異世界八険伝
58.南海の魔人
(ねぇ、アイちゃん!3国で戦争を始める気?クルンちゃんがそんな感じのノリなんだけど!)
(気のせいですよ。アルン王国はわたしが国王になりました。これで大陸全土の意思決定権はわたし達にあります)
(アイちゃんが国王に!?)
(はい。レオン王子はダメです。リンネさんが旅立たれた後、レンさんにしつこく言い寄っていましたね。もう、ヴェローナに返した方が良さそうですよ)
(アイちゃんも王様かぁ。何だか凄いことになってるね。でも、ボクはちょっと寂しいかな)
(大丈夫ですよ!クルンさんもわたしも、一時的な政権奪取です。国をまとめて、同盟して、魔王を退けて、大陸を統一する。それからはミルフェ様にお任せすれば良いことです)
(随分と簡単に仰いますねぇ……1つ1つが大変だと思うんですが)
(リンネさん、わたし達は自分に出来ることを精一杯頑張るだけです。クルンさんもリンネさんと一緒に戦うことを強く望んでいましたが、あの子の本質はそうではありません。きっと、皆を導く力にあるのだと思います。皆の力を合わせれば不可能なことはありません!って、リンネさんがいつも言っていることですけどね)
(そう……だよね)
(今後のことですが、各国それぞれが討伐軍を編成し、魔族に対する反撃を開始します!魔族は壊滅させた町を拠点にしています。フリージア王国に6つ、アルン王国に5つ、クルス光国に3つある拠点を、魔人が動くより前に取り返します!)
おぉ、さすがは軍師だね!失地回復だね!でも、国の名前を間違えてるよ。
「リンネ様っ!見つけましたです!」
「あっ、クルンち……様。どうしました?」
「エンジェルウイングの本部に行くです!様なんて付けないでくださいです!クルン泣きます!」
★☆★
「ちょっと、クルン姉様!いきなり来て、この重たいのはなんなんですか!?」
「よく似合ってるですよ。クルスは何を着ても似合うです。リンネ様が褒めてたです」
「えっ!?リンネ様が!!」
いや、褒めた記憶は無いけどね?クルンちゃんは弟の扱いが雑すぎる……クルス君の顔が真っ赤だよ。
ボク達は今、イケナイ遊びをしている。替え玉作戦だ。確かに双子だし、クルンちゃんはちっパイだから、法衣を着せれば区別が付かないよ。でも、クルス君には魅了スキルがないし、それ以前に宗教に対する冒涜にならない?
「完璧です。クルスは今日からクルス光国の教皇様です!」
「エェェェ~!?無理です!無理です!僕はもふもふしか能がないんですよ!?」
「それでいいです。立派な教皇になったらリンネ様がチュウしてくれるです。頑張るですよ?」
「姉様、分かったです!命懸けで頑張るです!」
あっ、しゃべり方まで変わった!
アイちゃんとクルンちゃんは、最初からこれを狙ってたな!シラヌイさんとも既に話がついてるっぽい。クルス君には悪いけど、クルンちゃんはボクが貰っていくね!!
