音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Secret Track[R].4 約束
βテスト二日目も結局私はログアウト出来なかった。でも前日とは違い、私と同じ境遇にあった二人の子と私の為に残ってくれたスズハさんの計四人で一夜を共にした。
そして迎えたβテスト最終日。
結局異変の原因が分からないまま迎えてしまった最終日。私の中にはまだ不安が消えてはいないものの、今日突発的に行うライブへの準備を着々と進めていた。
「βテストが終了するのは夕方の六時。お昼のこの時間帯でも人は沢山いますし、始めるなら一時間から二時間後がベストかもしれません」
「リアラさんは大丈夫なんですか? 心の準備とかは」
「私はいつでも歌えるように準備をしていますから」
私は少しだけ見栄を張った。昨日メンバーに迷惑をかけてしまった分、弱音を吐くわけにはいかなかった。
本当はすごく不安で、
歌う事がとても怖い。
私が歌姫としてステージに立つ事がとても怖い。ゲームで恐怖を感じたのは初めてだった。
(でも、怖くても……)
私はこの震える足で、舞台に立たなければならない。それが昨日の私へのケジメと、三日間の短い間でもバンドを組んでくれた三人への感謝だ。
その中でも特にお礼を言いたいのがただ一人。
「スズハさん」
「はい」
「私このゲームで貴方と出会えて本当に良かったです。もし本サービスが開始したら、その時も私とバンドを組んでくれますか?」
「え? い、いいんですか? 私なんかと」
「私なんかじゃありません。この三日間スズハさんが居てくれなければ、私はこの場で歌う事もきっとなかったと思うんです」
「リアラさん……」
「だから約束しましょう。もう一度この場所で出会う事を」
「はい!」
この時私とスズハさんは小さいけど、確かな約束をした。もう一度この場所で、私達の音を奏でようと。その日がいつ来るかは分からない。でもどんなに時間が経っても、絶対に忘れないと心に誓った。
「まずはその為にも、今日の演奏成功させましょう。私も頑張りますから」
「はい、私も力の限り頑張ります!」
こうして小さな約束を交わした私達は、一時間後に向けて最後の練習をした。皆緊張はしていたけど、最後の最後までできる限りのことをして、本番に臨む。
「いよいよですね、リアラさん」
「はい、たくさんのプレイヤーの方々も集まっていますし、すごく緊張します」
「でも大丈夫ですよ、私達最後まで練習したんですから」
「分かっています。私達の今奏でられる音楽を最大限に出し切れるはずです」
一時間前までなかった自信が、スズハさんの支えと、皆の力のおかげで少しだけついていた。私の歌が、他の人にどう聞こえるかは分からない。でも私は胸を張って言える。これが私の歌なんだって。
これが私達の歌なんだって。
「さあ皆さん、これからが本番です。準備はいいですか?」
全員に向けて私が言う。皆それぞれ頷き、どんな歌になっても後悔はしない顔をしていた。
「βテストは今日で最後ですが、サービスが始まったら皆さんとまた会えると私は信じています。だからそのためにも、今日は昨日の分も含めて、精一杯頑張りましょう!」
私の呼びかけに全員が大きな声で返事をする。それを聞いて私は、
「じゃあ皆さん行きますよ!」
先陣を切って舞台へと上がっていった。
私のβテスト最終日が、今ここに始まる。
■□■□■□
舞台へと上がると、私達を待っていたかのうように、大きな歓声が沸いていた。なんと私達のライブのためだけに、百人近くのプレイヤーが見に来てくれいた。
「す、すごい人」
スズハさんが小声で言う。私もその数に圧倒され、少しだけ解けた緊張が、高まってしまった。
(これだけの数の前で、私が歌えるの?)
ゲームの世界とは言っても、これから歌うのは私の声で歌う声だ。それをこれだけの人に聞かせするのを、こんな私に……。
「え、えっと、今日は私達の為に集まってくれてありがとうございます」
そんな私の代わりに、緊張しているはずのスズハさんが挨拶をする。皆それぞれの位置についているので、こういう挨拶はボーカルの私がするべきなのに、彼女に任せてしまった。
「私達は昨日、不祥事でイベントに参加できませんでした。だから本来ならこんな事を勝手にしてしまって、運営に怒られてしまうのかな、とか思ってしまいます」
観客に笑いが上がる。でも誰一人して、私達のこの身勝手なライブを止めようとする人はいなかった。
「でもそこまでしてでも、私達はこのライブを行いたかったんです。それは他ならぬボーカルのリアラさんの為です」
「え?」
思わぬ名指しに私はスズハさんの方を見てしまう。それに気がつきながらも、スズハさんは話を続ける。
「私の友達のリアラさんは、実はこのゲームから一度もログアウトできていないんです。原因も分からず、彼女は今でも苦しんでいます」
元から話すのが決まっていたのか、それとも今突然決めたのか、どんどんと話し出すスズハさん。それを観客は黙って聞いている。
「だから私は、苦しんでいるリアラさんが少しでも元気になってもらえるように、今日のイベントを考えたんです。だから、まだまだ下手な私達かもしれませんけど、どうか聞いていってください」
そう締めるとスズハさんは、私にマイクを渡す。渡された私は、緊張しながらも、こう宣言した。
「こんな状況になってしまった私ですけど、きょ、今日は頑張って歌わせてもらいます。聞いてください」
