悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア
趙子龍の心のうち
子龍は、常山郡真定県に生まれた日本で言う後漢……中国では東漢末期……から三国時代初期に生きた武将である。
生まれた年は不明だが、亡くなった年は229年。
その前年の228年の北伐で軍師、諸葛孔明が指名した馬幼常が、勝てる可能性のあった戦いを敗北に導き、大半の軍を別の場所に送って、城を守り勝利の知らせを待っていた子龍は、逃げ出してもすぐに追い付く、逆に相手を退却させてやろうと、空城の計を成功させた。
その上敗残兵を集め纏め、戻ってきた姿に孔明は、褒美を与えようとしたが、
「敗戦の兵に褒美は無用。代わりに冬になったら兵たちに下賜頂けますよう」
と答え孔明は感動した。
元々癖の強い劉備軍の武将の中で実直で、指示するとそれをこなしただけでなく、その倍もの仕事を果たす。
その子龍を長年敬意をもって付き合ってきた孔明は、亡くなった時には、悲しんだと言われている。
家族はいるのだが、妻の姓は分からず、息子は趙統、趙広の名前を残している。
子供とも接することは少なく、軍の施設の早朝から夜中まで留まり、そしてそのまま施設で休む事も多かった。
その為、子供の寝姿は見たことはあっても、軍に出仕した時には逆に驚いた。
「こんな顔をしていたのか?幾つになっていたのか……」
妻の事も覚えていなかった。
申し訳なさもあったが、仕方がないと思っていた。
息子たちは将軍と呼ばれる自分の子ではあったが、一般の兵士と共に行動していた。
自分の息子だと、父は私だと言えばいいものを……とも思ったが、家にも戻らず、子供の成長も見なかったその代償だと諦めた。
今更だと思った……。
228年の戦の後に体調を崩した。
周囲には知られないようにしていたが、ある時、訪いがあった。
「将軍……いえ、父上‼」
「父上‼お体が優れないと伺いました。大丈夫でおられますか?」
顔色を変えた息子たちに、
「いや、大丈夫だ……それよりもそなたたち……元気そうで良かった。大きくなるだけではなく、学び、武芸を研き、努力も怠らぬ……。成長を見守れなかったのは残念だが、そなたたちが誇りで自慢だ」
「何故‼何故‼父上は、何もおっしゃられないのです‼」
長男の統が怒る。
「家族でしょう‼父上は息子を、認めて下さらないのですか?」
「そうです!」
「いや、お前たちを省みなかった私が悪いのだと思っておった。逆に……口をはさみ、そなた自身の努力を無駄にできぬと……そなたたちの努力を私程度の親で、年下の阿呆な幼常のお陰で敗戦になってしまった……」
「それは父上のせいではないではないですか‼」
手を伸ばし、二人の手を触れる。
「よく頑張った。私は最低の父親だった。許せとは言わぬ。そなたたちの母に謝らねばな……」
二人の母は子龍が戦場を駆け回っていた時に逝っていた。
墓もあるが、詣でることが出来なかった。
「父上‼」
「まだ死ねぬよ。孔明どのを支えねば……嫁も哀しむ」
「お体をいたわって……」
「生きられるまで……戦いを……」
「父上‼」
翌年眠るように逝った自分が、そのまま死の世界に向かい、何の因果かここでいるのは居心地が悪いと言うか、髭親父のように周囲を威嚇するのも馬鹿らしく、まぁ、昔のように孔明の警護で良いだろうと思っていたのだが……。
「桃子。大丈夫ですか?」
「あ、あの。大丈夫ですよ。あの桃まんは如何ですか?冷めてしまうと美味しくなくなります」
何故だろう……。
このさりげない一言に胸がフワッと温かいのは。
「では、半分に」
「うっわぁぁ、将軍がデレてる‼父上?」
「いえ、生きている間は大体20年程一緒でしたが、予想外……」
孔明とその娘の果の呟きに、関平は、
「酷いじゃないですか‼一緒にお話をって、全然させてくれない上に、これですかぁぁ‼」
「あ、関平くん。えっと、わざわざきてくれたの?ありがとう」
「い、いえって、何でそこでわざとらしく邪魔を……」
「お子さまは小籠包を食べるがいい」
「あっつぅぅ‼」
と、ウリウリといじめている子龍。
孔明はついプッと吹き出す。
「何ですかな?孔明どの」
「いえ、子龍どのの新しい面を知ったなぁと思います」
「私もです……桃子。ゴマ団子を……」
食べている姿に、プッと吹き出す。
キョトン?
