異世界八険伝
90.星の秘密
(無事で本当に、本当に良かった! )
(アイちゃん……ごめん、もう無理だよ)
(リンネさん? )
(メルちゃんはどこ? 無事だよね? 無事だって言ってよ……)
(捜していますが、まだ何も報告は入っていません。でも、メルさんなら大丈夫です。信じましょう)
(でも……ウィズを倒した後、メルちゃんも倒れるのを見たよ? 何を根拠に大丈夫だなんて言うの? どうやって信じればいいの? )
(わたしもリンネさんの意識を通して見ていました。あの状況、恐らくメルさんは全ての星を宿した存在、魔人序列第1位に――)
(嘘でしょ? 全部嘘だって、ドッキリだって言って! )
(しっかりしてください! 愛はいかなる力にも勝ります! 今のこの絶望的な世界を救えるのは、みんなを愛し、みんなに愛されるリンネさん、あなたしかいません! みんなで幸せを勝ち取るために、もう一度立ち上がってください! )
(みんなで? 幸せを? )
(はい! )
(メルちゃんも? )
(勿論です! )
(本当に救えるかな――)
(リンネさんが諦めない限り、絶対に救えます! )
(そうだよね。決して諦めない意思で、皆で力を併せば不可能なんて無いよね)
(そうです! 王都北塔地下での激闘、見ましたよね。ウィズの圧倒的な力を前にしてメルさんは諦めましたか? どんなに苦しくても決して諦めずに戦い、そして打ち負かしましたよ。そんなメルさんが救われない訳がないじゃないですか!! )
(あの場所、見覚えがあると思ってたけど、王都だったのか。メルちゃんは絶対にボクが救う。アイちゃん、ちょっと見てくるね。何か手掛かりがあるかもしれない)
(お願いします。わたしたちはリーン様と共にいます。お気をつけて! )
(うん、行ってくる! 転移! )
バチンッ!!
大きな衝撃と共にボクの身体が飛ばされる。
魔力遮断結界か……。
ボクの目の前には地下へと抜けるための最後の扉が立ち塞がっていた。
なるほど、ここならヴェローナを守るのに最適かもしれない。ウィズさえ居なければ……。
力ずくで開けるしかないよね。
以前、ミルフェちゃんを捜しに来たとき、メルちゃんが顔を真っ赤にして開けてくれた扉――青白い光に包まれた黒く重厚な扉に両手を掛け、全体重を乗せて力一杯押す。
くっ、めちゃくちゃ重い!!
でも、行かなくちゃ!!
全力全開フルパワー!!
――駄目か。
ボクの全力をもってしても、僅か数cmの隙間が寂しく開く程度で、バネがあるかのようにすぐに押し戻されてしまう。
その時、右手の甲にある紋章が輝きを放つ。
目の前に突如として出現した炎に包まれる魔法陣から、最上位精霊――イフリートが顕現した。
『勝手とは思いましたが、是は我が役目。さぁ、中へ! 』
イフリートの巨大な手が扉を押し開ける。
「ありがとう! 助かった!! 」
『お急ぎください、扉は我が押さえております故』
「うん! 」
目指すは湖の向こう側、今は廃墟となっている洋館だ――。
入口から入って左手、方位にすると恐らく西側にあたる位置にあったはずの町は、廃墟と化していた。全て物理的に破壊し尽くされ、高さ2mを超える建物は見当たらない。
どういう訳か、人や動物、植物などの命あるものの姿を見ることも出来なかった。
息を切らせながら残骸を越え、かつて洋館があったはずの場所に辿り着く。
地を抉る亀裂、半径10mを超える窪み――これらは全て、魔神に見せられた凄惨な戦いの傷跡だ。
ボクの足は自ずとメルちゃんがウィズを打ち倒した場所に向かっていた。
そして、そこに辿り着く――。
ヴェローナの姿はない。
ウィズの姿も見当たらない。
魔人は死ぬと魔素に還ると聞く。きっと2人の身体は既に消失したのだろう。
優しかったヴェローナへの慈しみも、エルフの村を滅ぼし、メルちゃんを傷つけたウィズへの憎しみも、今は全て消え去っていた。いや、今のボクにとっては、そんなの頭の片隅の些事にすぎない。
メルちゃんは何処!?
ボクの記憶は、彼女が仰向けに倒れる場面で途切れている。
唯一残されていた手掛かりは、半ばから折られたまま地面に突き刺さったメルちゃん専用の武器――鬼神のメイスのみだった。ドワーフのダフさんが造った渾身の傑作、メルちゃんと一緒に戦ってきたその魂とでも言うべきメイスが、無残にも折られていた――。
不安が全身を貫く。
この武器のように、メルちゃんの身体が、心が、魂が折られているのではないかと――。
「メルちゃん!!! 」
精一杯の叫び声に、反応する音は何一つない。
虚しい程の沈黙が、却ってボクに冷静さを取り戻させた。
考えろ、考えるんだ!
探せ、手掛かりは必ずあるはずだ!
