異世界八険伝

AW

42.共闘と協同

 エリ村で魔人カイゼルを打倒したボク達5人(リザさんを含む)は、ギルドの冒険者達に先んじて転移魔法でフィーネに戻ってきた。

 迎えてくれたのはアイちゃん。ギルドマスターは遠慮してボク達を避けているようだった。

 そうなんです。
 美少女には美少女なりのプライドがあるのです。









「さっさとお風呂に入って下さいね!」


 ギルドの大浴場を借りきって、全員アイ・アユナ・リンネ・メル・レン・リザで元気一杯洗いっこに励みました。あら、リザさんもエルフ体型だ!確か16歳だったような気がするけど、胸はレンちゃん並。序列第2位のミルフェちゃんにすら勝てないんだから、序列第1位のメルちゃんは遥か遠い存在だ。

 って、女の子が集まるといつも胸か髪の話題になるのは必然なのだろうか。ここにいる6人のうち2/3は異世界人……ということは全世界共通のガールズトークなんでしょうね。最近徐々に慣れてきたよ。話題に出してくるのは決まってアユナちゃんかレンちゃん。劣等感がそうさせるのかもしれない。アイちゃんは無関心を貫いている。


 お風呂から上がると、豪華な食事がボク達を待っていた。ギルドの計らいで来客室がささやかな祝勝パーティと化していた。今は11時だからブランチかな。

 どこから聞きつけてきたのか、ボクが大好きなハンバーグもある!色とりどりの野菜や果物、スープが並ぶ。みんな大興奮で踊るように食べていた。この人達は食べ物系の幻術に注意だね。

 因みにこの世界、お米や麺類は無いみたい。やはり異世界には一攫千金の卵がたくさん落ちている。でも、優先順位を間違えてはいけない。今すべきは魔物から世界を救うことなのだから。


 そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「リンネ様お客様がお見えです。お通ししても?」

 誰だろう?ギルドマスター?



「お久しぶりです、リンネ様」

 え?誰だろう?
 20歳前後の茶髪の好青年……どこかで見たような?

「クピピィ!」

 えっ!?
 魔族!!

「おっと!それはクピル……。
 う~ん、予定が変わっちゃうけど仕方ない」


 突然、男の体が闇に包まれたかと思うと……
 2本の角を持つ魔人の姿に変わる!

「『「魔人ウィズ!!」』」

 にわかに緊張が走る!!
 メルちゃん、レンちゃんが素手ながら魔人を囲むように移動する。

『待って!!敵意はないから!!
 俺は普段、ホークという人間の身体で行動しているんだ。ミルフェ王女の護衛として勇者リンネと旅をしたのに覚えられてないなんて。ちょっとあっちで泣いてくる』

「ホーク……フィーネまで馭者をしていた人?記憶の片隅にいるかも。で、そのホークが何の用?」

『カイゼル討伐おめでとう!とお祝いを言いたくて来たんだ。これ、お土産。是非受け取ってくれ!』

 魔人ウィズはそう言ってボクに[闇魔法/中級]、[火魔法/初級]、[召喚魔法/中級]の3冊の魔法書を差し出してきた。

 あまりにピンポイントな贈り物に、ボク達の不信感は募る一方だ。皆はボクとウィズのやり取りを油断なく見守っている。

「ボク達に協力する意思があるなら、カイゼル戦で手伝ってほしかった。あなたの真意がイマイチ伝わらないよ」

『それを言われると頭が痛すぎる!俺にも出来ることと出来ないことがあるんだ』

「出来ること?出来ないこと?具体的に!」

『それ聞いちゃうか。今俺が表に出るとお互いの為にならないことは分かるよね?まだ時期尚早なんだけど、勇者リンネの為なら言うよ!
 まず、出来ることは、情報とアイテム提供だ。出来ないことは、魔人や魔族との直接の戦い。ただし、時期が来れば当然手伝うさ。魔族と人間の共存共栄の為に、共闘しよう!』


(リンネさん、上級魔法書をくれないということは、協力はするけど、わたし達が強くなり過ぎるのは嫌だと言っているようなものですよ。こういった相手は最も警戒に値します。利用しようという意図が見え見えです)

(なるほど、そうかもしれないね!でも、カイゼル戦でボク達は力不足を痛感したから、共闘は必要かな。引き続き警戒しながらだけど!)


