音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.40 一週間前の試み
あのデートもどきの日から、間も無く一週間が経ち、六月のイベントが目と鼻の先まで迫っていたある日、練習が大詰めになる中でリアラさんがこんな事を言い出した。
「カオル君、一曲だけボーカルをやってみませんか?」
「……え? どうしていきなり」
「この歌、どうしても私だけじゃ足りないような気がするんですよ」
「えっと、それ今回のライブじゃないと駄目なんですか?」
「カナリアの新曲でもあるんですから、鮮度は大切ですよ?」
「いや、そうは言いますけど」
先ほども言った通りもう本番が間近に迫っているから、明らかに無理な話だった。でもリアラさんが言っているその曲は、ドラムがない方が逆に良さを出せる気もする。
(でもだからと言って)
僕が歌わなくてもいいと思うんだけど。人前で歌うなんてそんな事ができる性分でもないし。
「幾ら何でも無理がありませんか。この曲確かにドラムの音は要らないかもしれませんけど、だからと言って僕が歌うなんて」
「既にデュエット用に歌詞も作ってあるんです」
そう言って意気揚々に僕達メンバーに譜面を渡すリアラさん。いつから考えていたものなのかまでは分からないけど、流石はリアラさんと言うべきかやはり完璧な仕上がりだった。
(しかも僕の事もしっかり配慮しているし……)
僕の声はどちらかと言うとバスよりかはテノールに近いので、それに合わせて音程も作られているのが譜面を読んでもわかる。まさにこれは僕のために用意したと言っても過言ではない代物だった。
「流石はリアラと言うべきやなこれ。ウチじゃここまで完璧にできへん」
「今に始まった話ではありませんが、ここまで作られたら流石に断りたがらないですか? カオルさん」
「アタル君は賛成なの?」
「確かに本番まで残り少ないですけど、バンドでデュエットをやるのも珍しいと思います。それにカオルさんはリーダーなんですから目立たないといけないと思うんですよ」
アタル君の言う事が間違っていないことは分かっていた。心遣いまでしてくれて僕としては嬉しい。
(リーダーってそんなに目立たなきゃいけないものなのかな)
「僕はそこまで目立ちたくないんだけどなぁ……」
「カオル君の恥ずかしがる気持ちはわかります。なので私があの場所に立っても恥がないくらいの方に鍛えてあげます。だから任せてください!」
やはり弱気な僕に対して、リアラさんに自信ありげにそこまで言われてしまう。よほどデュエットをやってみたいのだろう。でも疑問が一つ。
「僕の歌唱力とリアラさんの歌唱力が圧倒的に違いすぎて、悪い意味で目立つことになると思うんですが」
「その辺りはウチらがカバーすればいい、そういう事やろリアラ」
「はい。そうすればきっと残された時間で完成できるともいますから」
「完成させる気満々なんですね……」
これで賛成三票、反対一票。どうやら僕には逃げ場はないようだ。
「はぁ……。分かりましたよ。その代わり今回失敗したら、二度とやりませんからね!」
「ありがとうございます、カオル君」
こうして次のライブまで残り一週間とちょっとのこの時。僕は突然としてリアラさんとデュエットデュエットで一曲歌う事になってしまった。
■□■□■□
それからしばらく時間が経過して……。
「そんなに落ち込まないでくださいよカオル君」
「落ち込むに決まっているじゃないですか。最初から分かりきっていた事なんですよ」
僕自身が既に予想できていた現実に、一人やさぐれていた。
「僕はずっと引きこもりでしなし、歌う機会なんてそもそもなかったですし、ましてここ十年近くカラオケなんて行っていないんですから、こうなりますよ」
「ま、まだ始まったばかりですし、気を落とさないでください」
「残り一週間もないんですよ? どうしろというんですか!」
「だからそれは一週間で」
「よく考えたら僕はまだろくにドラムも叩かないんですよ? そんな僕が歌うなんてそんな事、最初からできないんです」
あれから二時間近くデュエットの練習をしてきたわけだけど、ろくに歌に関わらなかった僕が、まともな音程を取れるわけがなかった。その結果メンバーに更に迷惑をかけ、ただでさえドラマもまだ上達していないのに今度は歌を歌うだなんて最初から無理な話だったんだ。
「諦めるんですか?」
「諦めるも何も僕は……」
「私はカオル君ならできると信じているんですよ。勿論アタル君もナナミさんも」
「そんな訳……ない」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「だって見るからに失敗する未来しかないじゃないですか。だから二人だって……」
無理をしない道を選ぶことを望んでいる。たとえリアラさんの隣に立って歌えたとしても、二人にも迷惑かける事になる。
「そんなにお二人を信じられないんですか?」
「そうじゃない! そうじゃないんですよ」
僕はただ怖いんだ。自分の失敗で何かを失うのが。特に僕の目の前にいる彼女という存在が。
「カオル君、今回は無理な頼みをしているのは分かっています。でも私を最後まで信じていただけないでしょうか? もし最後まで信じてくれれば、あなたが知りたいことを一つ、教えてあげます。たとえば私自身の事とか」
「……え? それは本当ですか?」
「はい。絶対に約束します」
知りたいこと、聞きたいことは沢山ある。この前の事だってそう。もし僕が彼女を信じ続けて、それを知る事ができるなら……。