アイちゃんは魔人序列第1位という言葉を使っていた。7つ全ての星を揃えたウィズ、そのウィズを殺したメルちゃんの身体に魔王の魂が宿るとして、メルちゃんはどこに、どうやって向かう?
当然の帰結か――。
身体は魂を求めるもの。ならば、きっと、リーンの居るグレートデスモス地境、その奥にある魂に引き付けられているんだ。
ならば、メルちゃんを救う方法を考えるんだ。きっとある。絶対に見つかる。魔王の魂を取り込むことを阻止し、7つの星を取り除く方法が――。
リーンは魔王の魂を滅することは不可能だと言った。ならば、メルちゃんをその魂から遠ざけたらどうか。無理だ……あと数日後には魔王が復活し、魔王の方から身体を奪いに来るかもしれない。リスクが大きすぎる。
他には――。
――あった!
その時、ボクの脳裏にふと1つの考えが浮かんだ。
確信は持てない。でも、可能性はある。ならば、強い意思でやり通すのみ!
コートの裾で涙を拭う。両手でパンパンっと頬を叩き、気合いを入れる。そして、髪をぎゅっと結び直し、みんながいる所に向かった。
★☆★
ボクの横には秩序神であるリーン・ルナマリアと、黒の聖樹・魔神(鳥)、そして大地の守護神として生まれ変わった白の聖樹がいる。
大岩で造られた即席の円形テーブルを囲むのは、アイちゃん、アユナちゃん、レンちゃん、クルンちゃん、エクルちゃん、ミルフェちゃん、サクラちゃん、そして狐人族の魔人フレイという頼もしい仲間達だ。
ちょうど12人だし、アーサー王の“円卓の騎士”みたい。アーサー王はリーンで、白がランスロット卿で黒はガウェイン卿だ。パーシヴァルは……っと、円卓会議の本質は平等の精神だったっけ?
ぐるっと見渡すと、みんなと目が合う。
緊張した面持ちの中に、お互いの無事を確認できた安心感と、未来への不安が見て取れた。
なぜか、視線がボクに集まるのを感じる。
えっ?
神様が3人も居るのにボクが仕切るの!?
そういう委員長キャラじゃないんだけど――。
ボクは無言でアイテムボックスを弄り、鬼神のメイスをテーブルに置く。
ガチャリという金属音の中に、溜息と嘆き、誰かのすすり泣きが混じる。
「メルちゃんを取り戻す! みんなの力を貸してほしい!! 」
『お母さん、それは当然のことです。その為に我々は此処に集まったのですからね』
暫しの沈黙の後、リーンが笑顔で答える。
『ぼくも、白も全力を尽くすよ』
『はい。それが私たちの使命ですから』
「リーン様、メルちゃんはここに向かっているのでしょうか」
ミルフェちゃんが恐る恐る会話に加わる。
『神の目を以てしても確認できないんだ。でも、確実に此処に来るだろうな』
「頑張って魂をみんなで守るです? 」
『狐っ娘よ、相手は魔人ウィズレイを屠った強者だ。このままでは守り切れぬだろう』
「いざとなったら、あたしがメルと戦うよ」
裏返る声の主を辿った先でボクが目にしたのは、両目に涙を浮かべる赤髪の少女――。
「レンちゃん!? 」
誰よりも仲間を重んじ、大切にしてきた彼女の決意――その重さを痛感したとき、アイちゃんが重い口を開いた。
「皆さん、聴いてください。星の奪い合いは魔王を強くするだけです。これはいわゆるムシドクの原理――自然界が生み出した悪意の法。ウィズが全ての星を吸収した時、とてつもない力を感じました。だからこそメルさんも彼を討ったのでしょう。当然、メルさんも以前よりずっと強くなっています。もし、万が一メルさんから星を奪うことができたとしても、より強力な存在を誕生させるだけです。他の解決策を模索しましょう」
『――星はそんな悪意の塊じゃないよ。ぼくが作った星はね、暗い夜空を照らし、黒く染まる心の闇を吸収する存在なんだ』
やっぱり――。
「なら、星を消すことはできないかな? 」
再び視線がボクに集まる。
「リンネちゃんがいくら強くっても、星を消すのは――」
「アユナちゃん、小学生的なツッコミありがと。えっとね、邪神に会った時に思ったんだ。星の因果を辿れれば、それを断ち切ることもできるかもしれないってね」
それと、ボクも魔人の中に在る星は悪い物じゃないって感じてる。純粋な悪意なんて存在しない。絶対に何か理由があるはずだから。
『例の次元の力ですね。ですがリンネ様、ぼくの中に在るのは次元を超越して意識を飛ばすだけの半端な力』
『私の内にある力も、己のみにしか影響を及ぼせません』
なるほど、それがリーンを神として蘇らす際に次元の存在が分け与えた力なんだね。
「ちなみに、“天神の七勇”や“魔神の七魔人”の、7という数だけど――」
「虹の色でしょ? 」
『否――』
一刀両断されて悔しがるエクルちゃんに代わり、レンちゃんが答える。