「分かった。じゃあ、あなたがボク達に求めるモノは何?またボクの生シャツが欲しいの?」

『ははは!勇者リンネは面白いな!
 勇者グッズはいつでも欲しいんだが……
 今、一番俺が求めるモノは……
 勇者リンネとの結婚だ』

 場に殺気が満ちる。
 まさに一触即発だ。

『おっと、冗談に冗談を返しただけなのに!
 真面目に言うと、魔人の討伐だ。カイゼルの死によってこれから大きく動き出す……』


 魔人ウィズは魔人の動向について語りだした。それによると、魔王復活に動く魔人6人の討伐が最優先らしい。魔人の情報は……
 序列第1位:不明(不明)不明
 序列第2位:リーン(不明)デスモス地境の防衛
 序列第4位:グスカ(吸血鬼)アルン王国の制圧
 序列第5位:ガルク(虎人族)不明
 序列第6位:ギル(魚人族)南海の制圧
 序列第9位:ザッハルト(大蛇)ティルス侵攻

 また、序列第7位のウィズは6名の魔族を配下に加えており、しばらくは5位ガルクの情報収集に注力するそうだ。


『フリージア王国に新たな魔人が来るとしたらガルクだな。奴も俺と同様に普段は人に変身して動いている節がある。勇者リンネにはザッハルトとグスカをお願いしたい』

「ボク達を嵌める罠じゃないよね?」

『信じてくれとしか言えない』

「ボク達が欲しいアイテムは、エリクサー、マジックポーション、上級魔法書なんだけど……」

『勇者リンネの下着セットと交換なら!』

「「『交渉決裂です!』」」

 否定はやっ!!
 ボクの下着セットは世界の平和より大切なのね。

『なるべく探してはみるが、俺達しがない傭兵業じゃ金が足りないんだよ。強盗してもいいなら楽なんだが?』

「それはダメ!じゃあボク達が魔人を倒す報酬ってことにしていい?しっかり働いてね!」

『なんか夫婦みたいでいいな!それでいこう!』

 共闘の交換条件が成立するやいなや、魔人ウィズは退席した。ボクが勝手に仕切ってしまったが、あまり反対意見はないようだ。


「変わった魔人でしたね。殺意が湧きます」
『かっこよかった!けど夫婦はダメ!!!』
「鬼人族の魔人……彼は私より数倍強いです」
「クピィちゃんはクピルって種族なんだね!」
「彼は、常に警戒が必要な危険人物です!」

 まぁ、反応はそれぞれ。



「魔法書なんだけど、闇魔法中級はメルちゃんで確定、手持ちと合わせて、火魔法初級&中級と、召喚魔法初級&中級はどうしよう?」

『私は精霊召喚あるし、エルフにとって火は禁忌だからどっちもいらな~い!風か光魔法が欲しいかなっ!!リザ姐もだね』

「あたしは魔力がアユナちゃんの胸くらいしかないからどちらもいらないよ!」

『うぅぅ……』

「レンちゃんがアユナちゃん泣かした!!」

「大丈夫。この子のスキル、嘘泣き」

「う~ん、火魔法と召喚魔法か。アイちゃんにはどっちが必要かな~?」

「私の情報によると、召喚魔法はリンネさんによく合っていますね。
 1.召喚対象は、野生動物、魔物、聖獣ランダム
 2.寿命は召喚者の魔力量によって決まる
 3.初級1体、中級2体、上級3体同時召喚可能
 4.召喚リングに収容可能
 5.召喚対象のレベルは召喚者のレベルと同等
 こんな内容らしいですよ」

「確かにレベルや魔力量を考えるとボクが使う方が今のところ良さそうだね。じゃあ、アイちゃんは火魔法の初級と中級ね!」


「おっと、ご飯まだ食べてなかった!!」

 ボク達は食事を終えると、それぞれ魔法書の契約を行った。中級までの召喚魔法を取得したボクの左手中指には、いつの間にか銀色に輝く指環が填まっている。

[鑑定眼!]

[召喚リング/中級:レベル23の召喚対象をあと2体まで収容可能]

 なるほど、後で召喚してみたいね!!



 ★☆★



 またドアをノックする音が聞こえていきた。
 ウィズが戻って来たのかな!?

「リンネ様、マスターがお話があるそうですが、今はお時間宜しいでしょうか?」

 違った!今日は勘が冴えないなぁ。

「あ、はい!大丈夫です!!」



「失礼するよ。食後に悪いな」

「いえ、わざわざ来てもらってすみません」

 皆、恐縮しているみたい。
 こっちから食後すぐに報告に行くべきだったね。

「この度の魔人討伐、感謝する!!
 先程、派遣した冒険者が全員無事に帰還した。詳しい情報は既に聞き及んでるから大丈夫だ。
 それで、例の件なんだが……勇者リンネ、これに目を通してみてくれ」

 なるほど、昨日と今日で魔人討伐の準備だけでなく、ここまで調べあげたのか。凄く仕事が出来る人かもしれない。

 ギルドマスターの資料には、調べうる限りの奴隷の現状が纏められていた。


『奴隷数調査結果~都市別~
 ◆フリージア王国:契約数_149、未契約数_50
 王都フリージア:契約数_74、未契約数_6
 ティルス:契約数_21、未契約数_20
 ランディール:契約数_16、未契約数_8
 ルーク:契約数_15、未契約数_4
 チロル:契約数_13、未契約数_4
 ヴェルデ:契約数_6、未契約数_6
 ノースリンク:契約数_4、未契約数_2
 フィーネ:契約数_0、未契約数_0