★☆★
ボク達は昼過ぎ、聖都から抜け出してスカイの背に跨がっている。最近、スカイばかりでスノーが寂しがってるかも……今度遊んであげよ。そんなことを考えていると、やがて陸地の終着点が迫ってきた。
「リンネ様!海です!海が見えます!」
「海は初めてなの?」
「はいです!絵本の中に出てきたです!広くて深くてしょっぱいです。波がザァザァです」
「あはっ!今度みんなで泳ぎに来ようね!楽しいよ!」
「楽しみです!!」
クルン光国改めクルス光国は、ロンダルシア大陸の最南端に位置する。国と言うほど国土は広くないが、海洋国家としての性格も有する。ただし、魔物がいなければの話。
聖都から真っ直ぐ3kmほど南下すると、高さ50mの断崖絶壁に出る。そのすぐ下に広がる綺麗な砂浜はリゾート地として魅力的ではあるが、如何せん交通の便が悪い。秘境リゾートという感じだ。
そこから東西に10kmほど離れた所には、まさに砂浜を抱くかのように、クワガタのハサミ状の半島が伸びている。半島の湾内には放棄されたであろう港が多数見える。この辺りがかつては漁業や海洋貿易で栄えてきたことを推測させる。
東側の半島が指し示す先へとさらに飛んでいくと、小さな島が見えてきた。島と呼ぶよりは奇巌と呼ぶべきその威容。天に突き出た2つの尖りと、中央に口を開けている洞窟……。なるほど、確かに魔人が好みそうな島だ。日中だがらまだいいけど、夜は無理だね。
ボク達は昨夜の戴冠式の後、アイちゃんの念話と情報収集スキルを通じて魔人ギルの行方を探した。結局、ウィズに借りを作る形にはなったが、魔人ギルの根城の情報を得られたのは大きい。よく“借りは作るな、貸しは作れ”と言うが、魔人相手に貸しを作っても返ってくるか分からない。借りっぱなしも怖いけどね。
「スカイ、降りるよ」
見た目もそうだけど、実際に地に足を着けるとその不気味さの正体が明確になった。岩石で出来た島の至る所に骨が大量に積み上げられている。歩くたびに骨が砕ける感覚が足裏を通じて伝わる。人間の骨には見えない。それが唯一ボクの恐怖心を抑え込んでいる。
洞窟はボク達の目の前で口を開けている。中は深い闇の世界だ。悪魔がボク達を飲み込みたがっているようにしか見えない。
クルンちゃんは恐怖で立ち竦んでいる。耳も尻尾も垂れ下がっているから分かりやすい。この子をこんな地獄に連れていく訳にはいかない。ここで留守番してもらおう。でも、ボクが死んじゃったらこの島から帰れないよね。何のために連れてきたんだろう。
「クルンちゃん、スノーを召喚するから一緒に見張りをお願い」
「嫌です」
「えっ?」
「クルンも行くです!一緒に戦うです!」
「怖いよ?こんな悪魔の口の中に入るんだよ?」
「それでも……リンネ様と一緒がいいです!」
なんて健気な狐っ娘!もふもふしてあげる。
「やん!今はダメです!後でお願いします!」
我慢しましょう。楽しみは後に残しておく。
「スノー!お願い、力を貸して!」
『ギュルルッ!』
「久しぶりっ!今から魔人と戦うかもしれない。クルンちゃんを守って!無理はしないでね!!」
『ギュルルゥー!』
スノーはクルンちゃんを口にくわえるや否や、自らの背中に投げ飛ばした。スノーにも乗れるの?騎乗スキルはないようだけど……。
「危なくなったら逃げるからね!さぁ、入るよ!」
[クルンがパーティに加わった]
★☆★
洞窟の中は意外と狭かった。幅も高さも5mはないだろう。足元には相変わらずの骨……鑑定してみるか。
[鑑定眼!]
[魔物の骨:魔素を吸いとられた魔物は骨だけが残されると言われている]
ん?魔素を吸いとられた?どゆこと?吸血鬼グスカみたいな奴がいる?骨もドロップアイテムかなぁ。少し持ち帰るか……。
「リンネ様!何で骨を拾うんです!?」
「何かの役に立つかもって。売れたり?」
「怖いです!リンネ様が怖いです!」
あらま。まぁ、かなり拾ったからいっか。
「それにしても、何もいない洞窟だね。普通は蝙蝠とかがビュンビュン飛んでるんだけどね」
「誰かが倒したです?この骨です?」
「これは魔物の骨らしいよ。魔素を吸いとられた魔物は骨だけが残されるんだって」
「魔物の骨……リンネ様、拾うの良くないです!」
逆効果だった……話題を変えないと!