「北斗七星じゃない? 」
『――否。だが、似てはいる』
「これも次元の存在に関係があるでしょ」
『リンネ様の言う通りです。この天魔界創造にあたり、彼の存在はここが7番目の星だと言っていました。ぼくも白も、それを思い出して魂を分けたのです』
思ってた通りだ。
「メルちゃんの星だけど、ボクの勘が正しければ消せるかもしれない。ねぇ、黒は次元の存在が通った経路を辿ることは可能? 」
『リンネ様を数分間だけ飛ばす程度ならば何とか……』
「大変かもしれないけど、お願いしていい? 」
『承知しました』
「待って! リンネちゃん、危なくない? ちゃんと戻って来れるよね? 」
アユナちゃんが涙目でボクにしがみ付いてくる。
「大丈夫。お土産を持って帰ってくるから! 」
『我々はお母さんが戻るまでに策を講じておきます。お気をつけて……』
「うん、リーンもね。みんなも、少しの間だけ待っててね! 」
リーンとアユナちゃんの翼をもふもふっと堪能した後、魔神に向き合う。
『次元の存在が何をしようと手を出さぬようお願いします。彼の者がぼく達の味方とは限りませんので』
次元の存在――確か王都で会った時には敵ではないと明言してたけど……確かに、魔神の言う通りかもしれない。
「分かった! 」
『では――』
何かに吸い込まれるかのように意識が遠のいていく。
暗いトンネルの中をある時は滑り、ある時は貫き、またある時は駆け上る。
内臓がぐわっとひっくり返るような感覚の後、視界が暗転する。
★☆★
ボクの意識は上空にあった。
眼下に広がる草原に、誰か居る――ウィズ!?
でも、背格好はボクと同じくらいだし、角だって生えていない。ウィズに似ているけど、明らかに人違いだった。
白髪の美少年は、大地に咲く1本の花に水をやりながら話しかけている。
何を話しているんだろう? 気になったボクは、そっと近づく。
『お前なんか嫌いだっ! 僕は旅に出る。もう二度と君には会わないだろうね』
ケンカ?
でも、どうしてそんなに悲しそうに泣いてるの?
花にも目があったなら、彼があなたのことを本当は嫌いじゃないって分かるのに……。
少年の心の痛みを表すように小さな火山が噴火し、大木が枝を揺らしてざわめく。
そして、ボクの視界が一変する。
再びボクの視線の先にはあの少年が居た。
人混みの中を通り過ぎていく彼を、多くの人々が取り囲む。
『君、何だその恥ずかしい服は』
『暗い顔をするな、常に笑顔でいなさい』
『何があっても“はい”だけ言ってればいいのよ』
長いシルクハット、きれいに整えられた髭、富士山みたいなドレス――近世ヨーロッパのような、壮麗な街並みと群衆に囲まれた少年。
『この世界は体裁ばかり大事にするんだね。そんな帽子じゃお辞儀も碌にできないし、そんな髭じゃ食事も困るでしょ。走ったら転びそうなドレス、地震で壊れそうな建物――見た目ばかり気にして、本当に必要な物から目を背けているのが分からないの? 』
『生意気な小僧だ! 見た目こそが大事だって教えてやるからこっちに来い! 』
『嫌だね! 僕はこの世界が大嫌いだ! 』
  そう言うと、右腕を大きく水平に振り払う。
それは一瞬の出来事だった。
暴風雨が大地を穿ち、建物を、世界を吹き飛ばす。埃を払うかのように消えていく人々――。
そして、ボクの視界が切り替わる。
時代劇で見たことがあるような街並みが広がっている。
丁髷に和服の人々の中にあって、彼は明らかに異質の存在。
その美しくも儚げな表情に悪寒が走る。あれは神の力――この少年が次元の存在なのかもしれない。
少年に続いて、ボクも平屋の建物に入っていった。
『こんにちは、坊ちゃん素敵な髪だね! 』
『服もお洒落でカッコいいですよ』
『お団子、1つどうだい? 』
店に入るなり、あっという間に群がる店員。不機嫌になる少年を取り囲み、散々美辞麗句を並べていく。
『僕はこんなに目立つのに、通りでは皆が見て見ぬ振り。客だと分かると群がってはお世辞ばかり。本音を言えない気が弱い人間ばかり。僕は、この世界も嫌いだ! 』
再び右手を薙ぎ払って世界を吹き飛ばす少年。そしてボクの意識も別世界へと飛ばされた。
『さぁ、皆で楽しく踊ろう! そこの綺麗な少年も是非ご一緒に! 』
長閑な町の広場ではパーティーが行われていた。
ピエロのような格好をした人々に手を引かれて、踊りだす少年。
『今日は何のお祭りなの? 』
『お祭りなんかじゃないよ。こうでもしないと恥ずかしくて人と話せないのさ』
『そうよ! 恥ずかしさを忘れるために私たちは毎日踊るのよ』
『何のために恥ずかしさを忘れたいの? 』
