音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.43 過去と向き合って
「な、何を言うとんねん。カオルもおらへんのに何を勝手な事を」
「勝手なのは私だって分かっています。でももうこれ以上私はカオル君の事を傷つけられません」
カナリアの早期解散。
これが自分勝手すぎる結論なのは、私自身も理解している。本当はもっともっとこのメンバーで続けたいと思っている。だけど続けた先に待つ未来は、きっとカオル君だけでなくナナミさんもアタル君も傷つける。
もしカオル君がここで区切りをつけるなら、望まぬ未来のためにも私は覚悟をしなければならない。
「そこまで追い詰めて……何があったんや昨日」
「昨日、いいえ。本当は少し前から私とカオル君の間に亀裂は生じていたんです。それは私が歌姫であるからゆえなんです」
「歌姫であるからゆえ? 何か悪い事があるんか?」
「私はカオル君に沢山のことを教え続けてしまいました。ナナミさん達すら知らないような話を」
けどそれが結果的に彼を追い詰め、苦しめる事にになってしまった。私が知らないところでも、沢山のことを彼は知っていった。例えばあの花冠の事とか……。
(あの花冠の本当の意味をカオル君は知っている。だから私を……助けようとしているんですよね)
その行為がどれだけ道を外れてしまっていても。
「確かにここ最近のカオルは様子がおかしい時は多かったかもしれんな。でもそれはリアラ、あんたの為なんやで」
「それは……分かっているんです。だからこそ彼には私に依存してもらわないでほしいんです。この先の為にも」
「それが自分の気持ちを隠し続ける事になってもええんか?」
「自分の気持ち……?」
「この前のデートの時、あんたはすごく嬉しそうな顔をしていたやないか。それに誘った時だって、あんたは幸せな顔をしていたやないか。その気持ちを隠してもええんかと聞いておるんや」
「カオル君が不幸になるくらいなら……」
そのくらいの代償は払ってもいいと思っている。本当は彼に沢山の心を教えて欲しかったんだけど、それを諦めたっていい。
カオル君が幸せになるならば。
「僕は……リアラさんがいるなら不幸にでもなんでもなったって構いません!」
そんな時ふと声がする。私がずっと求めていた声。本当はもう聞けないんじゃないかって。たった一日聞けなかっただけでも辛かったその声。
「カオル……君?」
「だからカナリアを解散させるなんてそんな事言わないでください!」
その声の主が私の近くにいた。
■□■□■□
竜介との電話が終わった後、僕はその足でとある場所へと向かっていた。その場所はある時を境にずっと訪れていなかった場所。
僕が引きこもりになってしまったもう一つの原因がある場所。
「そちらの方でしたら、少し前に退院しています」
「そうですか、ありがとうございます」
けどその場所に求めていた人物はもう居なかった。それは仕方がない話。もうあれから長い時間が過ぎてしまっている。
(当たり前だよね……)
僕は今一度過去の出来事と向き合おうとしていた。それがこの先リアラさんを受け入れる力になると思っているから。でもそんなに都合よくいくわけがなかった。
(虫の良すぎる話だよね、やっぱり)
「立花……君? どうしてここに?」
諦めて家に帰ろうとした時、ふと誰かから声をかけられる。僕を今苗字で呼んでくれる人物は一人しかいない。
「祈? 退院したって聞いていたんだけど」
声がした方に顔を向けるとそこには車椅子の少女がいた。
桜井祈。
僕がここに来て会いたかった人物。そして僕が背負い続ける業の象徴だった。
「ちょっと今日はここに用事があったの。立花君こそどうして? ずっと家に引きこもっているって聞いていたんだけど」
「最近までそうだった。けど、ある人と出会ってから僕も変わったんだ」
「そうなの? だとしても、どうしてここに?」
「祈に会いに来たんだ今日は」
「私に? どうして今更……」
「今更なのは分かっているよ。でも目を逸らし続けるのはやめるって決めたんだ。この先の為にも」
「どういう……事なの?」
「祈、あの時僕はとても無力で何もできなかった。飛び降りたって聞いた時も、本当はすごくショックだった。だから一度だけでも謝りたかったんだ、ごめん!」
僕は彼女の前で頭を下げた。唐突な事なのは分かっている。でもこれもそれも、僕がこの先リアラさんの力になる為に、強くなる為には全てに向き合う。竜介達との事でもああして向き合えたように。
僕はもう何からも目を逸らさない。
たとえそれが誰かに嫌われる事になったとしても。
自分が信じる道を突き進みたい。
「そんな……いきなり謝られたって……。私どうすれば」
「許されなくたっていい。でもこれからは僕ともう一度友人として普通に付き合って欲しいんだ」
それを竜介が教えてくれたのだから。
「勝手に現れて、勝手に謝って。全部が勝手すぎるよ立花君。私すぐには受け入れられないよ……」
「それでもいい。だから……」
「でも受け入れてほしいなら、私に見せてほしいな。立花君があの時から成長した姿を」
祈の言う通りだった。言葉だけじゃ伝わらない事なんていくらでもある。ならそれ以外の方法はある。
「それなら六月の頭に祈にしてもらいたい事があるんだ。そこでなら見せられる。僕が変われた証を」