 ◆アルン王国:契約数_236、未契約数_56
 王都アルン:契約数_108、未契約数_25
 ニューアルン:契約数_63、未契約数_8
 ゴルディス:契約数_32、未契約数_6
 サーザ:契約数_15、未契約数_6
 ウェイホルン:契約数_11、未契約数_2
 ソフィテル:契約数_4、未契約数_6
 ソフィリス:契約数_3、未契約数_3
 ※ 契約数は、死亡報告のない者も含む。
 ※ 未契約数は、奴隷商人が所有中の奴隷。
 ※ 南の新興国については情報なし』


 う~ん、多いのか少ないのか分からないけど、人口が少ないから比率的には多いくらいなのかな?でも、どうすれば奴隷制度を無くせるんだろう。

「どちらも見ての通り、王都とそれに次ぐ第2の都市に集中している。そこでだ。我々ギルドと協同してくれないか?」

「協同、ですか。具体的には何をすべきでしょうか?」

「俺が王国に働きかけて法整備を行う。それと並行して現在契約中の奴隷の買取りと審査・保護・解放を行う。これは強権的にやるしかないからな。
 勇者リンネは、現在未契約の奴隷の買取りを優先してくれ。審査や保護はギルドが行う。その際、不法行為を行っている奴隷商人に対して実力行使が可能になるよう手筈も整えておく。最も、ほぼ全ての奴隷商人が不法行為に手を染めているだろうから、実質的には奴隷商人の潰滅を依頼することになる」

 そう言って、ギルドマスターはニヤリと笑った。

「特に、フリージア第2の都市ティルスには未契約奴隷が多く集まっている。ここには大手の奴隷商人がいるんだ。そいつを優先的に潰してもらいたい」

「ティルス……」

 ボクは先程の魔人ウィズから得た情報を伝えた。ギルドマスターは喫驚してしばらく眼を見開いていた。


「極東の町ルークには私が行きましょう」

 リザさんが真顔で突然提案してきた。

「リザさん、理由がありそうですね?」

「はい。ルークの東の森には結界に囲まれたエルフの村があります。村への途中、ルークには何度か訪れたことがありますので地理には精通しています。というのは建前で、本音を申し上げれば、エルフの村が心配なのです。フリージアにはエルフはもうそこにしか生存していませんから……」

「種族を守りたい気持ちは分かります!だけど、危険では?ボクも行きますよ!!」

『リンネちゃん、待って!リンネちゃんはティルスに行かないとダメだよ。魔人を止めなきゃ!!……ルークには私が行くよ。リザ姐と私なら大丈夫でしょ?』

「逆に、余計に心配ですが……」

『もう!メルちゃんほど強くないけど、私だって魔族に対抗できるくらい強くなったんだから!』

 ボクにべったりだったアユナちゃんが別行動をしようとしてる。なんか寂しいな。でも、それ程までに重要なんだよね。理解してあげなきゃ。

「あたしはアユナちゃんに反対。召喚者の義務を放棄して……リンネちゃんを見捨ててエルフの村に籠るわけ!?」

「レンちゃん!言い過ぎ!」

『違う違う違う!そんなつもりじゃない!!
 分かってるもん!分かってるけど……もうエルフが居なくなっちゃうなんて耐えられない……。ずっと森を守る訳じゃない、リザ姐を送って、村が安全そうだったらすぐ戻るもん!』

「うんうん、ボクは分かるよ、大丈夫」

 ボクは泣いているアユナちゃんを優しく抱き締めてあげた。羽がふわふわしていて気持ちいい。

「リンネちゃんは甘やかしすぎだよ!アユナちゃんが1人で戻れる訳ないでしょ?魔物に追われて道に迷って……あたしは心配性なんだからね!」

 いつの間にかレンちゃんがアユナちゃんに優しい。貧乳同盟でも組んでるのかな……。

「なら、わたしが一緒に行きます。わたしがいれば道に迷うことはないし、火魔法も使えるし、念話でリンネちゃんに情報伝達できるし。護衛さえつけて頂ければ戦力的にも問題ないですよね?」

 アイちゃん……これはやはり貧乳同盟なのか……。

「うん!だけど心配だから……護衛は女性ね!
 それと、ボク達はティルスから王都に向かうけど、なるべく早く合流出来るようにしてね!ボクが寂しくて耐えられないから!あと、食べ過ぎて太りすぎないこと!転移が出来なくなるからね?」

『リンネちゃんっ!!ありがとっ!!』


 成り行きを見守っていたギルドマスターが、安心した表情で退席した。あぁ、魔法書やポーション、装備を融通してほしかった。でも、ギルドも奴隷買取りに大変なお金を費やすことになるだろうから言い出せなかったよ。


「そしたら、ボクとメルちゃん、レンちゃんの目的地は王国第2の都市ティルスで、リザさん、アユナちゃん、アイちゃんはルークだね。今日はしっかり準備をして、明朝出発しよう」

「「「『はい!』」」」

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