『人と話すためさ』
『何のために人と話すの? 』
『恥ずかしさを忘れるためよ』
『この世界は間違ってる。目的と手段がごちゃごちゃじゃないか。僕はこの世界嫌いだな! 』
少年が右手を振り払うと、世界は紙切れのように引き裂かれて消滅した――。
ボクは4つめの世界に来ている。
円柱形の建物が規則正しく並ぶ様は、どこかの石油化学コンビナートを思い起こさせる。
少年を必死に探そうとしたけど、なかなか見つからない。
だって、人が全く居ないんだもん。
仕方なく建物の1つに入ってみると、そこは会議室だった。
古代ギリシャ人のような服を着た老若男女が大声で話し合っている。その前方に彼が居た。いつの間にか、白い服を着ている。
『――これこそが理想の国だ! 』
『いや、まだ足りぬ。国民全員が活躍できるようにせねば』
『まだまだ男女平等じゃないわ! まずは女男平等よ! 』
『子どもの代表も国会議員、大臣になれるような国を目指しましょう』
それぞれが言いたいことを言い合っている。それでも全員が納得し、拍手し、会議は熱を帯びていく。
『待って! 君たちは理想を語るだけで、誰も行動しようとしないじゃないか。僕はこんな世界なんていらない! 』
そして再び、容赦なく振るわれる彼の右腕――。
5番目は、現代日本を彷彿とさせる世界だった。
多忙な日常に振り回される人々は、秒単位で管理されるが故に、常に時計ばかりを気にしている。
挙句の果てには、周りどころか自分自身すら見なくなっていく――。
この世界もまた、同様の結末を辿ることになった。
6番目の世界は、まさにSF映画さながらの未来都市だった。
ロボットが働き、人間は自分の部屋から一歩も動かずに生活していた。
効率を求めて全てを機械化した結果、全ての人間が怠け者ばかりになっていく――。
やはり、この世界も彼によって消去させられてしまった。
そして、ボクの意識は7番目の世界に辿り着く。
南に聳える霊峰ヴァルムホルン、麓に広がる大自然と、相争う数多の種族――そう、ロンダルシア大陸だ。
彼の姿は既に少年ですらなく、白い粘土人形のようになっていた――。
それは、神々に力を分け与え、世界の秩序を保たせるべくリーンを召喚させる。
だが――人間を含む幾多の種族たちは、お互いの多様性を尊重できず、自分と違うものを排除しようとし続けた。亜人や獣人に対する迫害、度重なる戦争が生み出す憎しみの連鎖――彼の無表情な顔の中にも、はっきりと嫌悪感が見て取れた。
彼は、滅亡へと邁進する世界に、最後の望みを賭けて、銀の召喚に力を貸す――。
すると、滅びる寸前だったモノクロの世界は、徐々に幸せの色を集めていく。
しかし、変化はそれに止まらなかった。
少年は次第に姿を失って靄のようになり、今まで見えなかった何かが急成長して少年の姿になっていく。
そして――彼は、“ボク”の前に姿を現した。
『君には2つの選択肢がある。この子の手を取りこの世界で生きていくのか、元の世界に戻るのか。決断しなさい』
『えっ!? 』
『選べるのは1つの道だけだ。さぁ、決断を』
『選べない! 選べない!! どちらかなんて無理だよ! ボクは……皆を助けて、それから戻るんだ! 」
……
『――君という存在を理解した。君は仲間を、君自身の手で救いなさい。僕は待つよ。世界を救った後に、また会おう』
……
『ふぅ、我儘な娘だ。召喚に手を貸した僕が言うのも変だけどね』
彼の声にふと、笑いが混じったような気がした。
『そこで見ているんだろう? この世界の意思が僕を呼んだということは、滅びゆく運命を受け入れたということ。だけど、全ての希望の星が君に集まった時――あり得ないか。僕の分身がきっとそれをさせない。これは君自身が選んだ道だからね、僕を恨まないでくれよ。あぁ、君に伝え忘れたことがあった。これだけは覚えておいてほしい。大切なものは目に見えない、ということを……』
そして、ボクの意識は暗転を繰り返し、再びみんなが待つグレートデスモス地境へと舞い戻った。
静かに目を閉じ、反芻する。
“大切なものは目に見えない”か。
やっぱりだ。彼の存在、そしてメルちゃんを助ける方法が少し繋がった気がする。
「リンネちゃん、お帰り!! 」
さっそく飛びついてくるアユナちゃんを抱き締める。
「お土産は!? 」
「そうだった。この世界を救うのが誰か分かったよ」
「え!? 本当に? 」
全員の視線が、期待がボクに集まる。
「世界を救うのは――」
両手を大きく振り上げる。
「このもふもふだっ!! もふもふは正義、世界を救うんだ!! 」
「きゃっ!! 」
腕を振り下ろすと同時にアユナちゃんの羽をこちょこちょしまくる。手ぶらで帰ってきたから、これがお土産ね。