首をかしげる少女は、口の中のものを飲み込むと、
「な、何かおかしかったでしょうか?」
「いいえ、可愛らしいなぁと」
さらりっと微笑みつつ告げる子龍に、頬を赤くする。
「ど、動物みたいですか?」
「そうですねぇ……ウサギとか、ハムスターもそうですね、可愛いですよ」
「甘党ですみません‼ダイエットしなくては‼」
「大丈夫ですよ?可愛らしいのですから……ね?」
「……駄目でした……あ、暑さのせいです……頭がくらくら……」
よろめく桃子を支え、
「大丈夫ですか?」
「……」
こてんと気絶している。
そっと膝に頭をのせ、頬を撫でる。
「せ、セクハラですよ⁉」
「いや、セクハラではないぞ。大切な桃子どのにスキンシップというものだぞ」
「エロジジイですか‼」
関平の叫びに、一瞬にして箸を投げる。
ピシッと額に当たる。
「いったぁぁ‼」
「人の恋路を邪魔するものは、徹底的に排除じゃ」
「子龍どのの恋愛というのはあまり聞きませんね……そう言えば」
孔明は声をかけると、苦笑する。
「……忘れてしまいましたな。と言うか、悲しい思いをさせてしまった事が、申し訳ないと……それからはあえてそのようなものからは……」
「いつもタラシてい……あったぁぁ」
「声をかけるのが悪いのかの?私は普通に日常会話をと思っておるのだが?」
困ったように頬笑む。
「忘れようと思っておりましたが、誰かを愛おしいと、温かいと、大切だと思えるのは、幸せですな」
あぁ、気持ちがいいなぁ……。
暖かい……。
あの夢の中にいるようだ……。
生まれた年は不明だが、亡くなった年は229年。
その前年の228年の北伐で軍師、諸葛孔明が指名した馬幼常が、勝てる可能性のあった戦いを敗北に導き、大半の軍を別の場所に送って、城を守り勝利の知らせを待っていた子龍は、逃げ出してもすぐに追い付く、逆に相手を退却させてやろうと、空城の計を成功させた。
その上敗残兵を集め纏め、戻ってきた姿に孔明は、褒美を与えようとしたが、
「敗戦の兵に褒美は無用。代わりに冬になったら兵たちに下賜頂けますよう」
と答え孔明は感動した。
元々癖の強い劉備軍の武将の中で実直で、指示するとそれをこなしただけでなく、その倍もの仕事を果たす。
その子龍を長年敬意をもって付き合ってきた孔明は、亡くなった時には、悲しんだと言われている。
家族はいるのだが、妻の姓は分からず、息子は趙統、趙広の名前を残している。
子供とも接することは少なく、軍の施設の早朝から夜中まで留まり、そしてそのまま施設で休む事も多かった。
その為、子供の寝姿は見たことはあっても、軍に出仕した時には逆に驚いた。
「こんな顔をしていたのか?幾つになっていたのか……」
妻の事も覚えていなかった。
申し訳なさもあったが、仕方がないと思っていた。
息子たちは将軍と呼ばれる自分の子ではあったが、一般の兵士と共に行動していた。
自分の息子だと、父は私だと言えばいいものを……とも思ったが、家にも戻らず、子供の成長も見なかったその代償だと諦めた。
今更だと思った……。
228年の戦の後に体調を崩した。
周囲には知られないようにしていたが、ある時、訪いがあった。
「将軍……いえ、父上‼」
「父上‼お体が優れないと伺いました。大丈夫でおられますか?」
顔色を変えた息子たちに、
「いや、大丈夫だ……それよりもそなたたち……元気そうで良かった。大きくなるだけではなく、学び、武芸を研き、努力も怠らぬ……。成長を見守れなかったのは残念だが、そなたたちが誇りで自慢だ」
「何故‼何故‼父上は、何もおっしゃられないのです‼」
長男の統が怒る。
