日常日記

ノベルバユーザー173744

100円の価値

散歩をしていた。

そう。ただの散歩。
大通りの歩道を歩いていたのだが、一人のおばあちゃんが立っていた。

亡くなった私の祖母に似ていた……。

何か車道に身をのりだし、必死に手を振っていた。

最初は横断歩道に近いので、向う側に知り合いがいて手を振っているのだと思い、横を通り抜けようとした。
しかしその寸前に、おばあちゃんの目の前の道路を通ったタクシーを見て、悲しそうに手が下に向いたのが見えた。
表情もとても辛そうで、とっさにUターンして、

「すみません。タクシーを止められたいのですか?」

と、顔を寄せ聞いた。

祖母は、私を無視していた。
いないふりをした……。
もしかしたら、無視されるかもと思った。

すると、おばあちゃんは耳を指差し、

「耳が聞こえんのよ」

と、やさしい声でいってくれた。
私は手話ができない。

『タクシーを呼びたいのですか?』
『どうしましたか?』

が、伝わらない。
周囲を見てもタクシーは見えなかった。
はっと、先日登録していた近くのタクシー会社の電話番号をだし、おばあちゃんに画面を見せた。
そして、タクシーと言う部分を示し、受話器を耳に当てるしぐさをした。

「タクシーを呼んでくれるの?」

私は頷き、電話を掛けた。
すぐに電話は繋がった。

「もしもし。先日利用した者なのですが、車を一台お願いします」
『どちらにでしょうか?』
「えっと、コンビニの……」
『どこのコンビニでしょう?』

コンビニは色々あることを忘れていた。

「すみません。○○通りの、居酒屋さんの前です。乗るのは私ではなく、耳の不自由な方で、一緒に待っていますのでよろしくお願いいたします」
『解りました』

電話が切れたので、おばあちゃんに、

『呼びましたよ。待っていましょう』

と伝えようと思ったものの、伝える方法は、車道を指差して、

「あっち側からこう回ってくるので、待ちましょう」

と指差すのを繰り返した。
それで、通じたのかホッとした顔をした。

しばらくすると一台タクシーが通り、

「あれ?」

と聞かれ、電話した会社ではなかったので首を振った、そして、その2台後ろに多分呼んだタクシーと思われるタクシーを見つけ、

「あれですよ、あれ‼」

そっと背中に手を乗せ、指を示した。
タクシーの方向指示機がこちらを示している。

車が曲がって私たちの前に止まった。
扉が開き、

「お客様ですか?」
「電話を私がしました。乗られるのはこの方ですが、耳が不自由だそうです。どうぞよろしくお願いします」

と運転手さんと話すと、おばあちゃんに乗って貰うように勧めた。
すると、

「あ、荷物は大丈夫?」

と、こちらを心配してくれ、その上私の手を取ると、100円を乗せた。

「えっ?良いです‼良いですよ⁉」

返そうとしたが、にこにこと笑いながらなぜか、

「だんだん、ありがとう」

と手を合わせられた。
そして、タクシーに乗ったおばあちゃんは、行き先を書いた紙を運転手さんに見えるように差し出し、再び私に向かって手を合わせニッコリと笑った。
扉がしまり、ゆっくり走り出した車を手を振って見送っていた。



100円が、とても温かく、重く感じた。
それに、胸が温かくなった。

『一期一会』

この言葉を本当に強く思えたのだった。

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