(アイちゃん……ごめん、もう無理だよ)
(リンネさん? )
(メルちゃんはどこ? 無事だよね? 無事だって言ってよ……)
(捜していますが、まだ何も報告は入っていません。でも、メルさんなら大丈夫です。信じましょう)
(でも……ウィズを倒した後、メルちゃんも倒れるのを見たよ? 何を根拠に大丈夫だなんて言うの? どうやって信じればいいの? )
(わたしもリンネさんの意識を通して見ていました。あの状況、恐らくメルさんは全ての星を宿した存在、魔人序列第1位に――)
(嘘でしょ? 全部嘘だって、ドッキリだって言って! )
(しっかりしてください! 愛はいかなる力にも勝ります! 今のこの絶望的な世界を救えるのは、みんなを愛し、みんなに愛されるリンネさん、あなたしかいません! みんなで幸せを勝ち取るために、もう一度立ち上がってください! )
(みんなで? 幸せを? )
(はい! )
(メルちゃんも? )
(勿論です! )
(本当に救えるかな――)
(リンネさんが諦めない限り、絶対に救えます! )
(そうだよね。決して諦めない意思で、皆で力を併せば不可能なんて無いよね)
(そうです! 王都北塔地下での激闘、見ましたよね。ウィズの圧倒的な力を前にしてメルさんは諦めましたか? どんなに苦しくても決して諦めずに戦い、そして打ち負かしましたよ。そんなメルさんが救われない訳がないじゃないですか!! )
(あの場所、見覚えがあると思ってたけど、王都だったのか。メルちゃんは絶対にボクが救う。アイちゃん、ちょっと見てくるね。何か手掛かりがあるかもしれない)
(お願いします。わたしたちはリーン様と共にいます。お気をつけて! )
(うん、行ってくる! 転移! )
バチンッ!!
大きな衝撃と共にボクの身体が飛ばされる。
魔力遮断結界か……。
ボクの目の前には地下へと抜けるための最後の扉が立ち塞がっていた。
なるほど、ここならヴェローナを守るのに最適かもしれない。ウィズさえ居なければ……。
力ずくで開けるしかないよね。
以前、ミルフェちゃんを捜しに来たとき、メルちゃんが顔を真っ赤にして開けてくれた扉――青白い光に包まれた黒く重厚な扉に両手を掛け、全体重を乗せて力一杯押す。
くっ、めちゃくちゃ重い!!
でも、行かなくちゃ!!
全力全開フルパワー!!
――駄目か。
ボクの全力をもってしても、僅か数cmの隙間が寂しく開く程度で、バネがあるかのようにすぐに押し戻されてしまう。
その時、右手の甲にある紋章が輝きを放つ。
目の前に突如として出現した炎に包まれる魔法陣から、最上位精霊――イフリートが顕現した。
『勝手とは思いましたが、是は我が役目。さぁ、中へ! 』
イフリートの巨大な手が扉を押し開ける。
「ありがとう! 助かった!! 」
『お急ぎください、扉は我が押さえております故』
「うん! 」
目指すは湖の向こう側、今は廃墟となっている洋館だ――。
入口から入って左手、方位にすると恐らく西側にあたる位置にあったはずの町は、廃墟と化していた。全て物理的に破壊し尽くされ、高さ2mを超える建物は見当たらない。
どういう訳か、人や動物、植物などの命あるものの姿を見ることも出来なかった。
息を切らせながら残骸を越え、かつて洋館があったはずの場所に辿り着く。
地を抉る亀裂、半径10mを超える窪み――これらは全て、魔神に見せられた凄惨な戦いの傷跡だ。
ボクの足は自ずとメルちゃんがウィズを打ち倒した場所に向かっていた。
そして、そこに辿り着く――。
ヴェローナの姿はない。
ウィズの姿も見当たらない。
魔人は死ぬと魔素に還ると聞く。きっと2人の身体は既に消失したのだろう。
優しかったヴェローナへの慈しみも、エルフの村を滅ぼし、メルちゃんを傷つけたウィズへの憎しみも、今は全て消え去っていた。いや、今のボクにとっては、そんなの頭の片隅の些事にすぎない。
メルちゃんは何処!?
ボクの記憶は、彼女が仰向けに倒れる場面で途切れている。
唯一残されていた手掛かりは、半ばから折られたまま地面に突き刺さったメルちゃん専用の武器――鬼神のメイスのみだった。ドワーフのダフさんが造った渾身の傑作、メルちゃんと一緒に戦ってきたその魂とでも言うべきメイスが、無残にも折られていた――。
不安が全身を貫く。
この武器のように、メルちゃんの身体が、心が、魂が折られているのではないかと――。
「メルちゃん!!! 」
精一杯の叫び声に、反応する音は何一つない。
虚しい程の沈黙が、却ってボクに冷静さを取り戻させた。
考えろ、考えるんだ!
探せ、手掛かりは必ずあるはずだ!
