悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア

ノベルバユーザー173744

落ちこぼれヴァルキュリア、まゆら

 なぁなぁ?あんた。



 あんた、そうそう、あんたや。
 そこで立っとらんと、隣にお座りや。
 そんで、うちとまず話せんかな?



 あぁ、無理にやないで?
 そがいに怖がらんでええんやで?
 ん?この格好?
 ……おばはんが、メイドのコスプレで悪かったなぁ?
 後は、着ぐるみに、水着に、裸やで⁉
 これがましやろがね‼
 ん?スコップは趣味の園芸や‼



 ……まぁ、うちも疲れたけん、ここにお座りや。
 あんたも、お疲れさん。

 昔……うちも、ホントはあんたみたいになんもかもがこわあて堪らんかった。
 泣いて泣いて、泣きつかれても、出てくるのは涙と鼻水だけやった。
 今思てみたら、家族に皿でも何でも投げつけて叫び回ったら良かったんや。

 ……でもできんかったわ。
 あんたと一緒やなぁ……。



 なぁ、あんた。

 表情がのうなっとるで?
 目尻のしわものうなっとる。
 こりゃあかん、重症寸前や。
 はよ、うちみたいになる前に、まだ若いんやけん、お笑いや?



 なぁ、うちらは何で、泣きよるんやろうなぁ?
 嬉しいて泣くんならエェのに、悲しいことしか最近ないと思わん?
 ひどい世の中やと思わん?



 ピカドンが、広島や長崎に落ちて戦争は終わったわ。
 沖縄も戻ってきて、もっともっと、エェことが起こると思たのに、何なんやろなぁ?

 地震に、戦争に、悲惨な無差別テロ……。
 人種差別にロシアのチェルノブイリ原発事故に福島の原発事故。

 うちは思うわ……昔も今も変わっとらんのやなぁって。



 なぁ、あんた、命を粗末にしたらあかんで?
 あんたには泣いてくれる家族がおるやんか……ほら、見とうみや。

 枕元で必死にあんたを呼んでくれる人がおるやんか……。

 もう、逃げたらあかんで。

 逃げてしもたら、うちみたいになるわ……。



 ほんなら、おかえりや。
 ほんなら、いんどいでや?

 ん?いんどいでの意味か?
『いってこうわい』は『行ってきます』。
『かえってこうわい』か『いんでこうわい』は、『帰ってきます』や。

『また』はいらんわ。
『いんでこうわい』言うて帰り。

 ほんならいんどいでや……次は、うちのように意地悪な死神はおらんで?
 すぐに、あの世にまっしぐらや……。



……あぁ、帰った、還った。

 あの子は、これから大変な目に遭うかもしれんけど……泣いて喜ぶ家族がおるんやけん、何とかなるやろ。
 でもって、これは内緒に逃げちゃえ……。
 ここにおらなんだことにして……。



「何をしてるんですか?」
「ウッギャァァ‼陰険インテリエロ眼鏡‼」
「上司に向かって、何ですか?」
「本名知らんし、よう似おとる、まんまネーミングやろがね。喜べ‼と言う間に帰る‼」
「ちょっと待ちなさい‼この現場、狩るべき獲物がいたんじゃないんですか?」

 鋭いなぁ、流石は陰険インテリエロ眼鏡‼
 目付きも悪いし根性も悪い、顔も悪かったら笑たるのに、何でうちは言わんけど‼



「かっこいいわぁ、うちの課長‼」
「本当‼他の人に聞いても落とせないって嘆いてたわぁ。次、貴方やってみる?」
「無理無理。課長、奥さんがいるんだって、愛妻家らしいわよ」
「あら、じゃぁ……」

って、同僚はうるさいけど、うちはかっこいいとも思とらへん。



「はーい、ペナルティとして、これを用意しました‼」

 背後から出してきたのは、背中に羽をこれでもかと背負った衣装。

「これを着ましょう‼」
「何やねん‼そら、リオのカーニバルか‼」
「宝○のダンスの衣装ですが?」
「こんのぉぉ‼変態がぁぁ‼」

 スコップで殴り飛ばす。

「いいスナップです、グハッ‼」
「変態が頭から治せ‼」

 頭を押さえる上司の男は、うちに問いかけた。

「……死神が仕事を放棄して、人を生き返らせて、貴方は何を考えてるんですか?ここで善を積むことで生まれ変わるのですよ?」
「……生まれ変わっても、もう意味がないからや……ほんならな。変態が‼あんたのせいでうちの部署が一気にボケになったわ‼」



 歩き去るくるぶしまでの丈のメイドの格好の部下を見て、男は呟く。

「本当に……危なっかしい奴やなぁ。その上、解らんもんかな……」

 眼鏡をポケットにいれ、髪をくしゃくしゃとする。



「……真侑良まゆら



 呟いた名は、風に流れる。



 ある、死神の話である。

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