音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら

りょう

Track.44 固めた決意のその先に 前編

 自分が変われるきっかけは本当は今までにも沢山あったのかもしれない。だけど僕はそれら全てに目を背けて、前を向こうとしなかった。
 だけど二ヶ月前にリアラさんと出会って、竜介達と和解もして、少しずつだけど前へ進み始めた。僕は少しでもリアラさんに救われた。だから今度は僕がやらなければならない。

(大嫌いだと言われても、僕は僕の道がある)

 リアラさんが拒絶しようとも、その先にどんな未来が待っていても、それでも僕は……。

 リアラさんが教えてくれた優しさを忘れたりはしない。

「もう夜になっちゃったけど、仕方がないよね。その分も取り戻すくらいに頑張らないと」

 病院に行って、祈と話をした事もあったか気がつけば空もすっかり夜空になっていた。ほぼ丸一日練習をサボってしまったけど、それを取り戻すだけの気力を僕には残っている。あとは問題なのは……。

(リアラさんと和解ができるか、だよね)

 僕は少し緊張をしながらも、マセレナードオンラインへとログインした。

 ■□■□■□
「僕は……リアラさんがいるなら、不幸になるくらいそんなの構いませんよ」

 リアラさんの家へやってきて、ナナミと話をしている彼女にかけた僕の一言がこれだった。リアラさんが僕を何度も拒絶しようとしていたのは、立ち聞きしていたところ僕が不幸になるからそれが嫌だという事らしい。

「どうして……戻ってきたんですか?」

「どうしても何も、ここは僕の帰ってくるべき場所なんです。そんなやすやすと手放す事なんて出来ませんよ」

「でも昨日、私はあなたに酷い事を言ってしまいました。それなのにどうして……」

 声を震わせながら言うリアラさん。やっぱりこの人は僕が思ってていた通りの人で、自分が言った言葉ですら後悔していた。でも昨日の事についてはこちらに非があるのは分かっている。
 だからリアラさんにはそんな悲しい顔をしないでほしい。

「リアラ、やっぱりあんたはウチが思っていた通りの人なんやな。本当はカナリアを解散なんてさせたくないんやろ?」

 僕が来た時には既にいたナナミが、語りかけるようにリアラさんに言う。その言葉にはナナミなりの優しさが込められていて、ナナミもリアラさんの事を心配しているのがよく伝わってくる。

「解散させたくないです。でもこれ以上はカオル君どころか、ナナミさん達にも不幸をもたらしてしまうんです。私はそれだけは嫌なんです」

「リアラさん、僕は先ほども言いましたけど覚悟はしています。もう……迷わないって僕は決めたんです。だからこの場所にもう一度戻ってきたんです」

「カオル君が良くても、私は嫌なんです。きっと苦しませる形になってしまうから」

「それはリアラが勝手に決めつけてるちゃうんか。そもそもウチらは何もあんたから話されておらんし、勝手に自分の物差しで決めなくてもええんちゃうんか」

 ナナミの言葉はまさしく正しかった。そもそもな話をすると、僕はあくまで歌姫の事について調べていただけで、リアラさんからは根本的な話は直接聞いていない。勿論本人としては多少の事は教えてくれたとしても、もっと重大な事は語ろうとはしない。
 だから特に詳しく聞いていないナナミ達にとっては、幸も不幸も分からない状態なんだ。

「私自分勝手すぎるんでしょうか。カオル君達を傷つけたくないから話さないだけなのに、それの何が悪いんでしょうか」

「リアラさん、僕達だって何も知らないのに不幸になるとか勝手に決められて、本当は嫌なんですよ。まだ二ヶ月間しか共にしてない仲ではありますが、僕達は同じバンドのメンバーなんです。そんなにも信用ができないんでしょうか?」

「信用とかそう言う問題ではないんですよ。本当はカオル君達に話したい事が山ほどあるんです。でもその真実は時に人を傷つけるんです」

 リアラさんの言っている事は最もだった。真実は時に人を傷つける。確かにそれは正しい言葉なのかもしれない。だけどその真実を知らなければ、傷つく事だって分かち合う事だってできない。

 そう、かつて僕がそれをできなかったように。

 リアラさんは僕とすごく似ていた。

「リアラ、あんたの言っている事は正しいかもしれん。でもそれは、その真実を話してやっとスタートラインに立つものだと思うんやけど」

「話しても分からないから話したくないんです」

 だから今のリアラさんを見ていると、過去の自分を見ているようでイライラしてきてしまう。勿論リアラさんに非はない。でも非はないけど、ここから逃げない。僕がリアラさんにかけるべき言葉。それは……。

「僕は理解しますよ。リアラさんの全てを。そしてそれを全部受け入れます。たとえリアラさんが拒絶したって」

「どうして……どうして放っておいてくれないんですか?! 私は
 いつかはカオル君達の前から居なくなるんですよ。それなのに……それなのに、どうして私から目を逸らしてくれないんですか。どうして私から離れてくれないんですか!」

「そんなの……僕がリアラさんが……」

「言わないでください! それ以上の言葉を私に言わないでください。そうでないと私……」

「リアラさんが好きだからなんです。出会って二ヶ月の身分で生意気かもしれないですけど、僕はリアラさんが好きだから全てを受け入れることを決めたんです」

 ずっとずっと先に言おうと思って居た言葉。でもそれをも抑えきる事はできなかった。それが僕自身の本当の気持ちだから……。

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