アイちゃんは魔人序列第1位という言葉を使っていた。7つ全ての星を揃えたウィズ、そのウィズを殺したメルちゃんの身体に魔王の魂が宿るとして、メルちゃんはどこに、どうやって向かう?
当然の帰結か――。
身体は魂を求めるもの。ならば、きっと、リーンの居るグレートデスモス地境、その奥にある魂に引き付けられているんだ。
ならば、メルちゃんを救う方法を考えるんだ。きっとある。絶対に見つかる。魔王の魂を取り込むことを阻止し、7つの星を取り除く方法が――。
リーンは魔王の魂を滅することは不可能だと言った。ならば、メルちゃんをその魂から遠ざけたらどうか。無理だ……あと数日後には魔王が復活し、魔王の方から身体を奪いに来るかもしれない。リスクが大きすぎる。
他には――。
――あった!
その時、ボクの脳裏にふと1つの考えが浮かんだ。
確信は持てない。でも、可能性はある。ならば、強い意思でやり通すのみ!
コートの裾で涙を拭う。両手でパンパンっと頬を叩き、気合いを入れる。そして、髪をぎゅっと結び直し、みんながいる所に向かった。
★☆★
ボクの横には秩序神であるリーン・ルナマリアと、黒の聖樹・魔神(鳥)、そして大地の守護神として生まれ変わった白の聖樹がいる。
大岩で造られた即席の円形テーブルを囲むのは、アイちゃん、アユナちゃん、レンちゃん、クルンちゃん、エクルちゃん、ミルフェちゃん、サクラちゃん、そして狐人族の魔人フレイという頼もしい仲間達だ。
ちょうど12人だし、アーサー王の“円卓の騎士”みたい。アーサー王はリーンで、白がランスロット卿で黒はガウェイン卿だ。パーシヴァルは……っと、円卓会議の本質は平等の精神だったっけ?
ぐるっと見渡すと、みんなと目が合う。
緊張した面持ちの中に、お互いの無事を確認できた安心感と、未来への不安が見て取れた。
なぜか、視線がボクに集まるのを感じる。
えっ?
神様が3人も居るのにボクが仕切るの!?
そういう委員長キャラじゃないんだけど――。
ボクは無言でアイテムボックスを弄り、鬼神のメイスをテーブルに置く。
ガチャリという金属音の中に、溜息と嘆き、誰かのすすり泣きが混じる。
「メルちゃんを取り戻す! みんなの力を貸してほしい!! 」
『お母さん、それは当然のことです。その為に我々は此処に集まったのですからね』
暫しの沈黙の後、リーンが笑顔で答える。
『ぼくも、白も全力を尽くすよ』
『はい。それが私たちの使命ですから』
「リーン様、メルちゃんはここに向かっているのでしょうか」
ミルフェちゃんが恐る恐る会話に加わる。
『神の目を以てしても確認できないんだ。でも、確実に此処に来るだろうな』
「頑張って魂をみんなで守るです? 」
『狐っ娘よ、相手は魔人ウィズレイを屠った強者だ。このままでは守り切れぬだろう』
「いざとなったら、あたしがメルと戦うよ」
裏返る声の主を辿った先でボクが目にしたのは、両目に涙を浮かべる赤髪の少女――。
「レンちゃん!? 」
誰よりも仲間を重んじ、大切にしてきた彼女の決意――その重さを痛感したとき、アイちゃんが重い口を開いた。
「皆さん、聴いてください。星の奪い合いは魔王を強くするだけです。これはいわゆるムシドクの原理――自然界が生み出した悪意の法。ウィズが全ての星を吸収した時、とてつもない力を感じました。だからこそメルさんも彼を討ったのでしょう。当然、メルさんも以前よりずっと強くなっています。もし、万が一メルさんから星を奪うことができたとしても、より強力な存在を誕生させるだけです。他の解決策を模索しましょう」
『――星はそんな悪意の塊じゃないよ。ぼくが作った星はね、暗い夜空を照らし、黒く染まる心の闇を吸収する存在なんだ』
やっぱり――。
「なら、星を消すことはできないかな? 」
再び視線がボクに集まる。
「リンネちゃんがいくら強くっても、星を消すのは――」
「アユナちゃん、小学生的なツッコミありがと。えっとね、邪神に会った時に思ったんだ。星の因果を辿れれば、それを断ち切ることもできるかもしれないってね」
それと、ボクも魔人の中に在る星は悪い物じゃないって感じてる。純粋な悪意なんて存在しない。絶対に何か理由があるはずだから。
『例の次元の力ですね。ですがリンネ様、ぼくの中に在るのは次元を超越して意識を飛ばすだけの半端な力』
『私の内にある力も、己のみにしか影響を及ぼせません』
なるほど、それがリーンを神として蘇らす際に次元の存在が分け与えた力なんだね。
「ちなみに、“天神の七勇”や“魔神の七魔人”の、7という数だけど――」
「虹の色でしょ? 」
『否――』
一刀両断されて悔しがるエクルちゃんに代わり、レンちゃんが答える。
「北斗七星じゃない? 」