「そうだ。クルンちゃん、占ってみて。ここに魔人がいるかとか、勝てるかとか」
「占いは1日3回です。今日はもう出来ないです。でも、リンネ様は負けないはずです。明日一緒にハンバーグ食べる占い出たです」
何を占ってるのよー。でも、勝ってハンバーグもいいねー。
進むこと30分。やがて広いドームに出る。
さっきまでの通路とは違い、大分明るい。ヒカリゴケが壁一面に生育しているようだ。
何かがいる。
ドームの最奥……椅子に座って目を閉じている。
「クルンちゃんとスノーはここで待機!」
「行きま……」
「待機!!!」
『ギュルル』
「凄い力を感じる。絶対に来ちゃダメだよ!ボクじゃ皆を守れない。自分自身で精一杯だから」
「分かりましたです……」
うん、これでいい。
仲間は絶対に死なせない!絶対に!!
ボクは魔力を練り上げながら近づく。戦いになったときの作戦は十分考えてある。勝算はある。
魔人がゆっくりと目を開ける。
頭がT字になっていて、両目が離れてる……何て言ったかな、ハンマーヘッドシャーク?シュモクザメ?でかい。3m以上ある!
確か、肉食だけど大人しいサメだったような。ウィズやヴェローナみたいに味方になる可能性もある。
「魔人ギルだね?」
『俺ハ魔人ギル。ニンゲン、お前ハ誰ダ?』
「ボクは勇者リンネ。人間の敵である魔人を倒す為に来た。魔人ギル、あなたは人間に敵対する意思はあるの?」
『ガガガガッ!俺ハ海ヲ統ベル魔人ノ王ダ。ニンゲンニハ興味ナイナ。タダシ、一歩デモ俺ノ海ヲ汚スナラ容赦シナイ!』
「海で泳いだり、魚を捕ったり、船で人や物を運ぶのもダメ?」
『駄目ダナ!俺ノ海ニ入ル奴ハ許サネェ!』
「人間と共存する気持ちはないと?」
『クダラン!下等生物ゴトキガ!』
「ウィズやヴェローナは人間との共存を望んでいるよ?あなたも……」
『奴等ヲ喰ワサセテクレルナラ考エルゼ!』
「まさか魔物から魔素を吸収したのは……」
『俺ダ!俺ハ魔王ヨリ強イ!モット強クナル!』
危険すぎる!魔物と言えど、仲間を倒して強くなったって!?この先必ず戦わざるを得なくなる。早く倒さないと手がつけられなくなる!
ならば、今、ボクが倒す!!
「魔人ギル!勇者リンネがお前を倒す!!」
『ガガガッ!人間ヲ喰ッテモ俺ハ強クナラナイガナ!遊ンデヤルゼ!!』
落ち着け!落ち着け!
この黒いオーラは何だ、闇の衣より遥かに濃いぞ。雷魔法でも1発で倒せそうにない……。寝起きでも、グスカみたいに騙し討ちが通用しそうな可愛いげはない!どうする?どうする?
『ニンゲン、先ニ1発殴ラセテヤル』
何だと!?ビッグチャンス到来!!
魔力は全回復している。べリアルを切り裂いたサンダーカッターで首を叩き斬る!あの細い首なら!無防備なら!いける!!
「死んでから後悔してね!」
魔力を95%込めてやる!この1撃で無理ならクルンちゃんを連れて転移で逃げるんだ。
魔力を練り上げる……まだだ、もっと!もっと!!棒2号に纏わせる……長さは1mでいい、濃く!とにかく圧縮する!!集中しろ、集中しろ……!
電撃を纏わせた!これを……高速で……回転させる!雷のチェーンソーだ。集中、集中!
聖なる雷の剣は全ての魔を切り裂く最強の剣!神の金属オリハルコンでさえも切り裂く最強の剣だ!!絶対に斬る!
「切り裂け!最強の剣、雷剣!!」
ボクは全力でギルに突っ込む!!
直前、跳びはねながら身体を1回転させる!勢いを加速させられた雷剣は、狙いを違えることなくギルの細い首を捉える!!
光と闇が交錯する!!
激しく攻めぎあう!!
斬れない!?