一息をつく。そして……。
「『桜の咲く頃に』」
私の歌を歌い始めた。
そして迎えたβテスト最終日。
結局異変の原因が分からないまま迎えてしまった最終日。私の中にはまだ不安が消えてはいないものの、今日突発的に行うライブへの準備を着々と進めていた。
「βテストが終了するのは夕方の六時。お昼のこの時間帯でも人は沢山いますし、始めるなら一時間から二時間後がベストかもしれません」
「リアラさんは大丈夫なんですか? 心の準備とかは」
「私はいつでも歌えるように準備をしていますから」
私は少しだけ見栄を張った。昨日メンバーに迷惑をかけてしまった分、弱音を吐くわけにはいかなかった。
本当はすごく不安で、
歌う事がとても怖い。
私が歌姫としてステージに立つ事がとても怖い。ゲームで恐怖を感じたのは初めてだった。
(でも、怖くても……)
私はこの震える足で、舞台に立たなければならない。それが昨日の私へのケジメと、三日間の短い間でもバンドを組んでくれた三人への感謝だ。
その中でも特にお礼を言いたいのがただ一人。
「スズハさん」
「はい」
「私このゲームで貴方と出会えて本当に良かったです。もし本サービスが開始したら、その時も私とバンドを組んでくれますか?」
「え? い、いいんですか? 私なんかと」
「私なんかじゃありません。この三日間スズハさんが居てくれなければ、私はこの場で歌う事もきっとなかったと思うんです」
「リアラさん……」
「だから約束しましょう。もう一度この場所で出会う事を」
「はい!」
この時私とスズハさんは小さいけど、確かな約束をした。もう一度この場所で、私達の音を奏でようと。その日がいつ来るかは分からない。でもどんなに時間が経っても、絶対に忘れないと心に誓った。
「まずはその為にも、今日の演奏成功させましょう。私も頑張りますから」
「はい、私も力の限り頑張ります!」
こうして小さな約束を交わした私達は、一時間後に向けて最後の練習をした。皆緊張はしていたけど、最後の最後までできる限りのことをして、本番に臨む。
「いよいよですね、リアラさん」
「はい、たくさんのプレイヤーの方々も集まっていますし、すごく緊張します」
「でも大丈夫ですよ、私達最後まで練習したんですから」
「分かっています。私達の今奏でられる音楽を最大限に出し切れるはずです」
一時間前までなかった自信が、スズハさんの支えと、皆の力のおかげで少しだけついていた。私の歌が、他の人にどう聞こえるかは分からない。でも私は胸を張って言える。これが私の歌なんだって。
これが私達の歌なんだって。
「さあ皆さん、これからが本番です。準備はいいですか?」
全員に向けて私が言う。皆それぞれ頷き、どんな歌になっても後悔はしない顔をしていた。
「βテストは今日で最後ですが、サービスが始まったら皆さんとまた会えると私は信じています。だからそのためにも、今日は昨日の分も含めて、精一杯頑張りましょう!」
私の呼びかけに全員が大きな声で返事をする。それを聞いて私は、
「じゃあ皆さん行きますよ!」
先陣を切って舞台へと上がっていった。
私のβテスト最終日が、今ここに始まる。
■□■□■□
舞台へと上がると、私達を待っていたかのうように、大きな歓声が沸いていた。なんと私達のライブのためだけに、百人近くのプレイヤーが見に来てくれいた。
「す、すごい人」
スズハさんが小声で言う。私もその数に圧倒され、少しだけ解けた緊張が、高まってしまった。
(これだけの数の前で、私が歌えるの?)
ゲームの世界とは言っても、これから歌うのは私の声で歌う声だ。それをこれだけの人に聞かせするのを、こんな私に……。
「え、えっと、今日は私達の為に集まってくれてありがとうございます」
そんな私の代わりに、緊張しているはずのスズハさんが挨拶をする。皆それぞれの位置についているので、こういう挨拶はボーカルの私がするべきなのに、彼女に任せてしまった。
「私達は昨日、不祥事でイベントに参加できませんでした。だから本来ならこんな事を勝手にしてしまって、運営に怒られてしまうのかな、とか思ってしまいます」
観客に笑いが上がる。でも誰一人して、私達のこの身勝手なライブを止めようとする人はいなかった。
「でもそこまでしてでも、私達はこのライブを行いたかったんです。それは他ならぬボーカルのリアラさんの為です」
「え?」
思わぬ名指しに私はスズハさんの方を見てしまう。それに気がつきながらも、スズハさんは話を続ける。
「私の友達のリアラさんは、実はこのゲームから一度もログアウトできていないんです。原因も分からず、彼女は今でも苦しんでいます」
元から話すのが決まっていたのか、それとも今突然決めたのか、どんどんと話し出すスズハさん。それを観客は黙って聞いている。
「だから私は、苦しんでいるリアラさんが少しでも元気になってもらえるように、今日のイベントを考えたんです。だから、まだまだ下手な私達かもしれませんけど、どうか聞いていってください」
そう締めるとスズハさんは、私にマイクを渡す。渡された私は、緊張しながらも、こう宣言した。
「こんな状況になってしまった私ですけど、きょ、今日は頑張って歌わせてもらいます。聞いてください」
一息をつく。そして……。
「『桜の咲く頃に』」
私の歌を歌い始めた。
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