『――否。だが、似てはいる』
「これも次元の存在に関係があるでしょ」
『リンネ様の言う通りです。この天魔界創造にあたり、彼の存在はここが7番目の星だと言っていました。ぼくも白も、それを思い出して魂を分けたのです』
思ってた通りだ。
「メルちゃんの星だけど、ボクの勘が正しければ消せるかもしれない。ねぇ、黒は次元の存在が通った経路を辿ることは可能? 」
『リンネ様を数分間だけ飛ばす程度ならば何とか……』
「大変かもしれないけど、お願いしていい? 」
『承知しました』
「待って! リンネちゃん、危なくない? ちゃんと戻って来れるよね? 」
アユナちゃんが涙目でボクにしがみ付いてくる。
「大丈夫。お土産を持って帰ってくるから! 」
『我々はお母さんが戻るまでに策を講じておきます。お気をつけて……』
「うん、リーンもね。みんなも、少しの間だけ待っててね! 」
リーンとアユナちゃんの翼をもふもふっと堪能した後、魔神に向き合う。
『次元の存在が何をしようと手を出さぬようお願いします。彼の者がぼく達の味方とは限りませんので』
次元の存在――確か王都で会った時には敵ではないと明言してたけど……確かに、魔神の言う通りかもしれない。
「分かった! 」
『では――』
何かに吸い込まれるかのように意識が遠のいていく。
暗いトンネルの中をある時は滑り、ある時は貫き、またある時は駆け上る。
内臓がぐわっとひっくり返るような感覚の後、視界が暗転する。
★☆★
ボクの意識は上空にあった。
眼下に広がる草原に、誰か居る――ウィズ!?
でも、背格好はボクと同じくらいだし、角だって生えていない。ウィズに似ているけど、明らかに人違いだった。
白髪の美少年は、大地に咲く1本の花に水をやりながら話しかけている。
何を話しているんだろう? 気になったボクは、そっと近づく。
『お前なんか嫌いだっ! 僕は旅に出る。もう二度と君には会わないだろうね』
ケンカ?
でも、どうしてそんなに悲しそうに泣いてるの?
花にも目があったなら、彼があなたのことを本当は嫌いじゃないって分かるのに……。
少年の心の痛みを表すように小さな火山が噴火し、大木が枝を揺らしてざわめく。
そして、ボクの視界が一変する。
再びボクの視線の先にはあの少年が居た。
人混みの中を通り過ぎていく彼を、多くの人々が取り囲む。
『君、何だその恥ずかしい服は』
『暗い顔をするな、常に笑顔でいなさい』
『何があっても“はい”だけ言ってればいいのよ』
長いシルクハット、きれいに整えられた髭、富士山みたいなドレス――近世ヨーロッパのような、壮麗な街並みと群衆に囲まれた少年。
『この世界は体裁ばかり大事にするんだね。そんな帽子じゃお辞儀も碌にできないし、そんな髭じゃ食事も困るでしょ。走ったら転びそうなドレス、地震で壊れそうな建物――見た目ばかり気にして、本当に必要な物から目を背けているのが分からないの? 』
『生意気な小僧だ! 見た目こそが大事だって教えてやるからこっちに来い! 』
『嫌だね! 僕はこの世界が大嫌いだ! 』
  そう言うと、右腕を大きく水平に振り払う。
それは一瞬の出来事だった。
暴風雨が大地を穿ち、建物を、世界を吹き飛ばす。埃を払うかのように消えていく人々――。
そして、ボクの視界が切り替わる。
時代劇で見たことがあるような街並みが広がっている。
丁髷に和服の人々の中にあって、彼は明らかに異質の存在。
その美しくも儚げな表情に悪寒が走る。あれは神の力――この少年が次元の存在なのかもしれない。
少年に続いて、ボクも平屋の建物に入っていった。
『こんにちは、坊ちゃん素敵な髪だね! 』
『服もお洒落でカッコいいですよ』
『お団子、1つどうだい? 』
店に入るなり、あっという間に群がる店員。不機嫌になる少年を取り囲み、散々美辞麗句を並べていく。
『僕はこんなに目立つのに、通りでは皆が見て見ぬ振り。客だと分かると群がってはお世辞ばかり。本音を言えない気が弱い人間ばかり。僕は、この世界も嫌いだ! 』
再び右手を薙ぎ払って世界を吹き飛ばす少年。そしてボクの意識も別世界へと飛ばされた。
『さぁ、皆で楽しく踊ろう! そこの綺麗な少年も是非ご一緒に! 』
長閑な町の広場ではパーティーが行われていた。
ピエロのような格好をした人々に手を引かれて、踊りだす少年。
『今日は何のお祭りなの? 』
『お祭りなんかじゃないよ。こうでもしないと恥ずかしくて人と話せないのさ』
『そうよ! 恥ずかしさを忘れるために私たちは毎日踊るのよ』
『何のために恥ずかしさを忘れたいの? 』
『人と話すためさ』
『何のために人と話すの? 』
『恥ずかしさを忘れるためよ』