それは唯一の方法。彼女には難儀な話かもしれないけど、ただ見てほしい。
あの場所でリアラさんや仲間と立つあの姿を。
「勝手なのは私だって分かっています。でももうこれ以上私はカオル君の事を傷つけられません」
カナリアの早期解散。
これが自分勝手すぎる結論なのは、私自身も理解している。本当はもっともっとこのメンバーで続けたいと思っている。だけど続けた先に待つ未来は、きっとカオル君だけでなくナナミさんもアタル君も傷つける。
もしカオル君がここで区切りをつけるなら、望まぬ未来のためにも私は覚悟をしなければならない。
「そこまで追い詰めて……何があったんや昨日」
「昨日、いいえ。本当は少し前から私とカオル君の間に亀裂は生じていたんです。それは私が歌姫であるからゆえなんです」
「歌姫であるからゆえ? 何か悪い事があるんか?」
「私はカオル君に沢山のことを教え続けてしまいました。ナナミさん達すら知らないような話を」
けどそれが結果的に彼を追い詰め、苦しめる事にになってしまった。私が知らないところでも、沢山のことを彼は知っていった。例えばあの花冠の事とか……。
(あの花冠の本当の意味をカオル君は知っている。だから私を……助けようとしているんですよね)
その行為がどれだけ道を外れてしまっていても。
「確かにここ最近のカオルは様子がおかしい時は多かったかもしれんな。でもそれはリアラ、あんたの為なんやで」
「それは……分かっているんです。だからこそ彼には私に依存してもらわないでほしいんです。この先の為にも」
「それが自分の気持ちを隠し続ける事になってもええんか?」
「自分の気持ち……?」
「この前のデートの時、あんたはすごく嬉しそうな顔をしていたやないか。それに誘った時だって、あんたは幸せな顔をしていたやないか。その気持ちを隠してもええんかと聞いておるんや」
「カオル君が不幸になるくらいなら……」
そのくらいの代償は払ってもいいと思っている。本当は彼に沢山の心を教えて欲しかったんだけど、それを諦めたっていい。
カオル君が幸せになるならば。
「僕は……リアラさんがいるなら不幸にでもなんでもなったって構いません!」
そんな時ふと声がする。私がずっと求めていた声。本当はもう聞けないんじゃないかって。たった一日聞けなかっただけでも辛かったその声。
「カオル……君?」
「だからカナリアを解散させるなんてそんな事言わないでください!」
その声の主が私の近くにいた。
■□■□■□
竜介との電話が終わった後、僕はその足でとある場所へと向かっていた。その場所はある時を境にずっと訪れていなかった場所。
僕が引きこもりになってしまったもう一つの原因がある場所。
「そちらの方でしたら、少し前に退院しています」
「そうですか、ありがとうございます」
けどその場所に求めていた人物はもう居なかった。それは仕方がない話。もうあれから長い時間が過ぎてしまっている。
(当たり前だよね……)
僕は今一度過去の出来事と向き合おうとしていた。それがこの先リアラさんを受け入れる力になると思っているから。でもそんなに都合よくいくわけがなかった。
(虫の良すぎる話だよね、やっぱり)
「立花……君? どうしてここに?」
諦めて家に帰ろうとした時、ふと誰かから声をかけられる。僕を今苗字で呼んでくれる人物は一人しかいない。
「祈? 退院したって聞いていたんだけど」
声がした方に顔を向けるとそこには車椅子の少女がいた。
桜井祈。
僕がここに来て会いたかった人物。そして僕が背負い続ける業の象徴だった。
「ちょっと今日はここに用事があったの。立花君こそどうして? ずっと家に引きこもっているって聞いていたんだけど」
「最近までそうだった。けど、ある人と出会ってから僕も変わったんだ」
「そうなの? だとしても、どうしてここに?」
「祈に会いに来たんだ今日は」
「私に? どうして今更……」
「今更なのは分かっているよ。でも目を逸らし続けるのはやめるって決めたんだ。この先の為にも」
「どういう……事なの?」
「祈、あの時僕はとても無力で何もできなかった。飛び降りたって聞いた時も、本当はすごくショックだった。だから一度だけでも謝りたかったんだ、ごめん!」
僕は彼女の前で頭を下げた。唐突な事なのは分かっている。でもこれもそれも、僕がこの先リアラさんの力になる為に、強くなる為には全てに向き合う。竜介達との事でもああして向き合えたように。
僕はもう何からも目を逸らさない。
たとえそれが誰かに嫌われる事になったとしても。
自分が信じる道を突き進みたい。
「そんな……いきなり謝られたって……。私どうすれば」
「許されなくたっていい。でもこれからは僕ともう一度友人として普通に付き合って欲しいんだ」
それを竜介が教えてくれたのだから。
「勝手に現れて、勝手に謝って。全部が勝手すぎるよ立花君。私すぐには受け入れられないよ……」
「それでもいい。だから……」
「でも受け入れてほしいなら、私に見せてほしいな。立花君があの時から成長した姿を」
祈の言う通りだった。言葉だけじゃ伝わらない事なんていくらでもある。ならそれ以外の方法はある。
「それなら六月の頭に祈にしてもらいたい事があるんだ。そこでなら見せられる。僕が変われた証を」
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