悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア

ノベルバユーザー173744

髭親父と美少年と髭……何故美男がいないんだ‼

 古いし寝心地が良いとは言えへんけどソファで、クッションを枕に、私物のバッグの中にある愛用のぬいぐるみを出して眠る。

 時々悪夢や苦い思い出を見るけんど、今は死んどるけん、睡眠導入剤もパニックを抑える薬も飲んどらせんし、口に入れるんは食欲を満たすんよりも嗜好品って感じや。
 一種のタバコとかと一緒や。
 つまり、安物の葉っぱのお茶を飲むって言うんも昔のうちが好きやったからで、ここで内緒で育てとるハーブの苗が成長したらフレッシュハーブティを飲むんが夢やったりする。

 はあーう……久々に熟睡できるかな?



 うとうとと始めたその瞬間、バリバリ……ドカーン‼と何かが砕けた。

「ち、父上‼うとうとしてる人を……」
「黙っとれ‼おい……このちんちくりんが‼起きんかぁぁ‼」
「ウッサイなぁ……髭親父。うちが寝よんのがわからんのか?目も悪いし頭も悪い、顔も悪い。人気がなかったらこまっとったなぁ」

 折角良い気持ちで熟睡できると思たのに、最悪や‼



 目を開け体を起こしたうちは、眉を寄せて怒鳴る。



「ウッサイんやが~‼おどらぁぁ‼髭切ったるで‼」
「女が、そんな所で寝るんじゃない‼」
「寝るとこがないんやけん、仕方なかろが‼寝よんのに起こすなや‼」

 ぬいぐるみを抱き、不機嫌そのままで髭一行を見る。

「あ、それ‼」

 紅顔の美少年と言いたいが、父親が赤鼻どころか顔全体が真っ赤だから、白い肌で赤い頬の美少年にしておこう。

「ん?子龍しりゅうくん。なんよ。可愛いやろ?」

 ゲームのキャラクターのぬいぐるみである。
 ちなみに、着せ替え人形にもなる。
 ついでに、手を押すと、

『私はあなただけの為に戦います‼』

と、しゃべるのだから堪らない。

「えへへ。ホーラね?子龍くん。声までついとってカッコいい~‼」
趙子龍将軍ちょうしりゅうしょうぐんですかー‼」
「そうなんよ。うふー。現実よりも、二次元がいいわ‼恋人よりも、子龍くん‼関平かんぺいくんは、趙子龍将軍ご本人知っとるんやろ?どがいな人、どがいな人‼」
「えっ?長身でかっこ良かったです‼強いし、賢いし‼父上よりも総合的には上です‼……はっ‼」

 口を押さえ、父親を見る。

「す、すみません‼父上‼本当のことを言ってしまいました‼」
「うるっさいわぁぁ!わしと子龍を比べるなぁぁ‼わしは美髯公びぜんこう‼それに道教では、『協天大帝関聖帝君きょうてんたいていかんせいていくん』とも呼ばれておるのだ‼」
「ふーん。麦城ばくじょうの戦いで、西暦219年やったっけ?死んだやん?」
「あ、あれは……」
「ふーん?大口叩いて、はい終わりやったやん?最後のプライドだけやんか。髭親父‼首切られて呪って馬鹿じやんか。それに比べて、子龍くん。良い子やなぁー?228年の北伐で、孔明こうめいさんの指名で舞い上がったアホの馬幼常ばようじょうが、王平おうへいさんやったよなぁ?忠告も無視して、負けると撤退戦で見せ場を作ったのに、「よく纏めてくれた」と誉めたら、「負け戦にお誉めの言葉に下賜かしの品は必要ありません。代わりに、冬になった時に部下に厚手のものを……」とか、そう言う気遣いってもんがないとなぁ?髭親父」

 けっ‼

悪態をつく。
 久しぶりに、良い夢を見ようと思っていたのに、バリバリとは何だ‼

百目鬼どうめきどの。主が突然叩き起こす形になってしまい、申し訳ござらぬ」

 第3の声がして、真っ黒のおっさんが頭を下げる。
 その姿は拝礼……何なんで?そこまでするか?

 居心地が悪くなり、

「えっと、周倉しゅうそうさんやろ?伝説上の人物とも言われとる、中国の神……いや、中国には神はおらんのよな?髭親父も神じゃないし。聞いたわ。中国の人々の信仰上には神はおらん。超人……人を越えた人ってことや。あんた……周倉さんもそうや。で、周倉さん。何なん?バリバリガッシャーンってする程、大層なもんかね?」
「いえ、一応、ここはフレイアさまが治める区域に近いとはいえ、何やら不埒な輩がおるのではないかとそちらの上司どのが、主に頼まれてくれませんかと、頭を下げられたのです」
「……はぁ?不埒な輩?こんなおばちゃんに手ぇ出すかね。アハハハハ‼」

大爆笑する目の前の烈女と言うか、豪快なオバさんに、周倉は、

「笑っている場合ですか?貴方がここで寝泊まりしているのは、フレイアさまの館の戦士たちには噂になっているんですよ。一度入ってきたのはご存じないのですか?」
「はぁ?何で?……もしかして‼この子龍くん。を盗みに来たかぁぁ‼」

とんちんかんな返答をした彼女を、三人はため息をつく。

「何なんで?笑うな‼この子龍くん。は私の宝物なんだから‼取ろうとしたなら……」
「あの、あの‼」

 関平は声をあげた。

「百目鬼さん‼も、もしよければ‼私の知っている限りの将軍のお話をさせて頂けませんか?で、ですので、お仕事はこちら、その後は、私どもの屋敷で滞在されては如何ですか?」
「はぁ?何で?良いよ。お屋敷なんて鬱陶しい。ここで充分……はぁぁ‼何するんで‼」
「周倉。この偃月刀えんげつとうを持ち、ついて参れ……重いな」
「うるっさいわ‼一言多いんやおっさん‼それに、うぎゃぁぁ‼子龍くん。が‼」

 関平の腕に、子龍くん。はおり、

「すみません。屋敷まではお返しできませんので、よろしくお願い致します」
「何でやねん‼」



 真侑良まゆらは、北欧の屋敷から、深紅と金色の中華風邸宅に連れ去られていったのだった。

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