「切り裂け~!!」
『ガガガガッ!!』
光が闇を押す!!
ギルを纏う膨大な魔素が1点に集まることでボクの雷剣を押し留める!!
負けない!!絶対に斬る!!
ギルも必死だ。両手で雷剣を掴んで跳ね返そうとする!!
『グガガァ!?』
ギルの掌は切り裂かれ消滅する!!
押し切る!!
粘られる!!
纏わせた魔力が尽きてきた……。
ギルの魔素も限り無く薄い……。
……
……
「ハァハァハァ……」
『ガガッ!力尽キタカ……?ナラバ、死ネ!』
ギルが襲い掛かってきた!
速い!
けど、グスカほどじゃない!
紙一重で避ける、カウンターで頭を強打する!
『グギャッ!』
効いてる!闇の衣は剥がれた!!
その後、お互いに激しく打ち合い続けた……。
こんな打撃戦は初めてだ。
何時間経ったのか分からない。
ボクは魔力の回復を感じている。
距離をとる。
ギルは……明らかな油断!
最後のチャンスかも知れない。
再度ボクは雷剣を作り出す。
(転移!)
ギルの背後からジャンプ、一閃!!!
斬った……ギルの首は地に落ち、魔素が四散する。
残ったのは巨大な魔結晶と水魔法/上級……。
魔人ギル、強敵だった……。
残りの魔人は1位と2位か。アイちゃん情報だと2位のリーンは3~10位の全魔人を同時に相手に出来るくらい強いらしい。正直、今の戦力では敵わない。残り2人の仲間を召喚しないと!
★☆★
洞窟を出ると、既に夜は明けていた。
東の水平線から昇る日の光は、青い海をきらきらと白く輝かせている。全てを白く塗り潰すというシラヌイさんの言葉が頭に浮かぶ。この世界が地球と同じように球体ならば、必ず影は出来るし、夜はくる。人の心と同じだね。
ボク達は聖都に帰還した。
光輝く神殿が迎えてくれた。
夜明けと共にクルス光国の討伐軍は聖都を発ったようだ。心なしか、町が寂しそうに見える。
さぁ、ボク達の次の目的地は霊峰ヴァルムホルンだ。行きたくないけど……。
(気のせいですよ。アルン王国はわたしが国王になりました。これで大陸全土の意思決定権はわたし達にあります)
(アイちゃんが国王に!?)
(はい。レオン王子はダメです。リンネさんが旅立たれた後、レンさんにしつこく言い寄っていましたね。もう、ヴェローナに返した方が良さそうですよ)
(アイちゃんも王様かぁ。何だか凄いことになってるね。でも、ボクはちょっと寂しいかな)
(大丈夫ですよ!クルンさんもわたしも、一時的な政権奪取です。国をまとめて、同盟して、魔王を退けて、大陸を統一する。それからはミルフェ様にお任せすれば良いことです)
(随分と簡単に仰いますねぇ……1つ1つが大変だと思うんですが)
(リンネさん、わたし達は自分に出来ることを精一杯頑張るだけです。クルンさんもリンネさんと一緒に戦うことを強く望んでいましたが、あの子の本質はそうではありません。きっと、皆を導く力にあるのだと思います。皆の力を合わせれば不可能なことはありません!って、リンネさんがいつも言っていることですけどね)
(そう……だよね)
(今後のことですが、各国それぞれが討伐軍を編成し、魔族に対する反撃を開始します!魔族は壊滅させた町を拠点にしています。フリージア王国に6つ、アルン王国に5つ、クルス光国に3つある拠点を、魔人が動くより前に取り返します!)
