悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア
葛の葉……狐の子供と閻魔大王の側近……。
日々は、そつのなさと礼儀作法を覚える……しかし、父に漢学や代々の日記をそらんじていた桃子は同年代からは妬まれ、年上からは、
「藤式部……他の女童は身分の高い子供もいるのよ。才能をひけらかせてはいけないわ」
「ひけらかせ……?そ、そんなことは……わ、私は、ただ、書簡を……」
「漢字を読めない者が多いのよ。私たちも最低限のものは学ぶけれど、貴方程解らないの。隠しておいた方がいいと思うわ。私は気にしないけど、貴方のことを嫉妬している同僚もいるのよ。気が利きすぎる。子供らしくないとかね……」
衝撃を受ける。
そしてその頃、父が地方に下ることになり、ここにいるよりもと宿下がりをし、父に着いていくことに決めたのである。
「安倍晴明さま」
父に使いを送り、そして倫子に頼んだ後、出会ったのは70代になるというが、背筋が伸びた白髪の知恵者……倫子の夫である藤原道長に従う凄まじい能力のある陰陽師。
色々な嘘や噂があるが、桃子は瞳の澄み切った彼は好きであった。
「お久しぶりです。お会いできて良かったです」
「お久しぶりですな。聖なる花の姫」
「姫ではありません。それに、晴明さまは殿上人ではございませんか……」
「おや?」
桃子を見た老爺……年齢未詳……は、険しい顔になる。
「桃子どの?詳しくは言えませんが、地獄よりの使者が……近づいてはなりませぬ。好奇心に負け、使者に興味を持つことは、長い苦しみの始まりです……早急にこちらから去り、使者との縁をお切りになられるように……」
「じ、地獄の使者‼」
「えぇ……鬼です。私が縁を切ります。ですが、それは一時的……再び出会って、縁を結んではなりませぬ。貴方にはもっと素晴らしい縁があります、良いですかな?」
「は、はい。解りました。では、身を清めるべく、早々に去ります」
「そうなさい。では、貴方の幸せを祈りましょう……『急急如律令』」
『急急如律令』は、簡単に読み下すと『律令の如く急ぐべし』。
『急急』と重ねるのは、『他のものよりも急ぐべし』と言う意味になる。
そして、『律令』と言うのは、今では曖昧になっている……形骸化しているが、昔から一応残っている『律令』……規律と法令……。
大切なこの法令を順守するよりも、急いで事を起こせ。
と言う、簡単な呪いである。
しかし、この言葉を天下に名の知られた陰陽師に言われるとは、余程のことである。
桃子は丁寧に頭を下げ去っていった。
「あの男に目をつけられるとは、余程運が悪いお方だな……」
晴明はため息をつく。
「何をしている、爺い」
横柄な声が、見送っていた晴明の背中方向から届き、振り返った彼は嫌悪感丸出しで睨み付ける。
「私よりも爺いに言われたくはないな。見た目だけ若作り爺いが‼」
「ふん、狐が。お前は地獄に落ちろ‼」
「すみませんねぇ……私は、人の世の理から外れているんですよ。この大和の国で言う神の子供ですので」
「フンッ!天狐の子供が……」
普段はのらりくらりとかわしているが、晴明は、ぶちっと切れた。
「母は狐の眷族。狐は伏見にある稲荷大社に繋がる。文句を言いたいのなら、それを通して貰えるか?」
「面倒な……」
「ならば、仕事放置でうろうろされたくない‼出ていけ‼」
この男には、弓削の芦屋道満とほぼ同程度、鬱陶しいほど絡まれる。
殴り付け、十二神将をけしかけたいものである。
いや、傍にいる数人に出来ることなら即抹殺して貰いたいものである。
「ふーん。爺いが若い娘に恋心か。同年代の孫がいるはずだが……」
「黙れ‼不老不死をいいことに、女人に手を出して遊び呆け……いつか 、そなたに振り回されて苦しむ女人がおれば、この私がそなたをいかなる手を使ってでも、地獄の底に叩き込んでくれる‼」
言い捨て、晴明は立ち去っていった。
