夫だったが、気絶している。
「お母様ぁぁ……うわぁぁん」
龍花が泣きじゃくる。
広も焦るが、
「兄貴‼奥に行こう‼母上に龍花を休ませないと‼」
「あ、あぁ‼」
統は母親を抱き上げて、二人は奥に入っていく。
それを見届け、子龍はつるし上げていた大男を見上げる。
「何をしに来た?貴様が髭の使者か?はっ‼閻魔大王に職を干されたか?それはそうだろうな」
「……む、娘を連れに来た」
「私の娘だ。連れ去るならそれ相応の処分を、こちらの階層から、京都の階層と北欧の階層にお願いして頂くが?」
「あれは、私の娘だ‼」
「黙れ‼」
鳩尾に力任せに拳を入れた。
戦いの為に、両方の腕が使えるように鍛えていたので、問題はない。
「ぐっ‼」
「私の娘を、自分の子だと言えるのなら、言ってみるが良い。笑われるわ‼」
「あれは、私の娘だ‼あの狐が、隠してしまった‼あの畜生が‼」
「黙れ‼」
次は狙いすましたように、肋骨を狙う。
こちらは日常から鍛えていた為に何ともないが、男の骨は確実に数本折れた。
今日は怒りが勝っている。
手加減など、生きるか死ぬかの世界に、必要はない。
いや、手加減などすれば、自分の大切なもの……妻と子供を失うのだ。
その上、再び妻と子供が哀しい運命に巻き込まれる。
ここで徹底的に叩き潰しても構うまい……それだけの事はしているのだから‼
拳を構えた時に、
「おい‼爺‼お前何をしている‼」
声が響いた。
「五月蠅い……髭‼こいつを徹底的に叩き潰してくれる‼」
「やめんか‼落ち着け‼」
「十分落ち着いているが?髭の方が慌てているだろう?」
「その目で落ち着いていると言えるのか‼お前は‼周倉‼私の使いと称してこの屋敷に侵入したその男をひっくくって、閻魔の元に‼」
「はっ‼」
周倉は怪力と俊足の持ち主である。
侵入者を捕まえ、連れ去った。
「何故、邪魔をした‼」
子龍は詰め寄った。
しばらく見下ろしていた髭……関聖帝君こと関羽は、
「お前はキレると瞳が変わる。兄者の先祖、劉邦は、竜と人の間の子供と言うが、お前のように瞳がそのように移るのか……」
ハッと子龍は片手で顔を隠す。
「……誰にも言うな……言えば殺す‼」
「孔明も知っているのだろう?変わるまい」
「言うな‼私が、そう易々、この世界に住まうことができたのは……尸仙したからではなく……」
「字どおり、竜の子供だった。しかも、人に変化して、最初は無表情に見えた。感情がないように……だが」
「黙れ‼二度と口にするな‼すれば‼」
俯く子龍の頭を見た関聖帝君は、首をすくめ、
「髪が乱れているぞ。お前らしくもない。このようにふぬけとは、口喧嘩もできぬな。ではな」
「ふぬけは貴様だ……次に来てみろ。殺してくれる‼」
後ろを向き髪を手ぐしで手早く整えた子龍は、振り返る。
瞳も普通の色に戻っている。
「人の使者を騙った男を捕らえに来たまで。ではな。爺」
「髭は来るな‼」
去っていく関聖帝君に言い返し、目を伏せた。
「竜の子供……身を隠して生きても、ここでは意味がない……と言うことか」
「父上‼龍花が、熱を‼」
走り込んできた統に、
「すぐに医師を。二人を休ませたか?」
「龍花が泣きじゃくって、広は二人を看てる」
「あぁ、安心するだろう。行ってくる。頼んでも良いか?」
「はい」
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