おぉ、さすがは軍師だね!失地回復だね!でも、国の名前を間違えてるよ。
「リンネ様っ!見つけましたです!」
「あっ、クルンち……様。どうしました?」
「エンジェルウイングの本部に行くです!様なんて付けないでくださいです!クルン泣きます!」
★☆★
「ちょっと、クルン姉様!いきなり来て、この重たいのはなんなんですか!?」
「よく似合ってるですよ。クルスは何を着ても似合うです。リンネ様が褒めてたです」
「えっ!?リンネ様が!!」
いや、褒めた記憶は無いけどね?クルンちゃんは弟の扱いが雑すぎる……クルス君の顔が真っ赤だよ。
ボク達は今、イケナイ遊びをしている。替え玉作戦だ。確かに双子だし、クルンちゃんはちっパイだから、法衣を着せれば区別が付かないよ。でも、クルス君には魅了スキルがないし、それ以前に宗教に対する冒涜にならない?
「完璧です。クルスは今日からクルス光国の教皇様です!」
「エェェェ~!?無理です!無理です!僕はもふもふしか能がないんですよ!?」
「それでいいです。立派な教皇になったらリンネ様がチュウしてくれるです。頑張るですよ?」
「姉様、分かったです!命懸けで頑張るです!」
あっ、しゃべり方まで変わった!
アイちゃんとクルンちゃんは、最初からこれを狙ってたな!シラヌイさんとも既に話がついてるっぽい。クルス君には悪いけど、クルンちゃんはボクが貰っていくね!!
★☆★
ボク達は昼過ぎ、聖都から抜け出してスカイの背に跨がっている。最近、スカイばかりでスノーが寂しがってるかも……今度遊んであげよ。そんなことを考えていると、やがて陸地の終着点が迫ってきた。
「リンネ様!海です!海が見えます!」
「海は初めてなの?」
「はいです!絵本の中に出てきたです!広くて深くてしょっぱいです。波がザァザァです」
「あはっ!今度みんなで泳ぎに来ようね!楽しいよ!」
「楽しみです!!」
クルン光国改めクルス光国は、ロンダルシア大陸の最南端に位置する。国と言うほど国土は広くないが、海洋国家としての性格も有する。ただし、魔物がいなければの話。
聖都から真っ直ぐ3kmほど南下すると、高さ50mの断崖絶壁に出る。そのすぐ下に広がる綺麗な砂浜はリゾート地として魅力的ではあるが、如何せん交通の便が悪い。秘境リゾートという感じだ。
そこから東西に10kmほど離れた所には、まさに砂浜を抱くかのように、クワガタのハサミ状の半島が伸びている。半島の湾内には放棄されたであろう港が多数見える。この辺りがかつては漁業や海洋貿易で栄えてきたことを推測させる。
東側の半島が指し示す先へとさらに飛んでいくと、小さな島が見えてきた。島と呼ぶよりは奇巌と呼ぶべきその威容。天に突き出た2つの尖りと、中央に口を開けている洞窟……。なるほど、確かに魔人が好みそうな島だ。日中だがらまだいいけど、夜は無理だね。
ボク達は昨夜の戴冠式の後、アイちゃんの念話と情報収集スキルを通じて魔人ギルの行方を探した。結局、ウィズに借りを作る形にはなったが、魔人ギルの根城の情報を得られたのは大きい。よく“借りは作るな、貸しは作れ”と言うが、魔人相手に貸しを作っても返ってくるか分からない。借りっぱなしも怖いけどね。
「スカイ、降りるよ」
見た目もそうだけど、実際に地に足を着けるとその不気味さの正体が明確になった。岩石で出来た島の至る所に骨が大量に積み上げられている。歩くたびに骨が砕ける感覚が足裏を通じて伝わる。人間の骨には見えない。それが唯一ボクの恐怖心を抑え込んでいる。
洞窟はボク達の目の前で口を開けている。中は深い闇の世界だ。悪魔がボク達を飲み込みたがっているようにしか見えない。
クルンちゃんは恐怖で立ち竦んでいる。耳も尻尾も垂れ下がっているから分かりやすい。この子をこんな地獄に連れていく訳にはいかない。ここで留守番してもらおう。でも、ボクが死んじゃったらこの島から帰れないよね。何のために連れてきたんだろう。
「クルンちゃん、スノーを召喚するから一緒に見張りをお願い」
「嫌です」
「えっ?」
「クルンも行くです!一緒に戦うです!」
「怖いよ?こんな悪魔の口の中に入るんだよ?」
「それでも……リンネ様と一緒がいいです!」
なんて健気な狐っ娘!もふもふしてあげる。
「やん!今はダメです!後でお願いします!」
我慢しましょう。楽しみは後に残しておく。
「スノー!お願い、力を貸して!」
『ギュルルッ!』
「久しぶりっ!今から魔人と戦うかもしれない。クルンちゃんを守って!無理はしないでね!!」
『ギュルルゥー!』
スノーはクルンちゃんを口にくわえるや否や、自らの背中に投げ飛ばした。スノーにも乗れるの?騎乗スキルはないようだけど……。
「危なくなったら逃げるからね!さぁ、入るよ!」
[クルンがパーティに加わった]
★☆★
洞窟の中は意外と狭かった。幅も高さも5mはないだろう。足元には相変わらずの骨……鑑定してみるか。
[鑑定眼!]