その予感が当たったことを、晴明が知った時には、遅かったのだった……それを彼は生涯……悔やむのであった。
「藤式部……他の女童は身分の高い子供もいるのよ。才能をひけらかせてはいけないわ」
「ひけらかせ……?そ、そんなことは……わ、私は、ただ、書簡を……」
「漢字を読めない者が多いのよ。私たちも最低限のものは学ぶけれど、貴方程解らないの。隠しておいた方がいいと思うわ。私は気にしないけど、貴方のことを嫉妬している同僚もいるのよ。気が利きすぎる。子供らしくないとかね……」
衝撃を受ける。
そしてその頃、父が地方に下ることになり、ここにいるよりもと宿下がりをし、父に着いていくことに決めたのである。
「安倍晴明さま」
父に使いを送り、そして倫子に頼んだ後、出会ったのは70代になるというが、背筋が伸びた白髪の知恵者……倫子の夫である藤原道長に従う凄まじい能力のある陰陽師。
色々な嘘や噂があるが、桃子は瞳の澄み切った彼は好きであった。
「お久しぶりです。お会いできて良かったです」
「お久しぶりですな。聖なる花の姫」
「姫ではありません。それに、晴明さまは殿上人ではございませんか……」
「おや?」
桃子を見た老爺……年齢未詳……は、険しい顔になる。
「桃子どの?詳しくは言えませんが、地獄よりの使者が……近づいてはなりませぬ。好奇心に負け、使者に興味を持つことは、長い苦しみの始まりです……早急にこちらから去り、使者との縁をお切りになられるように……」
「じ、地獄の使者‼」
「えぇ……鬼です。私が縁を切ります。ですが、それは一時的……再び出会って、縁を結んではなりませぬ。貴方にはもっと素晴らしい縁があります、良いですかな?」
「は、はい。解りました。では、身を清めるべく、早々に去ります」
「そうなさい。では、貴方の幸せを祈りましょう……『急急如律令』」
『急急如律令』は、簡単に読み下すと『律令の如く急ぐべし』。
『急急』と重ねるのは、『他のものよりも急ぐべし』と言う意味になる。
そして、『律令』と言うのは、今では曖昧になっている……形骸化しているが、昔から一応残っている『律令』……規律と法令……。
大切なこの法令を順守するよりも、急いで事を起こせ。
と言う、簡単な呪いである。
しかし、この言葉を天下に名の知られた陰陽師に言われるとは、余程のことである。
桃子は丁寧に頭を下げ去っていった。
「あの男に目をつけられるとは、余程運が悪いお方だな……」
晴明はため息をつく。
「何をしている、爺い」
横柄な声が、見送っていた晴明の背中方向から届き、振り返った彼は嫌悪感丸出しで睨み付ける。
「私よりも爺いに言われたくはないな。見た目だけ若作り爺いが‼」
「ふん、狐が。お前は地獄に落ちろ‼」
「すみませんねぇ……私は、人の世の理から外れているんですよ。この大和の国で言う神の子供ですので」
「フンッ!天狐の子供が……」
普段はのらりくらりとかわしているが、晴明は、ぶちっと切れた。
「母は狐の眷族。狐は伏見にある稲荷大社に繋がる。文句を言いたいのなら、それを通して貰えるか?」
「面倒な……」
「ならば、仕事放置でうろうろされたくない‼出ていけ‼」
この男には、弓削の芦屋道満とほぼ同程度、鬱陶しいほど絡まれる。
殴り付け、十二神将をけしかけたいものである。
いや、傍にいる数人に出来ることなら即抹殺して貰いたいものである。
「ふーん。爺いが若い娘に恋心か。同年代の孫がいるはずだが……」
「黙れ‼不老不死をいいことに、女人に手を出して遊び呆け……いつか 、そなたに振り回されて苦しむ女人がおれば、この私がそなたをいかなる手を使ってでも、地獄の底に叩き込んでくれる‼」
言い捨て、晴明は立ち去っていった。
その予感が当たったことを、晴明が知った時には、遅かったのだった……それを彼は生涯……悔やむのであった。
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