「分かりました。もう少し頑張れるところまで頑張ってみます」
「カオル君、一曲だけボーカルをやってみませんか?」
「……え? どうしていきなり」
「この歌、どうしても私だけじゃ足りないような気がするんですよ」
「えっと、それ今回のライブじゃないと駄目なんですか?」
「カナリアの新曲でもあるんですから、鮮度は大切ですよ?」
「いや、そうは言いますけど」
先ほども言った通りもう本番が間近に迫っているから、明らかに無理な話だった。でもリアラさんが言っているその曲は、ドラムがない方が逆に良さを出せる気もする。
(でもだからと言って)
僕が歌わなくてもいいと思うんだけど。人前で歌うなんてそんな事ができる性分でもないし。
「幾ら何でも無理がありませんか。この曲確かにドラムの音は要らないかもしれませんけど、だからと言って僕が歌うなんて」
「既にデュエット用に歌詞も作ってあるんです」
そう言って意気揚々に僕達メンバーに譜面を渡すリアラさん。いつから考えていたものなのかまでは分からないけど、流石はリアラさんと言うべきかやはり完璧な仕上がりだった。
(しかも僕の事もしっかり配慮しているし……)
僕の声はどちらかと言うとバスよりかはテノールに近いので、それに合わせて音程も作られているのが譜面を読んでもわかる。まさにこれは僕のために用意したと言っても過言ではない代物だった。
「流石はリアラと言うべきやなこれ。ウチじゃここまで完璧にできへん」
「今に始まった話ではありませんが、ここまで作られたら流石に断りたがらないですか? カオルさん」
「アタル君は賛成なの?」
「確かに本番まで残り少ないですけど、バンドでデュエットをやるのも珍しいと思います。それにカオルさんはリーダーなんですから目立たないといけないと思うんですよ」
アタル君の言う事が間違っていないことは分かっていた。心遣いまでしてくれて僕としては嬉しい。
(リーダーってそんなに目立たなきゃいけないものなのかな)
「僕はそこまで目立ちたくないんだけどなぁ……」
「カオル君の恥ずかしがる気持ちはわかります。なので私があの場所に立っても恥がないくらいの方に鍛えてあげます。だから任せてください!」
やはり弱気な僕に対して、リアラさんに自信ありげにそこまで言われてしまう。よほどデュエットをやってみたいのだろう。でも疑問が一つ。
「僕の歌唱力とリアラさんの歌唱力が圧倒的に違いすぎて、悪い意味で目立つことになると思うんですが」
「その辺りはウチらがカバーすればいい、そういう事やろリアラ」
「はい。そうすればきっと残された時間で完成できるともいますから」
「完成させる気満々なんですね……」
これで賛成三票、反対一票。どうやら僕には逃げ場はないようだ。
「はぁ……。分かりましたよ。その代わり今回失敗したら、二度とやりませんからね!」
「ありがとうございます、カオル君」
こうして次のライブまで残り一週間とちょっとのこの時。僕は突然としてリアラさんとデュエットデュエットで一曲歌う事になってしまった。
■□■□■□
それからしばらく時間が経過して……。
「そんなに落ち込まないでくださいよカオル君」
「落ち込むに決まっているじゃないですか。最初から分かりきっていた事なんですよ」
僕自身が既に予想できていた現実に、一人やさぐれていた。
「僕はずっと引きこもりでしなし、歌う機会なんてそもそもなかったですし、ましてここ十年近くカラオケなんて行っていないんですから、こうなりますよ」
「ま、まだ始まったばかりですし、気を落とさないでください」
「残り一週間もないんですよ? どうしろというんですか!」
「だからそれは一週間で」
「よく考えたら僕はまだろくにドラムも叩かないんですよ? そんな僕が歌うなんてそんな事、最初からできないんです」
あれから二時間近くデュエットの練習をしてきたわけだけど、ろくに歌に関わらなかった僕が、まともな音程を取れるわけがなかった。その結果メンバーに更に迷惑をかけ、ただでさえドラマもまだ上達していないのに今度は歌を歌うだなんて最初から無理な話だったんだ。
「諦めるんですか?」
「諦めるも何も僕は……」
「私はカオル君ならできると信じているんですよ。勿論アタル君もナナミさんも」
「そんな訳……ない」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「だって見るからに失敗する未来しかないじゃないですか。だから二人だって……」
無理をしない道を選ぶことを望んでいる。たとえリアラさんの隣に立って歌えたとしても、二人にも迷惑かける事になる。
「そんなにお二人を信じられないんですか?」
「そうじゃない! そうじゃないんですよ」
僕はただ怖いんだ。自分の失敗で何かを失うのが。特に僕の目の前にいる彼女という存在が。
「カオル君、今回は無理な頼みをしているのは分かっています。でも私を最後まで信じていただけないでしょうか? もし最後まで信じてくれれば、あなたが知りたいことを一つ、教えてあげます。たとえば私自身の事とか」
「……え? それは本当ですか?」
「はい。絶対に約束します」
知りたいこと、聞きたいことは沢山ある。この前の事だってそう。もし僕が彼女を信じ続けて、それを知る事ができるなら……。
「分かりました。もう少し頑張れるところまで頑張ってみます」
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