『この世界は間違ってる。目的と手段がごちゃごちゃじゃないか。僕はこの世界嫌いだな! 』
少年が右手を振り払うと、世界は紙切れのように引き裂かれて消滅した――。
ボクは4つめの世界に来ている。
円柱形の建物が規則正しく並ぶ様は、どこかの石油化学コンビナートを思い起こさせる。
少年を必死に探そうとしたけど、なかなか見つからない。
だって、人が全く居ないんだもん。
仕方なく建物の1つに入ってみると、そこは会議室だった。
古代ギリシャ人のような服を着た老若男女が大声で話し合っている。その前方に彼が居た。いつの間にか、白い服を着ている。
『――これこそが理想の国だ! 』
『いや、まだ足りぬ。国民全員が活躍できるようにせねば』
『まだまだ男女平等じゃないわ! まずは女男平等よ! 』
『子どもの代表も国会議員、大臣になれるような国を目指しましょう』
それぞれが言いたいことを言い合っている。それでも全員が納得し、拍手し、会議は熱を帯びていく。
『待って! 君たちは理想を語るだけで、誰も行動しようとしないじゃないか。僕はこんな世界なんていらない! 』
そして再び、容赦なく振るわれる彼の右腕――。
5番目は、現代日本を彷彿とさせる世界だった。
多忙な日常に振り回される人々は、秒単位で管理されるが故に、常に時計ばかりを気にしている。
挙句の果てには、周りどころか自分自身すら見なくなっていく――。
この世界もまた、同様の結末を辿ることになった。
6番目の世界は、まさにSF映画さながらの未来都市だった。
ロボットが働き、人間は自分の部屋から一歩も動かずに生活していた。
効率を求めて全てを機械化した結果、全ての人間が怠け者ばかりになっていく――。
やはり、この世界も彼によって消去させられてしまった。
そして、ボクの意識は7番目の世界に辿り着く。
南に聳える霊峰ヴァルムホルン、麓に広がる大自然と、相争う数多の種族――そう、ロンダルシア大陸だ。
彼の姿は既に少年ですらなく、白い粘土人形のようになっていた――。
それは、神々に力を分け与え、世界の秩序を保たせるべくリーンを召喚させる。
だが――人間を含む幾多の種族たちは、お互いの多様性を尊重できず、自分と違うものを排除しようとし続けた。亜人や獣人に対する迫害、度重なる戦争が生み出す憎しみの連鎖――彼の無表情な顔の中にも、はっきりと嫌悪感が見て取れた。
彼は、滅亡へと邁進する世界に、最後の望みを賭けて、銀の召喚に力を貸す――。
すると、滅びる寸前だったモノクロの世界は、徐々に幸せの色を集めていく。
しかし、変化はそれに止まらなかった。
少年は次第に姿を失って靄のようになり、今まで見えなかった何かが急成長して少年の姿になっていく。
そして――彼は、“ボク”の前に姿を現した。
『君には2つの選択肢がある。この子の手を取りこの世界で生きていくのか、元の世界に戻るのか。決断しなさい』
『えっ!? 』
『選べるのは1つの道だけだ。さぁ、決断を』
『選べない! 選べない!! どちらかなんて無理だよ! ボクは……皆を助けて、それから戻るんだ! 」
……
『――君という存在を理解した。君は仲間を、君自身の手で救いなさい。僕は待つよ。世界を救った後に、また会おう』
……
『ふぅ、我儘な娘だ。召喚に手を貸した僕が言うのも変だけどね』
彼の声にふと、笑いが混じったような気がした。
『そこで見ているんだろう? この世界の意思が僕を呼んだということは、滅びゆく運命を受け入れたということ。だけど、全ての希望の星が君に集まった時――あり得ないか。僕の分身がきっとそれをさせない。これは君自身が選んだ道だからね、僕を恨まないでくれよ。あぁ、君に伝え忘れたことがあった。これだけは覚えておいてほしい。大切なものは目に見えない、ということを……』
そして、ボクの意識は暗転を繰り返し、再びみんなが待つグレートデスモス地境へと舞い戻った。
静かに目を閉じ、反芻する。
“大切なものは目に見えない”か。
やっぱりだ。彼の存在、そしてメルちゃんを助ける方法が少し繋がった気がする。
「リンネちゃん、お帰り!! 」
さっそく飛びついてくるアユナちゃんを抱き締める。
「お土産は!? 」
「そうだった。この世界を救うのが誰か分かったよ」
「え!? 本当に? 」
全員の視線が、期待がボクに集まる。
「世界を救うのは――」
両手を大きく振り上げる。
「このもふもふだっ!! もふもふは正義、世界を救うんだ!! 」
「きゃっ!! 」
腕を振り下ろすと同時にアユナちゃんの羽をこちょこちょしまくる。手ぶらで帰ってきたから、これがお土産ね。
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