[魔物の骨:魔素を吸いとられた魔物は骨だけが残されると言われている]
ん?魔素を吸いとられた?どゆこと?吸血鬼グスカみたいな奴がいる?骨もドロップアイテムかなぁ。少し持ち帰るか……。
「リンネ様!何で骨を拾うんです!?」
「何かの役に立つかもって。売れたり?」
「怖いです!リンネ様が怖いです!」
あらま。まぁ、かなり拾ったからいっか。
「それにしても、何もいない洞窟だね。普通は蝙蝠とかがビュンビュン飛んでるんだけどね」
「誰かが倒したです?この骨です?」
「これは魔物の骨らしいよ。魔素を吸いとられた魔物は骨だけが残されるんだって」
「魔物の骨……リンネ様、拾うの良くないです!」
逆効果だった……話題を変えないと!
「そうだ。クルンちゃん、占ってみて。ここに魔人がいるかとか、勝てるかとか」
「占いは1日3回です。今日はもう出来ないです。でも、リンネ様は負けないはずです。明日一緒にハンバーグ食べる占い出たです」
何を占ってるのよー。でも、勝ってハンバーグもいいねー。
進むこと30分。やがて広いドームに出る。
さっきまでの通路とは違い、大分明るい。ヒカリゴケが壁一面に生育しているようだ。
何かがいる。
ドームの最奥……椅子に座って目を閉じている。
「クルンちゃんとスノーはここで待機!」
「行きま……」
「待機!!!」
『ギュルル』
「凄い力を感じる。絶対に来ちゃダメだよ!ボクじゃ皆を守れない。自分自身で精一杯だから」
「分かりましたです……」
うん、これでいい。
仲間は絶対に死なせない!絶対に!!
ボクは魔力を練り上げながら近づく。戦いになったときの作戦は十分考えてある。勝算はある。
魔人がゆっくりと目を開ける。
頭がT字になっていて、両目が離れてる……何て言ったかな、ハンマーヘッドシャーク?シュモクザメ?でかい。3m以上ある!
確か、肉食だけど大人しいサメだったような。ウィズやヴェローナみたいに味方になる可能性もある。
「魔人ギルだね?」
『俺ハ魔人ギル。ニンゲン、お前ハ誰ダ?』
「ボクは勇者リンネ。人間の敵である魔人を倒す為に来た。魔人ギル、あなたは人間に敵対する意思はあるの?」
『ガガガガッ!俺ハ海ヲ統ベル魔人ノ王ダ。ニンゲンニハ興味ナイナ。タダシ、一歩デモ俺ノ海ヲ汚スナラ容赦シナイ!』
「海で泳いだり、魚を捕ったり、船で人や物を運ぶのもダメ?」
『駄目ダナ!俺ノ海ニ入ル奴ハ許サネェ!』
「人間と共存する気持ちはないと?」
『クダラン!下等生物ゴトキガ!』
「ウィズやヴェローナは人間との共存を望んでいるよ?あなたも……」
『奴等ヲ喰ワサセテクレルナラ考エルゼ!』
「まさか魔物から魔素を吸収したのは……」
『俺ダ!俺ハ魔王ヨリ強イ!モット強クナル!』
危険すぎる!魔物と言えど、仲間を倒して強くなったって!?この先必ず戦わざるを得なくなる。早く倒さないと手がつけられなくなる!