「家族でしょう‼父上は息子を、認めて下さらないのですか?」
「そうです!」
「いや、お前たちを省みなかった私が悪いのだと思っておった。逆に……口をはさみ、そなた自身の努力を無駄にできぬと……そなたたちの努力を私程度の親で、年下の阿呆な幼常のお陰で敗戦になってしまった……」
「それは父上のせいではないではないですか‼」
手を伸ばし、二人の手を触れる。
「よく頑張った。私は最低の父親だった。許せとは言わぬ。そなたたちの母に謝らねばな……」
二人の母は子龍が戦場を駆け回っていた時に逝っていた。
墓もあるが、詣でることが出来なかった。
「父上‼」
「まだ死ねぬよ。孔明どのを支えねば……嫁も哀しむ」
「お体をいたわって……」
「生きられるまで……戦いを……」
「父上‼」
翌年眠るように逝った自分が、そのまま死の世界に向かい、何の因果かここでいるのは居心地が悪いと言うか、髭親父のように周囲を威嚇するのも馬鹿らしく、まぁ、昔のように孔明の警護で良いだろうと思っていたのだが……。
「桃子。大丈夫ですか?」
「あ、あの。大丈夫ですよ。あの桃まんは如何ですか?冷めてしまうと美味しくなくなります」
何故だろう……。
このさりげない一言に胸がフワッと温かいのは。
「では、半分に」
「うっわぁぁ、将軍がデレてる‼父上?」
「いえ、生きている間は大体20年程一緒でしたが、予想外……」
孔明とその娘の果の呟きに、関平は、
「酷いじゃないですか‼一緒にお話をって、全然させてくれない上に、これですかぁぁ‼」
「あ、関平くん。えっと、わざわざきてくれたの?ありがとう」
「い、いえって、何でそこでわざとらしく邪魔を……」
「お子さまは小籠包を食べるがいい」
「あっつぅぅ‼」
と、ウリウリといじめている子龍。
孔明はついプッと吹き出す。
「何ですかな?孔明どの」
「いえ、子龍どのの新しい面を知ったなぁと思います」
「私もです……桃子。ゴマ団子を……」
食べている姿に、プッと吹き出す。
キョトン?
首をかしげる少女は、口の中のものを飲み込むと、
「な、何かおかしかったでしょうか?」
「いいえ、可愛らしいなぁと」
さらりっと微笑みつつ告げる子龍に、頬を赤くする。
「ど、動物みたいですか?」
「そうですねぇ……ウサギとか、ハムスターもそうですね、可愛いですよ」
「甘党ですみません‼ダイエットしなくては‼」
「大丈夫ですよ?可愛らしいのですから……ね?」
「……駄目でした……あ、暑さのせいです……頭がくらくら……」
よろめく桃子を支え、
「大丈夫ですか?」
「……」
こてんと気絶している。
そっと膝に頭をのせ、頬を撫でる。
「せ、セクハラですよ⁉」
「いや、セクハラではないぞ。大切な桃子どのにスキンシップというものだぞ」
「エロジジイですか‼」
関平の叫びに、一瞬にして箸を投げる。
ピシッと額に当たる。
「いったぁぁ‼」
「人の恋路を邪魔するものは、徹底的に排除じゃ」
「子龍どのの恋愛というのはあまり聞きませんね……そう言えば」
孔明は声をかけると、苦笑する。
「……忘れてしまいましたな。と言うか、悲しい思いをさせてしまった事が、申し訳ないと……それからはあえてそのようなものからは……」
「いつもタラシてい……あったぁぁ」
「声をかけるのが悪いのかの?私は普通に日常会話をと思っておるのだが?」
困ったように頬笑む。
「忘れようと思っておりましたが、誰かを愛おしいと、温かいと、大切だと思えるのは、幸せですな」
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