ならば、今、ボクが倒す!!
「魔人ギル!勇者リンネがお前を倒す!!」
『ガガガッ!人間ヲ喰ッテモ俺ハ強クナラナイガナ!遊ンデヤルゼ!!』
落ち着け!落ち着け!
この黒いオーラは何だ、闇の衣より遥かに濃いぞ。雷魔法でも1発で倒せそうにない……。寝起きでも、グスカみたいに騙し討ちが通用しそうな可愛いげはない!どうする?どうする?
『ニンゲン、先ニ1発殴ラセテヤル』
何だと!?ビッグチャンス到来!!
魔力は全回復している。べリアルを切り裂いたサンダーカッターで首を叩き斬る!あの細い首なら!無防備なら!いける!!
「死んでから後悔してね!」
魔力を95%込めてやる!この1撃で無理ならクルンちゃんを連れて転移で逃げるんだ。
魔力を練り上げる……まだだ、もっと!もっと!!棒2号に纏わせる……長さは1mでいい、濃く!とにかく圧縮する!!集中しろ、集中しろ……!
電撃を纏わせた!これを……高速で……回転させる!雷のチェーンソーだ。集中、集中!
聖なる雷の剣は全ての魔を切り裂く最強の剣!神の金属オリハルコンでさえも切り裂く最強の剣だ!!絶対に斬る!
「切り裂け!最強の剣、雷剣!!」
ボクは全力でギルに突っ込む!!
直前、跳びはねながら身体を1回転させる!勢いを加速させられた雷剣は、狙いを違えることなくギルの細い首を捉える!!
光と闇が交錯する!!
激しく攻めぎあう!!
斬れない!?
「切り裂け~!!」
『ガガガガッ!!』
光が闇を押す!!
ギルを纏う膨大な魔素が1点に集まることでボクの雷剣を押し留める!!
負けない!!絶対に斬る!!
ギルも必死だ。両手で雷剣を掴んで跳ね返そうとする!!
『グガガァ!?』
ギルの掌は切り裂かれ消滅する!!
押し切る!!
粘られる!!
纏わせた魔力が尽きてきた……。
ギルの魔素も限り無く薄い……。
……
……
「ハァハァハァ……」
『ガガッ!力尽キタカ……?ナラバ、死ネ!』
ギルが襲い掛かってきた!
速い!
けど、グスカほどじゃない!
紙一重で避ける、カウンターで頭を強打する!
『グギャッ!』
効いてる!闇の衣は剥がれた!!
その後、お互いに激しく打ち合い続けた……。
こんな打撃戦は初めてだ。
何時間経ったのか分からない。
ボクは魔力の回復を感じている。
距離をとる。
ギルは……明らかな油断!
最後のチャンスかも知れない。
再度ボクは雷剣を作り出す。
(転移!)
ギルの背後からジャンプ、一閃!!!
斬った……ギルの首は地に落ち、魔素が四散する。
残ったのは巨大な魔結晶と水魔法/上級……。
魔人ギル、強敵だった……。
残りの魔人は1位と2位か。アイちゃん情報だと2位のリーンは3~10位の全魔人を同時に相手に出来るくらい強いらしい。正直、今の戦力では敵わない。残り2人の仲間を召喚しないと!
★☆★
洞窟を出ると、既に夜は明けていた。
東の水平線から昇る日の光は、青い海をきらきらと白く輝かせている。全てを白く塗り潰すというシラヌイさんの言葉が頭に浮かぶ。この世界が地球と同じように球体ならば、必ず影は出来るし、夜はくる。人の心と同じだね。
ボク達は聖都に帰還した。
光輝く神殿が迎えてくれた。
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